作品タイトル不明
選別突破者にあの武将の子達が
天正十五年(1587年)五月五日
甲斐国 躑躅ヶ崎館
「六三郎殿。直臣の皆は勿論、陪臣、陪陪臣にも選別用に小さな岩の板を作らせてみましたが、やはり上手い者、下手な者、それぞれの個性が出ておりますな」
皆さんおはようございます。甲斐国の復興作業の為に、コンクリート製作オーディションの審査員をやっております柴田六三郎です
虎次郎くんがオーディション参加者の作品を見て、「個性的」と言葉を選んでおりますが、皆さん、課題は同じ「川に設置しやすい形」なのに、ハーフパイプの形にならない人も居ます
「虎次郎様。確かにそれぞれの個性が出ておりますが、それでも、やはり上手く作れた方も居ますので、その方々を中心に、6人1組くらいで配置しても良いと思います」
「ふむ。五郎叔父上、典厩叔父上。今のところ六人一組を何組作れるでしょうか?」
虎次郎くんが、五郎さんと典厩様に何組作れるかを聞いておりますと、五郎さんは
「虎次郎様、現在のところですと、十組が最大限ですな」
10組、つまり60人が上手くコンクリート製ハーフパイプを作れると言うが、少なすぎないか?と思うけど、
およそ2年の間に、右も左も分からない状態からスタートした事を考えたら、充分すぎるか
俺がそう考えていると、典厩様が
「六十人しか上手く作れないと考えるべきか、それとも六十人も上手く作れると考えるべきか。
もっと増やしたいが、六三郎殿。最初はこれでも良いと納得するしかないですかな?」
俺と同じ様な事を口にする。とりあえずフォローとして
「典厩様。最初の六十人と考えたら、充分としましょう。これから上手く作れる者を増やしていけたら良いのですから」
そう伝えたら
「そう思えば、少しは納得出来ますな」
何とか納得してくれました。そこに虎次郎くんか、
「それでは、昼飯後に件の六十人を集めて、選別を勝ち抜いた事を伝えますので、それまでは石灰を始めとした材料を作りましょう」
「「「ははっ!」」」
午前中は仕事をして、昼飯後にオーディション合格者を集めて発表しようと言われたので、一旦解散です
で、仕事を終えて、昼飯も食い終えましたら
「さて!先ずは面を上げよ!皆、よくぞ集まってくれた!周りの者の顔を見て、
殆どが初対面であろうが、挨拶や自己紹介はあとにしてくれ!皆にこれから発表すべき事がある!」
虎次郎くんの挨拶を聞いて、集まっていた60人が顔を上げる。勿論60人は何故、集められたか分かっていないので、虎次郎くんは
「前置き無しに話すが、皆を始めとした家中の者達全員に岩の板の試作品を作らせたが、現在のところ、
集まってもらった皆、総勢六十人の試作品が上出来であった!そこでじゃ、皆を六人一組に振り分けて、それぞれの地域に配置し、
その地で岩の板を作る事を命ずる!勿論、皆に続き上出来な岩の板を作れる者が増えたら、更に設置出来る地域が増える!
集まってくれた皆には、泥かぶれに罹る者を甲斐国から、一人でも減らす為の先陣を切ってもらいたい!」
集まった60人に対して、集まった理由と、これからの役目を伝える。それを聞いた60人の中には
「お館様!拙者は陪臣ですが、その様な大役を任せていただけるのですか?」
と、質問したり
「拙者は陪臣どころか、陪陪臣です。その様な立場が下である拙者が、それ程重要なお役目を」
と、涙ながらに喜んでいる人も居ます
殆どがそんな感じでしたが、虎次郎くんは
「儂は皆の主君に対して、「家中の立場や年齢は問わない」と宣言した!だからこそ、何も気にせず、岩の板の製作に専念してもらいたい!
これは、甲斐国を人間が暮らしやすい国にする為の壮大な計画じゃ!皆は、その先陣を切ってくれ!」
そう言って、皆さんのやる気を盛り上げる。その言葉に、60人の皆さんは
「最早、栄達など無理だと諦めていたのに、この様な機会が来るとは」
「武功を挙げた事の無い拙者が、武田家のお役に立てる日が遂に来た」
「戦以外でも、お役目をいただけて感無量です」
と、喜びの涙が出ている人が殆どです。そんな中で、3人の兄弟らしき若者達の長男っぽい人から
「お館様!ひとつ、お聞きしたい事がございますが、よろしいでしょうか?」
質問が飛んで来ましたが、虎次郎くんは
「何じゃ?申してみよ」
とりあえず聞いてみると、
「ははっ!此度の岩の板の製作で、甲斐国から泥かぶれに罹る者が出来る限り減りましたら、我々秋山家も、亡き父上の頃の様に、出陣をお許しをいただきたく存じます!」
「秋山家」なんて名前が出て来ました。秋山?秋山って、俺の初陣の時の、武田家総大将だった、あの秋山さん?そうだとしたら、
あの3人は、秋山さんの遺児って事になるな。とりあえず、俺は黙っておこう。なんて甘い事を思っていたら、虎次郎くんは
「六三郎殿。六三郎殿から見て、あの三人は出陣させても良いと思いますか?」
と、俺に話をふってきた。そしたら、質問した長男っぽい若者が
「殿!今、そちらの方を六三郎殿と仰っておりましたが、もしや、そちらの方は柴田六三郎殿なのですか?」
俺の事を聞いて来た。虎次郎くんは
「そうじゃが、何かあるのか?」
と、聞くと、
「大有りです!その者のせいで、父上は「元服前の童に負けた戦下手」と家中の者達から蔑まれ、その結果、ご先代様の頃に出陣した戦では、再び立場を取り戻そうと躍起になり、それで、それで!
それだけでは有りませぬ!父上が汚名返上を果たす事なく討死した事に、母上は心を病み、自ら命を絶ったのです!その様な因縁ある者達と共に働くなど!」
俺との因縁を話して、大広間を出ようとするけど、
「誰が出て良いと許可した!!座らんか!」
虎次郎くんが大声で止めるが、
「失礼させていただく!」
と言って、1人出て行った、そこで
「「兄上が申し訳ありませぬ」」
弟2人が平伏して謝罪して来たけど、これは前途多難なスタートだな。