作品タイトル不明
愚か者が動き出す時、六三郎は巻き込まれる
天正二十年(1592年)九月三十日
武蔵国 某所
この日、松田は主だった家臣達を大広間に集めていた。集めていた理由は勿論、謀反の為だったが、少なからず悪知恵だけは働く松田は、正直に話さずに
「皆!御本家の殿ならびに大殿より、内々ではあるが命令がくだされた。その命令とは、上野国の北部を我々が切り取り、領地にせよ。との命令じゃ!
皆も知っていると思うが、数年前に新次郎様が武田家の領地から農作物を盗んだ結果、北条家は上野国の半国のうち、南側全てを割譲する事になった!
じゃが、御本家は武田家が約定を破り、上野国北部に攻め込むと見ておる。そこで、我々が上野国北部を征圧し、武田家を見張るお役目に就く様に!との事じゃ!
これを成し遂げたならば、皆へ少しずつとはいえ、領地を加増してやれる!だから皆、此度の戦も気張ってくれ!」
「小田原城からの命令で上野国北部を奪って、武田家を見張る」という、大嘘の大義名分を掲げて家臣達に話すと、松田の言葉に家臣達は
「殿!誠ですか!」
「これで、嫁に無理をさせずに済む」
「領地が増えたなら、家臣達に楽をさせてやれる」
来ない未来を想定し、嬉し涙を流す者、明るい未来にやる気を出す者、様々な思いを駆け巡らせていた
その様子を見て松田は
「それでは皆!出陣準備に取り掛かれ!」
「「「「おおお!」」」」
家臣達に出陣準備を命令し、家臣達も足早に大広間を出て行く。そして、1時間程で松田の最大兵力である5000人の出陣準備が完了した
全員揃った事を確認した松田は、家臣達に
「出陣じゃあ!」
発破をかける。家臣達も
「「「「おおお!」」」
気合いを入れて、領地を出発する。こうして、愚か者の謀反計画が始まった
この時点では、六三郎は当然だが、北条家の面々すら知らない。そんな中で六三郎はと言うと
天正二十年(1592年)十月十日
武蔵国 鉢形城
「よし!武蔵国産のワイン六十樽が完成じゃあ!五十樽は、安土城へ送って、残り十樽は北条家の皆様への祝いの品としよう!
それでは、気をつけて運んでくれ!麦酒は、十日後に百樽完成する予定じゃ。先ずはワイン樽から頼む!
途中で甲斐国に寄るじゃろうから、甲斐国からワインを運ぶ者達と合流してくれ!」
「ははっ!それでは、行って来ます」
皆さんおはようございます。前年の妊活指導がスタートした時から作っていた、武蔵国産ワインが完成したので、
安土城へ運ぶ家臣を見送っております柴田六三郎です。いやあ、この約1年、妊活指導と訓練と酒作りと色々と働きすぎて、毎日寝不足状態でしたよ
でも、源三殿に娘が2人産まれて、長女は 武姫(たけひめ) 、次女は 長姫(ながひめ) と名付けられて
早くも源三殿は、親バカ全開です。しまいには、「娘達の婿殿には、柴田殿の様に、賢く、他者を慈しむ事の出来る者でないと嫁がせぬ!戦しか出来ぬ儂の様な男は論外じゃ!」
などと言っております。そんな源三殿に、新太郎殿は
「兄上。産まれて一ヶ月の赤子の嫁ぎ先を考えるのは、いくらなんでも早すぎますぞ。せめて、五歳になってからでも良いではありませぬか」
源三殿に正論でツッコミを入れる。それでも源三殿は
「新太郎。こう言ってはなんじゃが、娘達は儂に似て、考えるより先に行動する人間になりそうな気がするのじゃ!
だからこそ、今のうちに将来の婿殿の譲れない部分は決めておかねばならぬと、儂は思っておる!」
娘ちゃん達が自分に似た大人になると予想して、脳筋じゃない男に嫁がせたいと思っている様です。
そんな事を考えるのはまだ早いと思うんだけとなあ。そんな事を考えていたら、源三殿が
「そうじゃ!柴田殿!柴田殿の嫡男ならば、娘を嫁がせても問題無いどころか安心出来る!柴田殿!どうじゃろうか?」
俺の嫡男の甲六郎を婿殿として、ロックオンして来ました。いやいや、俺の子供は、現在の所、道乃との間の甲六郎と、雷花との間の六花と、花江との間の 六江(むつえ) の3人しか居ないですし、
これからまだまだ子作りする予定だけど、勝手な約束は出来ないからなあ。仕方ないが
「源三殿。拙者の息子が四男や五男まで増えたのであれば、そのお話をお受けしましょう。それよりも今は、くる実殿と比左殿が無事に出産出来る事を祈りましょう」
話をそっち方面に動かします。動かされた源三殿は
「そうであった。娘二人が産まれて浮かれておった!まだ、くる実と比左が頑張ってくれておる!無事を祈らねば。柴田殿、浮かれ気分を正してくれて、忝い」
俺に感謝の言葉を述べておりました。まあ、我が子が可愛くない親は基本的には居ないからね。それじゃあ、大広間にワイン十樽をプレゼントしに行きますか
六三郎がプレゼント用のワイン樽を源太郎達と共に運んで、大広間に向かっていると、
「幻庵翁、その情報は誠なのか?」
「誠でございます!潜入させていた者から報告が入りました」
「あの阿呆め!儂達が出陣出来ぬ事を知った上で、この様な愚行を!許せん!一番近い場所に居る者は誰じゃ?」
何やら物々しい会話が聞こえて来た。その様子に六三郎は
(おいおい、なにやら出陣なんて聞こえて来たんだけど!?これはワイン樽は後回しにした方が良いだろうな)
そんな事を考えていたが、源太郎達から
「殿!この状況で、北条家の方々が動かないのであれば、我々が動くべきではありませぬか?」
「そうですぞ!織田家の同盟相手の北条家の危機に、織田家重臣の柴田家が立ち上がる!何も間違っておりませぬ!」
「殿!」
「殿!」
「殿!」
「出陣しましょう!」と、キラキラした目で出陣を促される。そして、そんな声は当然、大声なので、大広間に居る新太郎、幻庵、源三も気づいていた様で
「柴田殿!兄上、幻庵翁。柴田殿にも聞かれても良いですな?」
「なんなら、参加してもらいますか?」
「軍勢が少ない以上、致し方無い!」
それぞれの意見が出て、最終的に
「「「柴田殿。是非とも軍議に参加してくだされ」」」
六三郎は北条家の内乱に巻き込まれる事になった。