軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第181話 ~驚き~

「お前、リアをどうするつもりなんだ?」

森に入ってからというもの、どこか不機嫌なクロウに俺はそう声をかける。

クロウの足元で枝がパキリと音を立てた。

太陽の位置からして俺たちはかなりハイペースで進んでいた。

このままならおそらく勇者たちと同じくらいに合流地点に到着するだろう。

ざっと今まで出てきた魔物のステータスを見る限り、ジールさんが一緒の勇者たちが瞬殺されることはないだろうが、それでも一人二人欠けていてもおかしくはない。

それほどこの森は危険な場所だった。

人気がないのも、野生の動物の生活痕がないのも当たり前だ。

勇者と別行動を選択したのは間違いだったかもしれない。

「それは、お前に関係あるか?」

クロウの鋭い視線に思わず息を呑む。

俺のそんな様子には反応せず、クロウはそのまま前に進んでしまった。

森に入る前のクロウなら俺を鼻で笑うか、それとも何か嫌味を言うか、なんにせよ反応は返してくれたのだが、今はそんな余裕すらないらしい。

あれだけ不機嫌なクロウは初めて見た。

「アキラ、クロウが変?」

クロウの殺気に歩みを止めた俺に並んでアメリアが顔を覗き込んできた。

どこか心配そうなその頭をなでる。

「そうだな。でもまあ、首を突っ込みすぎるのも悪手だろ。今は様子を見ようと思うがアメリアはどうする?」

アメリアは少し悩んだあと、素早く決断した。

何に対してもだが、アメリアが悩むことはあまりない。

食べ物を決めることは少しばかり長く悩むが、それも少しの時間だけだ。

王女というものは決断力も必要なのだろうか。

「私も見守ることにする。リアとアマリリスにも言っておかないと。今のクロウはさわるな危険」

クロウを表す言葉が言い得て妙で思わず笑ってしまった。

「お二人さん、はよ行かんと置いて行かれるよ!」

先ほど休憩したばかりで元気なアマリリスが木々の隙間から声を上げる。

そのイントネーションは勇者と一緒にいるであろう関西弁の女子を思い出させた。

はじめは“エルフ族王女”と“獣人族元王女”に“先代勇者メンバー”、“勇者召喚者”というそうそうたる肩書にびくびくとして敬語だったアマリリスも慣れてきたようだ。

最初の出会いが出会いだったが、彼女自身は慣れた人には犬のように懐く性格だったらしい。

地下の牢屋で会ったときは自分以外の命もかかっていたから緊張していたようだ。

いや、慣れていない人に全力で威嚇するところは猫だろうか?

