軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百三十五話 女装

―というわけだから、ユリアちゃんとテトラちゃんにはヒュドラを眠らせる毒を作って欲しいんだよね。いくら毒に弱いといっても、仮にも神獣。それなりの抵抗を持っているから、それなりの毒じゃないと眠らないし―

「うーん、毒ねえ。私たちの知っている睡眠薬の中で一番効果があるのは……」

「離魂草の毒」

離魂草。

人間の体から魂を剥がす効果を持ち、呪術師が魂乗せの練習をする時に使用する毒草である。

しかし、あれって睡眠薬になるのか?

「うん。眠りと夢と死には深い関係があるからね。眠ったり夢を見ている時、人は『生と不死の境界線』に限りなく近づいてるからね。体から魂を出すのは、その一歩先」

「離魂草の毒は、人を死に近い限界ギリギリの眠りまで落とす」

生の世界とは、要するににこの世である

不死の世界とは、要するに天国である。

生と不死の境界線とは、要するに三途の川である。

死後の世界なのに不死とはこれ如何に、とは思うかもしれないが「一度死んであの世に行ったら二度と死ぬことなくね? つまり死ぬって不死になるってことじゃん!!」的な発想である。

一回死んだら二度と死なない、ヤッター!! というのがアデルニア人のノリである。

夏が涼しく、冬暖かい。海は綺麗で、空は澄み渡り、飯は美味い。

そんなアデルニア半島に住んでる人間だからこそ、こういう前向きな発想になるのであろう。

夏暑くてジメジメしていて、冬は寒くて乾燥していて、台風は来るわ、大雪は降るわ、地震は起るわ、津波に飲まれるわ、火山は爆発するわの日本に住んでいるジャパニーズには到底理解できそうもない発想である。

まあ、そんなノリだから北をガリア人に、南をキリシア人とポフェニア人に征服されるのだが。

「というか、離魂草……というか魂乗せってそんなに危ない技だったの?」

「今更としか言えないけど……そもそも普通は体から魂出ないからね。アルムスの魂が体から出る時なんて、アルムスが死ぬ直前だよ」

「慣れれば問題ない」

……まあ、今まで大きな事故もないし二人が大丈夫というからには大丈夫なのだろう。

呪術師が魂乗せ中に、(敵に襲われた時を除いて)うっかり死んでしまったという事故は聞いたことが無い。

「で、離魂草で良いのか?睡眠薬は」

―それ以上の睡眠薬の材料はこの世に無いんじゃないかな?―

つまり離魂草で問題無いらしい。

まあ、ロマリアの呪術師総出で作らせれば高濃度の睡眠薬が大量にできるだろう。

しかし問題は味だな。

離魂草は恐ろしく苦い。

「グラナダのガキは酒の味なんぞ、分からんぞ。そういう味だと言い張れば騙せる。馬鹿だからな」

「本当ですか?」

しかし、逆にグリフォン様は酒の味を分かっているのだろうか?

甚だ疑問である。

―あいつの舌の味蕾の数は人間の百分の一くらいだから、多分大丈夫だよ―

それって、舌として機能してるのだろうか……

まあ、毒を吐く関係上自分の吐く毒で苦い思いをしたくないから、自然と減ったのかもしれないが。

「ところで、私はどうすれば宜しいのでしょうか?」

アリスが首を傾げて、妖精とグリフォンに尋ねた。

確かに、今のところアリスが呼ばれる理由が特にない。

―あなたはアルムスと一緒に、ヒュドラの解体に参加して。眠ってるうちに素早く殺す必要があるからね―

「ロマリア軍全軍で解体すればよくないか?」

―さすがのヒュドラもそれには気付くよ。あいつの鱗は堅いから、相応の腕力が無いと。あのヒュドラの鱗を剥がせる腕力を持つのは、ロマリアではアルムスかアリスちゃんだけだよ―

「黒色火薬は?」

―竜の鱗はドラゴン・ダマスカス鋼じゃないと傷付けにくい。黒色火薬がどれだけ効果があるか怪しい―

妖精曰く、ドラゴン・ダマスカス鋼には神気ほどではないが、何かしらの不思議パワーのようなものが宿っているらしい。

確かにドラゴン・ダマスカス鋼の切れ味は、普通の刀剣とは一線を画す。

うーん、面倒な……

まあ、仕方が無いか。

多少は危険だが、竜殺しの称号は悪くない。

「よし、準備をするか。ところで、どうやってヒュドラに酒を?」

「グラナダ様、我々からの貢物でございます。とでも言えばあのガキは何の警戒もせずに飲むぞ」

―そういうわけ。じゃあ、三人ともよろしくね。私も出来るだけ、応援するから―

応援するだけかい。

俺がロマリアの森から宮殿に戻ると、門の前にはライモンドが待ち受けていた。

「陛下!! どこに行っていたのですか!! 奥様方も一緒に、この大変な時に!!」

「いや、それが妖精とグリフォン様とで……」

俺がざっくりと今までの話を要約してライモンドに話すと、ライモンドは驚愕の表情を浮かべた。

「……妖精って実在するんですか?」

「あ、驚くのそっちか」

てっきり、数千年前に大暴れした竜が復活した事の方を驚くと思ったが。

「いえ、そちらについてはすでにロン・アエミリウス殿が……」

ライモンドが今さっき、ロンから届いた報告書を俺に渡す。

俺は報告書を広げ、中身を読む。

内容を要約すると、『難民助けてたら、凄い竜と出会っちゃった。その竜が酒と羊、そして酒と羊を自分の前に持ってくる役目として美味しい女を要求している。取り合えず、自分じゃ判断できないので判断を仰ぎたい。あと人手が足りないから追加で兵を二万ほど送って欲しい』とのことだ。

