作品タイトル不明
そうか……そうか……
タイベ出発まで、常に誰かが乱入してきたマーギンの家。乱入というより、入り浸られていた状態だ。
そして、タイベ出発の日にロドリゲスがやって来た。
「よう、しっかり休めたか?」
すっかり元気になった女性陣とは対照的に、マーギンは疲れが増していた。
「休めたと思うか? というより何しに来たんだ。俺たちは今からタイベに行くんだけど」
「それを聞いて来たんだ。俺も連れてけ。タイベからハンター応援の要請が入ってな。どれぐらいのレベルのやつを送るか調べなきゃならん」
「ヤバそうなのか?」
「どうだろうな。王都は特務隊がいてくれるおかげで、ハンターに余裕がある。ま、特務隊にではなく、ハンター組合に応援要請をしたってことは、そこまでじゃねーだろ」
「そうか。ならば我らも確認して、ハンターが対応できなさそうなら、特務隊の派遣も検討したほうがいいということか」
と、大隊長はその職を降りても大隊長だった。
フルメンバーにロドリゲスが加わり、タイベに転移。マーギンが酔う前にシャランランをかけるカタリーナも慣れたものだ。
転移した先はタイベの港。かつてのノウブシルクと戦った形跡は消えて、活気を取り戻し、食の屋台が広がっていた。
「おー、いつの間にかこんなに復興してたんだな」
大きな建物は建築に時間がかかるので、屋台街ができたのだろう。
「あーっ! マーギンたちがいる!!」
そう言ってかけ寄って来たのは孤児院の子供たち。
「おー、久しぶりだな。お前らも屋台出してんのか?」
「当然! 食ってってくれよ」
と、案内されたのは焼鳥屋台。鶏を串に刺したものではなく、網にどちゃっとのせて、炎と煙の中で豪快に焼いていた。
「一皿、500Gだ」
ちゃっかり正規料金を請求してくるのはなかなかよろしい。たくましく育ってるな。これもシシリーの教育の成果だろう。
「真っ黒焦げじゃねーかよ」
渡された焼鳥を見て文句を言うバネッサ。
「ちっ、ちっ、ちっ。乳のねーちゃん。それは焦げてんじゃねーよ」
ゴツっ。
バネッサを乳のねーちゃん呼びした子供はゲンコツを食らっていた。
「いいから食ってみろよ」
味付けは塩のみ。部位は不揃いのモモ肉やムネ肉に加えて、鶏ホルモン系もごちゃ混ぜだ。
「おっ、旨い。香ばしくて旨いな」
鶏肉は硬い。しかし、その硬さの中に旨さがギュッと凝縮されたような感じだ。
「うむ、これは酒が欲しくなるな」
次々と焼鳥の皿を全員に渡しては500Gを請求し、この黒い焼鳥を気に入った大隊長が金貨を1枚渡して全員の支払いをし、お釣りも取っておけと太っ腹対応をした。
「他にも屋台出してるから、来てくれよ」
焼鳥の次は丼飯屋。ホルモンを味噌で煮込んだものをご飯の上にのせるだけなので、提供スピードが早い。これも500G。
「旨ぇ!」
甘めに味付けされた味噌煮はバネッサの口に合ったようで、絶賛していた。
「お前ら、楽しそうに働いてるな。それにこれだけ旨いなら、大したもんだ」
子供たちの話を聞くと、味噌煮屋は暗いうちから出港前の漁師向けに商売を始め、昼飯時に売り切れるようにしているようだ。ここでも大隊長が金貨で支払い。お釣りは子供たちのお小遣いになるだろう。
働いている子供たちの中には、顔を知らない子たちもいたので、あの攻撃のときに孤児になったのかもしれない。
それでも、こうして生き生きとしている姿を見て、マーギンはほっとしていた。
マーロックに会いに行く前に、ハンター組合に行くことにし、子供たちにはあとでまた会おうと約束して港を離れた。
「総長。わざわざ来てくださったのですか」
「ロド、お前、総長なんて呼ばれてんの?」
タイベのハンター組合長から総長と呼ばれたロドリゲス。
「うるせぇ」
そう、面倒臭そうにマーギンに答えたロドリゲスは、現状の確認をしていく。
「ラプトゥルが増えてんのか」
王都とタイベを隔てる森近辺から、ラプトゥルが出現し、その勢力が領地の中心に向かって増えてきているとのこと。
「ロド、王都のハンターはラプトゥルに対応できそうか? 魔狼とは違った連携で襲ってくるぞ」
