軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

気づかない

今日も朝から、プロテクション階段で空に上がり、位置確認をする。

「ん? なんだかあの場所が……滲んでいると言うか、歪んでいると言うか……」

マーギンが気になった場所は、真夏の蜃気楼越しに見えるような感じなのだ。

マーギンは慌ててプロテクション階段を降りて、みんなに異変があることを伝え、全員でその景色を見ることにした。

「本当だな。あそこだけ変だ」

オルターネンも同じように見えているようだ。

「森の中じゃなくて、このままプロテクションステップを伸ばして見に行こうか」

「そうだな」

マーギンはプロテクションステップを伸ばして歩いて向かうことにした。プロテクションスライダーにした方が圧倒的に速いが、大惨事になりかねないからだ。

「空だと魔物が出なくて楽でいいな」

バネッサが先頭を歩くマーギンの隣に来て、石をポンポンと手のひらで踊らせながら話しかけてきた。

「お前、その石を2つ持ってたのか?」

バネッサがポンポンとしているのは、ロドリゲスが「いい石だ」と言ったやつだ。マーギンがいらないと言ったら、バネッサが怒ったので一応もらったのだ。

「これか? 昨日の夜にカザフがくれたんだよ。もうひとつ見つけたって言ってな」

「ふーん。あちこちに落ちてるんだな」

「そうかもな。別にくれなくても良かったんだけどよ」

バネッサは、自分で見つけて拾ったものだからこそ価値がある、という矜持ゆえか、大切に扱っていない。そうやって、手のひらの上でポンポンして、上空から落っことしたら、見つけられないだろうにと思う。

