軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百六十九話 第三次南部征伐Ⅴ

「良いかい? どうせ僕たちは城門から打って出ることは出来ない。だから城門は埋めてしまう。……国内からありったけの岩と土、そして家具で城門の周りを塞いでしまえ」

アレクシオスの指示の元、レザドは防衛体制を整え始めた。

ポフェニア軍はレザド近くの浜辺に上陸している。

正午には到着してしまうだろう。

レザドの保有する傭兵は僅か百。

そしてレザド出身の衛兵が三百程度。

合計四百である。

それに加えて、募った義勇兵が五千。

とてもポフェニア軍三万に勝てる数でも質でも無い。

が、勝つ必要は無い。

耐えることが出来れば良いのだ。

籠城戦は素人でもある程度活躍出来る。

石を投げつけるだけでも、人を殺すことが出来るからだ。

それに籠城戦は武器の補充などの、後方支援が鍵を握る。

直接戦えなくとも、後方支援程度ならば女子供でも可能だ。

「兎に角、投げる物だよ。石でも良い、置物でも良い。何でもいいから掻き集めるんだ。何なら家を解体してしまえ。それと、服で簡易的な投石器を作るんだ」

少しでも時間があれば、多少訓練をすることが出来ただろう。

ちょっとした武器の扱いや、動き方の訓練を少しするだけでも全く違う。

しかし、そんな暇はない。

「全く、酷い軍隊だね。いや、軍隊ですらない」

「でもアレクシオス、楽しそうだね」

メリアはアレクシオスに微笑みかけた。

アレクシオスは困ったように頬を掻いた。

事実、彼は楽しんでいた。

この圧倒的に不利な戦争を前に、ワクワクしていたのだ。

「まあ……嫌いじゃないからね」

アレクシオスは肩を竦めた。

その日の正午。

「いやはや、壮観だね。三万の軍隊と言うモノは。久しぶりに見ると、とても多く感じる」

「ちょっと前までは、三万に至らないものの一万前後は普通に指揮してたのにね」

アレクシオスとメリアは、三日月が描かれた旗を 棚引(たなび) かせ、進軍するポフェニア軍を眺める。

その姿はレザドを守る義勇兵たちの心に圧力を掛ける。

よく見ると、彼らは不統一という面で統一されているのがよく分かる。

武器の種類や鎧、盾の形、人種……

その全てが部隊ごと異なる。

テーチス海沿岸部全ての地域の、軍隊博物館のようである。

「クロト島の弓兵、ボルファ諸島の投石兵が見えるね。その他にも名高い傭兵団や部族がウジャウジャ……これは厄介だね」

「おまけにこっちは素人の集団だしね」

アルムス王がこの都市に到着するまで、約一日掛かる。

つまり一日持ち堪えれば希望は繋ぐ。

しかし、この素人集団でどれだけ持ち堪えられるか。

怪しいところだ。

「出来るだけ時間稼ぎをしよう。……良いかい? この攻城戦が持ち堪えられるかは君に掛かっている」

アレクシオスはレザド議員の肩を叩いた。

議員は緊張した面持ちだ。

「あの……アレクシオス殿はバルカ家出身ですよね? アレクシオス殿が行った方が良いのでは?」

「悪いけど僕とケプカ叔父さんは、会うたびに舌打ちする仲だったよ。どうやら気持ち悪い目をした若造が自分よりも成果を上げるのが気に食わないみたいでね」

アレクシオスは肩を竦めた。

「ふむ、君がレザドの代表かね。悪いことは言わない。早く城門を開けたまえ。城門を開ければ命だけは助けよう」

つまり財産の保障は無い。

ケプカにとってもポフェニアにとっても、そして傭兵にとっても略奪は戦争で生じる支出を補う手っ取り早い方法だからだ。

「ほ、ほんの少し待って頂けないでしょうか?」

「何故だね。言っておくが、君たちの兵力では一時間持たせるだけで精一杯だと思うが」

ケプカは議員を睨みつける。

議員は冷や汗を流しながら答える。

「それがですね……ロサイス王の国とポフェニア、どちらに降伏すべきか揉めているのです。私はあのような蛮族に支配されるくらいならポフェニアの支配下に収まった方が良いと思うのですが……一定数、愚かな者が居まして」

