軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

長篠城攻防戦は終わっておらず

天正三年(1575年)五月十七日

三河国 長篠城内にて

「はっ!?しまった!寝過ぎた!早く準備をせねば!」

慌てている声の主は鳥居強右衛門。武田軍一万五千に包囲された長篠城から岡崎城へ60キロもの道を走り、時には泳ぎ、援軍要請の密書を渡すという大役を成し遂げだだけでなく、

城へ援軍が来る事を伝える為に、再び武田の包囲を掻い潜り生きて主君の奥平定能の元に戻って来た、一部では「伝令の神」扱いされている奥平家の足軽である

そんな強右衛門は、前日長篠城へ到着し、奥平定能に援軍が来る事を伝えて以降の記憶が無い。何故なら、報告をした事と生きて戻れた事の安心感で倒れて、

一日半も寝ていた。立場が足軽なので、一部の侍大将からは「足軽風情をいつまで寝かせておる!さっさと起こして働かせろ」と大仕事をやってのけた強右衛門への妬みから言われていたが、

足軽仲間を筆頭に殆どの者から、「だったらお主は同じ事をやっても、直ぐに動けるのか?そもそも、武田の包囲を逃れて、十五里もの長きを駆け抜けて、援軍要請の密書を渡した後、

再び十五里を駆け抜けて、武田の包囲を逃れて、援軍が来る事を伝えるという大役をやってから物を言え!」と言われると、何も言えずに持ち場に戻っていく流れが、

強右衛門が寝ている間に行われていた。

そんな事を知らない強右衛門は慌てて準備を始めて、部屋を出た。すると

「鳥居殿が目覚めたぞ!」

「誠か!」

「急ぎ、殿にお伝えせよ!」

「強右衛門!よくぞ無事で戻って来た!同じ足軽として、儂は嬉しい!」

部屋の前に大勢の人間が待ち構えていた。中には泣いている人も居る。そんな状態を掻き分けて、

「強右衛門!目覚めたか!」

「殿!申し訳ありませぬ!支度は完了しております。急ぎ持ち場へ向かいます」

「その事ならば心配するな」

「え?何故ですか?」

「実はな、お主が寝ている間に武田が包囲を解いて、別の場所へ動いたのじゃ」

「ま、誠ですか?」

「うむ。だからこそ、城兵の殆どが、お主の身を案じて此処に居るのじゃ」

「そ、そうだったのですか」

「お主が戻って来て、儂に報告したと思ったら気を失ったから、傷を負った状態かと思ったら、無傷だったから、とりあえず寝かせておいた。そしたら、一日半も寝ておるから、流石に心配してな」

「一日半も。そんな長い間、働かずに申し訳ありませぬ」

「いや、強右衛門よ。お主はこの城を出立してから二日間、まともに飲まず食わずだったであろう。そんな状態で、伝令の大役を見事に果たしたのじゃ。

そして武田も居なくなった。ならば一日や二日、寝ていても誰も咎めはせん。そうであろう?皆」

「そうじゃぞ強右衛門!お主は途方もない事をやってのけたじゃ」

「疲れ果てたお主を起こすなど、人の心が無い事はしたくないからな」

「これより先は、援軍の方々と武田の一大決戦じゃ!」

「儂にもその戦に参戦したいのう」

「おいおい。我々が参戦するとなると、強右衛門まで参戦する事になるぞ」

「起きたばかりの強右衛門に無理をさせてはいかんから、我々は城の修繕に取り掛かった方が良いですかな?殿」

「そうじゃな。儂は強右衛門に幾つか聞きたい事がある。済んだら皆と共に修繕に取り掛かってもらう。皆は先に取り掛かってくれ」

「「「ははっ!!!」」」

こうして強右衛門と定能以外は修繕に向かい、2人だけが部屋に残った

「改めてじゃが強右衛門よ。よくぞ無事に戻って来た」

「殿。拙者も無事に戻れた事、改めて奇跡としか思えない程の危機が、城へ狼煙を上げた後にありました」

「どの様な危機だったのじゃ?」

「城まで残り二里程の距離で狼煙を上げた後、武田の足軽達に見つかってしまったのです」

「何と!その武田の足軽達は大勢居たのか?」

「いえ、四、五名程でした」

「多くはないが、それでも飲まず食わずで走り続けた強右衛門には辛い数じゃな」

「拙者もそう思っておりました。ですか、岡崎城である方からいただいた見た事もない武器が拙者の命を救ってくれたのです」

「その、ある方とは?」

「織田家家臣の柴田様の御嫡男の柴田六三郎様からいただきました。いただく時も、ご丁寧に使い方まで教えてくださいました。ですが、使った時は、途轍もない威力でした」

「どれ程の威力だったのじゃ?」

「筒状の武器で、中に種子島から鉛玉を発射する時に使う硝石が詰まっておりまして、その硝石に火が着く様に紐がはみ出しており、

その紐につけた火が硝石につくと爆発する仕組みなのですが、紐に火をつけた状態で武田の足軽に投げて、足軽は刀で切ろうとした瞬間に爆破し、

煙が晴れたら、切ろうとした足軽は首が吹き飛び、身体は切ろうとした状態でした

「そ、それは何とも。話を聞くだけて恐ろしい。しか父が織田家家臣の柴田殿とは、あの「鬼柴田」と呼ばれる程の猛将か。そのお子からいただいた武器が強右衛門の命を救ってくれるとはなあ」

