軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

準備

翌日、アイリスは星の導き達には預けずに職人街に同行させた。

「薪と炭が必要な奴は好きなだけ持って行ってくれ」

「金払わなくていいのか?」

「金はいいよ別に。今は仕事が少ないから収入も厳しいだろ?それよりここの体制を整えるのに一日でも早く頑張ってくれた方がいい」

「お、おぉ。助かるぜっ」

と、ドサドサ出した薪と炭を各自持ち帰った。

「マーギン」

「どうしたジーニア?」

「あの魔道インクはなんだよ…」

「あれ?使えなかったか?」

「逆だ。今までの魔道インクより魔石消費が断然少ないんだ」

「まぁ、そうだろうな。お前らが買っていた魔道インクは粗悪品とまでは言わんがあの値段の価値は無い。このインクがなくなったら、インク1リットルに対して銅300グラムの割合で入れたら作れる」

「あれもしかして錬金釜なのか?」

「そこまでの性能は持たせてない。魔導インクを作れるぐらいだ。もっと魔導インクの性能を高めたいなら、銅の代わりに銀、さらに高めるなら金を混ぜろ」

「え?」

「魔力は鉄、銅、銀、金の順番で流れる効率が異なる。鉄と銅の差は大きいけど、銅から銀と金の差は少ない。だから銅が一番いいと思うぞ」

「何で秘匿されている事を知ってるんだよ?」

「魔導インクは秘匿するほどの事じゃないぞ。今まで使ってた魔導インクは銅を粉にして混ぜてあるだけだ。俺が作ったのはインクの中に銅を溶け込ませたタイプだな。つまり回路を銅で描くのと同じようなものだ。魔石から回路をつなぐのに銅線つかうだろ?」

「そ、そうだな」

「な、中身が分かれば単純なことなんだよ。俺から言わせたら気付かない方がおかしい。だから法律で勝手に作ったらダメとかになってんのか確認したんだ」

「そういう意味だったのか…」

「そう、魔法陣、つまり回路も同じだ。こうじゃないとダメだっと思うより、こうすればいいんじゃないかと考えろ。お前は基礎が出来てるからドンドン改善出来ると思うぞ。魔導インク代もかなり削減出来るだろ?色々と実験していけ」

