軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十七話 女体化Ⅱ

「皇帝陛下!!」

ロズワード、グラム、ルル、ユリア、テトラ、アリスと共に二万の兵を率いて俺はロンと合流した。

相当無理をしたのか、一週間ほど前にロサイスを発った時よりもずっと痩せて、目には隈が浮かんでいる。

「大丈夫か? まあ、一先ずは休め。あとはロズワードとグラムがやる」

「ロン、俺たちに任せろ」

「引継ぎの書類と説明を終えたら、すぐに寝ろ」

ロズワードとグラムが口々にロンを労わると、ロンは穏やかな笑みを浮かべた。

「ありがとう……ええ、少し頑張り過ぎてしまいました。どうしてか分かりませんが、陛下の親書をどう読んでも、陛下が女になって竜を倒すとしか読めなくて……あはは」

「ああ、それは本当」

すると、ロンは自分の頬を強く叩いた。

「すみません、陛下。寝不足で目だけでなく、耳もおかしくなってるようです。もう一度、お願いします」

「俺が女になって竜を倒す件は本当だ、安心しろ」

「????????」

ロンの頭にクエスチョンマークがいくつも並ぶ。

ロズワードとグラムが苦笑いを浮かべた。

「……直接見せた方が早いんじゃないですか」

「百聞は一見に如かず、って言いますし」

確かに、言う通りだな。

「よし、ロン。よーく見てろ」

とりゃ!!

「!!!!!」

ロンの目が見開かれる。

そりゃそうだ。

今まで男だと思っていた自分の君主の胸部が突然膨らみ、顔を女っぽくなったからだ。

「というわけだ」

俺は女らしい、高い声で言うとロンが頭を押さえた。

「……疲れてるみたいです。すみません、少しだけ仮眠を取ってから引継ぎを。ええ、ある程度は部下が分かっていますし、書類も用意しています。仮眠を取っている間に目を通しておいてください……」

「お大事にな」

俺が高い声で言うと、やはりロンは首を傾げて何度も首を左右に振る。

大丈夫かな?

「相当疲れてるみたいだな」

無理をさせ過ぎてしまったようだ。

一万の兵力では難民の対応は難しいということは、予想できたはず。

俺の落ち度だな。

今度からは、過分に兵力を持たせるようにしよう。

「多分、七割くらい姉さんの所為じゃないかな?」

「いやー、普通は信じられないでしょ?」

ロズワードとグラムが俺から離れて何かコソコソ話していたが、風に掻き消されてよく聞こえなかった。

まあ、多分ロンの心配をしているのだろう。

やはり部下同士仲が良いのは素晴らしいな。

「うーん、変な夢を見てしまった。やっぱりソヨンの言う通りにちゃんと睡眠をとるべきだったなあ」

ロンはつい先ほど見てしまった意味の分からない、幻覚、または夢を思い出す。

なんと自分の君主であり、奥さんとの子供までいるアルムスが女体化するという恐ろしいモノだ。

しかもなかなかの巨乳で、美少女だった。

ロンは女体化アルムス、アルムスちゃんを思い出す。

「うーん、リーダー凄く可愛かったなあ」

男の服を着た状態で女体化した所為か、胸部の部分の布が足りず、胸が張り裂けそうなほど布を押し上げられて、たわわな胸が強調されていた。

美しい胸の谷間も、トーガの隙間から覗いていたのを思い出す。

「って、何興奮してるんだよ、俺」

ロンは目を擦りながら、ベッドから体を起こした。

水差しの新鮮な水をコップに運び、一気に飲む。

冷たい水がロンの脳を急速に覚醒させていく。

「よし、すっきりしたぞ。さて、改めてリーダーに挨拶しないと」

アルムスやロズワードたちに改めて挨拶と引継ぎを後回しにして眠ってしまったことへの謝罪をしに、ロンは自分の天幕を出る。

ロンはアルムスたちの居る、本営に向かう。

本営からはソヨンの声も混じって聞こえる。

どうやらソヨンが自分の代わりに引き継ぎの説明をしてくれているらしい。

ソヨンも自分と同様に疲れているはずなのに……

ロンは申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

早く、自分の参加しなくては。

「ごめんなさい、ここからは俺が引き継ぎを……」

「うわああ!! 凄いです、もう一回やってください」

「仕方がないな。もう一度だけだぞ? では、ルルからアリスに、アリスからルルに!!」

残念、夢じゃないよ!

