軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十八話 第一次南部征伐Ⅳ

「ふむ……バルトロ。どう見ても敵は籠城戦の構えをしているわけだが……これは敵が相当の馬鹿だと考えて良いのか? それとも俺たちが馬鹿だったのか?」

「い、いえ……この状況下で籠城は明らかに愚策です。考えられるのは……援軍の可能性です」

だよなぁ

援軍か。どこから援軍が出てくるのか……

「陛下! キリシア系の都市国家に潜り込ませていた呪術師から鷹便が届きました!!」

ソヨンが大慌てで天幕に入ってきた。

内容は……予想出来るな。

「国外の都市国家からの援軍か。周辺の都市国家は全てレザド・ゲヘナの影響下にあることを考えると……」

「間違いなく、レザドの商人が一枚噛んでいますね」

尤も問い詰めたところでレザドは否定するだろう。

影響下にあるとはいえ、各都市国家と我が国は別の国で関係ない。

支援はレザドの商人が勝手に商売をしただけだ。

我々は常に中立を保っていた。……と。

忘れてはいけないのは、俺たちもエインズを中心とする親ロサイス派の商人から支援を受けているということだ。

どちらに転んでも、勝者に付く。

レザドの巧妙なやり口である。

俺はソヨンから受け取った書簡を開く。

内容は想像と一致していた。

「どうする? バルトロ。キリシア系都市国家から五千の兵がこちらに援軍として送ることを決めたようだぞ?」

「……」

バルトロは少し考え込んでから、口を開いた。

「酒を飲んでいいですか?」

「それで考えが纏まるのであれば」

俺がそう答えると、バルトロはどこからか酒の入った壺を取りだした。

そして一口呷ってから、目を瞑る。

数秒後に、目を開けた。

「ある意味、これはチャンスです。敵の援軍を撃破すれば、籠城している兵は士気を大きく低下させるでしょう」

「なるほど。具体的にはどうする?」

「まずは簡易拠点を周囲にいくつか建設します。そしてそれを起点として、ぐるりと掘と柵で囲い込む。クリュウ将軍が我らにやった策と同じ方法です。これで敵は打って出ることも出来なくなります」

連絡路と補給路を断つわけか。

それでどうする?

「後は敵の援軍を待つだけです。ある程度離れた位置で迎え撃ち、撃滅します。問題は城を囲う兵と敵を撃破する兵、この二つに軍を二分しなければならないことです」

兵力の分散は各個撃破を招く要因になる。

出来れば避けたいが……背に腹は代えられない。

「俺が三千の兵で敵を取り囲む。お前は三千で撃破しろ」

「分かりました。陛下」

城を取り囲む掘と柵の建設はスムーズに進んだ。

と言うのも、ここ半年間兵士にはずっと土木工事をやらせていたからだ。

すでに軍全体が工兵として必要最低限の能力を身に付けている。

ところで、敵の兵力は七千である。

一方こちらは六千で、最終的に二分して三千になってしまう。

ここで気に成るのは、半分の兵力で包囲出来るのか?