「分かった。俺頑張るよ」

「おー、いいのが出来るのを楽しみにしてるわ」

そしてハルトランからはもう設計図は書き写したとの事で組立直したパン焼き機を返却して貰った。

「しばらくハンターの仕事をしてくるから来れなくなるけど、あとは任せといていいよな?」

と、シシリーに聞く。

「ハンターの仕事をするの?」

「そう。期間はちょっと不明だけど、一週間くらいかな」

「わかったわ。ちゃんと帰って来てよね」

「分かってるよ」

「お土産もね」

ちゃっかりシシリーにお土産を頼まれたマーギンであった。

マーギンはアイリスを連れて森に移動する。

「何をするんですか?」

「着火魔法は自在に飛ばせるようになったか?」

「はい。この通り」

アイリスはポイポイと火を飛ばしていく。距離もかなり飛ぶようになった。

「よし、第一段階は合格だ」

「第一段階ですか?」

「そう、次は炎の温度を上げる訓練をする」

「温度?」

「普通の着火魔法は800度くらい、俺が教えたのは1000度ぐらいの温度があるんだよ」

「へぇ」

アイリスはよく理解してないようだな。

「取り敢えず見てろ」

と、マーギンは普通の着火魔法を出す。

「これの色を見とけよ」

と、マーギンは魔力を込めて温度を上げていく。

「段々と明るくなってきただろ?」

「はい」

「で、ここまで温度を上げてやると青白い炎になる。これで8000度位の温度だ。元の10倍の熱さだな。魔力も10倍位使うけど、必要な時が出てくるから覚えろ」

「わ、わかりました」

アイリスは言われた通りに魔力の注ぐ量を増やしていく。言われただけで出来るのは凄いな。

「ほら、俺の出している炎と同じぐらいまで頑張れ」

シュゴーっという音と共に温度が上がっていくアイリスの炎。

「で、出来ましたっ」

「よし、それを飛ばせ」

「えいっ」

おー、ちゃんと飛んだ。一度で出来るとは思ってなかったな。

「合格だ。では第3段階をやるぞ」

「まだあるんですか?」

「そうだ。バネッサが意地悪して薪を持ったまま走ったら火をつけられるか?」

「動いている薪に火をつけるんですか?」

「そう。あいつならやりそうだろ?これに火をつけてみろよっとか」

「あー、そうですね。退屈ならやるかもしれません」

「じゃあ動いている奴にやってみようか。当たると楽しいぞ」

着火魔法によるクレー射撃みたいなものだ。

「薪を投げるからそれに当ててみろ。上手く出来たら飴を作ってやるぞ」

「本当ですかっ」

「あぁ。ちゃんと当たったらな」

マーギンはポイっと薪を投げる。

「エイッ」

「はい、ざんねーん」

「ええー、難しいですよぉ」

「バネッサならもっと速く複雑に動くからな」

「そうですね。頑張ります」

何度も薪を投げてはアイリスに炎を飛ばさせる。段々と当たりそうになってきたので投げるスピードを上げていく。

「ほら、もっと速く飛ばさないと薪に追いつかんぞ。このままだと今日の飴は無しだなぁ」

「ええっ。そんなの嫌です。もう口の中は飴の口になってるんですよっ」

飴の口ってなんだよ。

「エイッ エイッ エイッ」

マーギンがどんとんとスピードを上げて行くにつれてアイリスの炎を飛ばすスピードも上がっていく。

しかし、こいつは本当に筋がいい。スピードも距離もドンドンと伸びてるぞ。

パタっ

あ、魔力切れで倒れやがった。自分で魔力切れの感覚掴んでるはずなのに夢中になると気付かないのか。それにしてもいきなり倒れるまでやるよな。

かなり冷え込んでいるので気絶したアイリスを毛布で包んでやる。

ブルッ

寒っぃぃ。アイリスが起きるまで待ってたらこっちが凍え死んでしまう。

マーギンは暖を取るためにもう一枚毛布を出してアイリスを膝に抱き抱えて包む。こうしてると温いなこいつ。

おー、さむさむっ

マーギンは毛布に包んだアイリスを抱き抱えて暖を取っているとしばらくしてアイリスが復活した。相変わらずこいつの魔力回復は早い。

「こうして抱っこされていると暖かいですねぇ」

抱っことか言うな。恥ずかしいだろ。

「目が覚めたなら帰るぞ。今日はここまでだ。寒すぎて敵わん」

「こうしてると暖かいですよ?」

「俺は尻も背中も寒いんだよ。想定していたより早く出来るようになったから今日は終わりでいい。訓練再開出来るまで回復を待ってたら凍え死ぬ」

えーっとか言うアイリスを膝から下ろすとめっちゃ寒い。

「ほら、走るぞっ」

温熱ベストを着て来るべきだったなと思いながら積もった雪をズボズボと走って帰ったのであった。

晩飯を作っていると、飴は?飴は?と聞いてくるのがうっとおしい。今日は当てられなかったから1個だけ作ってやろう。飴といっても砂糖を溶かして固めたものだが。

「飴は飯食ってからな」

えぇーっというアイリスだけど、飯前にオヤツは食わさん。

「じゃあハンバーグで」

「もう違うの作ってるからダメ」

またもやえーっと言うアイリス。

「寒いからクリームシチューだ」

「あ、それも好きです」

と、テヘっと笑う。まったく現金なやつだ。

二人でホフホフとクリームシチューを食べ、アイリスが風呂に入っている間にパン焼き機が戻って来たのでパンの仕込みをする。

そろそろ旅のご飯を作り貯めしていくか。スムーズに旅に出られるかどうかは不明だが備えあれば憂いなしだからな。

炊飯器でご飯を炊く準備が終わった後にあれやこれやとおかずも作っていく。

風呂から出たアイリスが飴は?と聞くのでさっき作ったのを口に入れてから風呂に入る。ガキ共は夜でも慣れてるから送り迎えいらないと言ってきたので迎えにもいかずに済むのだ。

風呂から出てくると作り置きするためのハンバーグが減っていたのは気付かないフリをしてやろう。

アイリスとガキ共が寝た後に、マジックドレインペンダントの加工を始める。前の物なら作れるが改良型に挑戦することに。これ、実験どうしようなぁ。溢れた魔力だけ霧散させる実験方法がわからん。取り敢えず作ってみてアイリスに身に着けさせて鑑定だな。それで魔力が減らなかったら危険はない。後は本当に溢れただけ霧散しているかの確認だけど…

皆が寝静まったあと、マーギンは魔法書店で魔結晶の加工をちまちまとやるのであった。

翌日はアイリスがスピードを上げて着火魔法を飛ばせられるようになってきたので、複数の薪を投げて訓練をする。アイリスはやっぱり筋がいい。どんどんと投げられる数も増えたので、もうしょぼい攻撃魔法使いより使い物になるだろう。

ーその夜ー

「えーっ、俺達だけ留守番かよ。連れてってくれてもいいじゃんか」

「あのなぁ、お前らは見習い登録したばっかりだろ?平時なら連れてってやってもいいけど今回はダメだ。危険すぎる」

「離れて見てるからさぁ」

と、カザフがダダをこねる。

マーギンは真剣な顔をしてカザフの肩に手を置いて話す。

「カザフ、今回は本当にヤバいんだ。お前らが来ても俺が守りきれるとも約束できん。離れて見ててもヤバい事には変わりはないんだ」

カザフ達もマーギンが意地悪して連れて行かないと言っているのではないことは理解している。

「そんなに危ないのにアイリスを連れていくのかよ?」

「アイリスはこれが人生の岐路でもあるからな。お前らも成人したらそういう時が来る」

「岐路ってなんだ?」

「人生ってのはいくつも道があるんだよ。お前らは孤児になって、孤児院を逃げ出した。その時に孤児院に留まる道もあったけど、逃げ出して自分達の力で生きて行くことを選んだ。こういうのを岐路って言うんだ。小さな別れ道はいくつもあるが、時々大きな分かれ道に出会う。今回のアイリスの岐路はそういうものなんだよ。訳もわからずこっちとか選ぶより、どっちが自分に向いてるか分かってから選ぶほうがいいだろ?」

「そりゃあそうだけど」

「選んだ後に後悔することもある。後悔しても後戻りは出来ないけど、次の分かれ道でまた選び直せばいい。だけど死んだらもう選ぶ事も出来ないだろ?」

「うん」

「だから今回は連れて行かない。アイリスだけなら俺が守れるからな」

「分かった…」

「春に旅に出たら色々と経験させてやるから、それまで楽しみに取っとけ」

「絶対だからな」

「あぁ、約束だ」

マーギンはこの国を出ていく事になっても、この約束は守らないとダメだなと心にメモをしておくのだった。