「あのね、リーダー。そういうのはちゃんと説明して貰えないと分からないよ。もう俺は頭がおかしくなったのかと、本気で悩んだんだから」

「いや、書いただろ。妖精の力で女になれるようになったって」

「それじゃあ意味分からないです!!」

と、言われてもな。

それが真実なのだから仕方がない。

「あと、それしまってもらえません?」

「どれ?」

「……その大きな胸ですよ」

ふむ……

俺はアリスサイズに膨らませた胸を見下ろす。

やはり素晴らしいおっぱいだ。

しかしロンはお気に召さないらしい。

「やっぱり小さい方が好きなのか」

「あの、やっぱりって何ですか? 今私の胸を侮辱しました? ルルの胸を侮辱するのは構いませんが、私の胸を侮辱しないでください。私はルルとは違って、胸と言える物があります!!」

「一応、僕の妻なんだけどなあ……確かにぺったんこだけど、あれはあれで魅力が……」

「うわあ、ロリコン……」

「さっきから人の胸を胸じゃないだとかぺったんこだとか、ロリだとか、失礼です!! 呪い殺しますよ!!」

ソヨンが異議を唱え、グラムがルルの胸を庇い、ロズワードがドン引きして、ルルが大きな声で騒ぎ立てる。

「いやあ、賑やかだねえ」

「相変わらずアホばっかりで安心した」

ユリアが楽しそうにそれを眺め、テトラがポツリと毒を吐く。

「皆さん、昔からこんなんだったんですか?」

アリスが首を傾げる。

一応、首都ではユリアとテトラは国王の正室と側室。

ロンとロズワードとグラムは国王直属の部下で、軍人政治家。

ソヨンとルルは国の中枢を担う呪術師。

という肩書なので、普段は比較的真面目なのだが。

「昔の方が賢かった」

テトラが暗に退化した、と呆れ声を上げる。

そうだろうか?

昔は泥を投げ合ったりと、もっと酷かった気がするが。

そしてそのやり取りを聞きながら、ロンが頭を押さえた。

「こっちは寝不足なんですが……とにかく、陛下は早く胸をしまってください」

「しまうも何も、別に取り出すようなものじゃないが」

仕方がない。

俺はアリスサイズまで膨らました素晴らしい胸を、パンノニア平原の如きルルサイズの胸に変更する。

すると、ロンが若干キレ気味で再び言う。

「……胸だけでなく、女体化を解いてください」

「どうして? 折角盛り上がってるじゃないか。どうしてそんなに俺の女体化を見たくない?」

「そ、それは……」

ロンの目が若干泳ぐ。

なるほど。

「お前、もしかして俺の体を見て欲情してるのか? まあ、仕方がない。今の俺は美少女だからな」

モテる女は辛いという事だな。

「あの、陛下。私の夫を誘惑しないでください」

「いや、誘惑はしてないぞ? 勝手にロンが俺のおっぱい見て興奮してるだけだ。というか、体が女になったからといって、突然男好きになるというわけじゃないからな?」

一応、勘違いされないように言っておく。

「もう、何でも良いですから取り敢えず男に戻って貰えますか?」

「そうだな、そろそろ飽きてきた」

そりゃ!!

