軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百十三話 無血開城

俺はエインズとゲヘナの代表を呼び出して、戦後処理に関して具体的な話を進めた。

まず領土だが、これはスムーズに進んだ。

簡潔に説明すると、南部地域はレザドとゲヘナ。北部と中部はロサイス王の国。

となった。

これには各国の力関係や地理、政治状況が反映されている。

まずレザドとゲヘナの両国よりも我が国の方が国力が上。

こう書くと俺が脅したみたいになるが……実際は違う。

逆だ。レザドとゲヘナが俺に押し付けたのだ。

領土が広がればそれだけ防衛に力を割かなければならないのは自明の理。

レザドとゲヘナは小国だから、その防衛力を賄いきれない。だから領土の大部分は我が国が刈り取る。

またベルベディル王の国の特殊な人口比率や政治制度も大きく関係する。

まず大前提として、ベルベディル王の国を治めるベルベディル王はアデルニア人である。

ベルベディル王の国は、元々ベルベディル氏族と複数の有力氏族が同盟を組み、時が経つにつれてベルベディル氏族が同盟の中で抜きんでた存在になり、王を名乗るようになった……という国の成り立ちをしている。まあ、我が国も同じだ。

つまりアデルニア人が主体の国だ。

しかしキリシア人が気候が温暖で豊かなアデルニア半島南部に多くの植民都市を築くようになった。

キリシア人の移民はどんどん数を増やし、ベルベディル王の国に移り住む人間も増えていく。

歴代のベルベディル王はキリシア人の技術と経済力を味方に付けるために、キリシア人の移民を奨励してきた。

そして移り住んだキリシア人はアデルニア人と結婚し、混血が進む。

こうしてベルベディル王の国の中部地域にキリシア系アデルニア人が主体の自治都市がいくつも出来たわけだ。

次代が下りベルベディル王の国の国力が大きくなると、徐々にベルベディル王の国はキリシア人の植民都市に侵略の手を伸ばすようになる。

もっとも、侵略と言っても同盟を強制する程度。

レザドなどの有力都市国家と同盟を結んでも、ベルベディル王と同盟を結んでも条件はそこまで変わらない。

だからベルベディル王の国の南部地域にはキリシア人の都市国家が多くある。

まとめると、北部はアデルニア人の豪族。中部はキリシア系アデルニア人の自治都市。南部はベルベディル王と主従的同盟関係を結んだキリシア人の都市国家がそれぞれ存在する。

レザドやゲヘナからすると南部地域を吸収するのはそこまで難しくない。ベルベディル王と結んでいた条約を自分たちと結び直させれば良いだけだからだ。

逆に中部や北部になると面倒になる。

中部地域の都市群は自治はしているが、あくまでベルベディル王という王が許す範囲で王の方針に沿っての自治だ。

王という導き手が居ないと、どうすれば良いか分からない……という人間が多い。

ではレザドやゲヘナが導いてやれば良いのか? というとそういうわけにもいかない。彼らは中途半端にプライドが高いので、同じただの人間を主として仰ぐのを嫌う。『王』でなくてはいけない。

北部地域は言うまでも無いだろう。アデルニア人の豪族が納めているのだから、同じアデルニア人の王が納めなくてはいけない。

と、まあそういう事情で我が国は北部と中部を併合することになった。

途中、レザドとゲヘナが南部地域の取り分で揉めるという一幕が有ったが、一先ず領土の分割は決まった。

問題はベルベディル王の国に突きつける条件だ。

「ロサイス王様はどのような条件を考えていらっしゃいますか?」

「直轄地にある主要鉱山は全て我が国が押さえる。城壁や砦の類は王都の城壁を除いて全て撤廃。軍備の禁止。ロサイス王の国の許可無しに戦争禁止。ベルベディル王と同盟を結んでいた都市や豪族がロサイス王と同盟を組むことを認める。ベルベディル王の妻子をロサイス王の国に十年間預ける。……こんなところだと思うが」

