軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8. 待ちに待った知らせ

夜会から一ヵ月が経った。

それはつまり、ギース公爵が王宮に復帰してから一ヵ月ということだ。

そしてドルガン王がギース公爵に閨の指南を受けてから一ヵ月経ったということである。

変わったことはいくつかあった。

まず、ドルガン王とエヴァンジェリン王妃の仲はさらに深まった。

ドルガン王は自分の行為が妃たちに苦痛を強いていただけだということをようやく理解したようで、彼女たちに謝罪しギース公爵からの教えに従ったようだ。

つまりXYZボーイが成長して、AからWまで完遂できるオトナになったのだ。

バルバラもあの後何度かお務めをしたが、段違いに良くなっていた。

もちろん出血もなかったし、こっちが照れるくらい甘やかしてもらった。

ギース公爵優秀過ぎる。

また、エヴァンジェリン王妃も含めた妃たちの表情が柔らかくなった。

ぴりぴりした感じがなくなり、侍女たちが働きやすくなったと喜んでいるらしい。

というか、生活まで影響を及ぼすなんてドルガン王のベッドでのあれこれがどれだけ雑だったのか知れようというものだ。

まあドルガン王だけのせいじゃない。

これを機に、貴族から平民まで男女の神秘を深く学んでいただきたい。

国王に御子ができて、それがギース公爵の尽力と知れればそういった機運も高まるだろう。

そして一番変わったのがバルバラと実家のバスカヴィル侯爵家との関係だ。

ダーラとの接触はとんだハプニングだったが、最終的に災い転じて福になった。

というのもあの夜会の翌日、父のバスカヴィル侯爵がバルバラに面会を申し込んできたのだ。

面会の理由は分かり切っている……大方ダーラが夜会で恥をかかされたという嘘の泣き落としを信じて、生意気な 先妻の娘(バルバラ) に思い知らせようとしたのだろう。そしてついでに国王からの寵愛のおこぼれを頂戴しようというところだろうか。

実父はバルバラを未だに自分の所有物だと思い込み、恫喝すれば逆らえないと舐め切っていた。

だが今のバルバラは過去のバルバラにあらず。実家では無力な小娘だったが、今やバックに国王ご夫妻がいらっしゃる立派な虎の威を借る狐様なのである。そして泣き落としはダーラだけの専売特許ではない。

ここでバルバラが泣きついたのはエヴァンジェリン王妃だった。

実父に虐待されていたんですぅ、恐ろしくて会えませぇぇん!と泣き落としをかまして父侯爵を追い払うよう仕向けた。案の定怒れる女王エヴァンジェリンにゴミを見るような目で見られ、権力に弱いバスカヴィル侯爵は尻尾を巻いて逃げ出したらしい。

……ふっ、あっけない奴よのう。

バルバラの他力本願スキルを舐めるでないぞ。

ここで引き下がっていれば良かったのに、父侯爵と継母は今度は手紙を矢のように送ってきた。

「ダーラに謝罪しろ」

「アクセサリーの件はお前がダーラに勘違いさせたのが悪い」

「ネックレスは王妃に上手く話してダーラのためにもらい受け、屋敷に届けておけ」

「側妃になったのに実家に利益を還元しないのは親不孝だ」

「その立場をダーラに譲って戻ってこい。お前は成金商人の後妻になることが決まっている」

ある程度証拠が溜まったところで今度はドルガン王に、実家からこんな手紙が来たんです、私離婚しなきゃいけないんでしょうか……とおめめうるうるしながら差し出した。

馬鹿だねー。

王妃が出張ってきた時点でバルバラが国王夫妻のお気に入りだということにどうして気づかないのか。

特に最後の手紙はドルガン王の怒髪天を衝いたようで、すぐに議会が開かれ、バスカヴィル侯爵家は侯爵夫妻とダーラの貴族籍の抹消、そして親戚に爵位を譲ったうえでの子爵位への降格が決まった。電光石火だった。

貴族籍の抹消はやり過ぎではという意見もあったが、ドルガン王は揺るがなかった。

側妃はいわば、国王の所有物だ。

だというのにあの馬鹿父は、親なのだからという理由で既に決まっている側妃を別の娘と入れ替えようとし、さらに勝手に次の嫁ぎ先まで決めてしまったのだ。

ダーラが王妃のネックレスを自分のだと主張した件も知れ渡っているので、バスカヴィル侯爵家の人間は(バルバラ以外)皆常軌を逸している、王家の所有物を不当に侵そうとしたのだ、という罪状がすんなりと認められた。

屋敷に乗り込んだ警邏に拘束され罪状を言い渡された元父たちは、そんなつもりはなかったんです!と眠たい言い訳をしたようだが、しっかり証拠の手紙が残っているので無駄な足掻きだった。

平民用の牢に入れられた元家族はバルバラに会わせてほしいと懇願したようだが、バルバラはもちろん拒否した。

どこぞの小説では「私がこの手で決着をつけなくては!」とざまあされたクズ家族と対峙して、形ばかりの謝罪と最後っ屁のような暴言を浴びつつ、最後まで論破しようとしたり諭したり挙句物理攻撃を加えられそうになってヒーローに助けられるヒロインがいるが、バルバラはそんなストレスフルなことはしない。

