軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百五十五話 招かれざる客

「取り敢えず……バルトロ。お前には一年以内に国中に例の新戦術を普及させて貰う。……名前を決めないといけないな」

いつまでも新戦術と呼ぶわけにはいかない。

「 中隊(マニプルス) 制じゃダメですか?」

「まあ、それで良いか」

特に捻る必要は無いだろう。

こういうのは分かりやすい方が良い。

厨二ネームを付けても、軍隊が強くなることは無いのだから。

「しかし……普及は良いんですが、一年は難しいですよ。武器を用意する必要があります」

「武器は今回得た金で調達する。三百ターラントもつぎ込めば、完成するだろ」

この際、金をケチる気は無かった。

そもそも賠償金なんて、泡銭みたいなモノ。

賠償金が無いと成り立たないような財政では無い。

それに平民には今回の戦争で得た戦利品を金銭として分配するつもりだ。

おそらく、四百ターラントを割くことになるだろう。

これで武器や鎧の新調も出来るはずだ。

「それともう一つ、補給を担当する部隊を新たに新設しようと思う」

「補給ですか……」

バルトロは何故か顔を顰めた。

「何か不満か?」

「いえ、ただ補給は現地調達出来るじゃないですか。輜重部隊に馬やロバを配分する金があるなら、騎兵を強化したいですね」

確かに、補給を担当する部隊は早急に必要なわけではない。

むしろ、現状では要らないかもしれない。

今のところ、現地調達で十分に事足りているからだ。

しかし……

「前の戦争では食糧が尽き掛けた。強制徴発すれば十分養えたから、切羽詰まった状況であったわけでは無いが……今後も同じことが増えていくはずだ。我が国はさらに遠方に遠征することになる。今のうちに補給体制を整えたい」

戦術的には意味はないかもしれないが、長期的な戦略では役に立つはずだ。

誰がどう反対しても、絶対に輜重部隊は新設する。

これは決定だ。

「まあ、陛下はそうおっしゃられるなら……俺としては反対はありませんが……」

バルトロはあっさりと引き下がった。

俺の意思が固いことに気付いたのだろう。

このまま討論しても、俺の機嫌を損ねるだけだと判断したのだ。

バルトロにとって……というか、アデルニア人にとって戦争は数週間で終わるのが当たり前だ。

一か月以上続くことは稀である。

また、兵士も多くて一万前後。

よって、普通は現地徴発で賄うことが出来る。

だからバルトロは必要性を感じていないのだ。

だが、俺は地球の歴史を知っている。

今後我が国が領土を拡大する上で、間違いなく必要となるはずだ。

さて……問題はどうやって作るかだ。

今までは、荷馬車を引く馬やロバは農村から徴収してきたモノだったが……

……今は保留としておこう。

こんなことを考えていては、会議が進まない。

「さて、私からの提案や議題は以上だが……何か報告や提案、要望はあるか?」

俺は辺りを見回す。

まず最初に手を上げたのはライモンドだった。

「都の造営費用が追加で必要になります。下水設備が難航しているようです。追加で二百ターラントが必要です」

「分かった。すぐに出そう」

これで残りは百ターラントである。

「他に必要な者は?」

「陛下。騎兵の増強ですが、あと少しで二倍の六百に達します。しかしさらに四百の騎兵を増やすにはもう少し予算が必要です」

「いくら必要だ?」

「出来れば五十ターラントほど」

五十か……

十分捻出出来るが……

「グラム、お前は要らないか? 開拓には不必要か?」

「大丈夫です。前に提出した報告書の通り、開拓は順調です。あともう少しで経営も黒字に転じます。前に頂いた予算も、まだ使い切って居ませんし……」

そうか。

じゃあ、問題ないな。

「ロン。お前はどうだ? 防諜費用は間に合っているか?」

「今は呪術師と兵士の連携を高めている最中ですが……予算は特に必要ではありません。今は数よりも質を高めることが先決だと思っています。……この前のようなヘマは犯しません」