ということだ。

答えは簡単。

十分に可能である。

と言うのも、兵士が出入り出来るのは城門からだけだ。

そして城門は……この城に関しては西と東の二つだけしかない。

だから城門の周りを兵士で囲んでしまえば……

打って出て来た時点で包囲が完成しているというわけだ。

そもそも掘と柵が完成した時点で、こちらも簡易的な城に立て籠っているのと同じだ。

こちらが落とすことは不可能だが、敵も同様に包囲を破壊することは出来ない。

さて、三日が経ち掘と柵があと少しで完成しそうだという頃……

ついに敵の援軍の出撃準備が整い、我が国の国境を越えようとしているという情報が入った。

想定以上に軍の編成に手間取っているようだ。

おそらく、各都市国家の利害の調整に時間が掛かったのだろう。

また、俺たちが都市と敵との連絡路を経っている所為で、情報が来ず、混乱しているという可能性もある。

まあ、どちらにせよ敵の遅れは歓迎するところだ。

「では陛下。私は敵を撃破しに向かいます。くれぐれもお気を付けを」

「ああ。お前も頑張れ。何しろ敵は五千だ」

バルトロを送りだしたその日の朝のことだった。

「陛下! 敵軍が西門と東門から打って出てきました!!」

やっぱり行動に移したか。

我が軍は三千の兵を率いたバルトロが抜けたことで、戦力が半減して三千になっている。

一方、敵は七千。

そして包囲施設は完成していない。

今が好機と考えたのだろう。

だが敵の反撃は予想済みだし、攻撃地点も西門と東門の二つに限られていることは分かっている。

「落ち着いて迎撃しろ。こちらには柵と掘がある」

俺は慌てる兵士たちを落ち着かせながら、迎撃に出る。

所々不完全な場所があるが、包囲はほぼ完成している。

動じる必要は無い。

敵は何重にも掘られた堀と設置された柵に敵兵は阻まれ、思う用に行動できていないようだった。

西門と東門周辺を取り囲むように、堀と柵と弓兵が配置されている。

動きを止めた敵に、周囲から雨のような矢が降り注ぐ。

さらに……

「バリスタ装填……発射!!」

黒色火薬を先端に括りつけた太矢が敵軍を切り裂き、吹き飛ばす。

投石器が唸りを上げて、石や黒色火薬の詰まった壺を飛ばし、人を挽肉に変える。

ようやくたどり着いた兵士も、こちらの重装歩兵の持つ槍で串刺しにされる。

敵の攻撃は二時間後に終わった。

こちらは殆ど無傷、一方敵は膨大な屍の山を築いた。

何故か包囲している側が防衛し、包囲されている側が攻撃する。

珍妙な攻防戦は今後、暫くの間散発的に起こることになる。

「敵の作戦は二通り考えられる。一つは我が国の本土を攻撃して、我が国の部隊を撤退させる作戦。もう一つは直接救援に向かう作戦。俺なら手薄で、兵士の多くがストライキを起こしている本土を攻撃するが……」

バルトロは酒を飲む。

一息ついてから、ニヤリと笑う。

「敵は間違いなく、後者を採る」

「どうしてですか?」

ロズワードはバルトロに問う。

バルトロは得意気に説明した。

「キリシア人は同胞意識が強い。そして多くの都市が民主制を採用している。多くの民衆は直接助けてやりたいと考えるはずだ。そして救援要請を出した都市も直接助けてくれと訴えているはず。だから後者を採る」

前者は半分、味方を見捨てる行為だ。

効果的だが、非情な決断は王政や寡頭制の国しか出来ない。

「そして急いでいるはずだ。同胞を助け出すためには、一刻も早く駆けつけなくてはいけないからな。それに五千の大軍だ。通れる道は自然と限られる」

バルトロは地図を広げた。

そしてロズワードに差し出す。

「どこが戦場に向いていると思う?」

「……この辺ですかね?」

ロズワードは道の上にある平原を指さした。

「理由は?」

「……ここは一見山や森などの地形は有りませんが、小さな丘が点在しています。非常に起伏に富んだ地形です。敵のファランクスには不利で、こちらの軍団には有利な地形です」