嫌なこと危ないことには極力近づかず、遠くからバイバイアディオスだ。

バルバラに縋りついて減刑してもらおうと思っていた家族は面会拒否に絶望し、最後は抜け殻のようになったらしい。

十日ほどで処遇が決まってすでに自分たちのものではなくなった屋敷に戻されたと聞くが、それからの三人の消息はぱたりと途切れた。

子爵となったバスカヴィル家を継ぐ親戚は、バルバラや王家の機嫌を取るためにも元父たちを優遇するようなことはしないだろう。半分に削られた領地で平民以下の生活を強要されるか、あるいは……。

こうしてバルバラを虐げていた実父、継母、異母妹は破滅した。

元婚約者のデニスは道連れだけは免れたものの、バルバラからダーラに乗り換えたことは知れ渡っているので先は明るくない。あの夜会でのバルバラの言い回しが結構堪えているようなので、あちらから何もしてこないようならこれ以上の攻撃はしなくていいとバルバラは思っている。

そしてあってないような実家が本当になくなってしまったバルバラだったが、新たに後ろ盾になってくれたのはバスカヴィル子爵ではなくギース公爵だった。

養女の話が出た時、さすがに公爵家が実家になると後々面倒に巻き込まれそう……と思って辞退しようとしたが、話が出た時にはすでに養子縁組が済んでいた。

王様…… 報連相(ほうれんそう) って大事なんだよ?

よく分からないうちにイケオジ、しかも公爵の義父ができてしまった。とはいえギース公爵は頼りになるし、社交的で懐の広い人物だ。間違いなくドルガン王を傍で支えるのにふさわしい人物だが、ハウツー本事件のようにちょっと危なっかしい面もある。

彼の権力をしゃぶりつつ、彼がまた暴走して半隠居をしないように手綱を握るのもありかもしれないとバルバラは思い直すことにした。

そしてバルバラが側妃として嫁いでから九か月。

待ちに待った知らせが王宮を駆け巡った。

王妃エヴァンジェリンが懐妊したのだ。

診断したのはバルバラが探し出した平民の女性医師で、エヴァンジェリン王妃の体を調べるために呼んだはずが、まさかの一発妊娠診断となった。

ハッピーベイビーカモン計画大成功である。

偶然が重なっただけだが、もはやバルバラはドルガン王とエヴァンジェリン王妃に神のように崇め奉られるようになった。

王妃が夜会や茶会でバルバラのことをかなり誇張して褒めたため、バルバラの話を聞きたい、相談に乗ってほしいというご婦人から矢のような催促が届くようになった。あげく公務の手伝いのために廊下を歩いていたら、少し離れたところからバルバラを拝んでいる人まで現れるようになった。

……子宝祈願かい。

エヴァンジェリン王妃が妊娠して、また周囲の状況が少し変わった。

まずドルガン王が三人の側妃たちの寝所を訪れなくなり、用がある際は必ず従者を伴って昼間に面会するようになった。

妊娠中の王妃を慮っていることは明白だ。

そんな状況がしばらく続き、二ヵ月も経たないうちに第一側妃マリエッタが王宮を辞す旨を申し出た。

もはやドルガン王の心を得ることは叶わないと思い知ったのだろう。今のうちに離縁して実家に戻り、再婚する道を自ら選んだようだ。

「あなたのせいで、次期国王を産むという私の計画が台無しよ」

王宮を辞す前日、マリエッタ妃はバルバラをお茶に招待するなり悪態をついた。

可愛いショートケーキとローズティーのおもてなしではあまり迫力がないなとバルバラは思う。

それでもマリエッタの部屋には調度品がほとんどなくなっており、彼女が明日いなくなるという現実をまざまざと思い知った。

「このまま無事に御子が生まれれば、ドルガン様は良い降嫁先を探して下さると思いますよ」

「私にケチをつけた男に再婚を世話されるなんて嫌よ。二度目の結婚は自分で相手を見定めるわ」

あくまで強気なマリエッタに、バルバラはくすりと笑う。

「ちょっと残念です。マリエッタ様とせっかくお友達になれたのですから」

「はあ?勝手に私のお友達にならないでくれる?あんたみたいな変人なんてお断りですからね」

「一緒にお買い物したり、お菓子を食べたりしたじゃないですか。この間のチョコフォンデュ女子会、楽しかったですね」

「う、うーん……ま、まあ、私の子分くらいにはしてやってもいいけど」

やっぱりちょろいな、この人。

ていうか子分って……せめて取り巻きだろう。

「またいつでも遊びに来てくださいね、マリエッタ様」

「あんたを野放しにしてたら何するか分からないから、たまに来てあげるわよ!」

こうしてマリエッタはマーズ侯爵令嬢に戻り、王宮を辞した。

朝日に向かって後ろバイバイで去っていく彼女の背中はさすが侯爵家の姫、潔しとしばらく話題になったのだった。