軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第266話 ~侵入成功?~

数時間後、俺たちはクルールの門前までたどり着いた。遠距離からでも見上げるほどの巨大な門の左右に俺の身長ほどの塀が街を囲っていてクルールの街中は一切確認できない。門はともかくあれくらいの塀なら乗り越えて街に入れそうだが、門の意味はあるのか?

気配を殺しながら門から一番近い位置にある大きな岩に身を屈めて門前の様子を窺う。

ラティスネイルが言っていたように門の前には鎧を身に着け、武装した兵が二人立っていた。遠いのでそのステータスを視ることはできないがおそらくどちらかが看破系と鑑定系スキルの持ち主だろう。

「それじゃあ、僕が門を開かせてついでに門番の気を引くから合図をしたらその隙に君たちは中に入って、後ろを振り返らずに城を目指してね。あ、間違っても門以外から街に入っちゃだめだよ? 体が消し飛んじゃうから」

「消し飛んじゃうって……そんなさらっと言われても」

物騒なことをさらりと言うラティスネイルに勇者が顔を強張らせた。

「おい、街ごとに温度調節の魔法がかかってるのは聞いたがそれは聞いてないぞ」

「あれ~? そだっけ? じゃあ今言うね」

しれっとそう言ってラティスネイルは両手を広げて俺たちに差し出した。そして説明しながら十本立てた指を三本に減らす。

「魔族領に十ある街のうち、治安がいい上位三つの街には十魔会議二番手マヒロ・ウノの魔法陣が敷かれてるんだ。球体に隙間なく結界が街を覆ってる。効果は温度調節の他に、魔族以外の侵入者排除やら色々。僕も教えてもらったんだけど全部は覚えてないんだよね~。詰め込みすぎててさ」

いや、魔族領に十も街があるとも初めて知ったな。用があるのは魔王城なのでクルール以外の街には興味ないが。

ラティスネイルの言い方だと街の人間用の生活必需魔法と対侵入者用の撃退魔法が両方ともかかっていると思っていいだろう。俺に魔法の知識はさほどないが相変わらず人間業じゃない魔法陣なんだろうな。脳裏に浮かぶのはブルート迷宮で見た芸術品と見紛うほどに美しく恐ろしい魔法陣だ。マヒロほどの技量なら可能だろうが、覚えられないほど効果を詰め込むなよな。

あれだけ大きな門に門番までいれば塀の方を乗り越えたくなるだろう。そこが罠だったってわけだ。門を無視して塀を乗り越えようとしなくて良かった。

「まあとりあえず結界に触れなければいいから。ちゃんと門から入るんだよ~。そんで入ったらすぐに建物の陰に隠れる!」

「そういえばラティスネイルさんが飛行艇に乗り込む時に着ていた黒色の外套はどうしたんです? あれなら俺か朝比奈くんは姿を消せるでしょう」

勇者が言うのはラティスネイルが船に飛び乗ったことにも同室にいることにも気づかせなかった魔法具のことだろう。確かあの時そのまま腰のポーチにしまっていたはずだが。No.7に向かうときにクロウに貸していたもう一つの魔法具、灰色の外套の方では元は魔族のお忍び用で今は外見を人族に見せる機能に改良した魔法具なのでここでは意味がない。というかどんだけ魔法具を持ち歩いているんだ?

「あ~あれね。あれはちょっとリリスたんに貸出中で今僕の手元にないんだ。ごめんよ~。ま、君たちなら大丈夫大丈夫! あ、アキラくんはこれを持っててね。絶対に落とさないで! んじゃ!」

俺に何かを渡し、無責任にサムズアップをこちらに向けたラティスネイルはそのまま門番の方へと向かって行ってしまった。門番から死角になる方向からふらりと何でもないように歩いていく姿はもう止められない。

「晶、それなんだ?」

「……石だな」

手にころりと乗せられたのは読めないほどの小さく文字が刻まれた石だった。暗がりで文字自体は見えないが何かが彫られているざらりとした感触を感じる。この石自体に魔力は籠っていないように見えるが、なんにせよラティスネイルが俺に渡したということは何かの魔法具だろう。

俺はその石を魔石を入れている袋に入れて万が一にも落とさないように大切に懐にしまった。

俺たちが物陰から門を見ると、ちょうど門番がラティスネイルを視認したようだ。

「止まれ!!! フードを下ろし両手を挙げろ! 顔を確認する!」

言われた通りに武器を構える門番の間合いで立ち止まったラティスネイルはそっと外套のフードを下ろした。

その顔を見た門番二人の顔が遠目から見ても分かるほどに強張る。

「あっれ~? なんだ僕の顔忘れちゃった? あーんなに一緒に遊んだのに!」

「げっ……ら、ラティスネイル様」

「お、おかえりなさいませ!」

いたずらが成功したような声音のラティスネイルと門番たちは顔見知りのようだが、明らかに門番側はラティスネイルを歓迎していない。というかラティスネイルをマリで見つけたときの夜の反応といい、ラティスネイルは魔族領で何をしてきたんだ?

