作品タイトル不明
帰ってこない
「マーギンが魔王と消えたじゃと?」
大隊長とオルターネンはシュベタイン王に今回の報告をしていた。
「はい」
「して、魔王は倒せたのか?」
「分かりません。倒れていたのは確かですが」
大隊長はそれ以上の説明ができなかった。
「スターム、報告内容は理解しました。その上であなたの考えを聞かせてくれないかしら」
王と共に報告を聞いていた王妃は大隊長の考えを問う。
「マーギンが魔王と共に消えたのは、魔王から出ていた瘴気から我々を守るためだと思います。ただ……」
大隊長は苦悩の表情を浮かべ、その先の言葉を飲み込んだ。それを見た王妃は続きの言葉を代弁する。
「マーギンさんなら、他の方法でも何とかできたのではないか、あなたはそう思っているのですね?」
「はい」
「あと、マーギンさんの師匠であった少女も現れ、一緒に消えた。それは間違いありませんか?」
「……はい」
「そう……」
王妃はふうっ、とため息をついた。
大隊長が報告をしている間、終始無言だったオルターネンは、マーギンと出会ったころに師匠であったミスティの話をして涙を流していたことを思い返していた。
◆◆◆
「そんなに落ち込むことないじゃない」
星の導き達の家にメンバー全員が集合していた。そして、ロッカが今回の出来事をシスコに説明をした。その間もずっとバネッサは目に涙溜めたままうつむいていた。
「もうっ、辛気臭いわね。そのうち、また面倒なことを持ってくるわよ」
と、シスコはバネッサを励ますつもりで怒鳴ったが、バネッサは言い返してこず、膝の上で拳を握りしめ、ボロボロと涙を流した。
「アイリス、あなたもマーギンが戻ってこないと思ってるのかしら?」
バネッサほどではないにしても、アイリスも暗い顔をしたままだ。
「マーギンさんは……自分の道に戻ったんだと思います」
「自分の道?」
「はい……私たちのことは寄り道だったんじゃないかと思うんです。本当は魔王のことも1人で何とかできたんじゃないかって思います。私たちの魔王への攻撃は何一つ効きませんでした。マーギンさんは初めからそのことを知ってましたから」
と、アイリスは無理に笑顔を作ってシスコの目を見た。
「それと、魔王と共に消えちゃったことと何の関係があるのよ? 魔王から瘴気ってのが出て、あなたたちがヤバかったのなら、死んだ魔王をどこかに飛ばせば済んだ話でしょ」
「多分、魔王は死んでないと思います」
「えっ?」
「私たちには言えない事情があるんだと思います」
と、アイリスは笑顔のままポロっと涙を流した。
「ロッカ、あなたはどう思うの?」
「私には分からん。ただ、私たちが見たことのないマーギンだったことは確かだった」
シスコは話を聞いても状況をうまく飲み込めなかったが、何も言わずにボロボロと泣くバネッサを見て、本当にマーギンが戻ってこないのかもしれないと思い始めたのであった。
◆◆◆
「ローズ、元気出して」
「申し訳ありません姫様……」
「ねぇ、あのとき、どうしていきなりマーギンにキスしたの? ローズがあんなことをするなんて驚いちゃった」
ローズはカタリーナにキスをした理由を聞かれて、少し黙ったあと……
「引き留められるんじゃないかと思った……いえ、引き留めたかったんです」
「マーギンが消えちゃうと思ってるの?」
「姫様……あのとき、マーギンから怒りや憎悪の感情が出ていましたか?」
あの少女師匠が出てくる前までは、マーギンから激しい怒りの感情が出ていたのを知っていた。しかし、少女師匠が近くに現れたあとは、まったくそれがなかった。
「あの少女師匠はマーギンの……」
「私たちを瘴気から守る以外にも何か理由ができたのではないかと思います」
「それが戻ってこない理由になるの?」
と、カタリーナに聞かれてもローズは答えない。マーギンは自分より、あの少女を選んだのだと口に出したくなかったのだった。
◆◆◆
