軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十九話 ゲルマニス旅行Ⅱ

宮殿に着くや否や、大宴会が始まった。

スウェヴィ族の用意してくれた料理の多くは肉料理だった。

鹿、豚、牛、ヤギ。

それらを丸ごと焼いた料理……と言えるのかどうか若干微妙なところがあるが、塩を塗して焼くというとても簡単な調理方法で作られていたため、不味くはなかった。

野菜の類はあまり無かったが、木の実やキノコはなかなか美味しかった。

個人的に一番美味しく食べれたのは、ソーセージだった。

ソーセージとは……説明するまでもないが豚の腸に肉を詰め込んだ保存食の一種だ。

決してアデルニア半島にないわけではないが、あまり生産は盛んとはいえない。

アデルニア人もキリシア人も、肉よりも魚や野菜、果物を好む民族だからだ。

冬の食糧なら小麦で事足りるので、あまり肉の保存には熱心ではない。

最近は俺の広めた輪作により、余計に肉の保存の必要が無くなっている。

冬の間も家畜を育てられるようになったため、いつでも新鮮な肉が手に入る。

わざわざ糞の通り道に、肉を詰める必要がなくなったのだ。

近い将来、アデルニア半島からはソーセージの製造方法は失われるかもしれない。

一方、ゲルマニスはアデルニア半島とは事情が違う。

アデルニア半島の土壌は石灰岩質で、正直あまり豊かとは言えないのだがゲルマニス地方の土壌も負けないくらい痩せている。

その上、アデルニア半島よりも寒い。

スウェヴィ族の集落にあまり大きな畑を見ないところを見る限り、農業技術の方もお粗末なようだ。

当然、小麦や大麦の生産量は少ないのだろう。

そしてゲルマニス人は魚を食べない。

結果、主食が肉に偏り、その主食を保存する技術が発達しているようだ。

ソーセージの作り方ならば、アデルニア人よりも上だろう。

野蛮、野蛮と言ったが優れているところは優れている。

とはいえ、料理の全てが問題無かったというわけではない。

一つだけ、致命的に問題のある料理、いや飲料物が姿を現してしまった。

……ビールである。

まあ、俺は日本で普通にビールを飲んでいたしソーセージをつまみに飲むビールは非常に美味しかったので全く不満はなかったのだが……

アデルニアやキリシアに於いて、大麦とは家畜の餌である。

当然、家畜の餌からできたビールは家畜の飲み物と言える。

軍規を乱した罰として、食事を大麦のパンにする。

という罰が懲罰としてかなりの効果を上げてしまうほど、アデルニア人は大麦に対して強い忌諱感を持っている。

ロンたちが笑顔でビールを飲めるはずがなかった。

とはいえ、ゲルマニス人がビールを好んで飲むということは元々承知していたことで、そのことは全員に伝えてある。

ロンたちも相手に全く悪気がないことくらいは分かっているので、社交辞令として一口程度は飲んだでくれたので、険悪な雰囲気にはならなかった。

元々前世でビールを飲んでいたため忌諱感がない俺や、ゲルマニス人出身で元々ビールが好きなアリスとリア。そして実はリアに付き合って普段から飲んでいたロズワードの計四人でグビグビ飲んだため、スウェヴィ族の方もただの好き嫌い程度で認識してくれたようだった。

「へいか~、わたしのこきょうってどこにあるんでしょうかねえ~」

アリスがビールの飲み過ぎてフラフラになりながら、そんなことを言った。

ゲルマニス地方、と一言で言うのは簡単だがゲルマニス地方はアデルニア半島がいくつも入るほど広く、しかも森林や湿地に覆われている。

故郷を探すのは並大抵ではあるまい。

まあ、別に今回はアリスの故郷を探しに来たのではないのだが。

「帰りたいか?」

と聞いてみると、アリスは逆に首を大きく横に振る。

「いやですよ~、だってあのひとたち人をばけもの扱いするんですよー。だいたい、売られましたし。おとうさん? は退治されちゃいましたしー、おかあさんは自殺しちゃいましたしー」

グデングデンのアリスの言っていることを要約すると、気まずいので絶対に帰りたくない。

むしろ、遭遇したくない、とのことだ。

「じゃあ、来ない方が良かったか?」

「うーん、げるまにしゅはしゅきですから~ここにはきたかったですよ? あ、へいかもしゅきです~」

そう言ってアリスはガクリと体をこちらに倒した。

完全に酔い潰れてしまったみたいだ。

酔っぱらったアリスを、彼女の寝室として宛がわれた場所に寝かせて来た後、俺は再び宴会に加わった。

酒ばかり飲んでいるわけにはいかない。

『アルムス殿、たくさんの土産ありがとう。特に砂糖と香辛料は皆喜ぶ』

アダルベロは自分の肉に胡椒を振りかけ、齧り付きながら上機嫌で俺に礼を言った。

特に特産物が無く、外貨を得る手段の限られるゲルマニス人からすれば胡椒などの香辛料や砂糖は滅多に手に入らない貴重品だろう。

『絹も素晴らしい。妻が喜ぶだろう』

「気にすることはない。友好の証だからな」

俺はアダルベロの木製のコップにビールを注ぎ込んだ。

アダルベロはそれを一気に喉に流し込む。

『しかし、一つだけ不思議なモノがあった。これは何だ?』

そう言ってアダルベロは麻の袋を取り出した。

中には黒い小さな粒がたくさん入っている。

「それは麦茶の元。……焙煎した大麦だ。それをお湯に入れると、ビールとは違う美味い飲み物ができる。ぜひ、スウェヴィ族に知ってもらいたくてな」

昔、アデルニア半島で麦茶を広めようとしたのだが、やはりいくら焙煎しようと家畜の餌は餌なので全く流行らなかった。

とはいえ、ビール好きで大麦に抵抗のないゲルマニス人ならば問題ないはずだ。

最初はゲルマニス人相手に麦茶貿易……と考えたのだが冷静に考えてみるとただの焙煎しただけの麦である。

一年もあればネタがバレるのが明白で、大して儲けられないだろう。

だったら最初から教えて、友好関係を築いた方が良かった。

『麦茶……か。ビールとどう違うのだ?』

「ビールはアルコール……人を酔わせる毒が入ってるから、赤ん坊や子供、酒に弱い者は飲めない。だが麦茶はアルコールが入っていないから赤ん坊でも飲める。狩りの前など、酒が飲めない時にも良いな」