「合格」

バルトロは嬉しそうに笑い、ロズワードに酒を差し出した。

ロズワードはそれを受け取り、一気に胃に流し込んだ。

「というわけで、早速向かおう。敵よりも早く到着して、有利な場所に陣取ろう。君は先行して、場所を選んでおいてくれ」

「分かりました。将軍」

ロズワードは早速戦場に向かった。

バルトロ軍が陣を張り終えてから半日後、連合軍の軍勢が姿を現した。

三千の軍勢を無視して進軍するわけにはいかない。

敵はバルトロ軍の向かい側の丘に陣を敷いた。

両者は一日睨みあった。

どちらが先に仕掛けるか、探り合ったのだ。

結局、時間が限られている連合軍は痺れを切らし、バルトロ軍を攻める形になった。

バルトロもそれを迎え撃つために陣の外へ出た。

どちらも洗練された軍を持つ者同士。

陣形を組み終えるのは同時だった。

「これはまた……狙いは包囲ですか?」

「だろうね。俺たちの戦術に対して包囲で挑むとは良い度胸している」

ロズワードとバルトロは連合軍の陣形を見ながら話し合う。

連合軍は両翼を薄く伸ばした陣形を組んでいた。

「前は中央突破を狙ってきましたが……今回は違いますね。どうしてですか?」

「指揮官の性格の差だろ」

バルトロの考案した陣形は、二百単位の部隊が分散して配置されている。

これを初めて見た指揮官の感想は二つだろう。

防御力が弱そうだ。

機動力に優れているかもしれない。

そうなると、採れる選択肢は二つに一つ。

敵の弱点を突くか、敵の利点を潰すか。

反乱軍の司令官は敵の弱点を突くことを選んだ。

一方連合軍の司令官は敵の利点を潰すことを選んだのだ。

「薄く広げれば、数に劣る俺たちは包囲出来なくなる。俺が包囲戦を得意としていることは調べてあるんだろうな」

「……じゃあどうするんですか?」

「中央突破を狙う」

バルトロの答えにロズワードは目を丸くした。

今までバルトロは翼包囲戦術しか使ったことが無い。

少なくともロズワードは知る限りでは。

「出来るんですか? 敵の方が数が上ですけど」

「その辺は工夫次第さ。俺もクリュウ将軍との戦いでそれなりに成長している」

バルトロは酒を飲む。

その表情には自信が現れていた。

「ところで騎兵はどうします? 騎兵に関しては俺たちが三百、敵が百で俺たちが優位ですけど」

「そうだな……じゃあ……」

バルトロ軍では笛が、連合軍では太鼓を合図に一斉に軍勢が駆け出した。

総勢八千の人が大地を揺らす。

両者は激しくぶつかる……と思われた。

「全軍、急停止せよ」

バルトロは数十メートルほどで軍を止めてしまった。

これに面食らったのは連合軍である。

何故ならバルトロ軍は丘の上から駆け出し、連合軍は丘の上を駆け上っていたからだ。

連合軍の指揮官はバルトロ軍は重力を利用して、勢いを付けて突撃してくるものだと思い込んでいたのである。

そのため、両者がぶつかる位置を丘の中腹と麓の中間と見積もっていた。

故にファランクスは助走を付けるために比較的早い段階から駆け出していたのだ。

しかしバルトロは途中で突撃をやめてしまった。

それによりファランクスは丘を中腹まで上ることになってしまったのである。

この頃には連合軍兵士の体力は落ち込み、ファランクスの突撃力は大きく下がっていた。

「攻撃開始!!」

中腹まて登ってきた連合軍に対して、バルトロは投槍、弓矢、投石での攻撃を命じる。

連合軍も負けじと反撃するが、今まで突撃体勢で進撃してきた連合軍はまともに反撃できない。

重力も手伝って、バルトロ軍の一方的な攻撃になった。

そこへ追い打ちを掛けるようにバルトロは爆槍での攻撃を命じた。

本来は攻城戦のために野戦での使用は極力避けるべきだが、この野戦が終われば当分使う機会は無いので、バルトロはここでの使用に踏み切ったのだ。

突然の爆発により、連合軍に混乱が生じる。

尚、麻薬の粉末を利用した呪術は風向きの関係上使われていない。

それでも火薬の破壊力と煙は敵の歩みを止めるには非常に効果的だった。

ここでバルトロはすかさず突撃を命じた。

丘の頂上から中腹まで、一気にバルトロ軍が駆け降りる。

中腹に達した頃には、バルトロ軍の勢いは最高潮に達していた。

バルトロ軍は黒色火薬から発生した煙を切り抜け、連合軍のファランクスへ盾を頼りに体当たりをする。

煙の中から突然、重力を味方につけたバルトロ軍の突撃を受けた連合軍中央は大きく凹む。

中央では一部ファランクスが崩れ、乱戦となっていた。

乱戦に成れば、大盾と短剣を武器にするバルトロ軍が圧倒的に優位である。

しかし連合軍はバルトロ軍の約二倍の兵力差がある。

バルトロ軍にも疲弊が見え始める。

だが……

「第二重装歩兵隊、第六重装歩兵隊と交代せよ。第三軽歩兵隊、第四重装歩兵隊を援護しろ」

それをバルトロが巧みな指揮で補う。

疲弊が見える場所にはすぐに後列との交代を命じて、休ませる。

苦戦が見える場所には軽歩兵を送り込み、投石や投槍、弓矢で援護させる。

決して遊兵を作らない。

常に全軍を生かしたバルトロの指揮により、バルトロ軍は数で優位に立つはずの連合軍を徐々に押していく。

しかし連合軍の司令官も負けていない。

両翼を広げ、バルトロ軍を包囲しようとする。

「第三列、左右に展開せよ」

笛が戦場に響き渡り、バルトロ軍の第三列……古参兵たちが側面に移動した。

盾を並べ、連合軍の側面攻撃を防ぐ。

機動力に優れた新戦術だからこそ、可能な対応である。

「さて、そろそろかな?」

バルトロが酒に口を付けるのと同時に、バルトロ軍は連合軍を食い破った。

連合軍の中央は崩壊して、真っ二つに分断される。

「全軍、左右に方向転換!」

バルトロ軍の攻撃は終わらない。

中央を突破したバルトロ軍はスムーズに左右に方向転換する。

連合軍ファランクスの側面を攻撃する形になる。

この攻撃により、連合軍両翼が混乱状態になる。

そこへ……

「さて、ようやく俺たちの出番か。深入りはしなくて良い。波状攻撃を繰り返すぞ」

敵の騎兵を早々に破り、今まで待機していたロズワードたち騎兵隊が連合軍の反対側の側面を攻撃した。

騎兵は僅か三百なので、突撃は出来ない。

しかし投石や、一撃離脱を繰り返すことは出来る。

そして混乱状態の連合軍を追い詰めるにはそれで十分だった。

両側面から攻撃を受けた連合軍兵士は自然と中央に集まる。

すぐに満員電車の中のような状態になり……それを通り越して人が圧殺される。

殆どの連合軍の兵士は味方に踏まれ、押されて死んだ。

そして何とか逃げ出した兵士たちはバルトロ軍の激しい追撃に合い、多くが命を落とした。

斯くしてバルトロ軍は大勝利を収めた。