軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十六話 対ガリア同盟

「っく……野蛮人共さえ動かなければ……」

クリュウは葡萄酒の杯を地面に叩きつける。

撤退に多大な犠牲が出たのはロゼル王がクリュウを急かしたからである。

ゲルマニス人と北東部のガリア諸部族の不穏な動きに、ロゼル王が過剰反応したのだ。

クリュウは何の準備する暇もなく、強行軍で撤退する羽目になった。

また、元々ガリア人という人種は、勝っている時は調子が良いが、負けると急に逃げ腰になる。

これも被害が増大した一因である。

「仕方が無いでしょう。彼らが動き出すのは当然……敗北したのが痛かったわね」

ここまでの大敗はロゼル始まって以来の出来事だ。

ロゼルには敵が多い。

隙を見せた途端、群がってくるのは自明の理と言える。

「一応、エクウス族よりも南のアルヴァ人……アリエース族やルプス族の中に潜ませておいた呪術師に連絡を取っているわ。彼らが動いてくれれば、エクウスも引き返せざるを得なくなる」

エクウス族の騎兵が抜ければ連合軍の戦力は大きく後退する。

そうなれば連合軍は撤退せざるを得ない。

「それにしても対ガリア同盟ね……呑気なモノだわ。私たちを相手にしている間、ロサイス王の国に自分たちが呑まれるとは考えないのかしら?」

時は少し遡る。

「ついにここまで来たか……」

俺は丘の上から、平原を見渡していた。

平原を切り裂くように、河が西から東へ流れている。

南アデルニアと北アデルニアを分ける境界線。

ロゼル王国とドモルガル王の国の本来の国境線である。

本来、というのはここ百年、ロゼル王国南下の激化に伴い国境線が北から南へ後退していたからだ。

つまり連合軍はドモルガル王の国の本来の領土を取り戻すことが出来たのである。

ドモルガル王の国だけではない。

ギルベッド王の国もファルダーム王の国も、ロゼル王国から領土を一部取り返すことに成功している。

大成功、と言って良いだろう。

もっともここまで上手くいったのは、運が良かったからだ。

慢心は良くない。

「ここまで上手く行くとは思いませんでしたな。これ以上の北上は……」

「分かってるよ。これ以上の長期化は不可能だ」

俺はライモンドの言葉を遮った。

一部の豪族や将兵は更なる北上を主張しているが……

流されてはいけない。

実は兵士の中から、帰郷を望む声が出て来始めているのだ。

ムツィオを含むエクウス族もそろそろ帰りたがっている。

敗北すれば全てが無駄になる。

講和は今、結ぶべきだろう。

……というか、勝ちすぎてしまった感が否めない。

もしロゼル王国が「アルムス王が泣くまで戦争を止めない!!」とか言いだしたら、俺は泣く。

だからと言って譲歩し過ぎれば、国内外から「アルムス王はヘタレ」という非難の声が上がるだろう。

外交って面倒くさいな。

「ところで捕まえた捕虜の数は? 集計終わったか?」

「一万六千人です。大戦果ですよ。売るも良し、連れ帰るも良し、ですな。まあ交渉次第では解放することもあると思いますが」

一万六千人か……

奴隷は貴重な労働力だ。

農地の開拓のために一定数は欲しい。

だけどあまり大勢連れ帰ると、反乱のリスクが高まる。

こいつらはガリア人だし……

人口比でどれくらいの奴隷なら問題無いのだろうか?

古代ローマでは人口の三分の一が奴隷だったと聞くが……

そう言えば我が国の奴隷人口はどれくらいだろうか?

