軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十一話 第三次南部遠征Ⅶ

俺が率いるロサイス軍が姿を現すと、ポフェニア軍は波が引くように撤退していった。

普通、撤退時は陣形が乱れるため追撃のチャンスなのだが……

彼らには全く隙が無かった。

余計な被害を出さないようにするため、追撃はせずにレザドに入城した。

その後、粛々と戦後処理が行われた。

レザドの義勇軍や傭兵は武装解除させ、レザドそのものはそのままロサイス王の国に編入。

そしてその統治はレザドに残留した愛国心の高い議員たちを代官とした。

扱いとしては非常に自治権が制限された、同盟市という感じだ。

ロサイス王の国は今まで内陸国だったため、港を運営するノウハウが無い。

無理に直轄地にするよりも、間接統治という形の方がスムーズに進むだろうという判断だ。

最も、レザドと我が国は政治制度や税制度が違う。

自治市や同盟市の場合は原則自治であったため、問題にならなかったが……

レザドは直接領土に編入されることになるため、税制や政治制度の改革をしなければならない。

他にも様々な問題があるが……

今は後回しだ。

今はポフェニアを何とかしなければならない。

俺たちがレザドに入城してから三日後、レザドの議事堂で国際的な会議が開かれた。

主催者である俺がまず最初に口を開く。

「各国の代表、外交官、大使たちよ、今日はよく集まってくれた。これから戦後処理とポフェニアに対する対策を話し合おう」

俺はレザドに集まった者たちを見回す。

ドモルガル王の国からはトニーノ将軍。

エクウス族からはムツィオ。

エビル王の国、ベルベディル王の国からは大豪族が外交官として。

ゲヘナからはアブラアム。

そしてロサイス王の国からは俺とイアルとバルトロ。

所謂、戦勝国組。それに加えて……

レザド防衛線で指導した議員やアレクシオス。

ネメスの執政官。

そしてロサイス軍の進軍ルートから外れたことで、侵攻を免れたレザド・ネメス側のキリシア諸都市の代表。

所謂、敗戦国組。

他にもロサイス軍に侵攻され、ロサイス王の国の支配下に治まった都市国家の代表たちも来ているが、彼らは会議の行方を見守るだけで参加はせず、外側からこちらを興味深そうに見守っているだけだ。

「まず、レザド・ネメスと同盟下にあった国々。あなた方には三つの選択肢を提示しよう。一つは我が国に同盟市待遇で編入されること、もう一つは二千ターラントの賠償金を支払うこと。もう一つは全てを灰に変えるか」

我が国の国家収入は約千ターラント。

人口は四十万を超す我が国でようやく千ターラントなのだから、多くても人口が一万、二万程度の都市国家には二千ターラントの賠償金は支払えない。

契約に違反すれば、待つのは死。

つまり実質的には二択である。

つまり死か服従か。

「アルムス王様、御一つお聞きしても宜しいですか?」

「何だ?」

「同盟市待遇……というのは、現在貴国の支配下にある同盟市と同じ待遇ということでしょうか?

