軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百八十六話 第一次ゾルディアス戦争Ⅱ

「危険は高い代わりに短期決戦。時間は掛かる代わりに安全。どっちの戦略が良いですか?」

バルトロはエビル王の国との合同軍議の場でそう発言した。

取り敢えず、両方聞いてみないと分からないな。

「説明してくれ」

「台地にいる後のゾルディアス軍は我々が攻撃をするそぶりを見せたら、尻尾を巻いて逃げるでしょう。それを追いながらゾルディアス王の国奥深くで決戦をするのと……」

バルトロは机の上に広げられた地図を指さす。

丁度ゾルディアス王の国の下辺りに丸を描いた。

「この辺りにあるゾルディアスの友好国や同盟国である、中小国や諸侯の領土を侵略し、ゾルディアスを挑発して、平地に引きずり出すか、どちらにしますか?」

ゾルディアス王の戦い方は、エビル王の国の失敗で分かっている。

兵数が活かしにくい山地に引きずり込み、地の利を利用して包囲、奇襲を仕掛ける。

これに敢えて挑戦するか、それとも粘り強く平地に引きずり出し、決戦を行うか。

そのどちらかというわけか。

「時間的余裕はある。俺は安全な方が良いな。エビル王、あなたはどう思います?」

「同じ失敗は繰り返さない方が良いだろう」

よし、決まりだな。

軍議の結果、軍を二分にすることが決定した。

まずバルトロ率いる、ロサイス・エビル連合軍。

これはエビル王の国とゾルディアス王の国との国境近くの平原で布陣し、ゾルディアスに睨みを利かせる軍。約一万。

もう一つはロン、ロズワード、グラム率いる別動隊。約一万。

この軍はゾルディアス王の国の周辺国を攻め、ゾルディアスを山地から引きずり出すのが主な役目だ。

軍を二分するのが下策だが、二分したところでどちらもゾルディアスの総兵力よりは上である。

大した問題にはならない。

「作戦の肝はお前たちだ。……だがあまり気負う必要はない。落ち着いてやれ」

俺は三人を激励した。

三人がついに一万を超える兵を指揮するのだ。

俺としては不安で仕方が無い。

功績を立ててくれれば良いのだが。

「大丈夫ですよ。マニュアルもありますし」

ロンが紙の束を俺に見せた。

この束はバルトロが作成した、軍隊マニュアル。別名『これを読めば今日から君も名将~初級編~』である。

野営地の選び方や作成基準、行軍速度、戦場の選び方などなど……

細部に渡り、決められている。

兵法書とは違う。運用マニュアルである。

三人ともすでに上級編まで読み込み、暗記しているが……まあ戦う前に復習するんだろう。

「そもそも武力衝突するか分かりませんよ。私が外交交渉で降伏するように促しますし」

イアルが俺に対して、落ち着かせるように言った。

戦争とは外交の一手段である……とは誰の言葉だったか。

我々としてはゾルディアスを平地に引きずり出せば目標は達成である。

直接戦闘をせずとも、その軍事的圧力で諸国が降伏してくれれば御の字である。

言葉の戦いではイアルが、武器を使った戦いではロンたち三人が。

ゾルディアスを挑発する。

痺れを切らして出てきたゾルディアスを、バルトロが平地でボコスカにする。

……ちなみに俺はロサイス王の国に帰ることになっている。

というのも、まだ国内が安定しきっているとは言えないし、今はアス派切り崩し工作の最中。

俺が国外で戦争をする余裕はないし、ライモンドを手伝わなくてはならない。

このままではライモンドが過労死する。

それにユリアとテトラの妊娠もある。

少し情緒不安定な二人の側に居てあげたい。

「じゃあ頼んだぞ」

俺はエビル王の国を後にした。

こうして、ゾルディアス戦争の裏側で、第一次西部征伐が始まったのである。

「ようやく戻ってくださいましたか。陛下が来てくださらないと、アス派の切り崩しが進まないんですよ」

「悪い、苦労を掛けるな」

俺はライモンドに礼を言う。

ライモンドはロサイス氏族の人間。アス氏族相手に交渉するには、アス氏族の妻を持つテトラの夫である俺の力が必要不可欠なのだ。

「しかしアス氏族は中々強情だな」

「彼らは生粋の豪族気質ですからね……」

俺の目的は豪族を中央に集め、貴族化してしまうことである。

国政への参政権を餌にして、領地を手放せさせる。

そうすることで豪族たちの持つ、財力と軍事力を国王の元に集約させるのが目的だ。

しかしこれには一つ、大きな課題がある。

国政に興味がなければ、そもそも成立しないという点だ。

例えばロサイス氏族は元々中央集権化には賛成で、大昔から進めて来た。

彼らからすれば、国政に深く関与出来る貴族化は望むところだ。

一方、ディベル氏族は選ぶ道は無い。

ディベル氏族宗家であるリガル・ディベルが俺に滅ぼされてしまった以上、俺の機嫌を伺って生命や財産の安全を図るしかない。

下手に反対すれば全てを失うということを知っているから、案外素直に従う。

だがアス氏族は違う。

アス氏族は先の内戦での勝者であるという自負があり、同時にアス氏族宗家唯一の生き残りであるテトラが国王の妻になっているという安心感がある。

そして国政などに興味など無く、先祖伝来の土地を手放したくない……という人間の集まりだ。

とはいえ、アス氏族は我が国の於いて二番目の勢力を持つ氏族。

彼らの理解と協力が無ければ、話は進まない。

「中にはアンクス王子の即位を条件にする者まで居まして……」

