軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

追い詰めて驚かせてから本番

天正十二年(1584年)四月二日

信濃国 高遠城

「貴様が穴山彦六郎か?」

「はい。織田内府様を始めとした皆々様の御尊顔を拝謁し、恐悦至極にございます」

六三郎達が恵林寺一帯に布陣した翌日、信長の元に穴山達が到着した。大広間の上座に座った信長は隣に家康を、上座に近い下座に信忠と信孝を左右に座らせていた

少し開けて、織田家と徳川家の家臣達が穴山達五十人を取り囲む形で、下座と大広間の最後尾に座っている。信房は参加したいと懇願したが、勝姫の側に居てくれと

止められたので、大広間には居ない。穴山はそんな事も気にせずに

「織田内府様。此度、織田家と徳川家による武田家への」

信長へ降伏宣言をしようとしたが、信長から

「おい!穴山!」

「は、はい」

怒声で止められ、名前を呼ばれると情けない声を出す。それに信長は内心

(何という小者か。元服前の六三郎ですら、儂や二郎三郎の前で一歩も引かずに渡り合ったというのに。これが親に甘やかされ、自身が武田の当主の甥や孫だからとつけあがり

その結果、当主の四郎勝頼を誅殺して、自身の子を当主に据えるという愚行を実行するという、権力に溺れた愚か者の成れの果てという訳か。

勘九郎と松には嫡男の三法師を甘やかすなと釘を刺しておこう)

と思い、家康も

(知恵者気取りの小者の愚か者じゃな。こんな愚か者に誅殺された四郎勝頼が不憫でならぬ。しかも母親の出自の差と兄達か死んだ結果の家督相続などという、本人ではどうしようない事で殺されてしまうとは

名将と呼ばれた信玄坊主ですら、身内には甘かったという事か。しかし、この穴山を見たら、十二年前に儂に対して「武田が徳川様の思惑に馬鹿正直に付き合ってくれるとお思いですか?」と言い切った

六三郎の方が肝が座っておる。戦が終わったら、三郎と徳には嫡男の竹千代と二男の竹二郎を甘やかすなと釘を刺しておくか)

内心で穴山をバカにしつつ、勝頼に同情して、六三郎を過大評価していた

そんな事を思いながら、穴山に対して信長は

「貴様。言葉だけで降伏を認めろと申すのか?」

怒声で遠回しに勝頼の首を見せる様、要求する。それに気づいた穴山は

「も、申し訳ありませぬ!こちらが、お館様の首でございます」

桐の箱に丁寧に入れられた勝頼の首を信長の前に出す。それを見た信長は、

「穴山。四郎勝頼のこれまでの働きを評して、首は織田家で供養するから、貰いうけるぞ!良いな?」

「ははっ!きっとお館様も喜ばれると思いますので、お願いします」

と、心にも無い言葉を言ったが、内心は

(そんな諏訪四郎の首なぞ、そこら辺に捨ておけばよいものを!何が供養じゃ!要らぬ事を!いかんいかん。勝之助が家督を継ぐ事を認めてもらうまでは、我慢じゃ!)

信長の言動を苦々しく思っていた。そんな穴山に対して信長は、

「四郎勝頼の首は貰いうけた。そして穴山よ、お主は事前の文において、倅に武田の家名を継がせて、武田家を存続させて欲しい。と言っておったな?」

穴山へ家督の話を出す。すると穴山は

「は、はい。お館様の嫡男の勝太郎様は奥方様と共に出奔してしまいまして、行方知れずなのです。その様な状況でも、甲斐源氏武田家を存続させないといけませぬ!

なので、拙者の嫡男であり、信玄公の孫でもある勝之助を武田家当主と認めていただきたく!」

「絶対に家名存続させないといけないから認めろ!」とオブラートに包んだ上から目線で頼んできた。しかし信長は

「のう、穴山?儂の家臣の倅の元には、武田を出奔した者達が多く居る。そして、その者達全員が、「武田の家督相続の際、

お館様と呼ばれる当主から後継者へ渡す「御旗」と「楯無」と言う家宝があるかと聞いておるが、

貴様、儂に対して「倅に武田の家督を相続させろ」と言っておきながら、歴代武田の当主が行なってきたしきたりを無視するつもりとは、儂を舐めておるのか?」

低い声で穴山を問い詰める。問い詰められた穴山は言葉も出ず、冷や汗が止まらない状態になっていた。その様子を見ていた信長は

(六三郎どころか、源太郎にも劣る!こんな小者な愚か者を「父親が重臣だったから」、「自身の身内が嫁いだから」と言って、重臣に据えた結果、四郎勝頼が誅殺されたのじゃから、信玄坊主の甘さが招いた結果じゃな)

