軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ハルトラン工房

翌日のフォートナム商会でのドレスの引き渡しは何事もなく終了し、商業組合に向かった。

「魔道具職人の紹介ですか?販売しているところではなくて?」

「ええ、魔道具を作っている職人です」

「魔道具の回路は秘匿されていますので、職人に会えても何も教えてもらえませんよ」

「回路はどうでもいいんですよ。道具の部分で作って欲しい物がありましてね」

「あー、道具職人の方ですか。それならば紹介出来ますよ」

どうやら、魔道具の回路を作る人と、道具を作る人は別れているらしい。よく考えたら昔もそうだったな。大きな工房だと両方やってたからうっかりしてた。

「出来れば腕が良くて、秘密をちゃんと守ってくれる人がいいんだけど」

「複雑な物を依頼されるのですか?」

「まぁね、この国じゃ売ってないから作ってもらう必要があるんだよね」

「例えばどんな物ですか?」

「米って知ってる?こんな植物というか食べ物なんだけど」

と、マーギンは籾種を見せる。

「あー、南の領地で食べられているものですね。昔は王都にも入荷してましたけど、売れないので今は入ってきてないですよ」

「だよね、米を売ってるのを見たことがないもんね。で、これの皮を剥くと米が出てきて、これの周りを削る魔道具を作って欲しいんだ。仕組みは俺が知ってるから説明したら作れると思うんだ」

「はぁ、なるほど。大手の所がいいですか?」

「大手だと秘密がバレない?」

「そんな重要な技術が必要なのですか?」

「バレたら困るのは魔導回路の方。俺は自分で回路が組めるんだけど異国人でね、あんまり騒がれたり、他の回路を組んでくれとか言われても困るんだよ。魔導書販売の許可しかもってないし」

と、マーギンは魔法書店の許可証を見せる。

「あー、魔法書店の方でしたか。それならば回路を組めてもおかしくはありませんね。わかりました。適任の方がおられまして個人で工房をされています。ただ…」

「ただなに?」

「とても気難しい方なので、依頼を受けて下さるかどうかまでは責任が持てません」

「要するに頑固親父ってことだね?」

「ははは、まぁ、そこは私からはなんとも」

「じゃ、その人を紹介してくれる?」

ということで紹介してもらった。ハルトラン工房という個人工房で、特注品とかを作っている所らしい。

南門側の職人街と呼ばれる所に工房があるようだ。

「ロッカ達はどうする?一緒に行く?」

「我々は訓練をしに行こうかと思っている」

「了解」

「マーギン、成人の儀のアイリスの用意は出来るのかしら?」

シスコがアイリスの用意の事を聞いてくる。

「用意って、服を着るだけだろ?」

「髪の毛とかお化粧とかどうするつもりかしら?」

「このままでいいんじゃないのか?」

「あのねぇ、成人の儀は貴族でいう所の社交会デビューと同じなの。着飾って行くんだからそれに合わせて髪もちゃんとするものなのよっ アイリスに恥をかかせるつもりなのかしら」

マーギンの気の回らなさに呆れるシスコ。

「うちは服着ただけだぞ」

とバネッサ。

「あなたはそれでいいのよ。ゴミに合わせた化粧なんてないから」

「なんだとぉぉっ」

相変わらずシスコはバネッサに辛辣だな。

「でも、そのマーギンから貰ったピアスは可愛いわよ」

下げてから上げる。

「なっ、なんだよ。急に褒めんじゃねーよ。

調子狂うだろっ」

「褒めたのはピアスよ」

で、下げて終わる。弄ばれるバネッサが少し可哀想になってくるな。そして怒って暴れるバネッサをどうどうと抑えるロッカ。いつものパターンだ。

「化粧かぁ、そう言われても化粧道具もないし」

「私がやってあげるわよ。その代わり夜明け前から準備するわよ」

「そんなに時間がかかるのか?」

「そうよ。女の支度には時間がかかるのよ」

「なら、前日からうちに泊まるか?と言いたいけど寝る所が無いな」

「ソファでいいわよ」

俺はまた床でコタツか…

「わかった。それなら頼むよ。明日の夜に来てくれるか?」

「了解。美味しいご飯を用意しておいてね」

と、シスコに晩飯を強請られて星の導き達と別れた。

ー南の職人街ー

「もしかしてここか?」

来たことが無い職人街であちこち探してようやく見つけたのは看板というより表札程度に記されたハルトラン工房の文字。これはかなり偏屈そうだな。

「すいませーん」

何度か叫ぶと出てきたのはヘラルドのようなガチムチ親父。

「なんじゃいっ」

アリストリア王国でもそうだったけど、この手の人はなぜ怒りから入るのだろうか?