「それは認められないな……」

第二派閥を取り込むために、第一派閥に喧嘩を売っては話にならない。

その上、後々に禍根を残す。

どんな名君も後継者問題で失敗すれば、暗君だろう。

「借金の肩代わりでは条件として弱いか?」

「厳しいですね。もう一押しという感じです」

難しいな……

明確に敵と分かる外国の方が分かりやすい。

アス氏族は敵か味方かと聞かれれば、間違いなく味方だろう。

大王の加護で判断出来るが、俺に対して忠誠を誓ってくれているのも分かるし、敬意を表してくれているのも分かる。

今までの戦争にも協力してくれた。

しかしだからと言って既得権益を手放せるかと言えば、別の話になる。

今までの恩義もあるし、穏便に、そして彼らを納得させた上で解決したい。

「荘園として認める土地の広さを増やし、主要豪族を要職に就けるか」

「しかし荘園を増やせば後々我が国にとっての腫瘍になりますよ。それに職の数も限られます」

うーん、悩みどころだな。

「荘園に関しては後々、平民を扇動させれば減らせると思う。職の数は……どうするか?」

そうだな……

逆の発想で……

「主要豪族では無く、もっと所領の小さい中小豪族に狙いを定めるか。彼らに占領地の地方官としての職を与えるというのはどうだ? それなら生活も安定するだろうし……」

領地が小さな豪族の収入は安定しない。借金まみれだ。

そして彼らは出世の見込みが薄い。

安定した職を与えれば、すぐに喰いついてくるはずだ。

徴税請負人に任命するのもアリかもしれない。

我が国は現在、徴税請負人制度を採用している。

この徴税請負人という職はとても儲かる。

一定以上の税金を国に治めれば、余った分を懐に入れられるからである。

まあ平民たちには請負人を裁判で訴える権利があるし、訴えられて裁判で負ければ請負人の財産は全て没収させられるわけだから、滅茶苦茶やれるわけでも無いが。

ちなみに地方官と請負人は別の仕事である。

地方官はその場所の行政と治安維持を受け持つ、任期一~二年の職。

請負人はその時限りのアルバイトだ。

別個で分けているのは、請負人の暴利を防ぐためである。

地方の財源は、国中から集めた税金を再分配することで賄っている。

といっても、そもそも地方政治など適当だ。

道路や橋の整備は軍がやっているし、治安維持は自警団が基本。

盗賊が出てくればすぐに軍隊が中央からやってきて、駆除する。

精々地方の様子を中央に伝え、請負人の暴利を防ぎ、裁判を担当し、命令が下った時の国政調査を実施する程度だ。

我が国は必要最小限度しかやらない、小さな政府である。

こんなに適当で良いのか? と思うかもしれないが、細かい事は村長等の在地有力者を中心とする村の自治に任せた方が費用も手間も抑えられるのだ。

閑話休題。

「それは良い考えかもしれません。大多数の豪族が従っているとなれば、受け入れざるを得なくなるでしょうし」

「あと、一部の要職には任期を付けるといいかもしれないな。それなら交代で全員に回せる」

ポストの奪い合いで血泥みの戦いになるよりは、仲良く交代でやった方が国政は安定する。

緊急時に限り、任期を長期に出来る法でも出せば良い。

平時に大切なのは、有能な人材を要職に就けることよりも、出世争いによる国政の混乱や停滞を避けることだ。

「外の事はバルトロとイアルが何とかするだろう。今は内に目を向ける。早く中央集権化を済ませてしまおう。出来れば今年中には」

新年辺りの『建国』を目指そう。

「どうにかして、アンクス様を次の王に出来ないものか……」

ロサイス王の国のとある豪族の屋敷で、数人の豪族たちが集まって話し合いをしていた。

彼らの目下の悩みは、アルムス王による中央集権化政策である。

アルムス王にとっては広い領土の一部でも、彼らからすれば大昔から続く先祖伝来の土地。

先祖が汗水垂らして開墾した土地を、易々と受け渡すわけにはいかない。

尤も、彼らはアルムス王に逆らう気は全く無かった。

王の実力を認めているし、その方針もこれからの国のために必要不可欠であることは理解しているのだ。

しかし、自分たちはそれでも豪族。

せめて、良い条件を得たい。

その条件の一つが、自分たちの氏族から王を輩出することである。

「次のユリア様の御子が男子であったら、アンクス様の王位継承は潰える……」

「はあ……テトラ様が積極的なら手の打ちようはあるが……」

仮にテトラが「アンクスを王にする!! 絶対! ユリア死ね!!」とでも言いだせば、アス氏族は団結してアンクスを王にするように王に掛け合える。

そうなれば王とて、譲歩せざるを得なくなる。

少なくとも、王位継承の可能性を視野に入れるくらいの譲歩は望めるのだ。

しかし、テトラとユリアは仲が良いし、テトラはあっさり身を引いている。

これではアス氏族とて、団結しようが無いのだ。

現在のアス氏族は、アンクスを盟主にアス氏族を盛り立てて次の王に仕えていこうという多数の穏健派と、アンクスを王にしようという少数の過激派に分かれてしまっている。

無論、ここに集まっている者たちは少数の過激派である。

「どうしたものか……」

豪族たちが悩んでいると、ドアのノック音が部屋に響いた。

この館の主人である男が苛立ち気に用件を尋ねる。

「何だ!」

「キリシア商人の方が来ています」

「……分かった」

借金の取り立てである。

「はあ……」

豪族はため息を出した。