テーチス海沿岸地域……というよりもこの世界の戦争に於いて、侵略した側が略奪をするのは良くあることで、持っている財産を奪われるのは当然のことである。

略奪や殺戮が無かったとしても、土地を没収されて奴隷紛いの小作人に転落させられることはよくある。

これは『常識』である。

故にケプカは、ロサイス王の国が滅多に略奪をしないだけでなく、場合によっては自治権すら与えるほど寛容な侵略者であることを知らない。

もし、これを知っていれば議員の発言に違和感を覚えたはずだ。

略奪を働かず、財産を保証してくれるロサイス王の国の支配と、略奪する気でいるポフェニアの支配、この両者が天秤の上で吊り合うことはあり得ないということに。

しかしケプカは知らなかった。

(……さて、どうするべきか。このまま無理やり攻めてしまうのもありだが……強硬に反撃されるのは面倒だ。それにロサイス王の国の軍勢は四万以上と聞く。出来ればレザドの城壁は無傷で残したい)

「良いだろう、二時間待ってやる。それまでに話をまとめろ」

殆ど兵が居ないというレザドに対して、三万の軍勢を持つというアドバンテージ。

そして南アデルニア半島南部以北への無知。

この二つがケプカを油断させ、貴重な二時間の時間を浪費させたのだった。

「相変わらずあの人は詰めが甘いね。戦略は大胆で、それでいて兵站や戦術は王道的で確実性に長ける。大胆だが、しっかりと腰を落ち着かせた武将……という、評価を与えたいね。詰めの甘ささえなければ」

