軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第191話 ~同価値~ ???目線

「地獄までお供します。お父様」

発せられたドロドロとした様々な感情が込められた言葉を聞き、私は苦笑した。

扉の向こうでされている会話はおおよそ親子のものとは思えない。

だというのに、本人はこれが家族の在り方だとでも思っていそうだ。

新手の宗教か何かだろうか。

おお怖い怖いと、鳥肌を立てる腕をさすりながらその場所から離れた。

城内は勇者召喚以降、徐々に活気を失い、静寂に包まれている。

ひとえに城を去った騎士団の連中がいるだけでなく、人知れずいなくなった人間がいるからだ。

誰にも、例え家族であろうと知らせずに、突然いなくなる。

自分の住まいの異常事態に王や王女は気づいてはいない。

いや、気づいたとしても彼らには何もできやしないだろうけど。

その機能が停止しかかっている王城の影響が民に及ぶのも当然であり、この国が瓦解するのは時間の問題だろう。

「まあ、だからこそこの私がいるのだけれども」

この国を、時が来るまで持たせておくことが私の役目。

どれだけの人間がいなくなろうと、一国という“代償”はかなり高い。

我らが王の願いを叶えるために、その“代償”を有効活用するのが私の役目だ。

「あ、あなた……」

これからの動きについて色々と考えを巡らせているとき、不意に後ろから声をかけられる。

反射的に警戒をして振り返ると、顔色が悪い女がいた。

確かこの女は王女付きの侍女だっただろうか。

「何か御用かな」

今の私はレイティス城に招かれた客人として知らされているはずだ。

そこになんの不自然さはなく、その証拠に今この時まで懐疑的な視線にさらされたことはない。

だというのに、目の前の女は怯えたような、疑っているような、そんな目を私に向けてくる。

心当たりがありすぎる。

ああ、本当に人族は人目が多くて面倒だな。

自身の失敗を悟って舌打ちをしたい気分だった。

「あの子を……アンジェをどこへやったの。昨日、あなたといるところを見たの。でも、あなたが触った瞬間に消えた。城中を探したけどいなかった。どこへやったの。あの子を……」

「……ふふふ、あはははははははは!!!」

不安そうに、だけれどもどこか確信しているような声音に、ぱちくりと目を瞬かせたあと、私の口から笑い声が漏れる。

不機嫌な顔が一転して、体をくの字に折るほどの笑い声をあげる私はとても不気味だったのだろう。

女は一歩後ずさった。

私は歩を進めて女に触れることができる距離まで近づく。

戦闘などしたことのない女は反応すらできないままに私に手を掴まれた。

「ああ、君たち人族は本当に愉快だ。愚かで滑稽で本当に救いようがない」

人気のない城の廊下に声が響いた。

ついこの間までならここにも人目が行き届き、誰かしらが目撃していただろうが、今現在人目は皆無だった。

当然だ。

人がいなくなったのだから。

「でもそうか、昨日のは見られていたのか。それは私の失態だ。お詫びにそのアンジェ?とかいう女に会わせてあげよう」

懐に手を入れ、中の物を引っ張り出す。

私の手の中に握られているのは小さな石だった。

「あ、会わせてくれるって言ったでしょう!アンジェは、あの子はどこ!?」

ヒステリックに叫ぶ女は掴まれた腕を振り回して逃れようとしているが、私の腕はピクリとも動かない。

私は首を傾げて小さな石を眼前に差し出した。

もっとよく見れるように。

「ほらしっかりと見なよ。これが君が探している女さ」

ピタリと女は動きを止めた。

女の口がわななく。

「本当に君たち人族の価値は驚くほど低いよね。その命と引き換えになるのがそこら辺に落ちている石ころと同じだなんて。まあ魔力の保有量が私たちよりも圧倒的に少ないのだから仕方のないことなのかもしれないけどね」

「あ、ああ、まさか……。魔族がどうしてここに!!!誰かたす……」

私の正体に気付き、叫び声を上げようとした瞬間、その姿は掻き消えた。

女の手を握っていた手を開くと、そこには先ほどまではなかった石ころが一つあった。

「君の命も石ころか。つまらないな」

もう一つの石ころと一緒に適当に放り投げる。

こんなものあったとしても何の価値もない。

本当に、人族が哀れでならない。

私のスキル『引き換え』はものを同価値のものに換えることができる。

というか、この価値を判断するのは私ではないため、私は換えることしかできないのだけれど。

試しに私が最も大切にしていた者を換えてみても小さな宝石にしかならなかった。

そして、私が興味すら湧かなかった者は大粒の宝石がはめ込まれた立派なティアラになった。

不快なことに、そこに私の意思は存在しない。

我が王が言うには、裁定しているのはこの世界の神らしい。

確かアイテルとかいう名前だっただろうか。

神なんて存在を認めたことはないが、その価値観が人間ではありえないことは認めている。

だって、この私と血が繋がっている者が軒並み小さな宝石ごときだっただなんてありえない。

ありえなさ過ぎて適当な場所に捨ててしまった。

まあ、普通の人間はきっと人間と石や宝石を同価値には考えないのだろうけど。

人族が哀れで仕方がない。

石ころと同じ価値の命であることはどんな心地なんだろう。

それでも懸命に生きようとしているのだから救いようがない。

懸命に生きようともがく人族が滑稽に見える。

ああ、なんて愉快なんだろう。

「石も飽きてきたな。次は花にでも換えてみようか」

誰もいなくなった廊下に私一人の足音だけが響く。

この国の価値は一体どれほどなのだろうか。

そうだ、王からの合図が来るまで、勇者召喚者とかいう者たちの価値も確かめてみよう。

きっといい時間潰しになることだろう。