軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

思った通りにならない(前編)

お茶会から三週間後。

夜会の会場は皆かつてないほどの熱気で溢れていた。

夜会を好まないと噂の聖女たちも今日は出席している。今宵は聖女に称号の授与と、褒賞が与えられる日だからだ。

男子のいる家では『聖女様の夫となれば三代は家が安泰。心して聖女様たちを落とせよ』と期待(?)を込めて息子を飾り立てている。

出会いを封印されていた男女が二年ぶりに全力で相手を探す会が今夜だ。

イベントの趣旨はもちろんのこと、今日は気合の入り方がまるで違う。

聖女を射止めてくれたら家としては万々歳。家にプラスがある家の令嬢を射止めても万々歳。年齢的に焦っている令嬢を落とすことは容易であろうと男性陣は強気でこの夜会に挑んでいると思われる。

多くの男たちは前向きな考えで……正直いえば傲慢な考えでその場に立っていた。

『男に賞味期限はない。女たちには気の毒だが今夜はさぞかし必死だろう。まあ優しく挨拶を交わし、その中からゆっくり選んでいくとするか』と上から目線で参加しているのが透けて見える。

そういう令息は誰もエスコートせず会場に入り、友人たちと固まって談笑していた。彼らはいかにも品定めをしているようで、気の弱い令嬢は俯いてしまい顔色も悪い。

令嬢たちの入場には差が出ていた。

国からの『婚約を見送るように』という御触れがあっても、学園時代からの愛を育み続けた者たち。要するに婚約という面だった形は取らなかったが、縁が内々に結ばれている男女は、パートナー同伴で入場する。