俺が今まで考えていた条件をつらつらと述べる。

エインズとゲヘナの代表は意外だという表情を浮かべる。

「中々厳しい条件ですね。しかし賠償金は請求しないのですか?」

「どうせ大した額は払えない。ならば請求しない方が良い。賠償金を請求するよりも、二度と逆らえないようにした方が利口だと思うな」

本当ならロサイス王の国以外との同盟の禁止だとか、いろいろ付け足したかったんだがレザドとゲヘナも居るからな……

「しかし問題は軍備の禁止と戦争の禁止。従いますかね?」

「従わざるを得ない。何しろ、ベルベディル王の国は我が国の同盟者に囲まれることに成るからな」

ベルベディル王の国の首都は北部になる。北部の豪族や中部の都市は全て俺が押さえることに成ったのだから、当然ベルベディル王の国は我が国の内側に存在することに成る。

ベルベディル王の国は我が国以外と戦争が出来なくなるわけだ。

ならばそこまで重い処置でも無い。むしろ当然の処置だ。

それに伴う再軍備禁止を同様だ。

金は取らないんだから、これくらいは飲み込んで貰わないと困る。

それに悪くない条件だと思う。

この条約は逆説的に言えば、国防は全てロサイス王の国が負担することに成るからだ。

ベルベディル王は今まで掛かっていた国防費を内政に向けることが出来る。

敗戦国相手にはお得な話だ。

まあ、ロサイス王の国が条約を律儀に守ることが前提だが……

少なくとも俺は、ベルベディル王が怪しい動きをしない限りベルベディル王の国を滅ぼす気は無い。

一応、それを伝えるために人質の条項を入れている。

もし俺が、軍備の撤廃を見届けた後に攻め込むような非道極まりない人間ならば人質を取る必要は無い。

十年間の人質というのは裏を返せば十年間は監視するということであり、十年間は存続させる予定があるということでもある。

まあ、深読みしてしまえばこれも悪逆非道なアルムス・アス・ロサイスの策略になるが。

「実はですね……勝ったからには賠償金を請求せよと本国に言われているんですよね……」

「私もです」

エインズとゲヘナの代表は困り顔でそう言った。

つまりレザドとゲヘナへの賠償金の支払いを命じなければならないが……

「どれくらい?」

「取り敢えずこの戦争に掛かった経費の二倍から三倍は毟り取って来いと……」

ゲヘナも同じらしい。

金貨数千枚に及ぶだろうな……間違いなくベルベディル王の国は払えない。

「即決でなくてはならないか?」

「いえ、分割でも構いません。しかし完済まで五年以上は待てませんね」

うーん、下手に請求し過ぎて態度を硬化させたくないんだよな……

どうするべきか……

「じゃあこうしよう。我が国が賠償金を肩代わりする。ベルベディル王は三年以内に我が国に返済を始めて、十年以内に完済させる。どうだろうか?」

「いえ、我々は全く構いませんが……ロサイス王様はそれで宜しいので?」

財政的に破綻しないのか、とエインズは聞く。

そいつは我が国の内政問題だが……破綻するなら提案はしない。

何とかする。いや、させる。

三年後には戻って来始めるわけだしね……

俺はベルベディル王が踏み倒す危険性は全く考慮に入れていない。踏み倒せるなら踏み倒してみろ。その時はお前の国が亡ぶ時だ。

「じゃあまとめるか……」

俺は紙に条約の中身を書きだした。

1 ベルベディル王は全ての武装を解除して開城する。

2 ベルベディル王は今後一切の軍備を禁じる。

3 王都の城壁を除く全ての城壁、要塞を破棄する。

4 3が達成されるまでレザドとゲヘナの軍がベルベディル王の国に駐屯する。滞在費はベルベディル王の国が受け持つ。

5 ベルベディル王はロサイス王の国の許可無しに戦争をすることを禁じる。

6 ベルベディル王は、北部及び中部地域の豪族、都市がロサイス王の配下に加わることを容認する。

7 ベルベディル王は南部地域の都市がレザド及びゲヘナの同盟国となることを認める。

8 ベルベディル王の国の妻子は十年間、ロサイス王の国の王都で生活する。

9 ベルベディル家の者が結婚する際にはロサイス王、レザド、ゲヘナの承認が必要とする。

10 ベルベディル王はレザド、ゲヘナの両国に金貨二千枚を五年以内に支払う。

11 支払いが不可能な場合はロサイス王の国が負担する。ベルベディル王の国は三年以内にロサイス王の国へ返済を始め、十年以内に完済すること。(ベルベディル王の国の財政状況によっては交渉を認める)