アレクシオスは愉快そうにケプカをそう称した。

アレクシオスはバルカ家の人間。

故にケプカ・バルカという人間について良く知っている。

それは逆にケプカ・バルカもレザドの司令官を知っているということを意味するが……

ケプカ・バルカはアレクシオスがレザドの司令官であるという事実を知らない。

少なくとも、アレクシオスたちは情報という点に関しては僅かにケプカを上回っている。

「まあ、一先ず二時間は時間を稼げたわけだ。良かったじゃないか」

「そ、それで次はどうしましょうか?」

「二時間後、ダメ元でもう二時間要求してくれ。まあ、ケプカは油断する癖があるだけで馬鹿じゃない。間違いなく時間稼ぎに気付かれるけどね」

しかし、試す分はタダである。

やるだけやってみようと言うアレクシオス。

「ダメだったらどうします?」

「分かった、城門を開くから待っていてくれ!! って言った後に戦闘準備だね」

城壁を開くのに十分掛かるから、待ってくれ。

というだけでプラス十分を稼げる。

「戦闘が始まったらどうします」

「どうもこうも戦うしかないけど」

お前は何を言っているんだという目で、アレクシオスは議員を見る。

議員の顔は真っ青だ。

「し、しかし我らは兵数も質も遥かに敵に劣っているのですよ?」

「それは気合いでカバーするしかないでしょ。増やそうと思って増えるモノじゃないし。兎に角、落ち着きなさい。慌てても、弱腰になっても敵は攻撃を弱めてくれないわ」

「メリアの言う通りだね。というか、指導者である君たちがあまり慌てると唯でさえ怪しい士気がさらに怪しくなる。君たちに出来ることは無いよ。黙っていたまえ」

アレクシオスとメリアがため息をついた。

しかし議員たちの不安はもっともだ。

彼らは商人であり、今まで戦争は傭兵頼りであった。

自分たちの財産どころか生命まで怪しくなるほどの戦争を、これほどの絶望的な兵力差で迎えたことなど今までの人生で一度も無いのだから。

無論、アレクシオスもメリアもその点は同じである。

しかし二人は元軍人。

肝の据わり方が違う。

「大丈夫、大丈夫。士気の盛り上がった城は案外落ちないものだよ。例え兵力差が絶望的でもね」

二時間語、レザド側は再度時間の延長を要求。

ケプカは怒り、すぐに城門を開くように要求。

その十分後、ケプカ率いるポフェニア軍はレザドへの攻撃を開始した。

ロサイス軍到着まであと三日。

絶望的な籠城戦が始まった。

一日目。

「……ふむ、思った以上に強固な守りだな」

戦闘が始まって三時間、ケプカはレザドの守りをそう評した。

例え傭兵が居なくとも、住民がやる気を出せば兵士として使える。

問題はそれを指揮する司令官である。

金商売しか頭に無いレザドの議員が、果たしてまともな指揮が採れるのか、とケプカはレザドを甘く見ていた。

「どうやら考えを改める必要があるな」

ケプカの瞳から油断の色が消えていく。

葡萄酒を一気に喉に流し込み、指示を飛ばす。

「全弓兵、及び投石兵を投入しろ。突入班は梯子を城壁に架け、強引に攻めろ」

もはや油断はしない。

全戦力で持って、敵を打ち破る。

「落ち着け、大丈夫だ。ちゃんと盾を手に持っていれば、矢は防げる」

アレクシオスは声を張り上げ、義勇兵たちに指示を出す。

アレクシオスの手足となり、下士官の代わりを務めているのはレザドに残った傭兵たちだ。

アレクシオスの才能と、戦争に馴れた僅かな傭兵の存在が、俄作りの軍をある程度マシにしていた。

義勇兵たちは必死に盾を掲げ、バケツリレーの要領で運ばれた石や材木の破片を敵に投げつける。

重力を味方につけた物体は、城壁を登ろうとする兵士たちの頭に当たり、確かなダメージを与える。

「おっと、動きが変わったね」

アレクシオスは表情を変える。

敵が温存していた兵力を投入したのだ。

一気に降り注ぐ矢の量が倍増する。

「これは厳しいね。……こちらも投げる量を増やさなければね」

アレクシオスは予備兵を投入して、それに対抗する。

予備兵と言えば聞こえは良いが、兵士ではない義勇兵、それも老人や子供である。

もっとも、彼らでも石を投げる程度なら出来る。

「梯子で登ってきても慌てるな。梯子を城壁から引き剥がし、地面に落としてしまえ。落ち着いてやれば十分に対処出来る」

アレクシオスの指示で、敵兵の侵入が水際で防がれる。

驚くべきはアレクシオスの指揮能力だ。

敵は戦力を集中させる場所を何度も変え、レザドの隙を突こうとする。

しかしアレクシオスはまるで 上空(・・) から俯瞰しているように、それに対応していく。

少数最小限の兵力で、敵の最大限の攻撃を防ぎ続けている。

「そう簡単には落とさないよ。何しろ僕が守ってい……」

アレクシオスは冷静に剣を引き抜き、飛んできた飛来物を叩き落とす。

いくつもの石がアレクシオス目掛けて飛んでくる。

「これは……ボルファ諸島の投石兵か。相変わらず、正確な投石だ」

ボルファ諸島の投石兵はテーチス海では非常に有名である。

その投石は弓矢でも届かない距離まで届き、百発百中、青銅製の鎧や盾も粉砕するほどの威力だ。

ボルファ諸島の投石兵は、アレクシオスを指揮官だと見破り、狙撃を仕掛けたのだ。

「危ないなあ……全く」

アレクシオスは位置を変え、ボルファ投石兵から死角になり、見えない場所に移動する。

下がりはしない。

アレクシオスは下がれば、戦線はあっという間に崩壊してしまうからだ。

「さて、もう一度言わせて貰おうか。この都市は落ちない。僕が守っている限りはね」

アレクシオスは不適に笑う。

その後、日が暮れたことでポフェニア軍の攻撃は終わった。

ポフェニアは一兵も城壁の上に兵を上げることなく、一日を終えたのである。

ロサイス軍到着まで残り二日。