作品タイトル不明
慶事を聞いた愚か者に悲報が届く
天正二十年(1592年)六月二十五日
相模国 小田原城
「皆!鉢形城の新太郎叔父上からの文が届いたのじゃが、何とも喜ばしい内容じゃ!最初に源三叔父上の子を懐妊した、側室二人じゃが、誰一人、子が流れる事なく無事に育っておるそうじゃ!
このまま順調に育てば、長月の中旬から神無月の上旬に産まれる!更に、もう一人の側室との間の子も育っており、順調に育てば、霜月の末頃から師走の中頃に産まれるぞ!」
場面は鉢形城からの文が届いた小田原城で、氏直が家臣達に伝えている所に変わる。文の内容に家臣達は
「遂に、源三様にお子が!」
「北条家一門のお子が増える事、誠に喜ばしいですな!」
とても喜んでいたが、氏直が文の続きを伝えると、空気が変わる
「皆と同じ様に、儂も嬉しい!じゃが心配な事も書いてある!それは源三叔父上の正室の比左殿が、付き添いが側に居ないと動けない程、
体調が良くない日が続いておるとの事じゃ!幸いにも、柴田殿の側室殿が医術の心得があり、産婆達と共に比左殿の側に居るそうじゃ
今年で四十五歳、前例の無い高齢出産になるからこそ、致し方無いかもしれぬ。だが、
源三叔父上も新太郎叔父上も、そして、此度源三叔父上の為に頑張ってくれている柴田殿も、無事に産まれて来る事を神頼みするしかない状況じゃ!
そこで、儂達も鉢形城に倣って、空いている部屋に神棚を作り、安産祈願を行なう事を決めた!勿論、強制ではない!手が空いている時、ふと思い出した時で良い
源三叔父上の子も嫁達も、無事である事を祈ってやってくれ」
「「「「ははっ!」」」」
氏直の言葉に、家臣達は返事を返す。ただ1人の愚か者を除いて。その愚か者こと、松田憲秀は表向きは氏直の言葉に従う振りをしていたが、内心では
(ええい!北条家一門に子が産まれて、それが男児だったら、我々家臣の領地が削られるではないか!それなのに、無事である様に祈れじゃと!ふざけるな!
そもそも、源三様も自らのみで頑張ればよいものを、何故、織田家臣なんぞに頼っておる!情けない!それでも北条家の人間か!坂東武士が何をしておる!
おのれ!柴田とやら、要らぬ事をしおって!余所者が北条家中に割り込んでくるな!どうにかして排除出来ぬものか)
名字しか覚えてない六三郎にまで、憎しみを持ち始めていた。そんな松田が領地に戻ると、悲報が連続で届けられる
天正二十年(1592年)七月三十日
武蔵国 某所
「殿!前年にお話をした、宇都宮様からの文です」
「おお!遂に来たか。これからしばらくの間、誰も部屋に近づけるな。良いな?」
「ははっ!」
領地に戻った松田に家臣から、前年に謀反に協力して欲しい旨の話を持ちかけた、宇都宮家から返答の文が届けられる。その内容を聞かれたくない松田は
家臣に、誰も部屋に近づかせない様に命令する。家臣が部屋の外に出て、周囲の見張りに立った事を確認した松田は、ゆっくりと文を開き、読み出す
「どれ。「松田殿へ。宇都宮弥三郎じゃ。前年に松田殿が持って来た話を家臣達と何度も評定を重ねた結果じゃが、今のままではお断りさせていただく!
松田殿が上野国か武蔵国を半国征圧出来たなら、再び話を持って来てくれ!此度の話を聞かなかった事にしておくので!」じゃと、おのれ〜!田舎の小さな領地しかない者が偉そうに言いおって!
儂が北条家の実権を握ったら、下野国を一国丸々くれてやると言うのに!これだから野心の無い田舎者は!」
文を読み終えた松田は、協力をお断りする文の内容に怒り心頭だった。しかし、松田に届く悲報はこれで終わりではなかった
天正二十年(1592年)八月五日
武蔵国 某所
「殿!前年にお話した結城様からの文です」
「宇都宮が駄目だった以上、結城殿は立ち上がってくれる事を祈ろう!また、部屋に近づけるでないぞ」
「ははっ!」
宇都宮家からのお断りの文から6日後、松田の元に、下総国の結城家からの文が届く。前回同様、松田は人が近づかない様、命令して、部屋の中で文を読み出す
「頼むぞ!どれ。「松田殿へ。結城七郎じゃ。前年に松田殿が持って来た話を家臣達と何度も評定を開いて検討したが、「今の」松田殿に協力は出来ぬ!と言う結論になった
もしも、松田殿が一国、いや、一国相当の領地を持っていたならば、協力したが、そうではない松田殿に協力は出来ぬ。申し訳ない
そこで、儂の様な年寄りから一言言わせてもらうが、謀反など考えずに、そのまま北条家に仕えたら良いではないかと思うぞ?とりあえず、
結城家は協力出来ぬ!」じゃと〜!おのれ!結城もか!しかも、宇都宮と同じ「せめて半国の領地を持て」と言いおって!
儂の領地はお主達よりも広大なのじゃぞ!それを、小さな領地で満足しておる田舎侍が偉そうに!」
結城家からの文もお断りだった事に、松田は怒り狂い、部屋の中で暴れ回った。そして冷静になると
「半国を領有しておれば、協力すると言うのであれば、領有してやろうではないか!狙うのであれば、上野国の北部と、武蔵国の八王子城を中心とした一帯
この二つを征圧し、領地としたら、宇都宮と結城に攻め込み、従わせて小田原城へ出陣じゃ!
最早、遠慮などせん!決行は長月じゃ!その頃は八王子城の城主の北条源三も動けまい!子が産まれても、城と領地を失ってしまえ!はっはっは!はっはっは!」
宇都宮弥三郎と結城七郎に指摘された、「お前の領地が少ないからムリ」を解消する為に、源三の領地と上野国北部を奪う計画を立て、長月に実行すると決断した
当然、この謀反に六三郎も巻き込まれる事は確定している。