軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百六十二話 放火事件Ⅱ

城門をくぐり抜け、一行は急いで城壁から離れる。

十分ほど走った所に、騎兵の集団が居た。

「ロズワードさん、アリスです。無事、救出成功しました。人数は三十人です」

「三十人かぁ……生憎、空の馬は二十頭しか連れてこられなかったんだよね」

ロズワードは頭を掻いた。

ロズワードの任務は脱獄させた議員やその家族を無事にロサイス王の国まで送り届けることである。

選りすぐりの精鋭三十人と、議員たちを運ぶための馬を二十頭連れて来たのだ。

ロサイス王の国とレザドの間には、都市国家群が存在する。

この都市国家群は全体的にレザド依りではあるが、中にはロサイス王の国に好意的……というより、ロサイス王の国を恐れ、恐怖している国がいくつかある。

そう言った国々に予め、三十騎の騎兵と二十頭の馬が通ることを伝えて、関所を越えて来た。

本当のところは大兵力で迎えに行くのがベストだが……あまりに多すぎる兵力は都市国家を刺激してしまうし、行動も補足されやすい。

ギリギリの人数が三十人と二十頭だったのだ。

「議員の皆さん。俺は近衛騎士隊長、ロズワード・カルプルニウスです。今から少し離れた場所にある森に移動します。……馬は二十頭しかありませんので、体重の軽い方同士は二人で騎乗して頂けませんか?」

議員たちは黙って頷いた。

馬が有るだけ、随分とマシである。

「ロズワード君、証拠は隠滅して来たよ」

「ありがとう、ソヨン」

ロズワードはソヨンに頭を下げる。

ソヨン達呪術師五人は、レザドの呪術師に追跡されないように臭いや足跡、呪術的痕跡を消して来たのだ。

ちなみに五人はロズワードたちよりも先にレザドに潜入していたので、別で馬を所有している。

「では、これから逃走経路について説明します」

ロズワードは緊張した面持ちの議員たちを見回した。

ここはレザド近郊の森の中である。

灯りは小さな焚火だけだ。

「ロサイス王の国からレザドまで、最短経路を通り、騎兵を全力で飛ばせば二日で到着します。しかしそれは不可能です」

最短経路の場合、ロサイス王の国に敵対的な都市国家を通過することに成る。

そのようなリスクを負うことは出来ない。

また、二人乗りの者がいる以上全速力で飛ばすことも不可能である。

そもそも議員たちは戦闘員では無い。

ロズワードたちと同じことをするのは不可能である。

迂回路を慎重に通過して移動すれば、それだけ移動に手間を取る。

「すでに通過予定の都市国家には連絡をしています。おそらく……五日は掛かると思われます」

「我々は救出して貰った身です。文句などありません。ロズワード殿のご指示に従います」

エインズは深く頭を下げた。

ロズワードは議員たちが素直に受け入れてくれて、ほっとした表情を浮かべる。

が、すぐに表情を引き締めた。

「では今から焚火を消します。狼が来ないように俺たちが見張るので、ご安心を。一応、簡素なモノですが寝具を用意しています。……寝られないかもしれませんが、少しでも体を休ませてください」

放火事件の翌朝、レザドの議会は大いに荒れていた。

火を消し止めることに成功した。

しかし、政治犯たちが脱獄してしまったのだ。

首謀者は未だに見つかっていな。

十中八九、ロサイス王の国の手引きである。

議会ではこの事に対する解決策が……

「議長殿! あなたが警備兵たちを火消に駆り出すからこのようなことが起きたのです! あなたの責任だ!!」

「何を言うか!! あの時、傭兵たちを集めて火消をさせなかったら今頃レザドは火の海だ!! 確かに私にも責任はあるが、私だけの責任ではない!!」

話し合われていなかった。

今は責任の押し付け合いの真っ最中である。

レザドの議員たちを、親ロサイス派、反ロサイス派の二つに分けるのは不可能である。

なぜなら、親ロサイス派も反ロサイス派も、自分たちの利益のために集まっているに過ぎないからだ。

隙あれば、足を引っ張る関係である。

「そもそも、あの傭兵たちを雇った商人に責任があるのでは?」

「いや、国への侵入を許したのだから、国境警備や城壁警備の担当者に責任があるはずだ!」

結局、その日は責任の追及だけで過ぎ去ってしまった。

一方、アレクシオスはそんな議会を放って置いて、独自に調査を始めていた。

愛妻であるメリアも一緒である。

「気に成るのが、どうやって西門を突破したか、ということなんだよね。西門には当時、十五人以上の兵士が居た。彼らを一人も残さず、一瞬で無力化するには三倍の兵力があっても難しい」

