軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 最高のデート

ベルガー渓谷の大型魔獣が掃討できたあと、討伐記念だと言いパーカーは聖奈をデートに誘った。

王都の見学などは殆どしたことがないとぼやいていた聖奈は興味を持ったようだ。

学園時代、オスカー達と授業の帰りに立ち寄ったゴッドブレスストリート。王都の東寄りにあり商業施設の多い場所は若者の町と呼ばれている。折角だから賑やかな場所に連れていきたいと言えば、聖奈は微笑んで承諾した。

パーカーにとっても懐かしい場所で、平民の人々が手が届く値段設定の店が立ち並んでいる。手頃な雑貨屋に駄菓子屋。そして本屋もちょっと砕けた内容のものが取り扱っている若者に人気のデートコースだ。

聖奈は二人で出かけると知ると、とても恥ずかしがって『えーーーパーカー様と二人でおしゃれなカフェなんて入ったら、私が他のご令嬢に恨まれちゃいます』と言いながら怖々ついて来た。

普段は大胆な聖奈が少し下町に怯えている姿はとても可愛く見えて、パーカーの普段あまり動かない表情筋がついつい緩んで吹き出してしまう。

「セイナ様!そんなに周りの目を気にしないで!貴族は殆ど居ないし、周りも皆デートでお互いしか見ていないですよ」

いつもはジェラルドの役目であるが、パーカーも一度くらい羽を伸ばし、素の聖奈と向き合ってみたかった。

辻馬車を降りて少し歩いた先のホワイトリボンという店に入る。

まずは雑貨屋だ。

そこでは聖奈が自分では選ばないというデザインのバッグをあえてプレゼントした。そしてカチューシャを洋服に合わせて買ってあげる。会計のそばにあったぬいぐるみを愛おしそうに眺める聖奈に『その子も連れて帰ってあげよう』と手渡すことも忘れない。

「え!私払います!」と言う彼女の手をそっと押さえて

「ここは格好つけさせて」と言えば真っ赤に頬を染めた。

その次に王都の中でも新進気鋭のデザイナーがデザインする傘屋だ。

結菜は絶対に日傘を忘れないが聖奈はそこまで拘りがないらしい。

しかし、日傘はレディの嗜みでもあるからぜひにとパーカーは一緒に選ぶ。

聖奈も日傘は欲しかった!と言って喜び、薄い青に黒いリボンでフリルを幾重にもつけた割と派手目なデザインを購入した。

「パーカー様の黒髪となんだか似ていますね」聖奈が言うとパーカーは今まで何度も聞いていたセリフでも、人が違えば感じ方も違うのだなとじんわり胸を熱くした。

そしてクライマックスは胃袋を掴むである。

ここに聖女が喜ぶであろう食べ物があると侍女達から教えてもらったのだ。

聖奈に「甘くて、クリームとアイスが載っていて果物も載っている欲張りなデザートがあるんです」そう言うと『食べてみたいですが、私のこの格好で行っても大丈夫ですか?』と困った顔をした。

パーカーは自分が学生時代やってみたかったデートコースを今日は思い切って再現してみた。だから楽しんで!というと聖奈はニコリと微笑んだ。

洋服は勿論プレゼント。お店も王室御用達ではなく、気軽に通っていた値段のお店。

そして聖奈は案の定『パフェ』という食べ物を見せると目を輝かせた。

「いただきまーす!」二人でお行儀悪く果物を交換したり、クリームのたくさん載ったパフェを大きな口で頬張ったり、会話も神の国のことを話したりパーカーはとても充実した時間を過ごした。

聖奈はいつもより饒舌になり、自分の家族のことや、学生の時に『テニス』という球技をしていたことを話してくれた。学園生活が充実していたから、体のことを学べる職場に興味を持ったという話も興味深かった。そして国に恋人がいたことも……どうりで自分たちがアプローチをしていても振り向いてもらえないはずだと何となく腑に落ちた。

「パーカー様って思っていたよりずっと気さくな方ですね。私勘違いしていました」

聖奈が帰りの馬車の中嬉しそうに話すと、パーカーは珍しく破顔した。

「私の顔ってまあまあ綺麗でしょう?」

「確かに」聖奈はクスクス笑う。

「でも実は三人の中で一番大雑把で、虫とかも平気で、体を鍛えたり、動かすことが好きなんですよ」

「えー!!意外です」

「こういう機会がないと話せませんからね」

聖奈は確かにそうかもしれないな……と思い相槌をうつ。

「貴女にとって私は神の国の恋人とは程遠いかもしれませんが、どうか今日をきっかけにできたらって思います」

優しい眼差しと少しの沈黙がこの日は嫌な感じではなかった。

聖奈はお礼を言うと王宮の自室に向かって帰っていった。

部屋を開けると何故か結菜がソファで本を読みながら聖奈を待ち受けていた。

そして聖奈の姿を見ると

「なるほど……現世の時の女優たちって凄いわね。聖奈今度から思い切って路線変更してみたら?」

と割と真面目な顔をして声をかけた。

聖奈はその言葉に大きくハァ〜〜〜とため息をつくと苦笑いをした。

「路線変更なんて出来るわけないよ。ルーレンたちが『お願い断らないで!』と目から光線出す勢いでお願いしてくるからデートしてきたけれど、いやはや……やっぱり、この国の男性は私たちと感覚は違うかもね」苦笑いした聖奈はフリルのついたカチューシャを外し、コッテリとしたブラウスのフリルを翻しながら耳に下がっているイヤリングや指輪を外した。

