軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第278話 ~乱戦②~ 朝比奈京介目線

「さて、この世界から消える覚悟はできたかい?」

俺たちの足元に浮かんだ魔法陣に晶が顔色を変え、魔王の娘であるラティスネイルと俺の隣にいた佐藤の腕を掴んで後ろに投げたあと、一瞬の間に状況が目まぐるしく変わった。

そちらに気を取られている間に、俺たちのと言うよりはラティスネイルの援軍とクロウが知らない間に謁見の間に入ってきていた。もう話し合いはできない状況だな。となると船までどう戻るかだ。できることなら今この場で魔王とマヒロを倒しておきたいが。

おそらく晶も同じ考えだったのだろう。晶とクロウが話している間にマヒロは指を鳴らして玉座を覆う結界を張り、魔王に手出しできないようにしたが、当のマヒロは晶とクロウが引きつけていた。ならば、俺の役目は残ったこの魔族を援護に行かせないようにすること。

そう判断した俺は晶の“夜刀神”と対の刀、“白龍”を抜いてノレンと呼ばれた魔族に突きつけた。

魔王によるとこれも初代勇者、つまりは平行世界の晶が打ったそうだが俺はその話について懐疑的である。普通太刀を二本も帯刀するか? せめてどちらかが脇差なら納得したんだが、今は二本の短刀になった“夜刀神”は元は太刀のサイズだったと聞いている。

一つでも疑わしい話があると、その人物から出た言葉がすべて嘘に聞こえるのだから不思議なものだ。俺は先ほどまでの魔王の話を一つも信じられなくなった。まあ俺に謎解きは向いていないし不要だが。

「お前は魔王を」

「ああ」

結界に囲われた魔王は佐藤に任せた。

魔王は初代勇者が魔王が勇者に殺されるという因果を作ったと言っていたが、俺はそうではないと思う。初代勇者はきっかけにすぎず、もしも因果を作ったのだとしたらそれはそれ以降の勇者だろう。とはいえ、これまでこの世界で集めてきた情報から思うに、勇者が魔王を倒す因果というものは確かに存在している。

勇者のみに持つことを許された“聖剣”とそれの力を引き出す『聖剣術』は魔王にとって劇薬に等しいそうだ。おまけに歴代勇者の多くが習得していた光系統の魔法も魔物や魔族は苦手としている。

これだけ魔物や魔族、そして魔王を倒す手段を持つ者が定期的に生まれるのならばこの世界の人間が勇者は魔王を倒すものと認識していても仕方ないことだと思うのだ。とはいえ今まで異世界から召喚されてきた四人の勇者がなぜ魔王を倒そうとしたのかは分からないが。

「久しいな、ノレン・ティオ。伝書鳩が主な仕事とは十番手の位が泣いているのではないか?」

「どうも、裏切り者のカロン・クロネル殿。あなたこそ最弱の元七番目が最下層のモルテに逃げ込んで人族のようにこそこそと、ご苦労なことです。現七番手のミモザ様が嘆いていましたよ。七の位が穢れてしまったと」

俺の隣にNo.7のマスターとそのマスターが連れてきた兵が並んだ。

どうやらマスターとノレンは知り合いらしくなにやら言い合っていた。これは俺でもわかるぞ。不仲ってやつだ。

「勝手に嘆いていればいい。今時の若いもんは潔癖で結構なことだ」

肩を竦めたマスターがこんなときでも咥えたままのタバコを口から離し、深く煙を吐いた。通常ではありえないほどの煙が周囲に漂い、俺たちと晶や佐藤たちを隔てる。

「驚いた。本当に魔王様に反逆するおつもりなのですね」

周囲を見回してノレンは目を見開く。

よく見ると俺たちと煙の外の時間経過が隔絶している。煙の外で薄っすらと見える晶がまるでスローモーションのようにゆっくりとマヒロに斬りかかっていた。今なら晶の太刀筋がしっかりと見えそうだな。

