作品タイトル不明
聖奈と結菜と可愛い悪役令嬢たち
聖奈と結菜はウランバルブ国の女性たちと仲良くなりたいと常々思っていたので、討伐軍の女性兵士や、侍女たちとは交流を深めていった。話してみればみんな表情豊かで、日本人よりフランクで、お互いいつまでも人見知り……ということもない。とても付き合いやすい人々であった
だが残念ながら社交界の令嬢たちとはどうしても相容れない。
なんでかしら……と考えたとき結菜が一つの結論を出した。それは彼女たちとの目標と自分たちとの目標が大きくズレていたからだ。
聖女として召喚された二人はこの魔獣討伐を早く終わらせると共に国民に平和な日常を取り戻してあげたいと願っている。ところが令嬢たちは『王子とどちらが結婚するの?』『私は結婚できるのかしら?』『平民出身の聖女たちが素敵な男性を斡旋されているのってどうなの?』『優遇されているのってなんだか狡いわ』そう考えているのだ。
貴女の国の人々が困っているんだよ?と言いたいが『貴族として』という考えのもと領地の民を憂い、自分を犠牲にしてでも……とそこまで見通している令嬢はほんの一握りしか居ないのだと気がついた。
だから、国の政治が分かれば分かるほど聖女二人もなんとなく社交界の令嬢たちの頭の軽さに苛立ちを覚えた。
聖奈たちは彼女たちとその周辺の貴族男子に対してほんの少しの嫌味を込めて『婚活戦士』と呼ぶようになった。
渾名をつけると心なしか気が楽になるような気がする。
討伐優先の意識の人々と聖女たちは同志。
対して婚活戦士として日々奮闘していらっしゃる面々は常に違う戦場で戦っている。(本人たちは大真面目だが、聖女たちは同じステージに絶対に立ちたくない)
政治が絡んでいると言えばそうかもしれない。でもシンプルに考えて自分のことにしかベクトルが向いていない人たちと国の未来についてなんて語り合えないというのが結論だ。
「今日もビビアンちゃんグループが私に突っかかってきたんだよね。どうしよう。最初は可愛いお人形みたいな女の子だと思っていたけど、最近は凄く嫌味を言ってくるし」
「集団で押しかけてくるようになったわね。キャロライン伯爵令嬢もすごい圧をかけてくるわよ。『社交界は平民出身のお二人にはご負担でしょう?なのに王宮にお住まいになるのはどうしてですか?もし良ければ我が家が家をご提供しても良いのですけど』って言われたの。出来るならそうしたいくらいだけど貴女のお金じゃないでしょう?使うのは血税ですよね?って思っちゃった。そんなにジェラルド様と距離を取らせたいの?っ言い返そうかと思ったけど、怒って実践しそうで言えなかったわ」
結菜は肩を揉みながらはあぁ〜と大きく息を吐き言葉を続ける。
「メイナード様は自分では手を下したくないみたいで、遠回しに色々してくるのよね。すごくカッコいい男の人を王宮に送り込んできたり(だけど何故か若手のホスト風でどう考えても相手にしたくない玄人風)、陛下にあれこれ言ってオスカー殿下を遠ざけようと画策しているみたい」
「んん?!よく考えたらそれはありがたいわよね!!」聖奈が一瞬嬉しそうにパチンと指を鳴らす。
「だけどやり方が下手くそすぎて、オスカー殿下が気がついちゃったの。そのあとはムキになって逆効果よ」
「下手くそかーーーー!!」聖奈は盛大に白目を剥いた。
ウランバルブ王国の令嬢たちは本当に単純すぎて困る!と聖奈が違う方向に怒り出したので結菜は宥めた。
「全員に好かれないのは世の常だけど、国を救いに来ているのだから、嫌な態度で接するのはやめて欲しいよね。せめてこの令嬢様たちの誤解が解ければもう少し私たちも暮らしやすくなるんじゃないかと思うんだけどどう思う?」と。
「そうね。私たち婚活でこの国に来ているわけじゃないんだから。婚活戦士の彼女たちから敵視されているのは違うと思う」
「改善できるかしら?」
「話し合ってみるのも手だと思うけど?」
うーんと聖奈が腕組みすると結菜は『婚活戦士の殿下たちに頼むのは絶対ダメだから違うところから頼みましょう』と提案してきた。
(冷静になるとオスカー殿下たちは婚活戦士ではなく討伐軍戦士なのだがそれは横に置いておいてもらいたい)
こうして聖奈たちは討伐軍で仲が良くなってきたウィリアム副司令官を通じてディケンズ総司令官に相談することにした。
総司令官は唯一聖女たちに媚びたり、おべっかを使わない無愛想な男性なので、逆に信用ができる。
それに確実に彼らは婚活戦士ではないからだ。
話してみるとディケンズ総司令官は物分かりの良い頭の切れる男であった。
笑顔とは縁がなさそうだが一を話して十を理解するタイプの有能さはすぐにわかる。取り留めのない女の説明にも冷静になって耳を傾けてくれたのはありがたかった。