その大ぶりな石と台座の豪華さは湯屋を営んでいた『○○ばあば』の所持品のようだ。

「ごめんね。私は年齢的に本気でこれはもう 仮(・) 装(・) の域だから難しくて……気持ちが削られちゃうからね。ドラマで女優さんが、高校生役とか原宿のギャルの役とかまあまあの年齢でもしてることあるけどあれってすごい割り切りだよね」

結菜は大真面目に聖奈を労っているようだ。

聖奈はパーカーから贈られたドレスを着てデートに行ったが、あの異世界の小説に出てくる『婚約者から贈られたドレス』という一文。今までは大して気にも留めていなかったが、実際は大変度胸が試されるものだと痛感した。

聖奈は人並みにオシャレを楽しむタイプだし、可愛いワンピースも嫌いではない。

だが、ウランバルブ王国で現在流行っている形は膝下の着丈のスカートをパニエでボリュームアップしたものだ。

上半身はレースふんだんに、リボン増し増し。偶に年齢関係なく可愛く着ていらっしゃる方も見受けられるが、日本で『私パニエ持ってるよ!』と言う普段着の方は殆どいらっしゃらないと思う。聖奈ももちろんこの『ゴージャス』な装いに抵抗があった。

ウエディングドレスだと思って着たら意外とイケるかも……と自分を誤魔化してみたが、やっぱりこの今のデザインは思いっきりロリータ系にしか見えない。

高校生時代の友人でロリータファッションにハマっていた子が、お隣のおばさまに『あらユノちゃんコスプレ?』と聞かれて『普段着です』と返し続けていたことが脳内に蘇る。

二六歳を超えてこのファッションにチャレンジするとは思わなかったと聖奈が告白すると、結菜は『四十歳手前でチャレンジする身にもなってよ。我儘?結構ですよ。無理だよ』と半泣きになっていた。

王都の中心地を見て回れたのはとても楽しかったがパーカーの女性に対しての思い込みが激しすぎて聖奈は終始引き攣った笑みを浮かべていた。

雑貨屋に入った時も趣味と真逆の物を次々と提案された。

(自分で会計して明日交換を頼もう!)と思っていたら、パーカーが全て支払ってくれた。………………残念。

『連れて帰って』と言われて持たされたクマのぬいぐるみは、やけにリアルで聖奈は(この世界のぬいぐるみは木彫りのクマとかと同じ感覚なのかな?目つきが鋭いぜ)と目が離せなかっただけなのにプレゼントされてしまう。

帰りの馬車で『遠慮しないで名前つけてあげなよ』と言われて驚愕する。

聖奈も人並みにぬいぐるみは持っていたが名前などつけたことがないからだ。

「……あーーえっと、し、 知床(しれとこ) ……とか?」

と言うと

「可愛い名前だね」とパーカーは嬉しそうに笑った。

今更『北海道の地名です……』と言えずに恥ずかしくて真っ赤になってしまった。

その話をすると結菜は小さな体を震わせて枕に顔を押し付けている。

笑いを噛み殺しているのがわかって聖奈はスンとした顔になったが、九歳年上の結菜がこのデートをさせられたら、気持ちが削られて大変苦しい思いをしたかもしれないとも思う。

王家の目論見は分かるのだが、この国の男子はどうも、女性の意見をちゃんと聞く能力に問題があるようだ。

結菜も聖奈も本当にこれに関してはずっと苦戦を強いられている。

「まあ、パフェは美味しかったからすごくそこは満足したんだけどね。氷菓があるって分かっただけでも日本のことを思い出して感激したよ」

聖奈は『また食べにいきたいから今度行こうよ』とノートに店の名前を書き込んだ。

「次の時は私がオスカー殿下を引き受けて頑張るよ。エミリーたちも王家から色々言われているみたいだしね」

結菜は決意が固まったのか、涙目でウンウンと頷いている。

良い暮らしをさせてもらっているが故に断れないお付き合いもあるよね……と二人の聖女は相手に失礼がないようには最低限の付き合いは大切にしているのだ。

お見合いとしての内容は全てお断りさせてもらっているが『交流』と言われてしまうと、このくらいは……と五回のうち一度くらいは相手に合わせている。

「早く討伐終わらせて日本に戻ろうね」

聖奈が結菜に言うと結菜もニッコリ首肯するのであった。