作品タイトル不明
己の出生を疑う若武者へかける言葉
信長が大広間に座り直して程なく、興奮状態の虎夜叉丸が大広間にやって来た。虎夜叉丸は信長の存在にも気づかず、勝家の元へ行き
「大殿!お答えしていただきたい事がございます!」
勝家に質問があると言う。言われた勝家は
「虎夜叉丸よ。それは、右府様が居られる、この場でないと駄目な話か?」
「大殿が居ない場所の方が良くないか?」と、遠回しに聞くが、虎夜叉丸は
「はい!もしも、右府様がお答え出来るのであれば、お答えしていただきたく!」
「右府様が答えられるなら、答えて欲しい」と勝家に伝える。虎夜叉丸の言葉を聞いた信長は
「良かろう!虎夜叉丸よ!権六以外が答えてもよいと申すならば、儂も答えてやろう!」
「自分も答えてやる」と話す。信長の言葉の直後、
「虎夜叉丸!待たんか!」
「大殿!奥方様!申し訳ありませぬ!」
「兄上!やめてください!」
勘十郎、雪乃、伊吹の3人が大広間に到着する。3人に対して虎夜叉丸は
「拙者は右府様と大殿にお答えいただきたい!三人は黙っていてくだされ!」
と、思わず冷たい言葉が出る。虎夜叉丸の圧に負けた3人は、口をつぐむ。3人が静かになった事を確認した虎夜叉丸は
「それでは右府様!大殿!お答えいただきたい事ですが、拙者の実の父親は誰なのですか?お答えをお願いします!」
大広間に居る全員が共有していた秘密の答えを求めて来た。質問に対して勝家は
「虎夜叉丸よ。何故、勘十郎が実の父ではないと思っておる?」
疑っている理由を聞くと、虎夜叉丸は
「顔です。殿と大殿のお顔を比べて見る度、やはり親子であると分かる程、ほぼ同じ顔ですが、拙者と父上は少しも似ていませぬ!妹の伊吹でも、多少は似ているのに。教えてください!拙者の実の父は誰なのですか?」
疑った理由を話し、再度、答えを求める。この状況に信長は
「のう、虎夜叉丸よ。お主、実の父が勘十郎ではないと判明した場合、どうしたいのじゃ?勘十郎も雪乃も伊吹も、まだ幼い夜叉三郎も捨てて、その父の元へ行くと申すか?答えよ」
虎夜叉丸に「実の父を知ったらどうするのか?」と聞く。聞かれた虎夜叉丸は
「拙者の父上は、浅尾勘十郎ただ一人です!ですが、もしも、実の父が居るのであれば、何故母上と拙者を捨てたのか問いただしたく!それこそ、気まぐれに母上に手を出しただけの不埒者ならば!」
興奮していたのか、良くない言葉が出そうになる。それを止めたのは
「虎夜叉丸!そこまでにしなさい!」
市だった。市から突然、止められた虎夜叉丸は
「奥方様、もしや拙者の実の父を知っているのですか?」
市に質問する。市は
「兄上、権六様。私から話してもよろしいでしょうか?」
信長と勝家に話して良いかと聞き、2人共
「「話してくれ」」と促すと、市は
「虎夜叉丸。よく聞きなさい。あなたは勘十郎が実の父ではないと疑っておりますが、、、その通りです。勘十郎は、あなたを身籠った雪乃を嫁に迎えて、あなたを育てて、その後伊吹と夜叉三郎が産まれたのです」
勘十郎が実の父ではない事を伝える。伝えられた虎夜叉丸は
「やはり。では、奥方様!拙者の実の父は誰なのか教えていただきたく!今も何処かに生きているのであれば、拙者を身籠った母上を捨てた理由を」
実の父に雪乃を捨てた理由を聞くと言うが、市から
「あなたの実の父は、もうこの世に居ません。あなたが産まれた年に戦で亡くなりました」
明確に名前は出さないが、実の父が既に死んでいる事をを伝えられる。それを聞いた虎夜叉丸は
