軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話 パン

現代日本でよく食べられているパンは、小麦粉に卵やバター、牛乳などを混ぜ、イースト菌でふくらませてから焼いた物だ。

だが初期のパンは違う。

卵やバター、牛乳といった豪華な物は入っていない。

イースト菌もまだ開発されていない。

小麦粉と水を混ぜて焼いただけの、クレープの生地のようなものだ。

決して食べれない味ではない。

が、美味しくない。

かなり粗食に舌が慣れてきたとはいえ、出来るだけ美味しい物を食べたい。

え!? ムカデも食えるんだから我慢しろって?

嫌だよ。あれは緊急事態だったからだよ。血迷ったんだ。

とにかく、美味しいパンを作ろう。

牛乳はないが、ヤギ乳ならある。代わりになるか分からないが、水よりは美味しくなるに違いない。

あと必要なのはイースト菌だ。

イースト菌とは菌と名が付いてる通り、菌だ。

培養しなければならない。

この世界の空気中にイースト菌が居るかどうか謎だが、多分居るだろう。

豚や牛、ヤギ、鹿、葡萄、オリーブ、小麦、大麦、カブ、クローバー、と揃って居るのにイースト菌が居ない方が無理がある。

きっといる。多分。

「そのイースト菌ってどうやって作るの?」

「作るって言うか増やすが正しいんだけど……まずは土器の中に干し葡萄を入れるだろ? 水を入れるだろ。密封するだろ。あとは放置」

「それだけ?」

「それだけ」

小学校の総合的学習の時間で、手作りパンを作ろう! という授業で作ったから間違いないはずだ。

異世界でしか役に立たない知識を授業で教えるというのはどうなんだろうか?

授業では瓶の中で作ったから、様子が分かったけど……

瓶とか無いしな……

三日も放置すればできるか。出来なかったら残念でしたということでもう一度チャレンジすればいい。

_______________

「出来た!!」

俺は完成したパンを手に取った。

熱っ!

思わず落としかける。

火傷しないように注意して千切り、口に運ぶ。

旨い!!

日本で売っている市販のパンには到底及ばないが、いつも食べている物よりはずっと美味しい。

これで粗食からは解放される……

「そんなに美味しい?」

「食べてみれば分かるよ」

俺はパンをテトラの口に運ぶ。

テトラは目を丸くした。

「……柔らかい!!」

「だろ? これからは毎日食べれる」

子供たちが我先にとパンを手に取って食べ始める。

大好評だ。

さて、空気が和んだことだし切りだすか。

「ユリアの話によると、ドモルガル王とギルベッド王の国は相変わらず不作だったらしい。でもロサイス王の国はそれなりの量の小麦が取れたって」

「……それがどうしたんだよ」

ロズワードが怪訝そうな顔をする。

「お前、ロサイス王の国の出身だろ?」

「……そうだけど」

「今なら帰れるぞ」

俺は静かにそう言った。

ロサイス王の国の出身者はロズワード以外に八人居る。

彼らが居なくなると、畑の維持が少し大変になる。

でも構わない。

子供は親の元で育つべきなのだ。俺のような、親を知らないような奴の元ではなく。

「……なあ、兄さん」

「何だ?」

「バカなの?」

「……それはどういう意味だ?」

罵倒される謂れはない。

俺は正しいことを言っている。少なくとも俺は正しいと思っている。

「確かに親のことは好きだったよ。でもさ、俺たちを捨てたんだぜ。一度は。どんなに仕方がなかったとしても。許せるわけないだろ。どうせ戻っても歓迎されない。食い扶持が増えるだけだし。それにまた追い出されるかもしれない。今度は奴隷として売られる可能性もある。帰りたいと思うわけないじゃん」

……

……

確かにそうだ。

一度、子供を捨てた人間のところに子供を返すなんて、正しいわけがない。

冷静に考えてみれば分かることじゃないか。

彼らが冷遇されたり、酷い目に合う可能性のほうがずっと高い。

どうして気付かなかったんだ……

ああ、そうか。

ただの俺のコンプレックスか。

親が居ないから、親という存在を自然と美化し過ぎているのかもしれない。

自分と同じような思いをして欲しくないと、勝手に押し付けているだけか。

「あと、もう一つ」

そう言ってロズワードは笑う。

「みんな兄さんのことが大好きだから。兄さんは俺たちを見捨てずに、助けてくれた。何の縁もない俺たちを。だから」

「そうか……」

勝手に変なことを考えていたのは俺だけか。

「なあ! この中で親の元に帰りたいと思う奴は居るか!! 手を上げろ!!」

ロンが大きな声で周りの子供たちに呼びかける。

誰も手を上げない。

「じゃあこれからもリーダーについて行きたい奴は挙手!!」

全員が一斉に手を上げた。

「おい、周りに流されなくてもいいんだぞ。本当に帰りたい奴は機会があれば帰ってもいい。なあ?」

さすがに一人はいるはずだ。

だって最初はみんな泣いてたじゃないか。

親の名前を叫んでただろ。

だが、俺がそう呼びかけても誰も名乗り出ない。

少しも表情を変えない。

例え、空気に流されいていたとしても表情くらいは変えるはずだ。でも誰も変えない。

ただ、俺を見つめる。

どういうことだ?

「親に捨てられるということは元々可愛がられてなかったり、村の中で冷遇されていたということ。だから最初は悲しくても、後で冷静に考えてみると帰りたくなくなる。帰ろうと思えばいつでも帰れるということもある。それにあなたに付いて行けば飢える心配がない。それにあなたは優しいから。みんなあなたのことが好きだから。納得した?」

テトラは俺を諭すように言ってくれる。

そうか、そうなのか。

俺はそんなに好かれているのか……

「アルムスさん、泣いてる?」

「泣いてない!! 泣くわけないだろ。俺はリーダーだぞ!!」

クソ、こんな年になって泣くとは……あ、今は十二歳だっけ。

「分かった。俺はこれからもこの集団のリーダーを続ける!! これからも俺に付いてこい」

「「「了解です、リーダー!!」」」

子供たちが口をそろえてそう叫ぶ。

何でこんなに息が合ってるんだ?

まさか……

「俺がこの話を切り出すと思って準備してた?」

「ばれちゃいました?」

ソヨンが舌を出した。

「テトラがアルムスさんが時々不穏なことを言ってるって伝えてくれて」

グラムが教えてくれた。

そうか、テトラか。

「折角だしリーダーを泣かそうぜ!! と言ったのはロン」

「おい、ちょっと待てよ。一番ノリノリだったのはロズワードだよ。こいつ、セリフの練習してたんだぜ?」

「だって俺が対象になることは分かってたし。折角だから良いこと言いたいだろ。それに最後に声を合わせることを提案したのはロンだ!」

「俺に罪を擦り付けるなよ!!」

大騒ぎを始める。

別に俺は叱りつけるつもりは一切ないんだが……

「落ち着け。俺は別に怒ってなんかいないから。さあ、パンを食べよう。今日はパーティーだ!!」

「……パンしかないけど」

テトラがぼそりと呟いた。

余計なことを言うな、馬鹿。