住民票は文字通り、自由民しか記録していない。

奴隷の人数まで記録すると、処理が追いつかなくなる。

そもそも奴隷から税金は取れないから、数えても意味が無い。

今度大規模な国勢調査をして、調べてみるか。

国力を正確に把握する必要がある。

「武器や兵糧もたくさん接収出来ましたね」

「兵糧は略奪品だから返した方が良いな。ドモルガル王の国に。武器はこちらで貰ってしまおう」

使える物は武器庫に放り込み、使えなさそうな物は潰して農具か新しい武器に作り変える。

鉄は未だに貴重品だ。

奴隷の中に鍛冶師等の技術職が居れば、鉄の生産力も上がるんだが……

「さてと、そろそろ時間だな。俺が招いたんだ。遅れるわけにはいかない」

俺はロゼル王国の領地から背を向ける。

ギルベッド王やファルダーム王を出迎えなければならない。

「まさか、南アデルニア北部の中堅国家だった我が国が、北部三ヵ国と肩を並べて会談をすることになるとは思いもしませんでしたよ」

アデルニア国王会談が始まる……

アデルニア国王会談が始まったのは、満月の夜であった。

巨大な満月が大地を暖かく照らす。

月下の元集まったのは、腹に一物抱えた各国の国王、四人。

歴史上、初めて行われた国際会議である。

「皆さん、お集まり頂きありがとうございます。今宵は……」

「前置きは良いでしょう、アルムス王。早く本題に入るべきだ」

ギルベッド王はアルムスの言葉を遮った。

この四ヶ国の中で尤も有力な国と見なされているのはギルベッド王の国である。

ギルベッド王は、若い格下の国の王が会談を仕切っているのが、内心気に食わないのであろう。

「ひひひ、若者はせっかちじゃなあ。あまり急くと余裕が無いと思われますぞ? ギルベッド王」

「余計なお世話ですな。ファルダーム王」

「ひっひっひ……一番の年長者としてのアドバイスですよ」

ファルダーム王とギルベッド王は睨みあう。

この二国はあまり仲が良いとは言えない。

両国はロゼル王国と戦う一方、互いに小競り合いを繰り返しているのだ。

両国とも中央集権化が進んでおらず、国内の豪族を従えるのに戦争が必須なのだ。

それを困った顔で眺めるカルロ。

カルロは正式なドモルガル王ではないが、ドモルガル王と扱っても差し支え無いためこの会談に参加している。

「ギルベッド王のご指摘も尤もです。早速、本題に入りましょう」

アルムスは怒ること無く、会談を進める。

「まずロゼル王国との講和。これは四ヶ国同時に行います。条件については各国の功績次第として……宜しいですね?」

「「「異議無し」」」

満場一致で決まる。

現在、ロゼル王国と互角以上に戦えているのは四ヶ国が連携しているからだ。

四ヶ国のうち、どれかが抜ければロゼル王国を押さえられなくなる。

抜け駆けはどの国も歓迎していない。

ちなみにこの中で尤も抜け駆けする可能性の高いのがロサイス王の国である。

唯一、ロゼル王国と国境を接していないのだから。

「それと今後、ロゼル王国と対峙するに当たり、対ガリア同盟の結成を提案します」

「流石アルムス王です!! 我が国は賛同します!!」

真っ先に賛同を示したのはカルロである。

国力が大きく減退したドモルガル王の国からすれば、対等同盟は願ってもないことだ。

「……」

「……」

難色を示したのはギルベッド王とファルダーム王。

理由は単純。

お互いが気に食わないのだ。

同盟の必要性は分かる。

同盟の有用性も分かる。

しかしこいつが気に食わない。

両国の間には根強い国境問題が存在している。

同盟を結べば戦争で取り返すという手段が無くなることを意味する。

強い敵と戦うために過去のことはすべて水に流せ。

そんなこと受け入れられるはずが無かった。

また、ロサイス王の国が主導権を握るのが彼らからすると気に食わない。

ロサイス王の国は唯一、ロゼル王国と国境を接していない。

それなのに、同盟の主導権を握っている。

背後で踏ん反り返りながら、偉そうに「助けてやる」……

