作品タイトル不明
誰を選ぶか確かめたい
マーロックが帰ってきて、夜は当然宴会だ。
「お前、いつの間にシシリーと上手くいったんだよ」
「それがまぁ、その……なんだ」
マーロックは真っ赤になって、照れまくりだ。こうして、長年の想いが叶うのはそんなにあるもんじゃない。みんなに冷やかされながらも、幸せいっぱいといった感じだ。
「シシリー、ババアにはもう知らせてあるのか?」
「ええ。手紙でだけどね。無事に生まれたら見せにいくつもりよ」
あー、なんかババアが俺に聞いてきたのはこのことだったのか。それなら言ってくれればお祝いでも持ってきたのに。と、ブツブツぼやくマーギン。
孤児院の隣に建築中だったのは、どうやら新居らしく、子供が生まれるころには完成するようだ。お祝いはそのときに盛大にしてやろう。
みんなもシシリーとマーロックに根掘り葉掘り聞き、宴会は盛り上がる。
「エルラ、お前はそろそろ休め。子供たちも寝かさないとダメだ」
「そうね。盛り上がってるところ悪いけど、先に休ませてもらうわね」
おっと、いけない。いつものように朝まで宴会になるところだった。
「マーロック、外で飲むか?」
「そうしようか」
港に移動して、ハンナリー商会のパブで飲み直すことに。
「こんな店まであるんだな」
そこそこ遅い時間だが、大勢の客で賑わっている。マーロックの説明によると、地元民向けの店で、値段も抑えめなのだそうだ。
「この甘いお酒、美味しい!」
「うちのも旨ぇぞ」
「これも美味しいですよ」
「お前ら、調子に乗って飲むなよ。明日は討伐なんだからな」
カタリーナ、バネッサ、アイリスがジュースのようなお酒をパカパカと飲んでいる。
「マーギン、何処に討伐に行くんだ?」
討伐に行くと聞いたマーロックが、どこに行くのか聞いてきた。
「魔カイコを飼ってる村だ。小型のラプトゥルが大量に出てるらしい。な、ピアン?」
「へっ?」
ダメだ。もう酔ってやがる。
「海もけっこう、ソードフィッシュやらなんやら増えてるぞ。大型のはあまり出てないがな。ま、あの切れない糸の網が出回り始めてから、漁師にとっちゃ金のなる魔物ってやつだけどな」
干したソードフィッシュはハンナリー商会がほとんど買い上げてるらしく、ナムの集落の分だけでなく、タイベ全体の漁師にとってはありがたい魔物となっているようだ。
「討伐が終わったら、こっちに戻ってくるか? 姫さんが喜びそうな場所ができてんだけどな」
「何ができたんだ?」
「釣りができる桟橋だ。船に乗らなくても釣りができる。釣り具屋もあるぞ」
「へぇ、そんなのができたのか」
「観光客にも人気でな。本格的に釣りをやりたくなったやつは船に乗ってくれるから、漁師から釣り船に仕事を変えたやつもけっこういるんだ。釣った魚を調理して食べさせる店もあるぞ」
なるほど、タイベは復興に向けて、様々な手を打ってるんだな。これもシシリーの手腕か。
マーロックから、色々とタイベの状況を教えてもらっていると、案の定、カタリーナたちが酔い潰れていた。
カタリーナはローズが背負い、マーギンはアイリスかバネッサのどちらを背負うかと思ったら、
「しょーがねぇなぁ。バネッサは俺が背負ってやるよ」
と、カザフが言い出した。
「いけるか?」
「これぐらい大丈夫だぜ。よいしょっと」
小柄なカザフがバネッサを背負うと、なんか二人羽織みたいだなと思っても口には出さない。せっかくカザフが男気を見せているのだ。
マーギンはアイリスをヒョイと背中に乗せて、孤児院へ戻る。
「なんでお前がうちを背負ってんだよ」
カザフの背中からバネッサが話しかける。
「お前が酔い潰れたから、連れて帰ってやってんだろ」
「乗り心地が悪ぃんだよ。もっとしっかり歩きやがれ。ったく、ヨタヨタしやがって」
カザフのおんぶに文句を言うバネッサ。マーギンのおんぶは安定感抜群なのだ。
「お前が重いからだろうが」
「なら、アイリスを背負えば良かっただろうが。なんで、うちを背負うとか言ったんだよ。非力なくせしやがって」
