作品タイトル不明
第260話 ~問い~
「で、お前はグラムを殺したようにサラン・エルメスを殺した者を殺すのか?」
まっすぐ俺を見てマスターはそう尋ねる。
「もしかするとサラン・エルメスを殺したのはお前と同じく召喚された者かもしれない。あの国で一番しがらみがなく無防備だからな」
「その問いも契約のうちか?」
勇者と京介が息を呑む音が地下室に大きく響く。
実行犯については同じ可能性を俺も考えていた。勇者と京介の手前言わなかっただけだ。
レイティス城内であのサラン団長を正面から隙をついて殺せるほどに油断させることができるとなると、副団長のジールさん、そしてそもそもサラン団長を殺すには実力が足りなくて警戒する 必(・) 要(・) が(・) な(・) い(・) クラスメイトしかいない。おまけに異世界から召喚された俺たちに後ろ盾はなく、28人も召喚されたのなら1人くらい使い捨てにしても構わないだろうと俺だったら思う。
目を眇める俺にマスターはおどけたように肩を竦めた。
「いいや、ただの俺の興味だ。別に答えなくてもいい」
そう言うが、マスターの目は俺の答えを求めているような気がした。
俺はため息を吐いて頭を働かせる。俺自身でもいまだに明確な答えの出ていないのだ。言葉にするのが難しい。
「……俺がグラムを殺したのはアメリアに手を出したこと、魔王城へ行くにあたってクロウの協力が必要だったこと、間接的であってもサラン団長の仇だったこと、人族と獣人族の戦争を止めるため、そして俺自身の後悔と決意の証だった」
サラン団長の真の仇と言える実行犯や命令したレイティス王、計画したと思われる魔王やマヒロはまだ生きているのだから、カンティネン迷宮で決意した俺の復讐はまだ終わっていないとも言える。もしも目の前に現れたら今度こそ俺は“夜刀神”を急所に突き立てるだろう。
そうであればマスターからの問いもイエスと答えるべきなのだと思う。ただ、モルテで人を必死に助ける勇者たちを見てから、殺さないでいられるのなら人を殺したくないという思いも同時に存在するのだ。
「後悔?」
「召喚されたあの日、俺は無防備に背を向けていたレイティス王を殺すチャンスがあった。そうすれば現状はまた違っていたかもしれない。レイティス王を見逃したのもグラムを殺したのもそれが最善だったのか今も分からない。グラムを殺したのもそうだ。俺は今も迷い続けている。ただ……」
そこまで言って、グラムを殺した夜にホテルの部屋へ帰った俺を出迎えたアメリアとの会話を思い出して言葉を詰まらせた。“これからをどうするかが一番大切なこと”確かにその通りだ。
視線を彷徨わせて言葉を探す。
「ただ、俺は家族の元へ帰りたいしアメリアや夜とずっと一緒に居たい。俺の未来への望みはその二つだけだ。これだけは譲れない。成し遂げるためなら何でもする。だからそこへ至るまでに障害物があるのなら殺してでも掴み取る。サラン団長の仇がもしもその道の途中で立ちふさがるのなら、クラスメイトであっても殺すことに躊躇しないが」
「敵討ちはあくまでついでだと?」
「そうだ。俺は俺のために行動する。ずっとそうだった」
そうだ。勇者たちとは違ってレイティス城で身を隠すことを選んだ時からずっと、俺は俺のために行動をしてきた。せっかく国王側から捕捉されていなかったのにカンティネン迷宮でミノタウロスを倒すために姿を現したのも誰かに命令されたわけじゃない、俺の選択だ。これからもそれは変わらない。俺は元の世界に、家に帰る。だがアメリアと夜と離れるつもりはない。矛盾している二つの望みを叶えるためになんでもしよう。
支離滅裂にもほどがある、ただ思ったことを並べただけの言葉だったがマスターは上手く言いたいことを拾ってくれたらしい。
「ハッ、子どもらしい身勝手さと傲慢さだ。この世界の為とか言うのならまだ可愛げがあったものを」
「まだ17歳だからな。そもそもこの世界が俺たちを無理矢理呼び出したんだ。その召喚にどんな思惑があろうと俺たちの知ったことじゃない。こっちも好き勝手させてもらう。そもそも、これまでの勇者が素直にこの世界に貢献してきたことがおかしいんだ」
マスターが鼻で笑って言うが、魔族のこいつにとってはクロウでさえも子どもの範囲の可能性があるのだ。そう思えば子ども扱いも怒りを感じない。
ところで俺の年齢を言った瞬間リンガたちがぎょっと目を見開いたんだが、顔つきが17歳には見えないってか。
「もういいか? あんたもこれから用事があるんだろ」
「ああ。そうだな」
話が終わったことを察したのか、リンガたち兄妹が出入口へと向かう。マスターとはすでに話は済ませていたのかさっぱりとした分かれだった。続いて勇者たちと難しい顔をしたラティスネイルが続く。
俺は最後に扉から出ようとして、一瞬足を止めた。肩の上の夜がどうしたのかと言わんばかりに俺を見ているが、今この人に何か言わなければならないような気がしたのだ。
「……あんたもサラン・エルメスの復讐を考えているのなら自分でするんだな。クロウとは違ってあんたには時間があるだろ」
最後にそう言って俺は地下室から出る。
返事を聞くことなく、その扉を閉じた。
「ああ。もちろんそのつもりだとも」
マスターの最期の言葉は俺の耳にも夜の耳にも届かなかった。