軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第274話 ~謁見④~

世界のこの状況は全て俺のせい? 魔王に言われた言葉に内心で首を傾げた。全く心当たりがない。この世界に来た最初の夜にレイティス王を殺しておけば、という意味でもなさそうだ。

魔王が言う目と刀のうち、目というのはおそらく『世界眼』のことだろう。この世界に来たときから所持していたこのエクストラスキルは、他人のステータスプレートを視ることができる他に、スキルのレベルが上がるとその人の体調や状態なども視ることができるようになった。だがおそらくこのスキルの真骨頂はそれではない。ここまでなら通常スキルである『鑑定』や『看破』でもスキルレベルを上げれば可能な範囲だからだ。

加減を知らない状態で初めてスキルを起動したとき、視えた光景がおそらくこのスキルの能力なのだろう。勇者が、京介が、そしてここまで彼らと一緒に来ている七瀬、細山、和木、津田、上野が黒く染まった空の下で無数の屍と共に倒れ伏しているこの世界の終わりの景色と、俺が望めばこの世界のすべて、未来さえも見せてくれるであろう感覚。俺はそれが怖くて見たくなくて、ステータスプレートのみを視るという制限した状態でずっと使用していた。この世界のすべてを視ることができると知ってなお、俺はそれを拒絶したのだ。それに、俺は元の世界に帰りたいのであってこの世界の謎を解明するつもりはないのだから、そのままでもなんら問題はなかった。

ただ、このスキルはそれ以外にも謎が多い。同じく『世界眼』のエクストラスキルを持ち、俺よりもスキルレベルが高いアメリアから未来の光景を視たと聞いたことはないし、人によってそもそも視えているものが違っているのだろう。そもそも世界のすべてって曖昧すぎるんだよな。こういうのはもっと頭のいいやつが持っているべきスキルなのでは。

それと刀だったか。俺が隠し持つ暗器などの武器の中で、刀は“夜刀神”しかない。そもそも刀という武器は現在は“大和の国”と呼ばれる人族領でしか打たれていないために、他に欲しくても俺のこれまでの旅路では入手できなかった。クロウならもしかすると打てるのかもしれないが、そんな余裕なかったしな。

サラン団長がレイティス国の宝物庫から盗ってきたこの“夜刀神”だが、 茎(なかご) に刻まれた文言とサラン団長の言葉が正しいのなら初代勇者が打ったものらしい。ただ、茎の銘も文も俺たちの世界の言葉、つまり日本語で書かれていてこれまで誰も読めなかったようだ。銘の方は認識しなければ視えないという念の入れようだった。

とはいえ、その目と刀を持っているからなんだというのか。

「あんたの言ってる言葉の意味が分からない」

混乱する俺に魔王が微笑みかける。困った子どもを見るような目に少し戸惑った。

「織田晶、私は君の名を君がこの世界に来る前から知っている。代々魔王を継いだ者にだけ教えられるこの名は、魔王が勇者に殺されるという因果を作った張本人、この世界最初の勇者、初代勇者の名だ。君がこの世界に勇者という職業を生み、魔王が勇者に倒される存在だとこの世界に概念を植え付けた」

「……は?」

全員の視線が俺に向いたのがわかる。

いや、同姓同名だからなんだというのか。まさか証拠がそれだけとか言わないよな? 織田晶なんて普通の名前、探せば他にもいるだろう。

思わず目を細める俺に構わず魔王は話を続ける。

「だから私はブラックキャットを始末するついでにこちらへ来るように伝言を与えた。ブラックキャットがいた迷宮最下層にはその者が望んだ場所に転送する魔法陣を設置していたから、ブラックキャットを倒し、伝言を聞いてすぐに魔法陣を使用すれば君はきっとここへ来ていただろう。だが待てども君は来ず、その後ブラックキャットの目から様子を見ていると私の計画に邪魔になりそうだったから獣人族領へ向かったアウルムやマヒロには君を殺せと命じた。これが君の質問に対する答えだよ」

思わず口を開けて間抜けな顔を晒す勇者たちにかまわず、魔王は滔々と話す。

傍に控えるマヒロでさえもその話を知らなかったのか、目を見開いて魔王を見ていた。

「ここまで話しといてそれだけじゃないだろ?」

「ああ、もちろん。君にすべてを話し、その上で君がどうするのか知りたいからね。さて初代勇者、織田晶が召喚されたのは昔々、神話時代の種族間大戦が記憶の彼方に追いやられた時代だ。魔族がまだ他種族から嫌われても憎まれてもなく、大陸は分かれていても四種族の仲が最も良かった時代。当時最先端の技術力を誇っていた魔族は神話時代の戦争のせいでロストテクノロジーとなってしまっていたとある魔法の再現に成功した。そう、異世界から人間を召喚する魔法だ。事故だったのか故意だったのかは今ではもう分からないが、とにかく魔法陣は正しく起動し、そのとき一人の人間の召喚に成功した」

