軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第105話 〜怖いのは〜

「どうやら奴は魔族と何らかの取引をしているようだ」

俺は顔を上げる。

俺が知っている魔族はアウルムとマヒロだけだが、劣等種やら底辺やら色々と言われた気がする。

だから他の種族にも同じような態度かと思っていたが、違うのだろうか。

「そして、知り合いのウルのギルド職員に問い合せたところ、グラムが数日前にここの迷宮に潜っていたことが分かった」

なるほど、それは怪しいな。

俺は納得する。

強い傭兵を雇っているなら自分が強くなる必要はない。

というか、話を聞いている限り絵に描いたような悪党らしいからどうせ動かずに丸々太っているのだろう。

こういう輩の体型は相場が決まっている。

……そういえば、レイティスの王様は逆に痩せていたな。ラスボスっぽいから痩せているのだろうか?

「そのギルド職員曰く、グラムは大きな外套にすっぽりと身を包んで居たとか。迷宮に入る前にギルドでドッグタグを見せなければならないからそれでグラムだと分かったが、それがなかったら誰か分からない格好だったそうだ」

明らかに怪しいな。

俺は思わず苦笑した。

『もしかすると魔物避けの外套かもしれんな』

肩で夜がそう言った。

クロウに集まっていた視線が夜に移る。

「なんだそれは」

『強い魔物ならまだしも、弱い魔物の中には魔力さえ感知できないような奴がいて、たまに魔族と人族を間違えて襲ってきたりするのだ。魔族がそんな弱いやつに後れをとることはないが、毎回襲われることを鬱陶しがったマヒロが作った外套だ。内側に魔法陣が織り込まれていて、迷宮最下層くらいの弱い魔物なら避けていく』

クロウの質問に夜がよどみなく答える。

マヒロが作った外套なら効果は抜群だろうな。

というか、迷宮最下層の魔物でもまだ弱いのか。

なら魔族領にいる魔物はさらに強いのだろうか。

「グラムで決まりだな」

クロウが席を立った。

話は終わりだとばかりの態度だ。

さっさとどこかへ行ってしまうクロウを見送って、俺は次に勇者に目を向ける。

「で、お前らはこれからどうするんだ?」

勇者は俺から声をかけられると思わなかったのか、驚いて目を瞬かせている。

そんな勇者に、よく俺に話しかけていた男子が助け船を出した。

「俺たちは魔王を倒すことを最終目標にしてるよ」

その答えに夜は鼻で笑った。

『お前ら如きが魔王様を倒す?片腹痛いわ!』

その答えが気に入らないのか、頭に猿、肩に猫を乗せている男子が額に青筋を浮かべた。

「はぁ?さっきから聞いてりゃあなんだよこの猫。お前はどっちの味方なわけ?」

「そーそー!朝比奈君にも突っかかっとったし、なんなん?」

関西弁女子も便乗する。

先程まで静かだったのは見るからに怖いクロウが居たからか。

知った顔が多くなって緊張も解けたみたいだ。

『俺は主殿とアメリア嬢の味方だ!主殿が魔族の二番手に敵わなかったのに、貴様らが魔王様に敵うわけなかろうが!』

「それは分かんないぞ!」

「あたしたちも強くなったんよ!」

どれくらい強くなったのか見たいところだが、騎士っぽい格好をした、女のような男子がそろそろ泣きそうだからやめておこうか。

涙目の姿を見ていると、なおさら男の娘という言葉が浮かんでくる。

「お前ら野宿したいのか?」

素朴な疑問を口にする京介に二人は口を閉ざした。

「魔王を倒すと言っても、力をつけてからだ。今のままでは敵わないことはよく分かっている。だから迷宮があり、なおかつ腕のいい鍛冶師がいると聞いたこの街に来た」

迷宮であんなことがあったからしばらくは迷宮は封鎖されるだろうがな。

無駄足だったわけだ。

クロウも、あの調子では依頼は受けないだろう。

「だが迷宮が使えない今、冒険者ギルドの依頼も偏るだろうし、金にも困ってはいない」

慎重に言葉を選びながら勇者が言う。

いちいち突っ込もうとする夜の口を塞ぎながら、俺はそれを聞いていた。

「だから、朝比奈君がお前について行くなら俺たちもそれに同行したいのだが」

「断る」

思わず即答してしまう。

予想通りの答えだったのか、勇者はなんの反応も示さない。

「京介もだ。一緒に戦うのではなく、守られる対象はいらない。治癒師も今のところ必要ないからな」

守りながらでは魔族には勝てない。

唇をかんで下を向く京介を一瞥して、俺は夜を机の上に下ろして席を立った。

「クロウに聞きたいことがある。少し席を離れるから、その間によく考えろ。それに、俺を説得するつもりなら筋違いだ」

俺はアメリアの頭に手を置いた。

アメリアの体がピクリと跳ねる。

「俺はアメリアの為に戦う。アメリアが言うなら俺も文句は言わない。説得するならこっちにしろ」

頼むなとアメリアに囁いて、俺は部屋を出た。

その際に勇者と京介がこちらを見ていたが、俺は見向きもしなかった。

場を離れる口実ではなく、本当に聞きたいことがあった俺はクロウを探す。

そして、家の隣にある鍛冶場に行き着いた。

クロウは色々な道具を見て何かを考えている。

「クロウ」

声をかけると、のろのろとクロウはこちらを見た。

「ああ、お前か」

俺は戸口に背を預けてクロウを見た。

月明かりがちょうどクロウを照らしている。

明かりもつけずに何を考えているのか知らないが、とりあえず要件を済ませよう。

「お前に聞きたいことがある」

クロウは顔を顰める。

「悪いが今は――」

「お前が一番怖いと思うことはなんだ?」

言葉を途中で遮って俺が言うと、ようやくクロウの目の焦点があった。

戸惑いの視線を俺に向ける。

「何を言っている?」

「興味だ。お前が一番怖いと思うことはなんだ?」

本当に、ただの興味だ。

でも、クロウは俺と考えていることが同じだと思った。

だから聞いてみたのだ。

クロウなら俺の心に宿ったこの感情の意味が分かるだろう。

「……俺がこの世で一番怖いと思うのは、」

クロウは視線を俺の背後の月に向けた。

いつもの鋭い視線ではなく、弱々しいものだった。

「伸ばした手が、届かないことだ」