美味しい女……というのは多分、性的にでなくて生的にだろう。

女の方が柔らかくておいしい敵な発想だ。

酒と羊を食い終わったら、最後にデザートで食べるのだろう。

「難民からの情報、呪術師からの調査報告でもすでに裏は採れております。妖精とグリフォン様からの情報も兼ねて判断すると、残念ながらほぼ間違いない情報かと」

「全くだ。これが夢だったらいいが……」

俺はぶつぶつと文句を言いながら、ユリアたちと共に元老院議会に向かう。

すでに元老院の議員たちはライモンドからの報告にはある程度目を通していたらしく、緊張した面持ちで座っていた。

俺は淡々と、妖精、グリフォン様から得た情報を元老院の議員たちに語る。

すでに古の竜の復活という、信じられない話を咀嚼した後だったためか、それとも脳味噌が限界を迎えたのか、元老院議員たちはこの緊急事態にしては落ち着いているように見えた。

もしかしたら、何人か夢を見ているつもりなのかもな……

「御一つ、質問を宜しいでしょうか?」

「うん? 何だ」

アス系の元老院議員が手を上げて。発言の許可を求める。

俺が頷くと、議員は口を開いた。

「古の竜……グラナダ・ヒュドラが求めているのは酒と羊と『女』でございます。……アリスというゲルマニス人はともかく、陛下が接近することは可能なのでしょうか?」

……確かに。

「陛下。御一つ私も宜しいですか?

「どうした、ライモンド」

「私としては、陛下がその竜を倒しに行くということそのものが不安で仕方がありません。お願いですから、あなたが行くのは……」

うーん、ライモンドの言う事はもっともだが……

妖精曰く、俺とアリスの腕力じゃないと

「陛下、我々ロマリア軍では倒せませんか?」

「まずは軍人である僕らにお命じ下さい」

バルトロとアレクシオスが立ち上がり、軍で片付けることを主張する。

まあ、普通の相手ならそれが正しいかもしれない。

しかし相手は国を一つ、滅ぼした存在だ。

軍隊では相手に成らないだろう。

「やはり、俺がやる。まあ、安心しろ。危なくなったら逃げるさ」

あまり安心してなさそうな、ライモンドとバルトロとアレクシオス。

しかしそこでイアルが手を上げる。

「ですが、陛下。陛下は男であらせられます」

……そうだな。

手前、男じゃねえか!! と、酒を飲ませる前に殺されては笑えない。

あーだ、こーだ、元老院で話していると、ふとここでユリアが呟く。

「じゃあアルムスが女装すればいいんじゃない?」

一瞬、議会が静まり返る。

おい、何故誰も反論しない。

「アルムスなら大丈夫。化粧すれば、美少女になれると思う」

おい、テトラ。貴様は何を言っている?

「確かに、陛下は女顔というほどではありませんが、どちらかというと中性的な御容姿ですね!」

アリス……

いくらお前でも、そういう冗談は許さんぞ?

「匂いで気が付かれたらどうする……やはり、俺が行くのは良くないかもしれないな。誰か、代わりに腕力の強い女性を探すか……」

―アルムス、実は『女体化の加護』っていうのがあるんだけど、どう? あ、ちゃんと男には戻れるよ。副作用無しで―

「そう言えば、ペルシスに住む砂漠の民という民族がとても強いと聞いたぞ!! ペルシスに連絡を取って、砂漠の民の女性を雇うか!!」

―あれ? 聞こえてない? おーい、『女体化の加護』があるよ!! ……もしかして、聞こえない振りしてる?―

五月蠅い!!

妖精の声なんて、聞こえねえよ。

お前は黙ってろ!!

「今、妖精の声が聞こえたよ。アルムス。『女体化の加護』があるんだって!!」

「私も聞こえた。これなら女装する心配も、声の高さも問題ない」

「あ、私も聞こえました!!」

「馬鹿野郎!! 妖精の言ってることを簡単に信用するな!! あいつらはなあ、人を騙そうとしてるんだぞ? そうやって都合の良い事を言って……」

―アルムス。諦めなよ―

ふざけんな!!

俺は絶対に、絶対に女装も女体化もしないからな!!!!

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『まさか、こんな美少女が俺だとは奴も思うまい。これで間違いなく関所は抜けられる。しかし、女装ってのは案外楽しいな』

―アンダールス・ユリウス・アス・カエサル 後の四大皇帝一人『雷帝』 家臣兼友人兼家庭教師に対して―

『何だ、お前。俺がお前より美人なことに怒ってるのか? 仕方があるまい。生まれもっての顔なんだから』

―ガイウス・ユリウス・カエサル・ウェストリア 後の四大皇帝一人『賢帝』 正妻に向かって挑発 この後殴られる―

『ユリウス家のジンクスその一じゃじゃん!!。名君は大体、女装経験がある!!! 本当、この家変態ばっかだね!!』

―ユリア・ユリウス・カエサル・エレスティア エレスティア宮姫君12歳 後の四大皇帝一人『聖帝』 新年会で酒に酔っぱらって大声で発言 反省文十枚の罰―