男女で現れた者は『国の規制はありましたが私たちは相手が決まっています』と宣言している状態だ。

よりわかりやすくするためだろう。お揃いのカラーの物を身に纏ったり、目立つ装飾品をお揃いにしたりと工夫が見られた。

逆に兄弟や親がエスコートをしている令嬢は『今日は私はお相手を探しております』ということだ。

年頃の令嬢はまだ良いが、この二年で更に条件が悪くなった娘をもつ親の表情はかなり固い。

いつもより飾り立てている男たちを見ながら、メイナードは『発情期の孔雀みたい』と少し冷静な気持ちで眺めていた。

落ち着いたドレスやタキシード。流行りを無闇に取り入れていない人たちは久しぶりの夜会を目一杯楽しんでいるのがよく分かる。

エスコートを受けて入場した令嬢、令息たちは絆が深く、お互いしか見ていない。必要以上に着飾ることも不要であり、より相手を尊重するコーディネートはまるで相思相愛。

二年間の氷河期のような期間も愛を育み、そして満を持して婚約に進んでいくカップルと、婚約者探しの令嬢の明暗があまりに激しい。

ビビアンの親友は幼馴染のエスコートで入場したらしく、二人の仲睦まじい様子を見て『凄く羨ましい』と言っていた。

単身の参加者は『私たちはお相手を探している』と家の看板を背負っているのだ。

かつてないほどのプレッシャーに年頃の令嬢令息の表情は固い。

キャロラインとビビアンは多くの令嬢を見ながら今夜の聖女たちの動向を見守っていた。今夜は多くの人々の人生が一斉に動き出す予感がする。

お茶会から聖女たちと話し合った結果、王宮突撃隊(?)皆で相談し合って決めたことがある。

その行いは令嬢らしからぬ振る舞いになるかもしれないがすでに覚悟は決まっていた。

時刻を知らせる鐘がなり、開かれていた中央の大扉が閉まる。

王と王妃が着座するとファンファーレが鳴り響いた。これはビビアンがいつも見ている光景で変わらない習慣である。

一つ違うとすればその隣に聖女二人が座っていることだ。

彼女たちのサイドテーブルには飲み物とフルーツが置かれ、踊る意思がないことが示されている。

二年前に来たばかりの神の子にたちにウランバルブ王国のダンスを覚えろというのも酷な話だ。貴族たちはその点に関しては納得した様子で気には留めていないようであった。

やがて陛下の声が響く。

「今宵は良き夜になることであろう……」陛下の挨拶が聞こえ、多くの貴族たちの拍手が湧き起こると会は始まる。

メイナードは父親たちに会釈すると友人たちを見つけ、声をかけては先へとどんどん進んでいった。

中央には王子たちと討伐隊の上位貴族令息たちとたむろしている。ダンスホールの手前で楽団からは少し離れているそこはシガールームも近く目を引く定位置であった。

高位貴族の令嬢集団はそこに突撃するつもりなのだ。

『私と踊ってください』その一言を伝えるためにである。

メイナードは令嬢たちの先頭に立ちオスカーに向かって真っ直ぐ進んでいった。

「オスカー様。良い夜ですわね。私と一曲踊ってくださいませんか?」

オスカーは虚を衝かれたような顔をした。『どうしてダンスに誘いにきたんだ?前に話をしていたからメイナードは私の役割を理解しているだろう?』そう言いたげだ。

オスカーに与えられた使命は『聖女と恋仲になり結婚する』である。これをメイナードが理解していないわけがない。

だがそんな空気を壊すかのように周囲の令嬢たちも想いを寄せていた男性たちに次々と声をかけている。

(オスカー様は今夜は間違いなく聖女を誘うと決めているに違いないわ。だから誰からのダンスも受けないとわかっていても……)

メイナードはどうしても彼の気持ちを確かめたかった。

聖女様をこの国にきちんとした形で留めるには『結婚』が良い。そう分かっているがオスカーが未だに聖女から良い返事をもらっていないことは知っている。

二年前までオスカーはメイナードを愛していた。その気持ちが今も変わらないのか、あの時言ってくれた最後の言葉を確認したかった。

聖女に心変わりをしているなら仕方ない。でもそうでないのならばメイナードに恥を掻かせないように一曲は踊ってくれるだろう。それだけの気持ちがメイナードにあるのならば。(これは一つの賭けなのよ。オスカー様どうか私に誠意を見せて)

一度振られたオスカーのことをこの二年どうしても諦めきれなかった。

そんな単純な気持ちじゃなかった。二人で築いた信頼関係は家のことを抜きにしてもどうしても守りたいものだった。

オスカーは暫く黙っていたがフッと息を吐き僅かに微笑んだ。

「すまない。今夜はダンスを踊るつもりはないんだ。大事な日なんだよ。だからメイナード嬢……君にはわかって欲しい」

メイナードは手先が冷たくなるのを感じる。

(ユイナ様……貴女が思っているようにはなりませんでした。彼は私より、家を……貴女を……国を思ってやはり私の気持ちには答えてくれませんでした)

メイナードは寂しそうに笑うとカーテシーをして後ろに下がった。

オスカーはその姿に再び胸を痛める。

(ああ、やっぱり私のことを忘れられないのだな……でも聖女はおそらく私を選ぶだろう。許してくれメイナード)

メイナードは淑女の矜持で逃げ出しはしなかったが明らかに落胆した様子で後ろに下がっていく。

その姿を見て令嬢たちは息を呑んだ。

シガールームの前にたむろする男性陣は『自分たちは聖女に最も近く、そして選ばれる側の人間だ』と自信に溢れていた。

だからこそ、そこに突撃した女性陣を丁重にお断りし始めた。

なぜなら二人の聖女が『〇〇様……お慕いもうしております』ともう間も無く言われることを待っているからだ。

「すまない。今夜は僕は誰とも踊らないんだよ」次々と国では上位に入る有望な男たちが令嬢からのアプローチを断る姿は異様でもあった。

彼らは家の為、国のために聖女を娶ると決めた男たちだ。

遠目からそれを眺めていた貴族の既婚男性陣はクククと笑う。

『ウム、まあ若いから仕方のないことだな。聖女がもう一刻もすれば男たちの中から最愛を選ぶだろう。そうすれば彼女たちにも選んでもらえるチャンスが訪れるということがわかるだろうに。コトを焦るからこのように恥をかくのだ』

『若さゆえですな』

『待っておれば、選考から漏れた青年たちがあの子たちにも声をかけるというのに、待てなかったのでしょう』

話していることに間違いはないようにも思うが、それを聞いた夫人たちはその上から目線の考えに何となく苛立ちを覚える。

夫が愉快そうに話題にあげていることは貴族の令嬢には一生を決める大切なことなのだ。かつての自分たちが全力を傾けて一生を添い遂げる人間を探していたことを思えば令嬢たちの姿に胸が痛くなる。

十人ほどの令嬢たちの集団告白は僅か二人だけがダンスを引き受けてもらえ、あとは散り散りに砕けてしまった。

聖女のことが影響しているとはいえ、釈然としない思いがその場に漂う。

だが男性たちはあまり気にしていない様子であった。

『使命がある』と考えている男たちにとって令嬢たちの告白は『後回しにできるもの』だったのだろう。

彼女たちが下がったあとは聖女のいる席へと視線を移し、今か今かと次の展開を待っているようだった。