大国である、という自負を持つギルベッド王もファルダーム王も内心では気に食わない。

とはいえ、各国が別々で事に当たればロゼル王国に対抗できないのは歴史が証明している。

またロサイス王の国の力が必要不可欠なのも事実である。

ギルベッド王もファルダーム王も、同盟を結ぶ努力をする気はあるのだ。

結局のところ、国境問題の発生している地域には軍事的空白地帯を置き、相互不可侵条約を結ぶという内容で講和が結ばれた。

要するに、問題の先送りである。

厄介なことは両国共に「領土問題は譲歩してやった」という意識を持っていることだった。

近い内に必ず再燃することだろう。

同盟の更新期限は三年。

そして一年に一度、国王会談を開いて互いに意見の擦り合わせを行う。

具体的な内容は……

・四ヶ国相互が不可侵条約を結ぶ

・四ヶ国のうち、侵攻された国に対して他の国は援軍を送る

・ドモルガル王の国再建のために、各国が支援をする

という三つ。

送る援軍の規模は、侵攻してきた軍の規模による……等、条約として不明瞭な部分が目立つ。

明確にし過ぎると、自国より他国を優先するという事態が発生しかねないからだ。

可愛いのは自分の身。

四ヶ国とも、足並みはバラバラである。

今までの足を引っ張り合う関係よりは随分とマシではあるが。

その後、穏やかな談笑が行われて会談は無事に終わった。

斯くして、話しは冒頭に戻る。

「対ガリア同盟ね、提案者はアルムス王でしょうね。一番得をするのは彼だもの」

「というのは?」

「簡単よ。あの国だけ我が国と国境を接してない。助け合う関係じゃなくて、助けてやる関係なの。他の三ヵ国とね。ロサイス王の国には同盟に参加する利益が無い。だから三ヵ国はロサイス王の国を引き留めなくてはならない」

つまりロサイス王の国の国際的発言力の上昇である。

実質的な対ガリア同盟の盟主として君臨することになったのだ。

「ほう……あの若造も考えたモノですな」

クリュウは感心の声を上げた。

クリュウはアルムスを、若くて行動力のある王と見ていた。

それに策謀家という評価が加わる。

「そう? 見え見えでしょ。まあ、見え見えでも三ヵ国が同盟を結ばざるを得なかったからこそ、上手くいったと言えるかしら。それだけ我がロゼル王国は恐れられているのよ」

麻里は肩を竦めた。

アデルニアの国々の中でロゼル王国をここまで追い詰めたのはロサイス王の国が初めてだ。

ロサイス王の国が居なければ、あの強敵ロゼルには対抗できない。

今回の戦争は各国にそう思わせたのだった。

「さらにロサイス王の国に有利なのは相互不可侵条約よ。あれが有る限り、三ヶ国はロサイス王の国の軍事行動に制裁を加えられない」

「なるほど……ギルベッドとファルダームは我が国と掛かりっきりで、南に領土を拡張するのは不可能。ドモルガル王の国も同様に我が国と国境を接していて、しかもその周辺には侵略できる国が無い。一方、ロサイス王の国は……」

南に小国家群がたくさんある。

侵略し放題だ。

ロゼル王国と国境を接していないため、全軍を侵略に傾けられる。

ベルベディル王の国とエビル王の国、ゾルディアス王の国も一応存在するが……

ベルベディルとエビルはロサイス王の国の半属国で、ゾルディアス王の国にはロサイス王の国とまともに対抗できる国力を持たない。

ロサイス王の国はこの同盟を利用して、さらに国土を拡張させるだろう。

「それにしても……はあ……今回の戦争の敗因、六割くらい私の所為で、四割くらいあんたの責任よね?」

「個人的には八割あなたの責任と言いたいところですが、軍を率いたのは私ですからなあ……」

麻里とクリュウは暗い表情を浮かべた。

本国に帰ったらどんな嫌味を言われるか……

と考えると気分が悪くなる。

「問題は講和ですな。マレー殿。強きに領土を取り戻さない限り我々は戦争を継続する! と主張すれば、押しきれると思いますが……」

「ロゼル王がね……とっとと講和しろって五月蠅いのよね。時間的猶予を考えると、あまりごねられないわ。こちらが譲歩しないと……」

二人は大きなため息をついた。