それが君だと言って魔王は俺を指さす。

だから俺じゃないと言いかけて、とりあえず最後まで話を聞こうと俺は思い直した。やけに確信をもって断言する魔王の様子が気にかかる。

「異世界から召喚されたのは十七歳の青年、織田晶だった。当時の魔族はぱっとしない容姿の子どもを召喚してしまったと落胆し、何の説明もすることなく彼を魔族領から追い出した」

そういや昔は顔の整っている奴を魔力量の多い人間だと判断していたんだったか。他人のステータスを視ることができるスキル所持者が多くはないとはいえ、顔で判断されるのはあまりいい気持ちじゃなかっただろう。おそらく同姓同名の他人だろうけど、可哀想に。

「それから彼がどう動いたのかは魔族には記録がない。ただ、他領に残っていた資料を見るにまず彼は人族領、エルフ族領、獣人族領を順にめぐり、魔物や貧困で困っている人々を助けながら自らが考案した生活魔法という便利な魔法を教えて行ったそうだ。自分が今まで生きていた世界との文明が違いすぎるから魔法で代用したと言っていたという記録が残っていたかな」

生活魔法がそれまでなかったということは飲用水の調達や火起こしにも苦労したことだろう。俺たちの世界の文明と同じ所から来たとしたなら原始的なそれに絶望して新しく魔法を開発してもおかしくはないかもしれない。とはいえ、それを俺ができるとは思えないんだが。

もしも魔王の言葉が正しくて俺が初代勇者だとするのなら、俺が魔法で人を助けながらこの世界を巡り、刀を二本打ち、さらにクロウが使っているエクストラスキル『反転』も開発したということになる。俺にそんな能力も意欲もないんだが。絶対に俺じゃないだろこれ。

「生活魔法を広めることで彼はこの世界でも地位を固めた。そしてその功績をもって再度魔族領へやってきたそうだ。彼の功績を他大陸の王たちから聞いて知った当時の魔王は彼に召喚後の非礼を詫び、それを受け入れた彼と共同で召喚魔法陣を含めたロストテクノロジーや神話前の人間について研究を始めた」

“勇者”という職業の者は彼が初めてだったのも当時の魔王が彼を追い出した理由の一つだろうね。そもそもそれまでは勇者という言葉がなかったのだからと魔王は呟く。

憎しみが込められたその声に、背中に何か冷たいものが流れたような感覚がして俺は背筋を伸ばした。

「研究していくうちに彼は気づいてしまった。ロストテクノロジーと呼ばれる物の中に彼が生まれた世界で使用していた技術そのものが含まれていることを。そして調べた。この世界の人間はどうやって誕生したのか。注目したのは神話だ。君たちの世界では猿から人へ進化したのだと考えられているんだったかな。こちらの世界は神話によると人間は神の劣化版としてアイテルが創ったとされている。神話のように無から人間を生み出すなんてことが可能なのは神しかいない。そしてこの世界の神は創造神であり唯一神のアイテルであることは間違いない。だが戦いを司る神のアイテルが世界を、人間を創ることが本当にできるのか。色々と議論されたようだが、初代勇者は不可能だろうと考えたようだ。では、私たちの祖先は一体どうやってこの世界に生まれたのか」

俺は思わず口に手を当てて考え込む。

ロストテクノロジーということは昔は使われ、存在していた技術ということだ。その中に“異世界の人間を召喚する魔法”があった?

「簡単だよ。アイテルは異世界召喚の魔法を使用して異世界から人間を連れてきたのさ。それが私たちの祖先。この世界には君たちの世界とは違って魔力があり、魔法があったから獣人やエルフが存在するけれど、それぞれが進化する前の大本は君たちと同じ生物だったということになる。原初の人間は魔法が使えなかったこともその時の研究で明らかになっていた。そして極めつきに、初代勇者は今はない魔族領北部でとある人物の手記を発見したそうだ。それにはこちらの世界には存在するはずのない名と存在するはずのない文字が書かれていた。それは初代勇者の失踪したはずの父親の名前と、彼にとっては見覚えのある文字だった」

初代勇者の父親の名は 織田政(おだつかさ) というそうだよ。