軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第312話 ~先住民~

アメリアを襲撃してきた推定“胡蝶花の会”とみられる者たちのせいで、日帰りだったはずの月見家滞在が一泊することになってしまった。

月見家としても、未遂に終わったとはいえ襲撃があった以上護衛を付けずにアメリアを拠点の屋敷まで見送るわけにはいかず、そして襲撃者の調査にも人手を割く必要がある。そのため今日中に護衛を用意し屋敷まで送るのはどうしても無理だと、月見ハヅキが平身低頭で謝ってきた。

月見ハヅキの下げた頭を見るのはこれで二度目だ。

戦時中により、本家が城下町の中心地にある月見家当主の月見ヤヨイは今は城の方で生活しているらしく、本家で起きたことは全て妹であり当主代行である月見ハヅキに一任されている。なので仕方のないことではあるかもしれないが、俺に同年代の土下座を何度も見る趣味はない。

ちなみに、月見家へ泊まるという選択が浮上した際、約一名がそれをアメリアにゴリ推したせいで俺が自分の意見を言うまでもなく決まってしまったという経緯もある。

「ムフフフフ、アメリア様とっ、アメリア様とっ、お泊まりぃ~」

もちろん言うまでもなく、こんな風に酷く浮かれたモルガナイトのせいだ。

モルガナイトはうきうきと、今にもスキップを踏みそうなテンションで、昼食を食べそびれてしまったアメリアのために食事を用意しに行った。

あの様子だと、俺と夜の分はきっと用意しないと言うか、忘れているだろうな。まあ一食抜いたところでパフォーマンスが落ちるなんてことはないが、市の屋台飯を楽しみにしていただけに、目の前でご飯を食べられるのは少々辛いかもしれない。

俺は思わずため息をついてがっくりと項垂れた。

空腹もそうだが、月見家に一泊することが決まったことにもストレスを感じる。

一体誰が好き好んで自分を敵視している人の近くにいたいというのか。

元の世界にいたときの佐藤もなぜか俺を敵視していたが、教室というのは意外と広いしそもそも話すほど交流もなかったからどうにか我慢ができていた。だが、モルガナイトに関してはそうもいかない。

加えて、嫌なら関わらなければいいのに、というのは今回ばかりは通用しない。モルガナイトが気に入らないのは、俺がアメリアの近くにいることだからだ。

襲撃があった以上、アメリアから離れるわけにはいかない。ということは、アメリアにくっつきたいモルガナイトも必然的に近くにいることになる。

ああ、胃が痛い。

『おぉ、おいたわしや、主殿』

アメリアの膝の上で、夜がよよよっとわざとらしく前足で目元を拭った。

やけに人間らしい仕草だが、モルガナイトや他の人が近くにいるときは普通の猫に扮してもらっているからか、ストレスでも溜まっているのかもしれない。

「アキラ、どうかしたの?」

「……いや、なんでもない。ところで、襲撃犯についてアメリアから何か気になったことはあるか?」

「え? 相手は“胡蝶花の会”ってやつだったんじゃないの?」

わざとらしく話題を変えたが、アメリアはそれに気づかず、素直に首を傾げた。

「“胡蝶花の会”だとするのなら、口封じで殺すってのはいささか過激すぎないか?」

「そう? モルガナイトや月見家から聞く限り、確かに用済みと処分することは今までなかったようだけれど、これまで彼らがしてきた所業としては違和感ないんじゃない?」

「所業としては、な」

先ほど、暗殺未遂という形でしっかりと巻き込まれてしまったためか、改めてモルガナイトと月見ハヅキから“胡蝶花の会”についての説明があった。

“胡蝶花の会”と呼ばれる彼らの言い分が正しいのなら“胡蝶花の会”とは、四代目勇者がこの地を褒美で与えられ、四代目勇者に賛同する人々が続々と越してくる前からこの地に住んでいた人々が発足した団体だそうだ。いわゆる先住民というわけだな。ちなみに神成家の下にいたのも、反戦派だったということ以上に、神成家が彼らと同じくこの地の先住民だったということが大きいようだ。