13 ベルベディル王の国の領土は戦争以前の直轄地までとする。

14 ベルベディル王の国の領土内の鉱山(塩、金、銀、銅、鉄、鉛、錫、呪石)はロサイス王が所有する。

15 以上が履行されている間、ロサイス王の国、レザド、ゲヘナははベルベディル王の国の独立を承認する。

「ベルベディル王様。初めまして。私はレザド代表のエインズ・ワースと申します」

エインズはベルベディル王に向かって定例通りの挨拶をした。

そして長々と平和の素晴らしさを説き始める。

エインズの長話を簡潔にまとめると、自分たちは平和を望んでいる。ベルベディル王の国が望めば、戦争は終わる。という内容だ。

そしてにこやかに笑いながら条件をベルベディル王に提示した。

「これは……」

ベルベディル王が顔を顰めた。

この条件は実質的にロサイス王の国の属国に成れというようなモノだ。

唯一の救いは間にレザドとゲヘナが入って居ることだろう。外交の自由は認められている。

もっともそのレザドとゲヘナの所為でここまで追い詰められたのだが。

しかし王都を包囲されて居るという状況下では悪くない条件ではある。

国を潰されて、ベルベディル氏族を断絶させられてもおかしくない状況で希望が残るのは悪くない。

領土は大幅に削られるが、直轄地は削られていない。

もともとベルベディル王の国の領土の大部分は豪族と自治都市の物なので、大きく変わるというわけでは無い。

豪族や自治都市からの上納税が無くなるのは惜しいが、それは軍事費の削減で帳尻が合う。

敗戦間際の国への条件にしては非常に好条件である。

問題は……

(未だエビル王の国がある……)

このまま籠城を続ければ、もしかしてロサイス王の国がエビルやロゼルに滅ぼされるかもしれない。

そうすればベルベディルもロサイス王の国の領土を得られる。

ハイリスク・ハイリターンを選ぶかローリスク・ローリターンを選ぶか……

ベルベディル王は暫く目を瞑り、結論を出す。

「受け入れよう」

「ベルベディル王様ならばそう言って下さると思いました」

エインズはニコリと笑って見せた。

ベルベディル王もそれを見て、自虐的な笑みを浮かべた。

(どうせ、俺の臆病な性格を考えた上での条約なんだろうな)

ベルベディル王はため息をつく。

元々ベルベディル王は王に成りたくなど無かった。しかし兄弟が謀略合戦のうちに両者共倒れしてしまったが故に、その地位が転がってきたのだ。

ベルベディル王は自分の才の無さを実感していた。だから今まで勝負に出ることは無かった。

しかしロゼルからやってきた使者に説得させられてしまった。

「今なら確実に勝てます」

ロゼルの使者はそう言いきった。ベルベディル王も、ロゼル・エビル・ベルベディル・エクウスに包囲されれば流石のロサイス王も敗れるだろうと、そう考えてしまった。

それにロサイス王の野心も見て明らかだった。やられる前にやる。これは世界のルールだ。

元々、臆病者だと罵られていて、それに対するコンプレックスもあった。

故に一世一代の大勝負に出たつもりだったのだが……

「はあ……どうやら俺はグリフォンの尾を踏んでしまったらしいな」

ベルベディル王はため息をついた。

(しかし、俺の代が末代に成らなくて良かった。まあ決まったわけでは無いが……はあ、俺は暗君として歴史に名を刻むだろうな。あの若い王の踏み台として……)

後にベルベディル王は浮いた軍事費を内政に注ぐことで収入を飛躍的に伸ばし、無事にロサイス王の国へ借金を完済させる。

後世の歴史書では軍事の才能は無いが内政に力を発揮し、王都の無血開城により無駄な血が流れることを防ぐ『英断』をした名君として描かれるのだが……

それを知ったらベルベディル王はどのような顔をするのだろうか……