コロン。

「あーーーっ!」

ほうら、落っことした。

バネッサの手から石が落ち、コロンコロンと転がって森の中へ消えていった。

「やっべ、落としちまった」

「せっかくカザフがくれたのに粗末にしてやるなよ」

「だってよぉ、落っことすと思わなかったんだよ。ちぇっ、オスクリタなら戻ってくるのによ」

と、下を覗き込もうとするので、首根っこを掴んで止めさせる。

「お前まで落ちるぞ」

「そんなヘマするかよ」

「ヘマをしたから、石を落っことしたんだろ」

と、マーギンとバネッサが言い合いをしていたら、オルターネンが「前を見ろ」と叫んだ。

「ちい兄様、なんかあった?」

「さっきと景色が変わっている。歪みがなくなったぞ」

と、オルターネンが前方を指差した。

「えっ? あっ……本当だ。さっきまでこんなに普通に見えてなかったのに」

いきなり歪みのあった場所が消えた。

「ちい兄様、歪みがなくなる瞬間を見てた?」

「いや、いつの間にか普通の森になっていた。誰か歪みがなくなる瞬間を見ていたやつはいるか?」

オルターネンの問いかけに、全員が首を横に振る。

「何か熱源があって、揺らいで見えてたのかもしれんぞ。近づくことで見え方が変わったか、熱源が消えたかだろうな」

大隊長は歪みがなくなった原因を推測した。

「かもしれませんね。とりあえず方角はこのままなので、歪みがあった場所まで移動しましょう」

ここまでは徒歩だったが、全員で走ることにした。

「ほら、遅れてるぞ」

最後尾を走るのはカタリーナとアイリス。カタリーナにはローズが伴走し、アイリスはロッカに追い立てられている。

「これでも全力ですっ!」

「そうか? 本当に全力か?」

「本当ですっ!」

アイリスは歯を食いしばって走りながら答える。

「では、後ろから押してやろう」

全力だと答えアイリスに、ロッカは武器の棒でアイリスのお尻をつつく。

「やめて下さいっ!」

「私より早く走れば当たらないのだ。当たっても後ろから押してもらえて速く走れるだろ」

と、言ってロッカがお尻をツンツンする。

それを嫌がるアイリスのスピードが上がった。

「ほら、まだスピードが上がるではないか」

と、ロッカはクックックと笑った。

ロッカの前を走るのがカタリーナに変わる。

「姫様、速く走らないとロッカにお尻をつつかれますよ」

「だったら、ローズが私の後ろを走って!」

カタリーナは本当に限界のスピードを出していた。それを理解していたローズは自分が盾となるべく、カタリーナの後ろに回った。

「集団から遅れるのは命取りになるから、誰だろうと容赦はしないぞ」

「えっ?」

まさか自分にはお尻ツンツンをやらないだろうと思っていたローズ。

「ほらほら、遅れているぞ」

ローズはカタリーナが前にいるため、これ以上スピードを上げることができず、ロッカに棒でお尻をつつかれるどころか、棒で押される。

「くっ、こんな辱めを受けるとは。ロッカ、やめろーーっ!」

「なら、カタリーナを押してでも速く走れ。マーギンは、私たちが離れているのに気づいてないぞ。最悪プロテクションステップが消えるかもしれん」

ロッカは、アイリスには楽しんでやっていたが、ローズには本当に速く走って、これ以上離されないようにしないとまずいと伝えた。

「姫様、もっと速く走ってください」

「無理無理無理無理っ!」

カタリーナは首を激しく横に振って叫ぶ。これ以上は、息が続かない。横っ腹も痛くなってきた。

《シャランラン! シャランラン!》

魔法で横っ腹が痛いのを治そうとするが、これは怪我でも病気でもないので痛みが引かない。

「もう無理っ!」

カタリーナの足がもつれ、コケそうになる。そして、ローズがカタリーナにぶつかり一緒にコケた。ロッカは間一髪で2人を飛び越し、前方に着地する。

「大丈夫か?」

ロッカが2人に声をかけると、ローズは平気そうだ。

「姫様、大丈夫ですかっ!」

「痛たたたた。だ、大丈夫。シャランランするから」

カタリーナはコケた痛みを魔法で治癒した。

「ちっ、マーギンたちが見えないぐらい離れてしまったな。ほら、急ぐぞ」

「ま、まだ息が……」

ゼーハーしているカタリーナは、ちょっと待ってと言って、へたりこんだまま立ち上がれない。

「マーギンっ! 止まれっ! カタリーナたちがついてこれてねーぞ」

バネッサがマーギンに止まれと叫んだ。

「えっ?」

マーギンがバネッサに叫ばれてスピードを落として止まった。

「はぁっ、はぁっ、お前、スピードを上げすぎなんだよ。うちでも付いていくのがきつかったんだ。アイリスやカタリーナたちが付いてこれるわけねーだろ」

「あっ、ごめん……」

「何をそんなに焦ってんだよ。いつもなら、ちゃんとみんながついてこれるスピードしか出さないだろうが」

マーギンは歪みのあった場所に遺跡がある、そこにミスティのヒントがあると感じていた。その場所が分からなくなったことで気が焦っていたのだ。

「マーギン、まだ走れる余裕があるなら、後ろを見に行ってやれ。我々はここで待機している。また違和感が出るかもしれんから見張っておいてやる」

大隊長は仲間のことを気にかけてなかったマーギンを責めなかった。しかし、マーギンがみんなを見ると、大隊長とオルターネン以外が肩で息をしているのに気づいた。

「すいません……後ろを見てきます」

と、マーギンが後ろに向かって走りだし、少しするとアイリスだけが走ってきた。

「しっ、死にそうです」

アイリスがゼーハーしながらマーギンの前で止まった。

「カタリーナたちは?」

「まだ……ゼーハー、後ろです」

「了解。みんなはこの先にいるから歩いていっていいぞ。俺はカタリーナたちを迎えに行ってくる」

「は……はい」

これなら、肺が飛び出るかと思うぐらい走る必要がなかったと思ったアイリスはジトッとマーギンを見た。

「なんだよ?」

「な、なんでもないです」

いらぬことを言ったら藪蛇になることを学んだアイリスはブツブツ言いながら、歩いて前の方に進んでいった。

「カタリーナ、もう休憩は終わりだ。本当にヤバいぞ」

「わ、分かった」

ローズに手を引っ張られ、ようやく立ち上がったカタリーナ。

「では走る……」

と、ロッカが言おうとした瞬間、後方からプロテクションステップの見え方が薄くなっていくのに気がついた。

「ヤバい、プロテクションステップが本当に消える。全力ダッシュっ! ここから退避せよ」

ロッカがダッシュしようとしたときに、カタリーナとローズの足元がぐらついた。

「きゃーっ!」

「フンッ!」

このままでは2人とも落ちると思ったローズは、カタリーナをロッカの方へと投げた。

スッ。

そのとき、ローズの足元のプロテクションステップが消えた。

「ロッカ、姫様を連れて走れ」

と、言い残してローズが落ちていった。

「キャーっ! ローズっ! ローズっ!!」

ロッカは一瞬ためらったあと、カタリーナを担いで前方にダッシュした。

そのときマーギンが走ってきた。

「マーギンっ! ローズが下に落ちた」

「えっ?」

「プロテクションステップが消えて落ちたんだっ!」

それを聞かされたマーギンはためらいなく、下に飛んだ。

ガサガサガサガサ、バキバキバキっ。

全身に思いっきり身体強化魔法をかけ、小さく丸まったローズが、木々の枝を折りながら落ちていく。

ドサッ。

そして最後に大きな衝撃がローズを襲った。

「ぐっ……うっ……」

身体強化魔法のおかげで致命傷になっていないが、落ちた衝撃が身体の中まで伝わり、ローズは気を失った。

「ローズっ! ローズーーっ!!」

マーギンはプロテクションを張りながら下に降りてローズを探す。気配を探ってローズの元へと走った。

「ローズっ、無事か……」

気絶しているローズを抱き上げると、口から血を流している。

外傷はさほどでもない。落ちた衝撃で内臓をやられたか。と、マーギンはローズの状態を的確に診断した。

マーギンはローズの口を開け、人工呼吸をするように治癒魔法を込めた息を吹き込んでいく。

しばらくして、ローズが目を覚ましたのに気づかないマーギンは治癒魔法を続けていた。それを理解したローズはマーギンの首に手を回して抱きついた。

抱きつかれたマーギンは、治癒魔法を止めようとしたが、ローズはそのまま目を閉じて、唇を離さないのであった。