王からの褒賞とはいえ、突然土地にやってきて我が物顔をする者たちのことを、当然ながら先住民たちはいい顔をしなかった。

というかそもそも、元々この地は当時のレイティス国から見放されていた土地だったらしい。広々とした領土とは裏腹に領内はほぼ山で開拓し難く、地震などの災害も多い。そして河川の氾濫も頻繁に起きる。特に今ある国境に沿った山脈を境にしてレイティス国とは違った気温や湿度という環境により、当時のレイティス国で栽培されていた作物が尽く育たない土地だったそうだ。つまり、四代目勇者は押し付けられたのか、はたまた自ら望んだのかは分からないが、褒美という名の使えない領土を与えられ、首都から遠く離れた場所へ追いやられたというわけか。

そんな地で細々と暮らしていた彼らからするなら、今更突然やって来たよそ者が勝手に領土の中心に城を建て、城下を拓き暮らし始めたという感じだったんだろう。

だがどういうわけか、この地での暮らし方を先住民よりも知っていた四代目勇者により、生活としても、文化としても四代目勇者側の方が優れていた。先住民たちも、四代目勇者に倣った方が多く生き延びることができ、生活も豊かになることは分かっている。だが納得できなかった先住民たちと四代目勇者側の間ではいざこざが絶えなかった。もちろんいくつか争いも起きたが、それら全てにおいて四代目勇者側が勝利し、結果的に先住民たちの多くは四代目勇者の傘下に入る形になった。

そのときに最初に争うことなく降伏し、傘下に入ることを選んだ人たちが“胡蝶花の会”の始まりなんだそうだ。

要は、“降伏し、傘下に入ることを成功体験としてしまった”集団が、“胡蝶花の会”。それからずっと彼らは反戦派として、“無抵抗の降伏”を説いて来た。

それに関しては別にいい。彼らが四代目勇者側に入ったことが呼び水となって他の先住民も降伏するようになり、この領土は平定され、四代目勇者は大和の国と名付けレイティス国から独立した。最初の一歩を踏み出した彼らの勇気は、のちの世からすると英雄と称えられるべきものだろう。

「それがなんで“無抵抗の降伏をしない者は戦いを好む野蛮な動物だから人のために排除しても良い”なんて物騒な思想になるものかね……」

「さすがに城にまでは手を出していないみたいだけど、自警団や今私たちが拠点にしている元木花家の屋敷は何度か襲撃にあったみたい。だからあの屋敷ってあんなに仕掛けが多かったのね」

「アマリリスの母親が他国に嫁いだのも、この辺りに理由がありそうだな」

「それで、何が引っかかっているの?」

アメリアがこてりと首を傾ける。

「“胡蝶花の会”って少数なんだろ? 御三家との会談後にあった会食で神成ミキが言っていた覚えがある。少数の団体が、口封じとはいえ同志を処分するか? 魔法が使えるなら、情報を話そうとすれば舌が動かなくなる、なんて他の方法もあっただろう」

それに、今まで襲撃に遭って来たのは木花家に関連していたのに、今回は月見家が主催の満月市で、月見家が同盟を結んでいるエルフ族領の王女を狙ってだ。だから月見ハヅキも駆け付けた当初酷く混乱していたのだろう。

「それは確かにそうね。なんで味方の数を減らそうとしているんだろ」

「俺が話を聞いた男も、最近入ったばかりの素人ではなく“胡蝶花の会”に入って長そうだったしな。……わからん。一体何がしたいんだ?」

唯一話が聞けた男の口調というか、雰囲気が、“胡蝶花の会”のメンバーであることに誇りを持っているようなものの気がしたのだ。俺の勘なので確かめる術はないが。

まあ“胡蝶花の会”の成り立ちもさっき聞いたばかりだし、モルガナイトが言っていた、隣国のヴェンデスが関係しているかもしれないというのも気になる。

「とにかく、モルガナイトが戻り次第、明日の予定を――」

「アメリア様ぁ~! お食事のご用意をしましてございますぅ~!」

「……」

スパンっと開かれた襖とモルガナイトの声に俺の言葉が遮られる。

数秒くらい襖の前で気配が止まったのは知っていたが、まさか俺の言葉を遮るためだけに立ち止まっていたのだろうか。

明日が来る前に俺がここから逃げ出し、“気配隠蔽”で隠れる方が早いかもしれない。