魔王との戦いから1週間が過ぎてもマーギンは戻ってこなかった。
それでも特務隊は大型ラプトゥルが街に来ないように魔物狩りを続ける。
「バネッサっ! 何ぼーっとしてんだよっ!!」
精彩を欠くバネッサはヘマをすることが増えている。今も飛び出して来た魔物に気付かず、カザフがバネッサを突き飛ばして助けたところだった。
「マーギンが帰ってこないからって腑抜けてんじゃねーぞ。俺たちは特務隊だろうが」
「悪ぃ」
カザフに怒鳴られても怒鳴り返してこないバネッサ。
「何だよそれっ! 何か言い返してこいよっ!!」
「悪かったってんだろ……」
カザフが発破をかけるように怒鳴っても、人が変わったように張り合わないバネッサに、カザフはいら立ちが止まらない。
「隊長っ! もうバネッサを任務から外してくれよ。こんな調子じゃ役に立たねえんだよ」
オルターネンもバネッサの状況を理解していた。しかし、実戦に身を投じていればマーギンのことを吹っ切れるのではないかと思い、任務に連れてきていたのだ。
「今日はここまでにする」
オルターネンは早めに討伐を切り上げた。
その夜、バネッサはふらふらと1人で夜の森へ入った。
キュルルルー。
ラプトゥルの群れがバネッサを取り囲んだ。しかし、戦闘態勢を取らないバネッサ。
キュルルルー、キュルルー!
ラプトゥルがバネッサに襲いかかる。
ザシュ、ザシュっ。
ラプトゥルは反撃を警戒しながらバネッサに襲いかかったが、何も抵抗しないバネッサを餌だと判断し、仕留めにかかった。
ぎゅむっ。スパパパ。ドカッ。
バネッサを仕留めにかかったラプトゥルをトルクの見えない手が掴み、カザフの短剣で斬られ、後ろから襲い掛かったやつはタジキの盾でふっ飛ばされた。
「てめえっ、1人で何やってんだよっ。死にたいのかっ!」
カザフが血まみれになっているバネッサを怒鳴りつける。しかし、バネッサは天を仰ぐように立ち尽くす。
「バネッサっ、おいっ、何とか言えよっ!」
「うっ、くっ……うぅっううっ」
バネッサはそのままボロボロと泣いた。自分が死にかけたらマーギンが助けにきてくれるのではないかと思っていたのだ。しかし、マーギンは来てくれず、助けてくれたのはカザフだった。
「お前……そんなにマーギンのことが好きだったのかよ……」
と、バネッサの心情を理解していたカザフは小さく呟いた。
「カザフー。バネッサ姉を早く連れて帰らないとヤバいよー。血の匂いで集まってきてるー」
カザフが動こうとしないバネッサの手を引っ張り、トルクとタジキが後からくるラプトゥルに対応しながら王都に戻ったのだった。
「バネッサ、カザフに聞いたわ。どうしてこんなことをしたのよ」
カタリーナはバネッサの治癒を終え、バネッサを問い詰めた。
「なんでもねぇ。こんな時間に悪かった」
カタリーナの問いかけにまともに答えず、バネッサはカタリーナの私室を出ようとして、足を止めた。そして、ローズをチラッと見て、何かを言いかけた。
「チッ」
しかし、舌打ちだけをして出ていったのだった。
◆◆◆
「うっ……」
「ようやく目を覚ましたか」
マーギンは立ち上がろうとしたが、身体に力が入らない。
「そのまま寝ておれ。何か食べるものを作る」
マーギンは激しい転移酔いと魔王との激しい戦闘の後遺症で1週間ほど目を覚まさなかった。
そして、まだ頭にモヤが掛かったように、今の自分の状況が分からない。
グツグツ。
「寒い……」
意識が戻ると、寒さが襲ってきた。
「何か食えば寒いのもマシになるじゃろ。身体を起こせ」
「ミスティ……?」
マーギンは身体を起こしてミスティを見るも今の状況がうまく理解できない。
「口を開けろ」
マーギンは言われるままに口を開けた。
「あっちいぃぃっ!」
「ふーふーしてから食わぬか」
「お前が口に入れたんだろうがっ!」
「しょうがないやつじゃの」
と、ミスティはふーふーしてから匙をマーギンの口に運び、旨さ控えめのパン粥を食べさせたのであった。