軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第244話 〜悔恨①〜 クロウ目線

今の貴方、かなり辛気臭く見える。お昼前になったら外の空気を吸ってから入ってきなさい。ご飯が不味くなるから。

そう船を降りる前にアメリアに言われたためその通りに昼前に甲板へ出た。

辛気臭く見えるのも仕方がないだろう。刻一刻と時間が過ぎていく中、自分の命の終わりを感じて上機嫌でいられるはずがない。

「そういえばこうしてゆっくりと海を眺めるのはいつぶりだろうか」

迷彩魔法がかけられている停止も着陸もできないこの船は今もゆっくりと魔族領周辺を飛んでいる。

こうして過去を振り返ってみると、生まれた瞬間からずっと駆け足で進んでいたように感じると感慨深く海を眺めた。最後に海を見た時は幼馴染がいて、種族こそ違うが背中を預けるに値する仲間がいた。だが今ここにはたった一人しかいない。

あの時は冗談で人族のアオイや獣人族のクロウ、リッターが先に死んで最後にはエルフ族のルークが一人で見ることになるだろうな、その前にまた集まることができればいいな。と笑い合っていたものだ。ところがアオイとルークは魔族に阻まれたクロウたちを魔王の元へ行かせるために自らを犠牲とし、二人の命を背負った自分たちは魔王の目前まで迫ったもののマヒロに阻まれて無念の撤退を選択させられた。

「俺もあの場で死んでいれば……」

そうすれば、今この瞬間に、寿命が尽きようかという時にこんなことを考えなくて済んだのだろうか。

「そんなこと死んでも言わないでください!!!!」

その瞬間、一人だと思っていた甲板に高い声が響いた。

そちらに視線をやり、苦々しく呟く。

「……はぁ、謀ったな。おせっかい王女め。気が付かなかったとは私も耄碌したものだ」

改めて考えるとそういえばアメリアは現在船を出ていて、お昼も外で食べると言っていた。飯が不味くなることなんてないのだ。リアと会話をさせるために言ったのだろう。少し考えれば分かったはずなのに。それすら考えられないほど迫る寿命に動揺していたのだろうか。

泣きそうに目に涙を溜めたリアが俺の目前で止まった。

この目を見たくなかったから今の今までこの狭い船の中でも頑張って彼女を避けていたのに。

「もしも先代様方と一緒に魔王城でクロウ様が死んでいれば、今私は生きていません。いえ、生まれてすらいないのでしょうね……。クロウ様は、失ったものに目を向けすぎなのです!」

魔王城から逃げ帰り、リッターの死に目にも会えずに絶望して死に場所を求めて彷徨っていた時に獣人族領の小さな村の近くで出会った腹の大きい女。魔物に襲われていた女を助けたのは本当に偶然だった。これ以上魔王に、魔族に、魔物に目の前で命を奪われたくなかったから。

結局その女も俺が知らないうちに死んでしまい、その忘れ形見で俺が名付けた子は母親の親戚に引き取られたのだと聞いた。そしてその村も俺が知らないうちに名付け子を除いて全員行方不明となり、名付け子は王族に入っていた。妹の、アリアの仇がいる王族に。

「……私がどう思おうとお前には関係のない話だ」

視線を海に戻して呟く。

昔からこの子は俺のことをまっすぐに見つめてくる。その視線が心地よいと思うと同時に少し怖いと思ったのは確かだ。

そういえば、彼女の母親も目をまっすぐに見てくる人だったな。

「……クロウ様が私をあまりお好きでないのは分かっています。ですがどうか話を聞いてください」

その言葉に目を見開いた。どこでそんな誤解が生じたのか。いや、ここまでの俺の態度のせいだろうか。

何も言わない俺にリアは言葉を重ねる。

「……私がラグーン王家に入ったのはクロウ様を知るためでした」

俺はその言葉に思わず顔を上げる。

「“守り手”の力を私が生きている限りずっと王族にかけることと引き換えに、私は城に存在するあらゆる情報の閲覧権限を求めたのです。そのための養子入りでした」

その言葉で長年の謎が解けた。

あの悪名高く民を差別するような言葉を平気で口にするラグーン王家が、たとえ珍しい職業の“守り手”だったとしても平民の女を王家に迎え入れるとは思えなかった。それも親類ではなく現国王の娘などに。

俺の居場所など王族にならなくても調べればすぐに分かっただろう。なにせここ数十年はウルの鍛冶場に腰を据えていたのだから。だが居場所が分かっても俺の元へ来ることはなかった。俺のことを知らなければとでも思ったのだろうか。

俺は王家からの命令で王族となったリアの杖を作成させられ、核になる魔石に仕掛けをしていたからリアがどこにいるのか、元気にしているかはある程度把握していたがリアの方はそうではなかっただろうに。

「そこまでして得られたことはあったか」

俯くリアに問いかける。

「私が今まで生きている中で絶対に知り得ることがなかった情報、知る必要のなかった情報のすべてに目を通しました。ウルク王家だと思っていたラグーン家が実は本来のウルク王家を乗っ取った滅ぼされてしかるべきの者たちであることを知った時は愕然としましたが、欲しい情報はいち早く手に入れていたので王家を出る準備だけはずっとしていたのです」

まあ、確かにあんな人を人とも思わないような人たちが王家だとは俺も思っていなかったがな。

「私が一番知りたかったのはどうしてクロウ様方が魔王城へ行き魔王を討伐するよう命令されたのかでした」

リアの言葉に俺はただ当時を思い出してため息を吐く。

「逆に覚えている人も多いですし、すでに歴史を改竄しようとする動きもありますが、時系列としては“アドレアの悪夢”の方がクロウ様たちの侵攻よりも後。クロウ様たちの行為によって“アドレアの悪夢”が起こったのだと。そして魔王討伐の命令を出したのはかつてアドレア王家だったラグーン家」

ラグーン家は王家の血を引くクロウ様を亡き者にするために魔王討伐を命じたのですね。当時仲の良かった冒険者ギルド金ランクの友人たちと共に。