十五人の兵士たちは、襲撃者に勝つ必要は無い。

生き延びて、救援を求めるだけで良いのだ。

当時は新月。

いつもは大地を明るく照らす巨大な月も、存在しない。

暗闇の中、石や槍、矢を命中させるのは不可能に近い。

背中を向けて逃走する敵を逃がさず殺すのは至難の業だ。

しかし襲撃者はそれさえも許さなかった。

「僕は騎兵を引き連れて北門に向かった。見つからずに逃げるのが不可能な以上、大勢で逃げた方が良い。それが王道だ。しかし敵はその手を採らずに逃走を成功させた。……つまり、敵は相当の実力者であるということだ」

「死体は全て、後ろから刺されたか、首を絞められて殺されてたしね。厄介な暗殺者……隠密に長けた呪術師か、それとも隠密系統の加護を所有していたか……アルムス王も随分と凄い駒を隠し持って居たわね」

メリアは襲撃された場所を見分しながら呟く。

今のところ、手掛かりは殆ど見つかっていない。

犬の鼻を使って調べたが、全て呪術で掻き消されてしまっていた。

「髪の毛とか、皮膚破片でも落ちてたら呪術で呪いを掛けることも出来たんだけどね。指紋一つ残ってない。敵呪術師も相当優秀ね」

「呪術的探索が不可能となると、推察と自らの足で探す必要が出てくるな。全く、面倒な……」

アレクシオスはため息をついて、馬に跨る。

アレクシオスとメリアが率いるのはレザド騎兵五十と、雇い呪術師六名である。

本来ならば、大人数で捜索すべきなのだが今レザド議会はまともに機能していない。

傭兵の雇い主たちは責任の押し付け合いで精一杯で、捜索の指揮を執る暇はない。

かと言って外国人のアレクシオスに全権を委任することはしなかったので、アレクシオスは一兵も動かすことが出来なかった。

しかし放っておくわけにもいかないので、アレクシオスは傭兵たちに無給で仕事をしてくれるように頼みこんだのだ。

アレクシオスが呼びかけて、それに答えてくれたのがこの傭兵たちである。

彼らはアレクシオスの用兵術に感嘆して、個人的に好意を持ってくれている者たちだ。

故に無償で手伝ってくれているのだ。

傭兵が全て、仕事しかやらないわけでは無い。

優れた上司の命令ならば、サービス残業をやることもあるのだ。

「もし、僕が襲撃者ならば……どこかに兵を伏して、脱出した者たちを回収するはずだよ。……そしてレザドの近くに兵を伏せる場所は一つしかない」

「森ね」

アレクシオスとメリアは互いに見つめ合い、ニヤリと笑った。

「ふむ……野営の跡があるね」

アレクシオスは森の中にある、少し開けた空間を見回す。

一見何も無いように見える。

しかしアレクシオスの目は確かに証拠を捉えていた。

「ここの草、踏みつぶされてるよ。それとこの木の皮、擦れた跡がある。この木に背を預けて、何者かが寝ていたね」

「見て、アレク。ここ、よく調べると焚火の跡が有るわ。巧妙に隠してあるけど……間違いない。呪術で調べる限り……半日前と言ったところね」

つまり襲撃者たちはここで夜を明かし、朝には移動したのだ。

「今頃どこに居るか……もし徒歩で移動しているのであれば、今からでも十分間に合う。しかし馬で移動しているとしたら、今から追いつくのは至難の業だ」

馬が居るという証拠はあるが、その数は不明だ。

移動速度が分からないと、探索は少し困難になる。

「ただ……敵が移動できるルートは限られていると思うわ。この野営の後を見る限り、相当の大人数。それだけの数で国境越えなんて不可能。関所を通る必要がある。そうなると親ロサイス派の都市の関所しか通れない」

「そうなると……ルートは二本か。西回り、東回りの二つ。西回りの方が近いが、何度か反ロサイス派の都市国家の国境を越えなければならない。逆に東回りは安全だけど、遠回りになる」

アレクシオスはため息をついた。

現状では敵の位置を特定する情報を得るのは難しい。

「一先ず、鷹を飛ばしましょう。この二つのルート周辺を探せば、見つかるはず。……国境を越えるには議会の許可が必要になるけどね」

見つけても捕まえに行けなければ意味が無い。

そしてそのためには議会の許可が必要であり、責任の押し付け合いが収まる必要がある。

「はあ……ポフェニアの議会も酷かったけどレザドも負けず劣らず酷いね。民主主義ってのは欠陥政治体制なんじゃないかと最近思い始めて来たよ。……ロサイス王の国が羨ましいね」

王制ならば、民意や勢力争い、力関係など関係ない。

王の一喝でその場が収まる。

優秀な王が居る国と、意思が不統一な民主制国家が戦えば、優秀な王の居る国が必ず勝つ。

先手を取り続けることが出来るからだ。

戦争を始めるのだって、王制国家は王の勅命や気分次第で軍を動かせるのに対して、民主制国家は長々と会議をやって結論を出さなければならない。

「愚王が生まれるよりマシだよ思うよ。アレク。民主制である限り、最悪は発生しない」

「まあ、そうだけど……だからと言って 次悪(worse) を何度も繰り返されれば堪ったもんじゃないよ」

二人は肩を竦めた。