軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第138話 ~ヴィクター~

流石に建物の中で戦うのもあれなので中庭に出る。

地面よりも三段ほど高いそこに上がってヴィクターを見たとき、少し驚いた。

先ほどは玉座に隠れていた部分がさらけ出されているのだ。

「ケンタウロス……?」

その姿はまさに半人半獣。

謁見の間では足の蹄が見えていたが、後ろに伸びる馬の胴体は見えなかった。

獣人族領に来てから様々な獣人を見てきたが、こんなにも獣の血が濃い人は初めて見た。

大体は人族の身体に獣らしさが付加されたような体つきだったから、下半身が丸々馬なのは珍しいだろう。

どこから聞きつけたのか、決闘(?)をする頃になると人がたくさん集まりだした。

今までどこにいたのかと聞きたいほどの多さだ。

シンと静まり返った場内の一角、ここだけガヤガヤと騒がしくなる。

ほとんどが兵士だが、中には役人っぽい人もいて、仕事は大丈夫なのかと少し心配になった。

というか、エルフ族領のときといい、決闘ばっかだな。

いや、むしろ血の気が多い獣人族ならともかく、穏やかな性格のエルフ族領で決闘をしたことがおかしいのか。

二階バルコニーからイグサム王とリア、そしてアメリアが出てくると流石の兵士たちも口を閉ざす。

流石獣人族最大国家の兵士といったところか。

練度がレイティス城にいた兵士とは違う。

アメリアの顔を見てもざわめかないというのは珍しい。

「さて、ここに集まってもらったのは、お前たちに勇者召喚者であるアキラ・オダと、城内最強であるヴィクターが対決するのを見届けてもらうためだ」

驚いたことに、この城の中で一番強いのはヴィクターだった。

外見からではむしろデスクに向かって報告書を書いているような印象だったので、意外の一言である。

兵士の中にはヴィクターよりもムキムキで体が大きい男がいたのだが、そいつらよりもヴィクターが強いのか。

やっぱり人は見かけによらないな。

兵士の間からは勇者召喚者という言葉が飛び交っていた。

まあ、俺と勇者たち以外のクラスメイトはいまだにレイティス城にこもったままらしいから、驚くのも無理はないな。

生きているのか死んでいるのかも分からない状態だ。

今回の勇者召喚は失敗だったというのがもっぱらの噂だった。

「これは私闘にあらず、獣人族領ウルク王イグサム・ラグーンの名において行われる正真正銘の決闘である。双方、互いの全力で臨んでほしい」

ヴィクターが自分の武器である戦斧を肩に担ぎ、俺は短刀になった"夜刀神"を逆手にもって両手に構える。

「では、始め!」

二階からイグサム王がそう言った瞬間、蹄を鳴らしてヴィクターが一瞬で間合いを詰め、肩に担いだ戦斧を振り下ろした。

「おお、あぶねぇな」

まあ、余裕で避けるけど。

外野が歓声を上げた。

「おお!あのスピードを避けるか!!」

「俺でもあれは避けきれたかどうか……」

一撃を避けた後、距離をとっての睨み合いが続く。

円を描くようにして間合いを保ったまま場外ギリギリをすり足で歩いた。

「……暗殺者が正面戦闘など愚かなことをすると思ったが、どうやらそうでもないらしい」

呟くようにヴィクターが言う。

突然話始めるからびっくりした。

俺は答えずに相手の出方を待つ。

「だが……これはどうだ!!」

先ほどよりもスピードを上げて振り下ろされた戦斧を半身にして避けるが、それを読んでいたように追随してきた。

「よっと」

胴を真っ二つにしようと動く戦斧をジャンプで避けて、振り切られた戦斧の上に着地する。

「なっ!?」

「ほっ!!」

短刀を首に向けて振るが、ヴィクターは戦斧を上に打ち上げてかわした。

俺は空中で回転して少し離れた場所に着地する。

そして息をつく間もなく地面を蹴ってヴィクターに斬りかかった。

「おぉ!!軽業師のような身のこなしだな!」

「なんて素早い動きだ!!」

「俺見えなかった」

歓声が上がる中、二振りの短刀と戦斧が交わる。

明らかに俺の方が体型的に力は弱そうなのに、鍔競り合いで押し勝っているのは俺だった。

短刀に吹き飛ばされた戦斧が空高く舞い、地面に突き刺さる。

「そ、それまで!!」

イグサム王の声で尻もちをついたヴィクターに突き付けていた短刀を引いた。

二階のバルコニーを見上げると、アメリアと目が合った。

よく見ると、口パクで何か言っている。

あ・そ・び・す・ぎ?

遊びすぎか。

確かに、獣人族最大国家最強と聞いて、一瞬で終わらせるのも面白くないとは思ったが、見破られていたとは、流石だな。

「おい、立てるか?」

いつまで経っても尻もちをついたまま立ち上がらないヴィクターに手を差し出した。

人族にやられることがそんなにあり得ないのか、ずっと何かを呟いている。

「私に触るな!」

俺が差し出した手はパシリとはじかれた。

「人族の分際で触るな!なぜお前が!お前などが!!」

血走った目で睨みつけられる。

決闘前とは違い、どこか冷静さを欠いたような様子に首を傾げる。

何か気に障ることをしたか?

なぜか喚き散らしているヴィクターは周りにいた兵士たちの手によって城内に連れていかれた。

俺の周りにそれ以外の兵士たちが集まる。

すると、一人の兵士がヴィクターの代わりに謝ってきた。

「悪いな。ヴィクターさん、いい人なんだが、昔人族絡みでなんかあったらしくて人族が触れそうになるといつもああなるんだ。触りさえしなければ落ち着ていると思うから、また声かけてやってくれや」

「ああ。分かった」

意外と慕われているらしい。

まあ、何かあったのならしょうがないか。

明らかに俺個人に対する恨みつらみのような気がしたが、考えないことにした。