「今行く!……ともかく、リアとクロウには関わらない。それでいいよね?」

アメリアの確認に俺は頷いた。

今のクロウはどこかトゲトゲしくて、俺でも話しかけたくない。

トゲトゲしている今のクロウしか知らないアマリリスはともかく、リアやアメリアは近づかない方がいいだろう。

リアも、俺に話して少しはすっきりしたのだろうが、まだクロウ本人と話すに至っていないことからタイミングを計りかねているのが分かる。

森に入る前には弾んでいたクロウとの会話もなくなってしまっていた。

ウルクを出るときは何かを決心したような様子だったが、今は迷っているようだ。

というか、クロウの不機嫌さに乱されているというのが正しいだろうか。

クロウもリアもこの森に入ってからとても精神が不安定で、俺とアメリアは混乱しっぱなしだった。

「ああ、それでいい」

少なくとも、クロウの不機嫌の理由が分かるまでこのままでいるしかないだろう。

今のクロウの様子はどこか寝起きの俺の妹を思い出させた。

機嫌が悪く、他人のやることなすことすべてが癇に障る。

そんな感じだ。

それから俺たちはほぼ無言のままかなり歩いた。

出てくる魔物のステータスが軒並み迷宮最下層レベルであるのを確認して俺は乾いた笑みを浮かべる。

もしかすると、勇者たちは一人や二人ではなく全滅しているかもしれない。

どうにか生きていてほしいと思うが、現実はそう甘くないのを俺は知っている。

この世界が俺に甘いのならば、サラン団長は生きていたのだろうから。

俺の想定の甘さがまた人を殺す。

「魔物が来ました!!」

俺よりも索敵スキルのレベルが高いアマリリスの声が響く。

俺とアメリアはそれに応えて片手をあげた。

勇者たちが危ないだろうとはいえ、俺たちにとってはハッキリ言って雑魚である。

アメリアの重力魔法に、俺の影魔法、そして先代勇者パーティにも選ばれたクロウと獣人族王女リア。

戦力としては過剰と言ってもいいほどだった。

とはいえ、警戒しないことはない。

「なんだこいつ。ロボットか?」

警戒をする中現れた魔物にただ瞳を瞬かせる。

森の中にあることが不自然な鈍い銀色の装甲を持った、まごうことなきロボットがこちらに攻撃の照準を合わせていた。

人間のように滑らかに動いてはいるが、その中身に人間がいないことはすぐに分かった。

関節部分などには硬そうな装甲が付いているが、人間の急所である心臓部や中心線あたりには逆についていない。

つまり、守らなければいけないのは行動に支障をきたしてしまう部分のみ。

中に生物が入っていればそうはしないだろう。

というか、見るからにこの森で生まれたわけではない人工なのだが、誰が何のために作ったのだろうか。

『世界眼』で視ると、ロボットにステータスがついていることから相当な人物が作ったことはわかる。

遠距離、近距離の両方に対応できるうえに攻撃すべてに麻痺毒が付与され、戦っているうちに精神干渉もしてきて、さらに自己修復機能も搭載されていた。

俺としては自己修復ができなくなるまで倒し続けることができるし、アメリアは『重力魔法』で地面に縛り付けておけば問題はないだろうが、勇者たちがもしこいつと遭遇していたら最悪だ。

そんなロボットだが、ネーミングセンスを除いて作りは悪くない。

そこら辺の魔物くらいならば楽に撃退することができるだろう。

俺たちがそんなロボットに呆然として動きを止めてしまっている間、クロウに関しては興味ないとばかりにその側を通って先に進もうとしていた。

「クロウ様!?」

この森に入って初めてリアからクロウに声をかけた瞬間だった。

だがクロウはその声には反応せず、苛立ちをぶつけるようにロボットが攻撃を開始する前にその頭部を掴み、ぐしゃりと握りつぶした。

怒りに任せたその様子に、結界を張ろうとしたリアは動きを止める。

「いるんだろう、クソババア!出てこい!!」

珍しく声を荒らげて叫ぶクロウを後目に、その手の中でロボットがスキルで修復される。

クロウが素早い動きで空中に描いた何かをロボットに押し付けると、ロボットの動きが完全に沈黙した。

アメリアがそれを見てどこか場違いな感嘆の声を上げる。

アメリアがクロウに『相殺』のスキルを教えてもらっているのは見ていたから少しばかり知識はあるが、ああも心を乱した状態で正確に行使できるような易しいスキルではないはずだが。

「おやおや、我が愚息じゃないか。何十年ぶりの親子の再会だな」

人を食ったような飄々とした声が木々の隙間から聞こえてきた。

俺の予想が正しければその声はクロウの母親のものだろうが、その声は予想よりも若々しい。

というか、幼いという表現が合っているような声音だった。

クロウが森に入ってから苛立っていたのは母親の気配を感じたからだろうか。

母親に会わないためにわざわざ合流地点をずらしたくらいだし。

にしては察知するのが早くないだろうか。

「お前を親だと思ったことはない。そんなことよりもリアにかけた幻術を解け」

え?と反応したのはリア本人だった。

何を言うのかと俺とアメリア、アマリリスも首を傾げる。

リアに幻術をかけられていたのだろうか。

にしては少しおかしかったもののリアの態度はいつもどおりだった。

「おや、気づいたのか。その小娘にかけたものは他のよりも特別製だったんだがね」

その言葉と共にクロウがにらんでいた木の後ろから一人の少女が出てきた。

髪と瞳の配色はクロウと同じだったが、その容姿は驚くほど似ていない。

それに、彼女の姿には獣人族としてあるはずの動物の特徴がなかった。

「人族?」

『世界眼』でステータスを視たアメリアが呆然と呟く。

少女は面白そうにツインテールにした髪を揺らす。

「正解だとも、エルフ族の王女。だが、その礼儀のないやり方は私のように寛大な心を持っていなければただ不快だろうね」

笑みを浮かべながら遠回しにアメリアを非難するその言い方は、完全にその外見年齢と合っていなかった。

アメリアが意味に気付き、謝罪する前にクロウがイライラしたように掴んでいたロボットを少女に向かって投げる。

「とっとと幻術を解いて消えろ、クソババアが」

少女に直撃するかに思えたそのロボットを危なげなくキャッチしたのは少女の後ろから出てきたまた別のロボットだった。

よく見ると攻撃をしてきたロボットとそのロボットは似ている。

どうやらどちらも彼女が作成したものらしい。

「ふむ、いいだろう。私の傑作である“ウサ子十一号”を破壊したご褒美だ」

パチンと少女が指を鳴らすと、糸が切れたようにリアが地面に倒れこんだ。

「リア!?」

近くにいたアメリアがリアを抱き起こした。

「特に異常なし。意識失っとるだけやね」

アマリリスが素早く診断する。

安心してホッと息をつき、少女がいたあたりを見るが、そこには誰もいなかった。

クロウに言われた通り消えたようだ。

だが、このままで終わらないと思ったのは俺だけではないらしい。

その証拠に、クロウの眉間に深い皺が刻まれていた。