アデルニア半島もそうだが、ゲルマニス地方の水は硬水であまり美味しくない。

ビール以外のまともな飲み物ができるのは、スウェヴィ族にとってはプラスだろう。

『なるほど。それは素晴らしい。実に良い物を教えてもらった。礼を言おう』

そう言ってアダルベロは俺のコップにビールを注ぐ。

俺はそれを一気に飲み干した。

うーん、何か良いな。

外交というと常に片手でナイフを持った状態の腹の探り合いばかりをしてきた。

しかしアダルベロにはそう言ったモノを感じない。

彼らの友好的態度には、ポフェニアのアズル・ハンノのような常に煙に巻くような雰囲気もなく、マーリンのような邪悪さもない。

クセルクセス帝のように武力で脅すこともなく、ファルダームやギルベッドのように面子を気にすることもない。

某プリンちゃんのように下心丸出しというわけでもない。

そしてイアルのように詭弁を使うこともない。

いや、別にイアルのことを非難するつもりはないのだが。

国同士に真の友好関係はない。

ということは俺も留意しているし、アダルベロも一族の利益のために行動している。

だがしかし、彼の仲良くしようという気持ちだけは嘘偽りはないように感じた。

宴会が終わって翌日、二日酔いでうんうん唸っているアリスを置いて、俺は通訳としてロズワードのみを置いてアダルベロと二人で会談した。

宴会の時とは違う、政治の話だ。

「距離が遠く離れていることを考えると、双方共に軍事行動を取ることは難しいでしょうね」

『うむ。まあ、しかし大事なのは我々が親友同士であるという事をロゼル王国にアピールすること。この際、具体的な連携の有無はさほど重要ではないでしょうな』

そもそもスウェヴィ族の領地とロマリアは離れている。

双方、情報のやり取りが限界だろう。

「ロゼル王国の軍事行動の動きが見えたら、双方即座に鷹便で知らせる。程度が限界ですね」

『しかし、それだけでも十分に大きなことだ。我々は南のロゼル軍の動きが分からない。一方、ロマリアは北のロゼル軍の動きが分からない。これが分かるようになるのは大きい』

まずは相互に情報交換をする、というところから始めるのが良いだろう。

そしてゆくゆくは、どちらか一方にロゼルが軍事行動を取る動きがあったら片方が牽制する。

程度の連携が取れるようになるのが理想だ。

さて、話は軍事的な協力から通商についての話に徐々に動いていく。

『我々スウェヴィ族は貧しい。碌な交易品はない。精々、獣の毛皮や木材程度だ。ハッキリ言って、ロマリアが欲しがるものはないと思うぞ』

「木材はともかく、毛皮なら多少の需要はあるかな? でも、俺たちにはもっと欲しいものがある」

『それは何だ?』

アダルベロが身を乗り出した。

俺はニコラオスから貸して貰った図鑑を開き、アダルベロに見せた。

女王蜘蛛……正確に言うのであれば、軍隊蜘蛛のページを。

「この蜘蛛がゲルマニスに生息していると聞いている。じつはこの蜘蛛が生きたまま欲しい。可能だろうか?」

するとアダルベロは顔を顰めた。

『一度巣を作ってしまった女王蜘蛛の捕獲は難しい。しかし、まだ巣を作っていない単体の個体や卵、幼体ならば簡単に捕まえられる』

なるほど。まあ、さすがにでかいのを丸ごと持っていくのは難しいし、幼体とかの方が楽かもな。

「個体の大きさや性別にもよるが、女王蜘蛛だけでも十ターラントは出す」

まず最初にやらなきゃいけないのは、家畜化のための研究だ。

アリスがいるためある程度スムーズにいくだろうけど、完全飼育と交配を目指すにはある程度の数が必要になる。

ロマリアの国家予算が五千ターラントであることを考えると、この初期投資の膨大さが分かるだろう。

しかし将来、確実に大きな富を成す事業だ。

これくらいの初期投資は必要だ。

『そんなにか!! うむ、分かった。他の部族とも声を掛け合い、お前たちに蜘蛛を届けてやろう。しかし、何のためにこんな蜘蛛を?』

「繊維を取ろうと思ってな」

『……我々も大昔、やろうとしたが失敗したぞ。まあ止めはしないが』

どうやらアダルベロたちもチャレンジしたことがあるらしい。

あとで、いろいろ聞こう。

『そう言えば、ここから一週間ほどのところに軍隊蜘蛛の女王が巣を作っている最中だった。それなら、まだ捕まえられるかもしれん。元々、数を増やさないうちに攻め入って殺すつもりだったのだが……どうする?』

「ぜひ、お願いしたい」

『分かった。三日後、出発しよう』

やけに、アダルベロは協力的だった。

これは後で知ったことだが、スウェヴィ族の金銭的な収入は年に百ターラントほどらしい。

そりゃあ協力的になりますわな。