作品タイトル不明
エピローグ1
マーギンは今までお世話になった人たちに挨拶をしにいくことにした。その間、ローズは自宅に戻り、バネッサは星の導きたちと過ごすことにした。
「ババァ、挨拶に来たぞ」
まずは娼館シャングリラ。この時代の自分があるのは、亡くなったタバサとババァのおかげだ。
「1億G……いや、値の付けようがないね」
ムーを見るなり、ババァは値を付けようとした。
「1億Gとは何だ?」
意味が分からないムー。
「ムー、気にしなくていい」
「お前、こんな娘をどこで見つけてきたんだい?」
ババァの見る目は確かだ。いきなり、値がつけられないと言いやがった。
「それは秘密だ。それより、俺は国を出ることにした」
「そうかい」
ババァの態度はあっさりしたものだった。
「タバサの遺品か何かないか?」
そう伝えると、無言で奥に行き、暫くしてから一つのカバンを持ってきて開けた。
「これを持っていきな」
中に入っていたのはセクシーではあるが、どこか清楚な感じのする白い服だった。
「これ、仕事のときに着てたやつか?」
「違うさね。特別な人に指名されたとき用に特別に作ったやつさ。仕事では着ちゃいないよ」
マーギンはタバサの遺品を受け取った。
「ババァ、元気でな」
「お前に言われなくても元気さね。お前も幸せになりな」
そう言われたマーギンは、ほろりと泣きかけた。
「ババァ」
「なんだい」
「今までありがとう」
マーギンが真面目な顔でお礼を言うと、ババァはくるっと後ろを向いた。
「ここは娼館さね。ここで商売するつもりがないなら、さっさと出ていきな」
「うん」
マーギンが手を振って娼館を出たあと、
「タバサ、ようやくマーギンが前を向いて歩き出したみたいだよ。よかったね、一緒に連れていってもらえて」
ババァは涙を溜めて、そう呟いたのだった。
◆◆◆
「ロドはいるか?」
ハンター組合でロドリゲスを呼び、組合長室でこれまでの経緯を話した。
「ほう、興味深い話だな。で、魔物はこれからどうなる?」
「今より酷くなることはないらしい」
「北や南の端に行くほど強い魔物が出るのはなぜだ?」
ロドリゲスはムーに聞いた。
「魔物は我の魔力を餌にしているからの。結界に近い場所ほど結界から漏れる魔素が多い。それが原因だろうな。言っておくが、我が魔物を生み出しておるわけではないぞ」
「結界近くでなくとも、強い魔物が発生する原因は?」
「我から出る魔素が溜まりやすい場所がある。魔素溜まりとでもいえばよいかの。そういった場所にいる魔物がそうじゃろうの」
「ほう、なるほど。なら、強い魔物が出た場所を調べれば、共通の条件が分かるかもしれん」
ロドリゲスはハンター組合の組合長というより、研究者のような態度でムーとミスティにいろいろと質問をした。
「ムー、ミスティ。これからもよろしくな。魔物のことで分からないことが出てきたらまた教えてくれ」
「う、うむ」
過去の世界では、魔物を研究していたミスティは変人扱いをされていた。しかし、同じように魔物に興味を持って聞いてくれる人がいる。それがとても嬉しく、心地よかった。
◆◆◆
「最後はこの店だ。ここの大将たちにずいぶんと世話になったんだ」
「そうか。ならばお前1人で行くがいい」
ミスティがリッカの食堂の前で、ここには1人で行けと言う。
「なんでだよ?」
「別に理由はない。積もる話もあるじゃろ。私たちは家で待っておる」
「晩飯はどうすんだよ? ここで食うつもりだったんだぞ」
「勝手に食べるから気にしなくていい」
「そんなことを言うなよ。ここの飯は旨いんだぞ」
「いいから、マーギンだけで行けと言うておるのじゃ!」
一緒に行こうと言うマーギン、イヤイヤするミスティ。2人が店の前でギャーギャー騒いでいると、
ガラッと、店の扉が開いた。
「誰だいっ、店の前で騒いでいる……って、マーギンじゃないか」
出て来たのは女将さん。
「久しぶり。3人だけど席空いてる?」
「空いてるけどさ、なんだい、その顔?」
「ちょっと訳ありでね」
イヤイヤしていたミスティは、フードで顔を隠している。
「なら、その訳とやらを聞こうじゃないか。さっさと入りな」
とりあえず、いつもの賄いと安酒をもらい、他の客がいる間は話をせずに食事を楽しむ。
「な、旨いだろ」
店に入るのをイヤイヤしていたくせにガツガツと食うミスティ。
「ふむ、飯は美味しいが、酒はイマイチじゃの」
と、ムーが言うので、酒が美味しくなる魔法をかけてやる。
「ほう、そんな魔法があるのか。我も知らぬ魔法じゃ」
ムーもご機嫌で食べて飲む。
そして閉店となり、他の客がいなくなったことで、大将、女将さん、リッカが同じテーブルについた。
「またおかしなことになってんなお前。で、その2人は誰だ?」
「このちっこい方がミスティ、で、こっちがムー」
と、マーギンが紹介しているのに、フードをかぶったままペコリと頭を下げたミスティ。ムーは普通に挨拶をした。
「お前、失礼だろ。ちゃんと挨拶しろよ」
「う、うむ」
と、フードを取らないので、マーギンがパッとフードを外した。
「……ん? どこかで見た……あっ!」
大将はミスティの顔を見て目を見開いた。
「どうしたんだよ、大将?」
「お、お前……あなたは……いや……そんなはずは……」
ササッと顔を隠すミスティ。
「大将ってば」
「あぁ、すまん。多分人違いだ」
大将はミスティの顔に見覚えがあったが、あれから10年以上経っている。目の前にいるのは少女だ。同じ人であるわけがないと自分に言い聞かせた。
そして、マーギンは2人を紹介したあと、この国を出ることを伝える。
「そうか。いよいよか」
ほとんど王都にいることがなくなったマーギン。大将たちはいつかその日が来ると覚悟をしていたようだ。
「大将、女将さん。世話になったね。今まで本当にありがとう」
「やだよ、そんな言い方するんじゃないよっ!」
バシッ。
目に涙を溜めて、張り手を食らわした女将さん。
「なら、今夜は飲むか」
大将は今までどおりの感じでマーギンの肩を叩いた。
「そうだね」
それから、大将と女将さんはミスティとムーに、マーギンがここに来たときからの話を一つ一つ話した。その間、ほとんど喋らなかったリッカ。
「リッカ、お前も元気でな」
「はいはい、マーギンなんか、どこにでも勝手に行けばいいのよ。こんなスケベの顔を見なくて済むなんて、せいせいするわね」
「スケベって、人聞きの悪いことを言うなよ。しかし、お前、胸がデカくなったな」
「見んなスケベっ! そういうところよ、そういうところっ!!」
相変わらずデリカシーのないマーギン。
「じゃ、大将と女将さんも元気でな」
「いつでも戻ってきていいんだからね。王都に来たらちゃんと顔出しなよ」
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
と、マーギンは別れを告げて店を出た。
「うっ、うっ、うっ、うわぁぁん」
マーギンが店を出たあと、机に突っ伏して大泣きするリッカ。
「あんた、よく頑張ったね。えらいよ」
大将たちは、いつかマーギンがこの国を出て行くと言ったときには、いつものように送り出してやろうと決めていたのだった。
「マーギン、お前は色々な人に愛されておるのじゃな」
「そうだね。みんないい人ばかりだよ」
大将たちと別れたマーギンも目に涙を溜めているのであった。