よし、戻った。

俺は自分の胸を叩く。

そこにはルルの胸よりも分厚い、胸板があった。

「さて、どこまで話したっけ?」

「えっと、陛下が女体化できるというところまでで、全く話が進んでいませんね」

ソヨンが笑顔で言った。

そうそう、引継ぎの話の前に女体化自慢をしていたらすっかり盛り上がってしまったんだった。

「まあ、ロンも起きたことだし始めようか。難民対策と、例の古の竜対策を」

「……はあ、もう疲れたんですがもう一度寝てきて良いですか?」

「もう一度同じことが繰り返されるぞ?」

というと、ロンは溜息を一つ大きくついてから書類を俺たちに配る。

「まず、難民ですが現状は十万ほどです。一時は玉突き的な連鎖が発生し、十万ほど膨れ上がって居ましたが、武力で鎮圧しました。今はカルヌ王の国の住民だけをこのキャンプに集めて管理していますが……治安は日に日に悪化するばかりです」

「うーん、十万人か。ギリギリ我が国の国力で養えるか、養えないかの限界だな。養えて精々一年だ。やはり、カルヌ王の国そのものを取り返さないとな」

というわけで、例のグラナダ・ヒュドラさんの話になるのだが。

「ロンは実際、交渉したのか?」

「したというか、あっちから一方的にやって来たんですよ。あの竜、呪術みたいなのを使えるみたいで……心に直接語り掛けてきたんです。兵士と難民全員がどうようの言葉を聞いたみたいです」

テレパシー……ということか?

俺がユリアの方を見ると、ユリアは唸る。

「うーん、さすが神様と言われるだけあるね。見ず知らずの人間に、何の触媒も使わず、いきなり大勢の人間の心に干渉し、自分の意思を伝える。逆立ちしても、現在の人間の呪術じゃできないんじゃない?」

ユリアが無理、と言うからには間違いなく無理なのだろう。

案外、例の竜を復活させたお騒がせ魔法少女マリリンなら出来てしまうかもしれないが。

全く、あの婆本当にやってくれやがったな……

「というか、出来るんですか? 陛下は見たこと無いから分からないと思いますが……あれは恐ろしいですよ。俺は一目見た瞬間、勝てないと思いました。……グリフォン様と同じ、あれは地震や火山噴火と同じ、災害です。人にどうにかできるモノじゃないですよ」

「私も、例の竜……ヒュドラを見ました。……恐ろしい化け物です。首がいくつもあって、全身の鱗の隙間から黒い触手のようなモノが生えてるんです。その触手には一つ一つ、ギョロギョロとした目が……」

先程の元気はどこへやら、ロンとソヨンが震えながら竜と出会った時の話をする。

二人とも、顔が真っ青だ。

「……二人とも、じっとしてて」

ユリアが静かに立ち上がり、二人の肩に触れた。

「空と大地と海、そして数多の神々よ……私に力を。そしてこの者達に取り付く悪しき邪を払いたまえ……」

ボソボソとユリアが呪術の祝詞を唱える。

ガタガタと凍えるように震える二人と、苦痛を帯びた表情で荒く息を吐きながら祝詞を唱えるユリア。

俺たちはそんな光景を、何も言えずに十分ほど見守り続ける。

「ふう……一先ずこれで大丈夫かな」

ユリアは顔の汗を拭って、二人に尋ねた。

「どう? 気分は。思い出しても怖くない?」

「……はい! 嘘みたいです」

「これは一体……」

ロンとソヨンが呆然とした表情を浮かべる。

ユリアは得意気に説明した。

「自分の姿を見たり、思い出したりさせることを鍵に、特定の印象を強く思わせる呪術。印象呪術の一つだね。とても初歩的な呪術だよ。……ただ、ここまで強烈なのは初めてだけどね」

そしてユリアは俺に向き直った。

「アルムス、至急国中から呪術師を掻き集めてきて。一先ず、兵士に掛けられてる呪いの方を解呪しないと、危ないよ」

これはまた……

はあ、随分と難敵みたいだな。全く。