ヘマ、というのは 兵役拒否(ストライキ) 事件のことを言っているのだろう。

まあ、確かにこういうのはただ金を掛ければ良いと言う物では無いしな。

本人が要らないというのであれば、要らないのだろう。

「じゃあ五十ターラント、ロズワードに追加として渡す」

「ありがとうございます。陛下」

これで約五十ターラントが残ることになった。

前の貯蓄と合わせて、二百ターラントの貯金だ。

「他に何か、報告は?」

「魔術師が五人、増えた!」

テトラが待ってましたと言わんばかりに、ドヤ顔で言った。

五本指を俺に突き出してくる。

「それは昨日の夜、聞いたんだけど……」

「五人増えた!!」

また言った。

どうやら弟子と同士が増えたことが相当嬉しいみたいだ。

普段はクールで、口数は少ないが……

こういうところは可愛いなと思ったりする。

おっと、惚気ている場合ではないな。

俺はもう一人、何か良いたそうにしている女に視線を向ける。

「ユリア、ロゼルの術式開発はどうだ?」

「ふふん!! もう七割の解析が終わったわ!! 凄いでしょ!」

ユリアが大きな胸を張った。

流石、天才呪術師だな。

「それって、もう実用できるのか?」

「一部はね。ルルちゃんとソヨンちゃんは、四割くらいマスターしてるよ」

俺はルルとソヨンに視線を向けた。

二人はそれぞれ、呪術師として自分の夫の仕事を手伝っている。

ルルはグラムと共にロマリアの森の開発の隠蔽。

ソヨンはロンと共に、国内の防諜や麻薬取締任務。

それぞれ重要な役職だ。

二人がロゼルの術式が使えるようになれば、大きな戦果だが……

「まあ、それなりにです。陛下。魂乗せ出来る動物の種類と数は増えましたよ」

ソヨンはニコリと笑う。

元々彼女は動物マスターだったが……それがさらに増えたのか。

一方、ルルは薄い胸を張って見せた。

「私も扱える呪いの種類が増えましたよ!! 今はユリア様と協力して、ロマリアの森に入ると背中が痒くなる呪いを張っている最中です!!」

……それは……下手な呪いよりも効果ありそうだな。

「もうこれ以上は無いか?」

俺は周囲を見回す。

一先ず、今は報告することは無いようである。

じゃあ、法律と豪族への版籍奉還に関する会議を始めるか。

「じゃあこれから……」

俺が口を開くのと、同時にドアの向こう側から近衛兵の声が聞こえてきた。

「会議中、失礼致します」

「何だ? 緊急の用事でないなら後にしろ」

俺はそう答えて、会議を再び進めようとする。

今は重要な話会いをしているのだ。

途中で中断するわけにはいかない。

「そ、それが魔女マーリンを名乗る女が面会を求めていて……」

マーリン?

あの女が何故……

まあ、良い。

一先ず、会議は中断した方が良さそうだな。

「分かった。彼女を通せ」

「いやあ、陛下。戦勝、おめでとうございます。あ、これは東方から仕入れた緑茶です」

颯爽と現れたマーリンは、俺に壺を差し出してくる。

中を開けると、緑色の草が入っていた。

匂いは確かにお茶である。

「陛下。私が毒味します」

「大丈夫か?」

「私は蜘蛛です。毒は摂取した瞬間、分析して分解できますよ」

アリスはそう言ってから、茶葉を口に含んだ。

すぐに顔を顰める。

「凄く苦いです」

「そりゃあ、お茶だからな」

どうやら苦いだけで、毒は無い……

ん?

アリスの顔が真っ赤になってるぞ?

「うう、にゃんか、クラクラします……」

アリスはバタリと俺の方に倒れ込んだ。

俺は慌ててアリスを受け止める。

「お、おい!!」

「へ、陛下が……三人……五人!! こ、これは幻覚……」

俺はすぐさま、腰の剣を引き抜き、マーリンから距離を取る。

ロンやライモンド、ユリアやテトラも、それぞれ剣や杖を構え、マーリンを取り囲んだ。

「おい! 何の毒を仕込んだ!!」

「はあ……何言ってるんだか。その子、半分蜘蛛なんでしょ。じゃあカフェインでおかしくなるのは当たり前じゃない」

……そう言えば、薬物を与えた蜘蛛の作った蜘蛛の巣の画像を見たことがあるな。

カフェインを摂取した蜘蛛が一番おかしかった気がする。

……ということは、アリスがおかしくなったのはカフェインか?