「商業組合で腕の良い職人を紹介してくれと頼んだらここを紹介されたんだ。作って欲しい物があるんだけど」

「一見の奴の仕事は受けん、帰れっ」

ガチャっ バタン

話も聞かずにドアを閉めやがった。

「なんだよ、難しくて無理なら無理って言えよ。カザフ、見てみろよ、あの職人逃げやがったぜ」

と、大声で叫ぶマーギン。

ガチャ

「誰が逃げたんじゃっ」

チョロい。この手のタイプはこれに限る。

「なに作らされるかわかんなくて逃げたんじゃないのか?」

「下らんもんを作れとか言ったらドタマかち割ってやるぞっ」

「下らんかどうかは人によるな。現物があるものが二種類、現物が無いものを1つ作って欲しい」

「現物があるなら、それを作った奴に頼め」

「作ってくれた人はもう居ないんだよね。だから困ってるんだ。まぁ、あの人以外に作れないかもしんないけど」

「見せろっ」

本当にチョロい。

「なんじゃこれは?」

マーギンは自動パン焼き機を見せた。

「これは材料を入れといたら勝手にパンを焼いてくれる魔道具だ」

「何っ?そんなもん聞いた事がないぞ」

「だから困ってんだよ。この国じゃどこにも売ってないからな」

「お前、異国人か?」

「そう。で、これと同じのがもう一つ欲しいんだよ」

「魔導回路はどうするんじゃ?」

「俺が回路を組む。それも俺が作った回路が入ってるんだよ」

「お前、魔法使いか?」

「そう。魔法書店をやってる」

「入れっ」

「マーギン、あんなおっかない親父とよく対応出来るな」

カザフ達がビビってそう聞いてくる。

「職人ってあんな人が多いんだ。ロッカの親父さんもそうだったろ?」

ガキ共はマーギンの後ろにピッタリとくっついていく。アイリスはもう慣れたのか平気そうだった。

「こいつは見た目より軽いが、この周りの素材はなんじゃ?」

「樹脂だね。それを作る仕組みは俺もよくわかんないから、ある程度の熱に耐えられたら素材はなんでもいいよ。重要なのは中身の方。バラして中身を確認してくれてもいい」

「分解していいのか?」

「バラさないとわかんないだろ?複雑なのは回路の方だからね。道具の部分はきちんと強度と精度を保ってくれないとすぐに壊れるから、腕の良い職人にやって欲しいんだよ」

「ほう、でワシの所に来たってことか?」

「そう、気難しいおっさんを紹介してくれって言ったんだよ」

「貴様っ… ま、ええわい。ワシにそんな口をきけるやつはそうおらん」

「だろうね、俺もさっき殴られるかと思ったよ」

とマーギンは笑った。

「ふんっ ワシみたいな奴に慣れとるみたいじゃの」

「まぁ、武器屋の親父とかそれを作った人とかによく殴られたよ。面倒なもん持ってくんなってね」

「まさかこれの仕組みを考えたのはお前か?」

「参考にした奴はあるけど、職人と一緒に試行錯誤したのは確かだね。何回も回路を作り直したり、道具の方を改良して貰った力作なんだよ。お陰で夜に材料をセットしておけば朝に焼きたてのパンが食べられる」

「ほう、それはかなり便利だな。こいつを売るつもりか?」

「いや自分用。俺は異国人だから目立ちたくないし、魔法書店の許可証しか持ってないからね。回路作って金をとったり出来ないんだよ」

「ずいぶんと勿体ないの、魔道具の許可も取ればいいではないか」

「仕事に追われるのも嫌だし、俺が回路を組んだら他の魔道具回路組んでる奴に迷惑だろ?」

「ずいぶんと上から物を言うやつじゃな」

「まぁ、この国で売ってる魔道具に組み込まれている回路は効率も悪そうだし、魔導インク使ってるだろ?あれって魔力消費効率が落ちるんだよ。これは前にいた国でもそうだったけどね」

「魔導インク以外何を使うんじゃ?」

「魔導インクの作り方を知ってる?」

「あれは専売じゃから知らん」

「なんか回路ある?それに魔力通せば何の原料かはわかるよ」

「本当か?」

「うん、わかる。まぁ、通さなくても想像は付くけど」

と言うと、ハルトランはライトを持ってきた。ずいぶんと大きなライトだ。

「これは馬車かなんかに付けるやつ?」

「そうじゃ。暗いから明るくしろとクレームがついて、明るくしたら魔石消費が多すぎると言われたやつじゃ」

「ちょっと見せて」

と、ライトを見ていくと、反射板はとても良く出来ている。レンズも綺麗に研磨はされているがガラスの透明度が低い。そして肝心の明るくなる部分が電球タイプ。魔力を電気の様に流してフィラメントを発光させる初期的な物だ。

「これ、反射板とレンズはハルトランが作ったの?」

「そうじゃ」

そしてマーギンはライトに自分の魔力を流す。これを出来る人は少ない。

「これ、魔導インクは安物だね、鉄粉が原料で出来てる。通常は銅を使うんだよ。最高級品なら金が使われる。これじゃクレームが出ても仕方がないかな。魔導ライトの効率が悪すぎるよ」

「何?」

「回路を作った人は経費削減をしているか、この事を知らないかどちらかだね。魔導インクを変えるだけでもマシになる。ここであと出来るのはレンズを透明度の高い物に変えるぐらいしか出来ないと思うよ」

「これ以上研磨出来んぞ」

「いや、研磨が問題じゃない。素材そのものだよ。気泡もたくさん入ってるから強度を出す為にかなり分厚いし、ますます透明度が下がる」

「ガラスはそんなもんじゃろ」

「鉛だっけな?を混ぜるともっと透明になるんだよ。配合率とか知らないからガラス作ってる人に色々と試してもらわないとダメだけど。アイリス、前に渡した魔導ライト持ってるか?」

「ありますよ」

と、アイリスのバッグからマーギンが作った魔導ライトを渡す。

「レンズは俺が作ったんじゃないけどね、回路は俺が組んだやつ。明るさは段違いだよ」

マーギンが点灯させるとその明るさに驚くハルトラン。そしてレンズの透明度。

「これを作った奴はどこにおる?」

「異国。かなり遠いから会いに行くのは無理だよ。ハルトランがガラスを作ってるわけじゃないよね?」

「このライトは反射板と枠組み、そしてレンズ研磨がワシの担当じゃ」

「だったらハルトランはきっちり仕事してるよ。原因は魔導回路とレンズ。クレームを付けてくる場所が違う」

そう言うとハルトランはとても苦い顔をしたのであった。