「殿。拙者は岡崎城にて、織田様から三年前に武田が美濃国で敗れた話を聞かせていただきました。今ならば、その話も納得出来ます。殿は、三年前の話はご存知でしょうか?」

「ああ。あの「流石にそれは無い」と思える話であったな。確か、武田軍三千が、兵の数でも質でも劣る、元服前の童が総大将の織田家に敗れた話じゃったな。

殿が織田様からその文を受け取り、この事を家臣の士気高揚に使え!と、此処にも文が来たが。それと、お主が助かった話が、どう繋がるのじゃ?」

「殿。話にも出た見た事もない武器をくださいました、柴田六三郎様が件の戦の総大将を務めた「元服前の童」だったのです。しかも六三郎様は、「この武器は武田を倒した戦で使った物です」と仰っておりました」

「ま、誠か?いや、岡崎から命からがら戻って来た強右衛門がホラを吹けるわけはないか。それでは」

「はい。それに織田様は、「その様な軍勢でまともに武田と戦えば、普通は全滅し、全滅しなくとも、負けた家の者は立場を問わず奴隷にされるであろう」と仰っておりました」

「確かにな。惜しいのう。その様な若武者が我々、いや、徳川家に居たら武田相手にも有利に戦えたかもしれぬのに」

「きっと、大殿も同じく思っているでしょう。それと織田様は、その六三郎様が元服前は「柴田の神童」と呼ばれていたとも仰っておりました。本人はその呼び方は勘弁してほしいと言っておりましたが」

「「柴田の神童」と呼ばれる程の才溢れる子が作り出した新たな武器か。強右衛門よ、その武器を見せてくれぬか?作り方が分かれば、我々もその武器を量産して、戦で武功を挙げられるかもしれぬからな」

「はい。六三郎様からは「火をつけて攻撃するもの」と教えられて、拙者も威力をこの目で見ている為、

厠の近くに置いて来たので、取って来ます」

「うむ。慌てずとも良いからな」

強右衛門は定能からそう言われて、厠の側に置いていた簡易ダイナマイト入りの風呂敷を見つけた。しかし、戻って来た強右衛門の顔は慌てていた

「殿!大変です」

「慌てずとも良いと言ったではないか。どうした?」

「六三郎様からいただいた武器が、一つ足りないのです。拙者は五ついただいたのですが、風呂敷の中には三つしかありませぬ」

「お主が武田の足軽に二つ使ったのではないのか?」

「いえ!拙者は一つしか使っておりませぬ!昨日、城に戻る時も中を確認してから厠の側に置いて来たのですから」

「では、誰かが?」

「誤って手に取って火を近づけたら、それこそ」

「いかん!皆の手を一旦止めて確認せねば!強右衛門、城壁の修繕をしている者達から声をかけて来てくれ!」

強右衛門と定能が慌てている時、五人の武士達が城の搦手門に集まっていた。その中の1人が、

「何故、足軽風情があれほど優遇されておるのじゃ!戦ったわけでもないのに!」

「まあまあ。その足軽風情が持っていた見た事もない珍しい物を手土産に、我々は武田へ出奔するのだから、今更足軽の事なぞ気にしても仕方あるまい「

「そうじゃぞ。武田は一万以上の大軍じゃ。岡崎の者達が来たとて武田の勝ちは揺るがぬ」

「それよりも、武田の迎えの者はまだか?」

「そろそろなのだがな」

5人は武田から調略を受けて、徳川家から寝返る決断をした裏切者だった。その中の1人に寝ていた強右衛門を起こそうとした侍大将の武士もいた。

その5人が集まって間もなく、

「貴殿らが、此度武田に出奔する者達か?」

武田の忍びが現れた

「お主が迎えの者か?」

「いかにも」

「ならば、さっさと行こうではないか」

「それは勿論だが、貴殿が持っている筒の様な物が気になるのだが、それは一体?」

「ああ、良く知らぬ。だが、岡崎城へ援軍の要請に行きながら生きて戻って来た足軽が持っていた物じゃ。何かしらの手土産になると思って、持って来た」

「そうであったか。どういう物かは、お館様の元に戻ったら調べさせてもらう。では、参ろう」

と、6人が出発しようとした時

「待てえい!」と大声が聞こえた。6人が振り向くと

「何じゃ!あの足軽風情ではないか!寝ておればよいものを!」

声の主は強右衛門だった