バネッサは酔い潰れてなかった。マーギンが誰を背負うのか確かめたかったのだ。
「ひっ、非力とか言うなっ! 俺はまだまだこれから成長するんだからな」
「うちを重いとか言うぐらい非力なんだよっ。成長するってんなら、ロッカを軽々背負えるようになってみろ」
思わぬところで巻き添えを食うロッカ。
「無理に決まってんだろ……いてててて」
話が聞こえていたロッカが、カザフの頭をむんずと掴む。
「私はそんなに重いのか? んー?」
ググググ。
カザフは頭が握り潰される勢いで掴まれる。
「ロッカさんは重くないです。決してガチムチだから、重いと思ったわけではありません。やめて、頭がぶちゃっとなるっ!」
「バネッサ、降りろ」
カザフからバネッサを降ろし、ロッカがドスンとカザフに乗った。まるで臼だ。
「うげっ」
「私は重いか?」
背中に乗ったロッカがカザフの頭を掴む。
「重い……くはありません」
「だろ? ならばこのまま孤児院まで背負っていけ。足腰の訓練になるぞ」
哀れ、カザフは臼に頭を掴まれ、ロッカを孤児院まで背負うことになってしまった。
「アイリス、起きてんだろ? 代われよ」
バネッサはマーギンのところにやってきて、アイリスに声をかけた。
「起きてませんよ」
「起きてんじゃねーか。代わりやがれ」
「嫌です」
アイリスが起きているのを確認したマーギンはポイとアイリスを降ろした。
「あー、酷いです」
「起きてるなら歩け」
「えー、せっかく楽チンだったのに、バネッサさんのせいですよ」
とすっ。
その隙にバネッサがマーギンの背中に乗る。それを見たアイリスがズルいです、ズルいですとバネッサを引っ張るが、バネッサはマーギンにしがみついて降りない。
「お前も起きてるだろうが。乗るな」
「いいじゃねーかよ。前まで嫌がるうちを無理矢理おぶってたくせによ」
否定できないマーギン。そう言えば、バネッサを背負うのは久しぶりだ。
「しがみつくなよ」
「なら、ちゃんとおぶれよ」
「ったく」
と、言いながらも、マーギンはバネッサをちゃんとおんぶした。
「えいっ!」
そして、マーギンを取られてしまったアイリスは、バネッサの背中に飛び乗る。
「重いぞアイリス」
「マーギンさんなら、大丈夫ですよ」
「大丈夫とかそういう問題じゃない。二人とも自分で歩け」
と、言ってるにも関わらず、降りない二人。
それを見ていたマーロックは「娘が生まれたら、あんな感じになるのか」と、ブツブツとニヤけているのだった。
翌朝、タジキが孤児たちの屋台に触発されたのか、孤児たちの分まで飯を作り、「これどうやって作るんだ?」 と、質問攻めにされ、ご満悦そうだ。
「そろそろいいか?」
このままだといつまでたっても出発できないので、タジキに声をかける。
「また今度、違うのを教えてやるからな」
「はい。タジキ師匠。また来てください」
「おうっ!」
「じゃ、一段落着いたら、戻ってくるわ。シシリー、無理すんなよ」
「大丈夫よ。気をつけてね」
と、みんなに見送られながら、転移魔法で魔カイコの村に向かったのだった。
◆◆◆
「あれ? みんなはどこに行ったでヤンス?」
ピアンは酔って寝てしまい、朝になってパブで目が覚めた。マーギンに置いてけぼりにされたのだ。
「お客様、お会計をお願いします」
「えっ? アッシが払うんでヤンスか?」
「お連れ様が、最後に残った者が支払うとおっしゃられましたので」
「ひっ、酷いでヤンス……」
◆◆◆
「マーギン、ピアンは起こさなくていいのか?」
オルターネンは、パブから出るときにピアンだけ置いてきたことを、本当にいいのか? と確認していた。
「いいの、いいの。連絡係で楽してんのに、酔って潰れるようなやつにはいいお灸になるだろ。前線で戦っているロブスンに死ぬほど怒られたらいいんだよ」
「お前ってやつは……」
支払いのお金はピアンのポケットに入れておいたので、そのうち気付くだろう。
◆◆◆
「お客さん、お勘定」
「も、持ってないでヤンス……」
ピアンはポケットにお金が入っていることに中々気づかず、冷や汗を流し続けるのであった。