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作品タイトル不明

信長が六三郎に何も言わない理由とは

天正二十一年(1593年)七月二十九日

武蔵国 忍城

「それでは大殿。本日も作業に行って来ます」

「うむ。気をつけよ」

「ははっ!」

皆さんおはようございます。朝から大殿へ挨拶して、松田を一網打尽にする為の作戦の準備に向かう柴田六三郎です

提案して数日、そろそろ完成しつつありますが、まだまだ完成ではないので、引き続き土木作業をしてきます

六三郎が件の場所へ向かい、足音がしなくなった事を確認した信長は、小姓の蘭丸に対して

「お蘭!何やら不服がある様な顔をしておるが、六三郎が大将を務めており事に対してか?」

六三郎の役割に不満なのかと問いただす。いきなり聞かれたら蘭丸は

「い、いえ!その様な事は思っておりませぬ!ただ、いつもならば、大殿は六三郎殿の提案を聞いてから、いくつか改良しておりましたが、

此度はそのまま六三郎殿の提案したままで進めておりましたので、それが不思議に思っていたのです。決して、不服などではありませぬ!」

信長の怒りを買わない為に、細かく丁寧に説明を行なった。蘭丸の説明を聞いて信長は

「はっはっは。安心せい。分かっておる。だがな、お蘭。お主も勘づいておるじゃろうが、

此度、儂はほぼ全軍の指揮権を六三郎に託した。それはひとえに、六三郎ならば先陣を切る軍勢の大将よりも

軍勢の全てをまとめる総大将を任せた方が、他の軍勢に気を使わずに良い結果を残すと判断したからじゃ

それ以外の理由として、六三郎の元服後の初陣の日に権六と話し合った時の内容が、「いつまでも儂や権六が戦場に立ち続けでいては、次の世代が育たぬ」だったのじゃ

儂と同世代と見て良いのは、二郎三郎や三十郎達までとして、その下の世代は勘九郎や三七、そして六三郎くらいまでじゃろう

その更に下の世代で、此度の戦に出陣しておるのは、二郎三郎の次男の於義伊と、伊達小次郎。それから六三郎の赤備えの中の大野兄弟、五郎左の倅、

そして新田小太郎と楠木左衛門尉くらいじゃろう。二十歳前後で、戦経験を持っておる者が少なすぎる事も問題じゃ

しかし、それ以上にその者達をまとめあげられる大将を任せられる者は、織田家一門では六三郎しか居ない事が問題なのじゃ!

本来ならば、この役目は三介に任せたかったが、過去と此度の愚行のせいで、此度の戦で挽回出来なければ三介は捨扶持を与えて大人しくさせるしかない

ここ迄言えば、分かると思うが。お蘭よ、現在の織田家において、権六が隠居した以上、軍勢の総大将を任せられる者は、六三郎以外だと藤吉郎くらいじゃ!

毛利家は恐らく、安芸守ではなく毛利両川が出陣するじゃろう。毛利家も大将を任せられる人間が少ないと儂は見ておる

まあ、そこは安土城で人質になっておる二人の成長次第じゃろう。六三郎以外で期待しておるのは、長宗我部家じゃ

しかし、長宗我部家は領地がそれ程大きくない!それは、軍勢が少ない事を意味するからのう。讃岐国を治めておる源三郎の軍勢もそれ程多くない

それを鑑みるに、数年のうちに行なう予定の九州征伐では、名目上は源三郎が征伐軍の総大将になるが、実際は藤吉郎と六三郎が軍勢を動かす事になる

それこそ、九州の東側を藤吉郎の軍勢が、西側を六三郎の軍勢が征圧しながらの進軍になる可能性が高い

その九州征伐では、柴田家で学ばせておる五男の三吉と六男の長丸を元服させて、出陣させる。前線に出るわけではないが、

戦を目の前で見せて、儂や勘九郎が戦無き世を作ろうとしている事、その為に家臣達が血を流している事を理解させる

戦という物が分からないままでは、人の心を考えない阿呆になってしまう。それに、儂は今年で還暦を迎えた

儂と共に織田家を大きくしてくれた、犬、内蔵助、五郎左は儂より若いとはいえ、五年以内に還暦じゃ

十兵衛は少し前に還暦を迎えて、権六に至っては古希じゃ。権六が六三郎にほぼ全権を託した様に、

儂も勘九郎へ全権を渡す事をそろそろ考えないといかぬ!だが、勘九郎が戦場に立った時に、万が一があってはならぬ!

だからこそ、此度の戦で儂は六三郎にほぼ全権を託した。言わば試金石じゃ!六三郎が儂の狙い通り、諸将をまとめ上げながら、

松田討伐を成し遂げたのであれば、儂の考える天下統一がより近づいてくる

その為にも、六三郎は勿論、臣従した面々がどれだけ儂が納得する働きを見せてくれるのか?これに注目したい

だからこそ、お蘭。儂は此度の戦で余程の事が無いかぎり動く事はせぬぞ」

自らの考えと、これからの展望を蘭丸に伝える。信長の言葉を聞いた蘭丸は

「六三郎殿を自由にさせていたのは、その様な狙いがあったのですか。知らなかったとは言え、申し訳ありませぬ」

改めて、信長に頭を下げた。しかし信長は

「気にするな。じゃが、儂としては六三郎に多くの役目を任せすぎたと思っておる。あ奴はまだ子が三人じゃからな

本来ならばあと三人は居てもおかしくないと言うのに。これは、お蘭よ。六三郎に側室を増やす様に伝えるべきか?」

六三郎の子供が少ない事を危惧して、側室を増やした方が良いかと蘭丸に質問する。質問された蘭丸は

「それが良いかと。今ならば六三郎殿は九十万石を持つ大大名ですし、繋がりを持ちたい大名家は多いでしょう」

「側室を増やすべきだ」と信長に伝える。背中を押された信長は

「うむ。此度の戦が終わったら、家臣達にこの事を広めよう!六三郎は大変だと思うが、頑張ってもらうとしよう」

心配している言葉とは裏腹に、とても面白い事になる事が分かっているかの様な笑顔だった。