「貴族の令嬢は基本的に家と家の狭い世界で生きている人たちですから。ですが、教えてあげれば理解できないと言うわけでもないでしょう。良ければ聖女様たちの苦労や、思いを話す機会を持ちませんか?そうすれば態度に少しは改善が見られるのではありませんか?彼女たちは聖女様たちの目的を理解していないからあのように浅慮な行動をするんでしょう」
(浅慮って言っちゃったよ)と聖奈が引いた顔をしていてもディケンズはどこ吹く風といった雰囲気で冷静に言う。
知ってもらう大切さを考えて、結菜たちはこの提案に乗ることにした。
招待状は侍女たちに相談し、より多くの家へと送った。
その結果、説明会当日。自分たちの予想より令嬢たちの参加人数は多かった。
人が集まらず気落ちしてはいけないとウィリアム副司令官は気を遣って話してくれた。
「これに参加するということは少なからず、聖女たちのことを理解しようとしていますよ、という意思表示であるものの、『私たちは王宮に押しかけ責め立てた悪役令嬢です』と言っているのと同義かと取られかねません。皆様参加を断る可能性は高い」
だが、貴族の令嬢たちは王宮のその会議室が満員近くになるくらいは集まった。
ディケンズ総司令官は会場を見渡しながら
「思ったより令嬢たちの関心度は高いようです。ユイナ殿、どのように話されますか?」と胸元までの小柄な女性に目を向けた。
「大丈夫です。分かり合えると信じてお話しいたします」大きく頷くと結菜は演台へと進み出た。
結菜は聖女を代表して令嬢たちに礼を尽くして討伐のことをしっかりと話した。
ウィリアム副司令官は日本という国の話を聞いた時不覚にも目頭が熱くなった。
改めて思うに、彼女たちは平和で命の危険などほとんどない世界からここにやってきたのだ。しかも十分に豊かな生活で便利な道具にも囲まれており、家族もいた。
満足しているその世界からウランバルブ王国に転移したとき、全てを失った状態で今は国のために体も心も捧げてくれている……(この少女たちは令嬢たちより遥かに尊いのでは)そう感じられた。
聖奈は結菜のプレゼン能力に改めて舌を巻いた。
そしてこの気持ちが多くの少女たちに届くといいなと改めて思う。
きっとこの国を離れる時間も間も無く訪れるだろう。だが、より多くの国民に理解し合えたと思いながら“さよなら“を言いたいものだと実感する。
「このように討伐は決して楽なものではありませんが、貴女達の大切な領地の民は今も最前線で戦っていることを忘れてはいけないと思います。私は心から国の復興を祈っていますから。残すところこの国に滞在する期間ももう少しでしょう。皆様もどうかこの討伐のことを自分ごととして捉えていただけたらと私たちは思います。何故ならこの国に住むならば貴女たちのお一人お一人が未来を担う人間だから。それに生まれてくる次の代のお子様たちにも伝えていっていただきたいことだからです」
そう締めくくると令嬢達の中には感動したように目を潤ませる者たちがいく人も見受けられた。
討伐の苦しい戦いを男たちと共に聖女たちは行っている。それを褒め称えて欲しいわけではない。理解して、国の行く末を一緒に盛り立てていこうじゃないかという提案だ。
総司令官は『この女中々やるじゃないか』と結菜へ向ける目線が少し柔らかくなった。
令嬢たちから拍手が湧き起こると結菜は丁寧なお辞儀をし、演台を降りた。
聖奈は非常に感動したので出入り口で令嬢たちを見送ろうと決意した。令嬢たちも熱に浮かされたように結菜に握手を求めている。
自分にもできることがあるはず……聖奈はそう思い先頭に進み出た。
「本日はご足労いただきありがとうございました。ここに来るのに勇気も必要でしたでしょう。良ければ討伐の魔獣はお見せできませんが雰囲気だけでも」
そう言って自分のいつも持ち歩いているナップザックの中から、毛むくじゃらの蜜柑色の棒のようなものを取り出した。
「黄土魔猿の尻尾でございます。このような機会じゃないと中々皆様触る機会もありませんでしょう?良かったらどうぞ」
そう言い終わらないうちに、ぎゃーーーーっと令嬢らしからぬ大声が会議場に響き渡った。
毛の生えた生き物はペットの犬や猫しか見たことのない令嬢たちにはその不気味な体の一部は衝撃だった。
感動のフィナーレを迎えたはずの会議室は聖奈の持ち出した猿の尻尾(ちぎれて干からびたもの)により大騒動となる。転びながら会議室から逃げ出す令嬢たちに侍女たちや護衛たちも加わり一時混乱を極めた。
結菜とウィリアムは聖奈の謎の行動に呆気に取られて瞬きを忘れてしまったほどだ。
ディケンズ総司令官だけは『ふむ、やはり成人前の女性たちには刺激が強すぎたようですね』とシラッとした態度のまま立っている。
聖奈は情に厚い、日本人の中でも情熱的なタイプであるが、相手の心を推し量れないことがあるらしい。
恐怖に怯え、ドタドタと走り回る令嬢たちを見ながら聖奈は『え?え?もう死んでる猿なのに怖いの?』とトンチンカンな声を漏らしている。
結菜は『あちゃー』と額に手を当てながら聖奈にかける言葉を探すのであった。