作品タイトル不明
キャパオーバーなお役目
天正四年(1576年)十月十二日
山城国 本能寺にて
「織田殿!今日も来たぞ!今日は酒も持って来たから、酒の肴におすすめの物を六三郎殿にお願いしたい。
そして、その作り方を儂の家人に教えてくだされ」
皆さんおはようございます。朝から酒飲みな有力者の公家の近衛様に「酒のツマミを作ってくれ!それから、作り方を家の者に教えてね!」と
軽やかに言われております。柴田六三郎です。あの、推定で朝の9時ですよ?そんな時間から酒を飲むのもどうかと思いますが、それ以上に、
貴方、朝廷でかなりの立場がある人ですよね!?そんな人が朝も早くから酒飲んでて、政治は大丈夫なんですか?
俺の考えが分かったのか、殿は近衛様に
「近衛殿。主上の補佐は良いのですか?まだ、朝も早いのに」
「それならば大丈夫じゃ。昨日、屋敷に戻ってから全ての仕事を終えて来たのじゃからな。大量の書類を見た主上は驚いておりました。「いつもは焦らすに仕事をする近衛が、何故此度は早いのか?」と、
それで、昨日の美味なパオンを食べた話をしたら、
「朕も食べたい」と仰っておりましてな。本願寺との会食の後に、お願い出来ますかな?」
「それは良い事ですな。六三郎!そう言う事じゃ。明日、は難しいであろうから、明後日、内裏に行き、主上にパオンを始めとした、いくつかの料理をお出しせよ!」
殿?話が進んでますけど、主上って天皇陛下の事ですよね?そして、内裏って天皇陛下の住居か職場みたいな場所ですよね?俺みたいな官位も無い、元服したとはいえ年齢的にはまだまだ子供な人間が内裏に入るのも色々問題だと思うのですが?
「六三郎!安心せい。内裏の台所は、この本能寺よりも竈門が多い!それならば、多くの料理を早く作れるであろう」
殿!問題はそこじゃないです!ダメだ、これは言わないと
「あの、殿。近衛様。拙者の様な官位も何もない若造が内裏に入る事も、主上に料理をお出しする事も失礼にあたるのではないのでしょうか?」
「なんじゃ、六三郎。その様な事を心配しておったのか?近衛殿。当然、対策済みですな?」
「それは勿論。主上からこの様に勅許をいただいております。それに、内裏内の料理人達にも手伝う様に、
同じく勅許を出しておりますので、六三郎殿!心配ご無用ですぞ」
終わった。外堀を知らない間に埋められていた。もう分かったよ!腹を括ればいいんだろ!気にいるかどうかは知らないぞ!
「伝えないといけない事も伝えたので、六三郎殿。酒の肴を頼みますぞ」
この酒飲み公家め。一応、何か希望はあるか聞いておこう
「近衛様。昨日の栗の様に、ご希望はありますか?」
「そうじゃな。食べやすい物で酒が進む肴を食ってみたいのう。それを一皿全て食べても身体に良さそうな物が」
近衛様の希望は身体に優しいツマミでした。そんなの枝豆の塩茹で一択じゃないか。ただ、この時代に枝豆なんて存在してるのか?
この時代だと、枝豆の最終形の大豆の方が、使い道は多いから重宝されてる様だけど、おや?