「腕の立つやつでも慣れるまでに殺られそうだな。慣れるまでタイベのハンターと組んでやるとなると、時間が必要だな」
マーギンとロドリゲスがどうするか相談していると、タイベの組合長が追加で現状を説明し始めた。
「こちらのハンターも他のハンターを訓練するほど余裕があるわけじゃないんです。こちらも手ほどきを受けてる状態でして、そこに合流してもらえればと思います」
「手ほどき? 誰に手ほどきしてもらってるんだ?」
「それは……」
と、タイベの組合長が説明しかけたとき、
「あれっ、オヤビンでヤンスか?」
どこか間の抜けた声で話しかけられた。
「ピアン、お前がなんでここにいる?」
その正体は真なる獣人、ピアンだ。
「それはこっちのセリフだ」
「あっしらはここで、ハンターたちにラプトゥル狩りの手ほどきをしてるんでヤンスよ」
「そ、そうなんです。ハンナリー商会のエルラさんが呼んでくださったんです。いやぁ、ハンナリー商会の力は凄いですね。ワー族の皆さんは凄いんですよ」
なるほど。
「ロブスンは来てるのか?」
「来てるでヤンスよ。あっしは現地とここの連絡係をしてるでヤンス」
「お前、楽な仕事でサボってんじゃねーよ。最前線で戦え」
「サ、サ、サ、サボってなんかねーでヤンスよ。あっしが一番足が速いから、連絡係に任命されたんでヤンス。それよりオヤビン、誰とツガイになったんで? 全員でヤンスか?」
と、バネッサたちを見回す。
「誰ともなってねーよ。それより、現場はどこだ?」
「魔カイコを飼ってる村でヤンス。魔蛾とラプトゥルの戦場になってるでヤンスよ」
「チューマンは?」
「あれから出てないでヤンス。それより、小型のラプトゥルが厄介でヤンスね。なんせ数が多いもんで、あっちにチョロチョロ、こっちにチョロチョロ。気がつくと魔カイコが食われてるでヤンス」
それはヤバい。魔カイコはこれからのタイベの産業を支えるものの一つ。シスコも高額商品になると期待しているのだ。
「俺も明日には向かう」
「オヤビンが退治してくれるんでヤンスか?」
「手ほどきは中型を想定してるんだろ? 小型はどうやってる?」
「こう、バシッ、チャッ、ブチッ、て感じでヤス」
ピアンの説明はまったく分からん。というか、小型は単にどれだけ短時間で数をさばけるかによるからな。この中ではアイリスが最適解か。
「マーギンが行ってくれるのか?」
ロドリゲスはそれは僥倖といった感じで、ラッキーだなと、タイベの組合長の胸を叩いた。
「俺はハンターを訓練するほど時間がない。今回は小型のラプトゥルを殲滅するだけになるけどな」
「そうか。それなら俺も現場を見に行くわ」
ということで、今日はマーロックに会って、明日に魔カイコの村に行くことになった。
ハンター組合を出て、孤児院に行くと新しい建物を建築中だった。
「マーギン、来てくれたの? 久しぶりね」
出迎えてくれたのはシシリー。
「久しぶりだ……ん? んんん?」
マーギンはシシリーをまじまじと見る。
「ふふふ、分かる?」
「そのお腹……」
「うん」
「そうか……そうか……良かったな」
「ありがとうマーギン」
少し膨らみを帯びたシシリーのお腹。マーロックがマーギンに話があると言っていたのはこのことだったのか。
元遊女のシシリー。身請け話がなくなり、娼館の後継者をする予定だった。それがマーロックと再会し、色々とあったが、そうか……良かった。と、マーギンは思わず目からポロッと涙が落ちた。
「やぁねぇ、マーギン。泣かないでよ。こっちもなんか泣けてくるじゃない」
「だってさぁ……」
「ありがとうマーギン。私、幸せになるね」
シシリーはそっと、マーギンの胸に寄り添い、呟いた。
「うん、うん」
マーギンは返事しかできず、自分ごとのように喜んだ。
「オヤビン、いつの間に孕ませてたんで?」
ピアンがいらぬ爆弾発言をする。
「えーーっ! マーギンの子供なのーーっ?」
それを真に受けるカタリーナ。
「そんなわけあるかーーっ!!」
こうして、感動のできごとを台無しにされたマーギンなのであった。