「あなたは魔力が少ない身でありながら魔王ナルサ・エルメス様に七番手という名誉ある地位を頂いたというのに。なぜ謀反など?」

城下町クルールで会敵した八番手ブライス・オットーも魔王もそうだったが、魔族はお喋りが好きなのかもしれない。閉鎖的だから他に話す人間がいないのだろう。

「ハッ! ハハハハッ!!」

と、ノレンの言葉にマスターが腹を抱えて笑った。

スローだが晶とクロウがマヒロと打ち合い、佐藤たちが玉座の結界を崩そうと攻撃をしているというのになぜこちらはこんなに呑気なんだ。

「ナルサ・エルメスに十魔会議の数字を与えられることが名誉!? フフフッ! これは傑作だ!」

涙が溜まるほどに笑ったマスターはそう言って目を拭った。

「正統な後継者ではないナルサ・エルメスに数字を与えられることなどむしろ不名誉に過ぎん。追放されてせいせいしたね」

「そういえばあなたはサラン様の方が魔王を継ぐ正統な後継者だという戯言を言っておられましたね。それが理由で魔王城どころかクルールをはじめとした主要都市からも追放されたというのに、まだそんなことを言っておられるのですか?」

本当に理解できないと言わんばかりにノレンが肩を竦める。

この世界の人間は人族以外は外見から年齢が読めないために憶測になるが、おそらくマスターはノレンよりも長く生きているのだろう。

「親を殺しのうのうとその地位についている者を敬えとでも? それに知っての通り俺は若いお前とは違って先代魔王様からの忠臣でね。俺は前の主の遺志を継いだだけだ」

「先代魔王を殺した? 嘘だ。そんな馬鹿な。ナルサ様が魔王を継ぐことこそ先代の遺言だったはずです!」

それまで余裕そうな表情を浮かべていたノレンが目を見開いて叫ぶ。

先代魔王というと、確かサラン団長と魔王、そしてリンガとセナとソノラの父親だったか。リンガたちは先代魔王がモルテにたどり着いた獣人族の女性との子でおそらく魔王も彼らの存在を知らないと記憶している。

この世界においての親殺しがどれほど忌避されているかは知らないが現在の魔王の部下からすると忠誠心が揺らいでしまうほどの衝撃なのだろう。

「嘘ではないとも。俺のエクストラスキルを忘れたか? 俺は物の記憶を読み取ることができる。だからこそ初代勇者の研究をなさっていたサラン様に重宝されていたのだから。ああそういえば、先程までナルサが自分の成果のように話していたのもサラン様の研究成果だったな」

「……先代が急逝されてから起きた領内の混乱を治めたのが誰かお忘れか?」

「もちろん覚えているとも。ナルサは先代が後継者を正式に定めていなかったことを逆手にとり、それを領民に噂として流し、魔族領を混乱に陥れた。そしてそれを治めることでサラン様以上の支持を集め自作自演で王位についたのだから。だが、頻繁に領地全体を視察していたサラン様とは違いナルサは奥方を亡くしてから王城をほとんど出なかった。だというのにどうやって領内の混乱を知った? 人脈も伝手もないのにどうやってそれを治めた? ああそうだった。あの男は昔からサラン様のものを奪うのが上手い」

「そんな……」

一つ疑わしいことがあると信じていたことすべてが疑わしくなってくる。おそらくノレンの心はグラグラと揺れていることだろう。

俺はノレンに“白龍”を突き付けたまま横目でマスターを見た。

晶が信用していたからここまで静観していたが、一度も剣や魔法を交えることなく相手をほぼ無力化してしまった。口が上手いというか、年の功だろうか。ノレンと魔王の関係がおそらく完全に構築されていないのを狙って的確に弱みをついているようにみえる。こうしてここの時間を早め、周りと囲ったのも魔王やマヒロに邪魔されない為だろう。

「なるほど……」

こういう戦い方もあるのか。