「おい、奴隷を誰か連れて来い!」

俺は近衛兵に命じる。

すぐさま、召使が連れてこられた。

召使の女は恐る恐る、茶葉を口に含む。

「どうだ?」

「に、苦いです……」

しかし、苦いだけのようでアリスのような表情は現れなかった。

何だ、アリスだけかよ。

「うう、天井が周ってる……、へ、陛下、お気を付け……」

ガクリとアリスの首が垂れさがる。

寝落ちしたようだ。

心地よさそうな表情を浮かべている。

俺は近衛にアリスを運ばせてから、剣を腰に戻す。

それを見て、ロンたちも剣や杖を背中や腰に戻した。

もっとも、すぐにでも抜けるようにしてある。

「謝罪は無いのかなあ? 私、何も悪いことしてないのに武器を向けられたんだけど」

「……申し訳なかった、マーリン殿。それであなたは何をしに来た? せめて事前に連絡の一つや二つ、するのが礼儀だと思うが。それに我が国を担当する外交官はあなたではないはずだ」

俺は招かれざる客に警戒しながら、来訪の理由を問いかけた。

「ロゼルは関係ないわ。だってクビに成ったんだもん」

「クビに?」

そんな情報は聞いていないが……

「つい三日前よ。あなたたちと懇意にしている外交官さんとやらにやられてね。困ったものだわ」

マーリンはやれやれとでも言うように、肩を竦めて見せた。

全く困った様子は見えない。

痩せ我慢か、それとも本当にロゼルなどどうでも良いのか……

「来訪の理由は二つ、一つは私の愛弟子であるリディアの顔を見ようと思って」

「生憎、彼女はあなたに会いたくないみたいよ」

ユリアは空かさず、答えた。

今はリディアの身柄はユリアが預かっている。

リディアは自分が守る、とでも言いたげだ。

「お姉様、って呼ばれて母性愛でも湧いたの? それとも同性愛に目覚めてしまったのかしら?」

「……」

ユリアの眉が一瞬揺れ動く。

マーリンは、リディアがユリアのことをお姉様と呼んでることを知るはずがない。

つまり……呪術で盗聴を仕掛けているか、または未だにリディアと繋がっているかのどちらかだろう。

「まあ、いいわ。リディアには一言、言っておいてね。別に怒ってないって」

マーリンはユリアに微笑みかけた。

ユリアは顔を顰める。

再びマーリンは俺に向き直った。

「もう一つ、実はあなたに聞きたいことがあってね」

「聞きたいこと?」

「 黒崎愛梨(くろさきあいり) と 黒崎萌亜(くろさきめあ) という人物に心当たりは無い?」

……

無いな。全く無い。

「すまんが、知らないな。知り合いか?」

「姉妹よ。私が黒崎麻里で、次女。愛梨が長女で、萌亜が三女」

ふーん。

……

「何で、長女、次女は普通なのに、三女だけ微妙におかしいんだ?」

所謂、 キラキラ(DQN) ネーム感が……

「何か、センスの変化があったんでしょうね。正直、可哀想だと思ってるわ。……アイリお姉ちゃんは大学生で二十歳、メアは中学生で十四歳。もし見つけたら、教えて。タダで、とは言わないわ」

「別に金なんて採らないよ」

一応、こいつに恨みが無いと言えば嘘になる。

いろいろ引っ掻きまわされたわけだし。

とはいえ、敵同士だったのだから当たり前だ。

今は敵対しているわけでも無い。

もし俺の友人や、孤児院の子供が異世界に来ている可能性があるのだとしたら、血眼になって探す。

奴隷になってる可能性だってあるわけだし

それを考えると、見かけたら保護して、会わせてやるくらいの協力は人間として当然のことだろう。

俺だって鬼じゃない。

妖精は俺とこいつを戦わせたいみたいだが、今のところ俺はこいつと争う予定は無い。

無益な戦いは避けるべきだ。

もっとも、警戒は続けるし、信用するつもりは無いけど。

「そう……ありがとう。じゃあ、用が済んだことだし、嫌われ者は退散するわ」

「そうか。……この後、どこに行く?」

立ち去るマーリンに尋ねる。

マーリンは後ろを振り返り、ニヤリと笑う。

「少し南の大陸に行ってくるわ。そこに……私の目当ての物があるみたいだから」