内心で穴山に低評価を下した。そして、穴山が言葉に詰まっているのを見て、

「穴山。少しばかり、話を変えるが、お主から見て、今から見せる幼子に対する言葉を聞きたい。虎次郎を連れて来い!」

信長は虎次郎を見せて、穴山の反応を伺った。そして、虎次郎が連れて来られて、信長と穴山達の中間に座り、

「織田内府様に養育されております虎次郎と申します」と名前だけの自己紹介をした。それを見た穴山は

「いやあ、利発そうな幼子ですな。元服したらきっと、何処かしらの家の当主になれるでしょう。間違いなく。そして、虎次郎君の父親も、名君なのでしょうなあ」

と、これまでの事を挽回するかの様に、ゴマすりとおべっかを使った。それを聞いた信長は

「そうか、虎次郎に「父親の家督を継がせても」問題ないと言っておるのじゃな?」

家督を継がせる事を強調して、穴山に質問する

「はい!どれ程の大きさの領地を家督と同時に継ぐかは分かりませぬが、きっと名君になるでしょう」

穴山は、信長が御旗と楯無の事を忘れたと思い、明瞭に喋る。しかし信長は

「ほう。そこまで申すか。では穴山よ、先程の虎次郎の家督相続を邪魔する者達、それこそ、自身や自身の倅が当主の座に相応しいと思っておる輩が、

虎次郎の周りに居るのじゃが、その者達は全員殺した方が良いと思うか?」

遠回しに穴山達の事を指した質問をするが、穴山は

「その様な危ない者達は一日も早く殺すべきです!虎次郎君の為に!」

気づかずに全力のゴマすりを続けた。その言葉を聞いた信長は、

「そうか。その言葉を聞きたかったのじゃ。虎次郎、もう戻って良いぞ」

虎次郎を部屋の外に出す。侍女の手に引かれる虎次郎に信長は、

「虎次郎!この者達も、お主の家督相続を認めるそうじゃ!これで武田家当主は虎次郎に決まったぞ!」

大声でそう言うと虎次郎の前の襖が閉まり、穴山は

「は?え?内府様?」

驚きでパニックになっていた。その隙に

スパーン!と虎次郎の居た側と反対の襖が開き、

「穴山!!覚悟!」

「お館様を殺した罪、死んで詫びよ!」

「全員此処で殺してくれる!」

「お館様の無念、思い知るがいい!」

「「「「死ねえ!」」」」

五郎達が隣の部屋から一斉に雪崩れ込む。穴山達は誰も武器を持っていない為、1人、また1人と討ち取られていく。そして、

「がはっ!」

「勝之助!」

穴山の嫡男も討ち取られ、

「ぐふっ!」

残った穴山も

「兄上の敵!」

五郎に袈裟斬りに斬られ、倒れたが、

「な、何故。お、お主、達、が、生き、て」

言葉も絶え絶えながら質問する。それに五郎か答える

「全ては、お館様を、四郎兄上を殺したお主達を討ち取る為の策じゃ!そして、先にお主達に挨拶した幼子こそ、四郎兄上と側室の間に産まれた、甲斐源氏武田家の正統な後継者じゃ!」

「そ、そ、そん、な」

意識の薄れゆく穴山に信長は

「穴山よ。四郎勝頼はな、五年前の時点で自身がお主に殺される事を予見しておった。だからこそ、虎次郎を逃し、五郎を当主名代に指名し、御旗と楯無を

家臣によって、外に持ち出す命令を出した。全ては奪われる命は自分だけで良いという、命懸けの策じゃ!

お主の様な者には分かるまい。殺されて尚、家族を、家臣を、そして民を慮る事こそ当主に必要なのじゃ!」

話かけたが、既に息絶えていた。それを確認した信長は、

「これにて、穴山討伐を終了とする!」

「「「「ははっ!」」」」

穴山討伐の終了を宣言して、

「さあて、甲斐国に行こうではないか!」

一部の者を高遠城に残して、甲斐国へ歩みを進めた。