枝豆かもしれない物を見つけましたよ。殿に確認だ
「殿。こちらの青々とした物はもしや?」
「それは、収穫時期を間違えた大豆じゃ。本来なら茶色になるまで放置するのを、誤って数日前に収穫したのじゃが、まさかそれを使うと申すのか?」
「はい。これならば、身体に良い酒の肴になるでしょう」
「それは楽しみじゃ。六三郎殿。家人達が覚えられる様に教えてあげてくだされ」
と、言う事で近衛様の家人さん達を連れて竈門の場所へ。まあ、火の扱いに気をつけてくれれば、誰でも出来るし、とりあえず完成品を食べさせてみたらいいか
「では、始めます。まず、この青い大豆を鞘に入ったまま、水で簡単に洗います。そして洗った鞘入りの大豆をお湯に入れます。
大豆が浸るくらいの量で構いませぬ。そこから、しばらく待ちます」
「下準備は料理が得意でない者でも出来そうですな」
「むしろ、ご主人様でも出来るのでは?」
皆さん、気づきましたね。そうです、誰でも出来る酒のツマミなんです。で、良い湯で時間になりましたので、
「では、大豆をお湯から取り出します。取り出した大豆を、ザルの上に置きまして」
「ここからどの様に、料理されるのですか?」
すいません。今からやるのは、派手な作業じゃないんです
「置いた大豆に塩を全体的に振りかけまして」
「振りかけた次は何を?」
「これで完成です」
「「「え?」」」
うん。予想通りのリアクションですね。ですが、食べたら納得する美味さなんですよ
「一度、騙されたと思って食べてみてくだされ。酒に間違いなく合いますから」
「分かりました。どの様に食べたら良いでしょうか?」
「鞘を口につけて、中の大豆を指で押し出しながら食べてくだされ」
「で、では」
恐る恐る家人の皆さんが枝豆を口にする。食べ終えて、
「美味い。塩をかけただけの簡素な味付けなのに、なんとも不思議じゃ」
「それに、獣肉と違い、少々多めに食べてもご主人様の希望どおり身体に優しいじゃろう。
そして何より、我々でも作れる程、料理手順が簡単じゃ」
「では、殿と近衛様にお出しする為の大豆を作りましょう」
と、改めて枝豆を茹でて、塩をかけて
「近衛様。こちらがご希望の酒の肴です」
「おお。見た目は簡素じゃが、家人達の顔を見るに、美味であったのじゃろうな。六三郎殿、これはどの様に食べたら良いのですかな?」
「こちらは鞘を手に取り、口の近くに持っていきまして、指で中の豆を押し出して食べてくださいませ」
「どれどれ」
近衛様はそう言いながら、枝豆を食べ始めた
「こ、これは!美味い!二つ三つほど食べた後に酒を飲むと、うむ!やはり美味い!酒か進む肴であると同時に、
野菜であるから、身体に良いのじゃろうな。美味い!」
近衛様は気に入った様だな。やっぱり塩茹での枝豆はどの時代でも酒のツマミとして通用するんだなと実感
で、近衛様は
「お主達。ちゃんと六三郎殿の作り方は見て覚えたか?」
「「はい!」」
「うむ。ならば、後日作らせるから、忘れるでないぞ」
「「ははっ」」
どうやら、枝豆に満足した様で、食べながら飲むをちびちびとやっております。これで、明日の準備に取り掛かれるな
と思っていたら、
「近衛様!」
後ろから声が聞こえたから振り向くと、綺麗な身なりのイケメンが来た
「おお。貴殿は内裏に勤めておる」
「私の事よりも、近衛様へ主上が渡す様にと勅許を」
「近衛殿。儂達は席を外そうか」
「いえ。織田様も共に見てくださいませ。主上はそう御希望しております」
「主上が織田殿にもとな。ならば、織田殿」
「うむ。読ませていただく」
で、2人が読みすすめていくうちに、
「ふっふっふ。織田殿。随分と舐められたものですな」
「くっくっく。ここまで世間知らずの世迷言を言う為に、主上を使うとはなんとも不敬。じゃが、いい機会じゃ。正しく好機」
どちらも悪い顔になっています。聞くのが怖いので、俺はスルーしたいのですが、明智様が
「殿。近衛様。主上はどの様な内容の勅許を?」
「十兵衛。主上は明日の本願寺との会食を御自身の前でやる様に仰っておる」
「そ、それはつまり」
「「主上の前で料理で戦え!」と、本願寺側からの宣戦布告という事じゃ!」
嘘だろ!!俺は少しだけとはいえ、作る事が確定しているのに、そんな重い事に参加したくないのですが!
神様はどうやら、俺に休むなと言っている様です。