作品タイトル不明
父と母と傅役は朗報に歓喜するも、その後に問題が
天正十七年(1589年)八月二十五日
因幡国 柴田家屋敷
「権六、市!先触れを出していたとは言え、いきなり来て済まぬな!」
六三郎の報告の文が届いてから、3週間後。早く勝家と市に伝えたかった信長は既に因幡国の柴田家屋敷に到着していた
「いえ、しかし、大殿と帰蝶様が共に来るなど滅多に無いと思うのですが、何か起きたのですか?」
「うむ!睦月に伝えておった、道乃の懐妊でな!水無月に子が産まれたと文が届いたぞ!権六と市に届けてくれと言う文が届けられたのでな!この文じゃ!読んでみよ!」
信長はそう言いながら、勝家に文を渡す。その文を勝家が読み出す
「では。「父上と母上、そして利兵衛へ。大殿と殿へ、甲斐国の進捗状況を報告した文を届けたついでですが、この文を書いた次第にございます
この文を父上達の元へ届けた方から、既に聞いていると思いますが、水無月に道乃が元気な嫡男を産んでくれました。道乃も息子も健やかに過ごしております
顔を見せてやれなくて、申し訳ないですが、もうしばらくは甲斐国でのお役目に励みますので、孫の顔を楽しみにお待ちくだされ
そして、利兵衛。お主の曾孫が産まれたのじゃ!長生きせんと許さんぞ。そして、父上も身体に気をつけて長生きしてくだされ、最期に母上へ、虎次郎殿は、
元服前の現在でも、武田家当主として立派に振る舞っております。もしかしたら、江を嫁がせる日は予定より早くなるかもしれませんので、心の準備をしておいてくだされ」と、書いてありますが、あ奴め、
親になって間もないくせに、偉そうに言いおって。全く、しかし、思ったよりも早いというか、やっとと言うか」
勝家がそう読み終えると、信長は
「権六よ、なんだかんだと言いながら、笑顔になっておるぞ?」
勝家が笑顔になっている事を指摘すると、市が
「兄上、それは言わないでください。権六様と私にとって初孫なのですから!笑顔になって当然です」
信長に軽く注意する。注意された信長は
「はっはっは!済まぬな!だが、儂も初孫の竹千代が産まれた時は、同じ様な感じであったから、気持ちは分かるぞ。そして、利兵衛
曾孫の誕生に咽び泣いている所、済まぬが、此処から話す内容は、お主にも意見を聞きたい!そして、お主の娘の紫乃を連れて来てくれ!」
顔が涙でぐしゃぐしゃになっている利兵衛に紫乃を連れてくる様、命令する。命令を受けた利兵衛は
「は、ははっ」
すぐに立ち上がって、紫乃の元へ行き、大広間へ連れてくる。紫乃は
「私は場違いではないでしょうか?」
と、口にするが、帰蝶から
「紫乃。あなたの意見を聞きたいと、私が殿へお願いしたのです。だから、気にしないでください」
居ても問題無いと言われて、そのまま居る事にした。紫乃も納得した事で、信長は
「さて、全員揃った事で本題に入るが、実は六三郎の奴、甲斐国の復興の際、中々やっかいな頼まれ事をされた!
その頼まれ事とはな、武田信玄の次男の嫡男から、妹の嫁ぎ先として、良い男を紹介して欲しい。と頼まれた」
そう説明すると、勝家は
「お、お待ちを!大殿、今の話は誠ですか?」
慌てながら、信長に質問する。信長は
「誠じゃ。権六に渡した文とは違う文の中に書いてあった。基本的には六三郎に任せるつもりじゃが、
六三郎の奴は、儂と勘九郎に対して「自分ではどうしようもない場合は、よろしく頼む」と言っておる
それに、権六の焦る理由は、甲斐武田家の姫だからであろう?」
勝家の焦りの理由を指摘しながら、細かい内容を話す。話し終えると
「それでじゃ!もしも、六三郎が件の姫の婿探しに難航した場合、儂としては、権六の次男の京六郎か、六三郎の義弟の新三郎に嫁がせた方が早いと思っておる
京六郎の親である権六と市、新三郎の親の紫乃と祖父の利兵衛!お主達は、どう思うかを聞かせて欲しい!
分家の様な立場であれど、武家の名門、甲斐源氏武田家の姫じゃからな。どうせならば、一門にあたる家臣の息子に嫁がせた方が良いと思っておる」
自身の考えを話す。信長の考えを聞いた勝家は
「大殿、失礼ながら、六三郎の陣頭指揮の中に居る武家の息子の中に、その姫の嫁ぎ先に適した家格は無いのですか?」
「近場に良い男は居ないのですか?」と、質問するが、信長は
「居ないわけではない。それこそ、嫁ぎ先の筆頭候補として、徳川家の次男の於義伊が居る。他にも、現在の家格を無視した場合で申すならば
南北朝時代に、その勇名を轟かせた新田義貞公と、楠木正成公の子孫も居る。
現在は一族郎党を養う事に必死じゃが、領地などに関しては、織田家に臣従するのであればどうとでもなるからのう
そこでじゃ!お主達それぞれの意見を聞かせよ!
於義伊と義勝と正勝が候補だと説明すると、勝家は
「大殿。恐れながら、京六郎は六三郎と違い、普通の男児です。分家と言えど、武田家の姫を嫁に迎える器量があるとは」
「京六郎は普通の男児だから無理です」と伝えて、
利兵衛も
「右府様。新三郎も、今だに領地がありませぬ。その様な新三郎に武田家の姫を嫁がせるのは」
「新三郎には領地が無いから無理です」と伝える
双方な意見を聞いた信長は
「権六、六三郎が常識外れなだけで、京六郎が普通でも良いのじゃ。そもそも兄弟で比較してどうする?」
と、伝え、利兵衛にも
「利兵衛、新三郎の領地に関しては、そろそろ独立させても良いと儂は思っておるが、そこも含めて、嫁入り先になるかもしれぬ。くらいには考えてくれ」
新三郎のこれからの予定を伝える。それでも2人共
「「そうなるかもしれないくらいに考えておきます」」
と、信長に伝える。信長もそれに納得した様で
「今はそれで良い。それでは、儂達は帰るとしよう」
と、伝えて、立ちあがろうとすると
「待ちなさい虎夜叉丸!」
「待て!虎夜叉丸!」
「兄上!お待ちください!」
浅尾家の面々の声が聞こえて来た。物々しい雰囲気を感じた信長は
「権六、市。何やら問題が起きた様じゃな。解決する為に、帰るのは少しばかり先にするとしよう」
帰るのをやめて、再び大広間に腰を落とした。