「奥方様。もしや、拙者の実の父の名前や為人を知っているのですか?そうであれば、教えていただきたく!」
市に、実の父がなんという名前で、どんな人物だったのか教えてくれと食い下がる。そんな虎夜叉丸に市は
「分かりました。全てを話しましょう。虎夜叉丸、あなたの実の父の名は、浅井備前守長政公です。あなたが産まれる年まで、北近江を治めていた大名です
そして、あなたは長政様が雪乃を捨てた。と、思っている様ですが、それは違うと断言します!何故なら長政様の文の中に、これは口で説明するよりも文を見せた方が早いでしょう。勘十郎、例の文を見せてあげてください」
「は、ははっ!」
市に言われた勘十郎は、部屋に文を取りに行き、持ってくると、虎夜叉丸の側へ行き
「虎夜叉丸。お主の実の父の思いは、この文の中にある。ちゃんと読み、雪乃を捨てたわけではない事を理解せよ」
そう言って、文を渡してから、後ろへ下がる。虎夜叉丸は文を隅から隅まで読み、しばらくすると
「右府様、大殿、奥方様。生意気な口を聞いて申し訳ありません」
憑き物が取れた様な顔でスッキリしていた。その様子に、信長は
「ほう。実の父を許せたか?」
そう質問する。虎夜叉丸は
「はい。実の父、浅井備前守長政は母上の事を愛していた事と、死んだ後でも拙者の事を気にかけていたのだと分かりました。改めて、素晴らしい二人の父上が居る事、とても嬉しく思います」
そう話すと、勘十郎、雪乃、そして市までもが泣いていた。その状況で信長は
「それ程までに、義弟の思いを汲む事が出来たのであれば、虎夜叉丸よ。来年にでも元服して、浅井家を再興させるか?」
元服と浅井家再興の話を出す。その話に対して虎夜叉丸は
「それは、父上達から離れよとの事ですか?」
家族から離されると思った様だが、信長は
「いや、お主達は家族全員で暮らすべきじゃ。離れ離れにはさせぬ。そこは約束しよう!」
離れ離れにはしないと宣言する。これに虎夜叉丸は
「ありがとうございます」
と、頭を下げる。そして信長は
「うむ。それで虎夜叉丸よ、流石に今すぐに浅井家を再興させて、織田家の直臣にすると色々と面倒くさくなる可能性が高い。
じゃが、儂としては浅井家の生き残りのお主を許して、浅井家を再興させた。と喧伝したい。これはひとえに織田家に敵対した家でも、その生き残りが織田家に反抗しなければ、
極端に言えば、子や孫を親の罪で殺さぬ。と、知らしめて、戦の被害を出来る限り少なく出来るという、儂の考えじゃ」
自分の考えを伝えると、虎夜叉丸が
「拙者が浅井家を再興する事をが、右府様のお考えの一例になるのですね?」
と、早い理解を示す。信長は
「流石に理解が早いな。改めてじゃが、虎夜叉丸よ、お主の実の父は、これから浅井家を大きくしようとしていたが、周りの者達が古い考えのままだったので、
邪魔され、最終的に織田家との戦になった。そんな中でも、お主と雪乃の身を案じておる。そして、勘十郎はそんなお主を我が子として育てた
虎夜叉丸よ。二人も立派な父親が居て、お主は幸せ者じゃ!そして、勘十郎と雪乃、虎夜叉丸を素晴らしい若武者に育てあげた、お主達も素晴らしき親じゃ!
だからこそ、この話は終わりとする!良いな?」
「「「ははっ!」」」
信長は何とか話をまとめて、虎夜叉丸も勘十郎も雪乃も、全員が納得したので、この話を終わらせた。
そして、
「それでは、儂達は帰るとしよう!権六と利兵衛、六三郎に言われた様に身体に気をつけよ!」
「「ははっ!」」
勝家と利兵衛に一声かけて、そのまま安土城へ帰って行った。