軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第99話 〜死〜

最初に生成された魔法を魔法陣ごと『影魔法』が喰らうと、俺は地面にへたりこんだ。

『主殿!?』

本当に、『影魔法』は魔力の消耗が激しい。

ただ影で相手を刺すくらいなら連発は可能だが、魔族相手に効かないし、かといって技を連発するとなると、後々体が動かない。

動けなくならないようにセーブしていたというのに、夜が自分を犠牲にしようとするから、思わず動いてしまった。

「魔王様から聞いてはいたが、ここまで成長していたとはな。まさか魔法陣ごと喰われるとは思ってもみなかった。まぁでも、さっきので魔力もすっからかんだろうし、トドメといこうか」

マヒロはパチンと指を鳴らした。

魔法陣を生成するときといい、なにか音を出さないとできないのか。

何が起きるのかとじっとマヒロを見て身構えるが、何も起きない。

『……主殿っ!!!』

何かを感じたのか、俺の後ろを見た夜が目を見開く。

それを見て俺も振り返ろうとしたが、途中で動きが止まった。

「なんっ!……え?」

『主殿!!』

口から赤い液体が流れ落ち、地面にシミを作る。

あたりに血の臭いが充満した。

魔力が切れたことで『危機察知』も役立たずになったらしい。

それとも、危機の対象に入ってなかったからだろうか。

「愛する人に殺されるなんて、本望だろ?お前は魔王様がこの世界に復讐するにあたって障害になると判断した。表舞台からさっさと降りろ」

俺の腹から細い腕が突き出ている。

背中から刺されて体を貫通しているのだ。

「あ、ああああああっ!!」

首だけ回して後ろを見ると、アメリアが恐怖に染まった目で、俺に刺した自分の手を見ていた。

「どうして体が勝手にっ!!」

アメリアの体が赤く発光している。

操られているのか。

アメリアを吹き飛ばした魔法陣がおそらくそうだったのだろう。

「アメ、リア……。ゲホッ!」

出血が酷い。

体に力が入らなくなり、アメリアが腕を引き抜くと同時に地面に倒れ込んだ。

体から命そのものが抜けていっている気がする。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

アメリアの悲鳴が反響する。

悲痛な叫び声に、遠のき始めていた意識が戻ってきた。

「あーあ、愛する人を手にかけるとか、お前ヤンデレってやつか?」

明らかに自分がそう仕組んだくせに、飄々と言ってのけるマヒロに、本気で殺意が湧いた。

『あ、主殿?』

痛みよりも寒さを感じる中で、俺は再びゆっくりと起き上がる。

顔を上げると、マヒロが目を見開いていた。

アホ毛がピンッと立つ。

「……お前、本当に人族か?生命力は魔族並だな」

俺はマヒロに構わず、呆然としているアメリアに向いた。

「……アメリア、俺は大丈夫だ。気にするな」

「あ、アキラ……」

涙で濡れそぼった頬を拭ってやる。

手についていたのか、アメリアの頬に血がついてしまった。

かくんと膝が曲がって、アメリアにもたれかかる。

アメリアは少し体勢を崩したが堪えてくれる。

寒い。

今も血が流れ続けている。

起き上がるときに力んだせいか、先ほどよりも景気よく血が出ていた。

でも、倒れたらアメリアは自分を責めるだろうから、平気なところを見せていないと。

「あれだ、台所にいる黒い生物並のしぶとさだな」

顎に手を当てて考え込んでいたマヒロがそう言って、再び指を鳴らした。

アメリアの顔が恐怖に歪む。

「い、いや!ダメっ!」

「『体傀儡』は仕込むのに時間がかかるけど、同士討ちさせるにはいい。とくに、お前らみたいなリア充を殺すにはちょうどいいだろう?」

再びアメリアの手が俺を貫いた。

ガクガクと体が震える。

アメリアが震えているのか、俺が震えているのか、分からない。

「ぐっ……!!」

本当に、寒い。

他の者の手にかかるくらいなら、一層のことアメリアの手で死にたいとは、たしかに前に思ったことがある。

だが、アメリアの泣いている顔を見て、過去の自分を殴りたい。

サラン団長が死んだとき、俺がどう思ったか。

父親がいなくなって途方に暮れたとき、どう思ったか。

俺は忘れていた。

死んでいく人よりも、残される人の方が絶対に辛い。

アメリアに、そんな思いをさせるわけにはいかない。

それに、俺は自分に誓ったことを何一つ達成出来ていない。

寒い。

俺は、死ねない。

寒い。

マヒロを倒す。

寒い。

アメリアは連れていかせない。

寒い。

サラン団長の仇をとる。

寒い。

――寒い。

体から力が抜けた。

アメリアが絶叫している。

夜は呆然とし、マヒロは口の端を上げて嗤っていた。

死ねない。

《マスターの損傷が許容値を越えました。『影魔法』を強制起動します。モード、“治癒”》

口が勝手に動く。

なんだ、これは。

俺は抵抗するように体を捩ろうとしたが、ピクリとも動かなかった。

足元で影が蠢き、俺を包む。

《マスターの魔力では不足することを確認。影魔法に保存された魔力から必要量を徴収します》

不思議と、だんだん体が軽くなっていっている。

寒さも薄れた。

痛みさえも感じない。

何が起きているかは分からないが、『影魔法』が何らかの形で自ら動いているということが分かった。

《……治癒完了。これより敵の掃討作業へ移行します》

二箇所に穴が空いていたはずの腹が完全に治っている。

体を覆っていた影が解け、腕や足に巻きついた。

《敵を認識。魔族マヒロ・アベ。職業、魔工師》

体が勝手に動く。

いや、手足に巻きついた影魔法が勝手に動かしている。

先ほどのアメリアの気持ちが痛いほどよく分かった。

勝手に体が動くというのはとても気持ちが悪い。