「その通りだ」

俺がそう答えると、各国の代表たちは安心したのか、表情が明るくなった。

まあ、敗戦国に対する処罰としては非常に軽い内容だからな。

世の中には、その国の国家収入の十倍以上の賠償を請求し、支払えないのであれば国民を奴隷として売り払うように要求する国もある。

いや、賠償を請求するだけでも良心的だ。

民族丸ごと移住させられ、奴隷として強制労働させられるケースもある。

それに比べれば、多少税が重くなるとはいえ自治権が保障されるのだ。

悪い話ではない。

「我が国はこれから国民一同、陛下に御仕え申し上げます」

「我が国は……」

「我が国は……」

各国の代表たちが俺の前に進み出て、忠誠の挨拶をする。

調子良いモノだ。

「君たちの忠誠はありがたいが、後にしてくれ。今は他に話し合うことがある」

俺は代表たちを手で制する。

もうこいつらは用済みだ。どうでも良い。

「さて、当初の予定では戦争はここまでで終わりだが……あなた方はどうする?」

俺はムツィオやエビル王の国、ベルベディル王の国の外交官に問いかける。

最初に口を開いたのはムツィオだ。

「俺は元々、アルムス王に雇われてここに来ている。……アルムス王が俺を雇い続けるのであればこのまま戦争に参加しよう。ここでお終いというのであれば、そのまま帰ろう」

「延長料金はいくらになるかな?」

「それは後で話し合いになるかな?」

俺とムツィオは笑みを浮かべた。

一先ず、エクウス族はこのまま戦争を継続するようだ。

「貴国はどうする? ポフェニアとの戦いでは領土は得られないし、賠償金が採れるとも限らない。だから利益は保証できない。強制はしない。あなた方の意思を尊重する」

ベルべディル王の国は実質、我が国の属国。

エビル王の国は我が国が上位の同盟国。

という関係だ。

だから俺が強く望めば彼らは戦争に参加するだろうが……

あまり同盟に亀裂を入れたくない。

強制する気は一切ない。

数千の兵が抜けるのは痛手だが。

「……一度本国に連絡をさせてください」

「王にお伺い申し上げなければ、御返答が出来ません」

「それもそうだ。……二日以内にお願いしたい」

それ以上は待てない。

さて……

俺は今日の第二のメインゲストとも言える、ネメスの代表に視線を向けた。

未だにネメスは我が国に降伏していない。

ゲヘナと停戦しただけだ。

この後、どうするのか。問わなければならない。

「さて、まず第一に貴国は我々の友好国か、それともポフェニアの友好国か、その立場をはっきりさせて貰いたい」

俺の問いに対し、ネメスの代表は答えた。

「国同士の関係で真の友好などありません。故に我が国は貴国の友好国となることも出来ますし、ポフェニアの友好国となることも出来ます」

ネメスはどっちつかずの返答をした。

その解答を聞き、アブラアムが鼻で笑った。

「こういう話を知っているか? ある所に蝙蝠が居た。ある時、鳥と獣の間で戦争が起こった時、始めは空を征する鳥が有利に立ち、蝙蝠は自分にも翼はあると主張して鳥として戦った。しかし獣のうち猿が罠を仕掛けることで鳥を追い込み、獣が有利になった。そうしたら蝙蝠は鳥を裏切り、自分は母親の腹から産まれたから獣だと主張して獣として戦った。そうやって、戦況が変わるたびに蝙蝠は自分の立場を変えた。結果、鳥と獣の双方に和平が成立した後、蝙蝠に居場所は無くなった」

へえ……

この世界にも蝙蝠の話があるんだな。

人間、発想は同じということか。

それに対して、ネメスの代表が答えた。

「狐と狼は姿形がよく似ています。ですから、狐は他の動物に対して自分は狼の親戚であると威張り散らすという話があります。……御存じですか?」

狼は俺で、アブラアムが狐か。

まあ確かに俺とアブラアムは親戚関係にあるしな。

アブラアムとネメスの代表の間で睨み合いが起こる。

一触即発の空気だ。

はあ……

今はこんなことをしている時間は無いんだが……

「蝙蝠だとか、狐だとか、動物の話はどうでも良い。私が聞いているのは貴国は我が国と共にポフェニアを討つのか、それともポフェニアと共に我が国に対して抵抗するか、それとも中立を保つのか、どれを選ぶかということだ」

「ですから、我々は……

俺はネメスの代表の言葉を遮る。

「我が国に千ターラントを即金で支払うか、我が国に同盟市待遇で加入し、ポフェニアとの戦で兵を出せ。そしてゲヘナに対して、西部の領土を割譲すること。それ以外の降伏条件は認めない」

俺はあらかじめ、アブラアムと決めていた条件をネメスに対して迫る。

これ以外の条件は認めるつもりは無い。

ネメスがポフェニアと共に我々と戦うのであれば、その意思を尊重しよう。

もっとも、その結果ネメスという都市国家は地図から無くなるだろうが。

「……我が国はポフェニアとも同時に交渉しています」

「だろうな。それがどうした? 早く結論を出して貰いたい。私はどちらでも良い」

俺は強きにネメスに対して迫る。

ちらりと隣を見ると、イアルとバルトロが少し緊張した表情を浮かべている。

いや、二人だけでは無い。

この場にいる全員が固唾を飲んで俺とネメスの代表とのやり取りを見守る。

「分かりました。……降伏致します」

折れたのはネメスだった。

やはり強がりだったみたいだな。

ポフェニアは危機に瀕するレザドに対し、手を差し伸べるのではなく逆に武器を差し向けた。

このことから、ポフェニアは一切譲歩するつもりがないことが分かる。

仮にネメスがポフェニアに援助を求めても、とてつもなく大きな見返りを求められることは確かだ。

もっとも、俺の要求した見返りも安いものでは無い。

同盟市として加入することは、税を採られることを意味し、その自治権は大きく制限される。

それでもネメスが炎上するよりは幾分かマシだろう。

「さて、他にも貴国に亡命したレザドの元議員の処理だとか、いろいろと細事は残っているが……今は後回しだ。一先ず、ポフェニアの討伐を優先する。二日後、軍を整えてポフェニアをこのアデルニア半島から追い払う!!」

「閣下、ネメスはロサイス王の国に組したようです」

「ふむ……蛮族の元に付くとは、誇り高いキリシア人も随分と没落してしまったな。やはり、これからテーチス海を支配するのは我々ポフェニアだ」

ケプカは大して気にしていないとでも言うように笑う。

ケプカが欲しいのは、アデルニア半島南端の港と一部の肥えた土地である。

そこに住んでいる人間は不要だ。

アデルニア人が主体のロサイス王の国の主産業は農業であり、アデルニア人は農耕民族である。

アデルニア人は商売を営まない。その上、海を航海する技術も持たない。

そればかりか、海を恐怖する者もいるだろう。

だからキリシア人とアデルニア人は共存できる。

しかしポフェニア人はキリシア人と同じ商売を営む民族であり、海上貿易で富を創り出す民族。

キリシア人と産業が被る。

故に両者は共存不可能である。

土地を手に入れるには、キリシア人をアデルニア半島の南端から追い払った後、ポフェニア人の植民都市を建設すれば良い。

そしてそれをするには、キリシア人は邪魔だ。

だからケプカはネメスに大して、三千ターラントの即金払いと一万ターラントの五十年分割払いを要求した。

ネメスの国家収入は約一千ターラント。

合計一万三千ターラントも支払うことは出来るはずがない。

出来たとしても、その頃にはネメスという都市国家には、草の根一つ残っていないだろう。

そんな条件をネメスが飲むはずがない。

故に、ネメスがロサイス王の国に靡くのは十分に予想が出来たことだった。

「数は少々劣るが……蛮族に負ける気はさらさらない。野戦でもって、決着を付けてやろう」

ケプカは勝利の笑みを浮かべたのだった。