俺の肩の上にいる夜は気持ちは分かるとばかりに無言で頷いていた。

「せっかく旅を中断して里帰りしてきたのに冷たい対応されて悲しいな~。とっても悲しい~」

「も、申し訳ありません! ただいま門を開けますので!」

「いたずらだけは! いたずらだけはやめてください! 今日は絶対に定時で帰りたいんです!」

「え~? ま、なんでもいいから早く開けてくれる?」

「「は、はい! 今すぐに!!」」

本当にラティスネイルは魔族領で何をしてきたんだ? どんないたずらをすればあんなに怯えられるようになるんだか。

「門が開くぞ」

「ラティスネイルの合図があった瞬間にお前らは出ろ。後ろは俺が行く。夜は振り落とされるなよ」

「ああ」

「分かった」

『了解した!』

俺の言葉に頷く二人を確認してじっとその時を待った。

巨大な門が門番の手で開かれ、ラティスネイル一人分の幅まで広がる。そして止まった。

「っ今だよ!!」

ラティスネイルの鋭い声と共にどこからか現れた紫色の大量の水が門番たちの体を門の中に押し流した。

「行け!!!!!」

京介と勇者が飛び出し一歩遅れて俺も駆け出す。

「『影魔法』――起動!」

俺から伸びた影が門の巨大な影に繋がった。

「門を押さえろ!」

門番がもう体勢を整えたのかこれも結界の機能の一つなのか、一人分しか開いていない門がすでに閉じ始めている。それを門の影から飛び出た巨大な手が対抗するように左右の門に差し込み、動きを阻んだ。

はじめに勇者、そして次に京介が門の中に体を滑り込ませる。そして俺も間一髪街の中に入った瞬間、後ろで門が完全に閉じ、挟まれた影魔法が一瞬で膨張し破裂した。魔法妨害系の効果も結界に含まれていたのかもしれない。ラティスネイルが覚えきれないと言っていたわけだ。

「ナイスだよアキラくん!」

門の中で俺たちを待つラティスネイルがキラキラと瞳を輝かせて俺を褒めるが、その喉元には剣が突きつけられていた。どうやら門番たちは俺が思っていたよりも優秀だったようだ。

一人がラティスネイルの背後から剣を突きつけ、もう一人が剣の柄に手をそえ低く構えて俺たちに対峙する。

「ラティスネイル様、これはいつものいたずらでは済みませんぞ」

「そうだね。僕もいたずらで済ませるつもりはないかな。親子喧嘩しに帰ってきたんだから」

どう動くべきか一瞬止まってしまった俺たちよりも早く、ラティスネイルの背後の門番の瞳に魔力が集まる。

「元魔王の右腕に侍、暗殺者……そして勇者。魔力量はゴミだが職業レベルは三人とも俺たちよりも高い。ラティスネイル様は魔王様に反旗を翻すおつもりで?」

先ほどまで定時で帰りたいだのなんだの言っていた門番の瞳に仄暗い光が宿ったのが俺には良く見えた。

「勇者だと!? どいつだ! また魔王様のお側を同胞の血で穢す前に俺が殺してやる!!」

冷静にこちらをうかがっていたもう一人の門番が“勇者”という言葉で一瞬で激昂し、剣を抜く。その強い殺気に当てられた京介が咄嗟に勇者を庇うように動いてしまった。

「お前かあああああ!!!」

門番の剣が勇者に向かって振り上げられる。

『今だ主殿!!』

瞬間、外套の中で準備していた手を二人の門番の目に照準を合わせた。その二丁の指鉄砲の形の指先には先ほど発動したままの『影魔法』の小さな弾が装填されている。門と接続していた影は結界のせいで繋がりは切れてしまったがこれなら俺一人分の影で十分だ。

エルフ族領から獣人族領ウルに上陸したときに絡んできた雑魚に披露したちょっとした技のスピード改良版。

「『影鉄砲』」

コンマ一秒もなく放たれた黒い弾丸は振り上げた剣が降ろされるよりも早く、首元の剣がその皮膚を傷つけるよりも早く門番二人のその目を塞いだ。

「ぐ、ああああああ!?」

「くっそ!! 何も見えない!!!」

がむしゃらに振り回すその剣に先ほどの殺気はなく、京介と勇者は軽く跳んで間合いから抜け出し、その間に俺はラティスネイルを救出した。

「侵入者!!!警報発令!!!」

目を抑えた門番がそう叫んだ瞬間街中に不快な音が響き渡る。

全員が倒れる門番から離れ、地響きがする周囲を見回した。

「あ~これはやばいかも。結界の機能の一つだよ。住民は建物の中に閉じ込められ、門番が侵入者と定めた全員を街から排除するまで警報は止まらないし防衛システムが強制的に作動する。建物には外の結界と同じ機能が張り巡らされてるから中には逃げ込めないっておまけ付き!」

機械ではない以上本体をぶち壊すという手段が取れない。俺は顔を顰めた。

ラティスネイルが苦々しい顔つきで説明する間にも視界の隅に土煙が舞う。

「最悪なおまけだな! じゃああれは!?」

遠くから響く轟音のせいで声を張り上げながらそれを指さした。

土煙の向こう側から煌々と大きな瞳が複数、こちらを睥睨している。初めてのカンティネン迷宮の時に俺たちの前に現れたミノタウロスよりも大きく、俺が今まで見た魔物よりステータス値も高い。

「うーん。通常迷宮最下層のボス部屋で冒険者を待ち構えているはずの超強い魔物。……の、大群かな~? 一体だけならまだなんとかなるかもなんだけど、あれは量が多すぎて今の僕たちだけじゃ確実に全部は対処できないね!」

ラティスネイルの言葉に勇者がぎょっと目を見開いた。

「じゃ、じゃあどうすれば!!?」

ラティスネイルはうんと頷き、土煙が上がる方向とは反対側を向く。

「もちろん逃げるとも! さ、死にたくなかったら、走って!!!」

その瞬間、全員の足が一歩踏み出した。