軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

拭えない後悔

「ちゃんと話せたか?」

「うん、おおきにな」

ハンナリーは父親とマーギンの家で一晩中話していたようだ。目が赤いのは寝ていないのか、泣きはらしたか、その両方かは分からないが、スッキリとした顔をしていた。

「マーギンさん。娘の面倒を見ていただいたことを心から感謝いたします」

父親はマーギンがハンナリーの心の支えになってくれていたことを聞かされ、心の底から感謝した。

「別に頼まれたわけじゃないしな。たまたまの出会いだ。そんなに感謝されるようなことじゃない。それよりこれからどうするつもりだ?」

「何かできることを探して、娘と妻への贖罪のために生きようと思います」

「オトン、もう贖罪とか言わんでええて言うたやん。うちもオトンが辛かったんが分かったし」

「いや、俺は許されないことをした。妻を疑い、お前に辛い思いをさせ……」

と、父親は涙を流した。

「できることか……ハンナ、親父と一緒に付いてこい」

「えっ、あ、うん。どこに行くん?」

「親父のできることを探しにいくに決まってんだろ。長い間、ただ死んでないだけの生活をしてきたんだ。自分でなんとかできるわけないだろ」

辛辣な言い方をするマーギンだが、現実的にはその通りだった。

どこへ行くとも告げず、スタスタと歩いていくマーギン。

「え? 商会でなんか探すんか?」

「それが一番手っ取り早い」

マーギンが訪ねたのはハンナリー商会本部。

「シスコはいるか?」

「お約束はありますか?」

受付したのは新人の女の子。マーギンのことも、ハンナリーのことも知らないようだった。

「約束はしてないが、シスコがいるなら直接話すから気にしないでくれ」

と、ドアを開けようとすると、

「こっ、困ります。勝手なことをされたら、衛兵を呼びますよ」

受付の女の子は慌ててマーギンを止めようとする。

「俺はマーギン、後ろにいるのは商会長のハンナリーだ」

「えっ?」

「通るぞ」

詳しい説明もせずに、ドアを開けたマーギン。事務所にいたシスコはすでに嫌な顔をしている。

「なんだよその顔は?」

「もっとちゃんと訪ねてきなさいよ。強盗に間違われてもおかしくないわよ」

シスコにはドアの外でのやり取りが聞こえていた。ちゃんとやろうと思えばできるくせに、ちゃんとやらないマーギンにイラついたのだ。

「急ぎだ。孤児に任せたゴミの回収と肥料の売り上げはどうなってる?」

「まったくもうっ。順調よ。それがどうしたのよ」

「あれはハンナリー商会で利益計上してるか?」

「してないわよ。孤児院に全部まかせているから」

「肥料の売れ行きは?」

「カニガラの肥料は花の肥料としてそこそこ高値で売れてるみたいよ。バラの赤が綺麗に出るって分かってから、他の商人がまとめて買っていくと聞いたわ」

シスコの話によると、孤児達の将来の勉強も兼ねて、販売も自分達でやらせているようだ。ジャガイモから作った春雨はハンナリー商会が買い上げているらしい。

「分かった。邪魔したな」

「ちょっと、なんなのよ。それに、ハンナリーの隣にいる人はどちら様なの?」

「うちのオトン」

「えっ?」

ボロ布を纏った汚らしい男を父親だと言ったハンナリーに驚くシスコ。

「父親って……あっ、ちょっと待ちなさいよ」

マーギンはシスコに確認だけをして、スタスタと外に出て行ったので、ハンナリーたちも慌てて付いて出て行った。

「もうっ、ちゃんと説明しなさいよっ!」

そして、シスコもマーギンを追いかけた。

「なんだよ? お前は忙しいと思ったから、手短に切り上げてやったのに」

「あなたが何をするか気になるのは当然でしょっ! どうせ、私が尻ぬぐいすることになるんだから!!」

ギャンギャンと怒りながらマーギンに噛み付くシスコ。

「お前、またヒスコになってんぞ」

バンッ。

「誰がそうさせてんのよっ!」

シスコはマーギンの背中を遠慮なしに叩いた。

「叩くなよ。痛いだろうが」

「何するか説明しなさいよっ!」

「ハンナの親父にやってもらいたいことがあるんだよ」

「何をさせるのよ?」

「孤児たちの面倒を見てもらう」

「えっ?」

「わ、私が孤児の面倒を見るんですか?」

初めて何をするか聞かされたハンナリーの父親も驚く。

「マーギン、なんでオトンに孤児院を見てもらうんや? あそこにはシスターがいるやんか」

「そうだな。あとはシスターがどう反応するかだけの問題だ」

マーギン以外の3人の頭の中にはてなマークが浮かぶ。マーギンが何を考えているのか分からないのだ。

「こんにちはー!」

「はーい……あらあらあらあら、マーギンさん。ご無沙汰をしております。いつもいつもありがとうございます。おかげさまで子供達も……」

話が長くなりそうなので、マーギンはシスターがしゃべっているのに、本題を切り出した。

「今日はちょっとお願いがあってきたんだけど、話を聞いてもらってもいいですか?」

「え、ええ。どういった用件でしょう?」

「この男を孤児院で雇う……というより手伝わせてやってもらえないですかね?」

「手伝う?」

「はい。母親代わりは、シスターがいますが、父親代わりがいないでしょ? この男にその役目をさせてもらえませんかね?」

「マーギン、どういう意味なん? オトンが孤児の父親代りって」

「ハンナ、お前が父親を許しても、俺はまだ許せん。だから、贖罪をすると言ったことを実行してもらう」

「贖罪の実行……」

ハンナリーの父親はマーギンの言葉を繰り返した。

「そう。知っての通り、ここにいる子供たちは親を亡くしたか、捨てられたかで孤児になった。そして、お前は子供を捨てた側。ハンナはもう成人して、親に何かをしてもらう齢じゃない。それに、今更謝られてもハンナの子供時代は戻ってこない。だから、代わりに孤児たちの親になれ。ハンナにしてやれなかった、ちゃんとした親ってやつをな」

「マーギンさん……」

「シスター、この男が何か問題を起こしたら、俺が責任を取るから頼めないかな」

「マーギンさんのお願いなら、断ることはしませんが、お給料とかその……」

「給料はいらん。こいつには自分で稼がせる」

「マーギン、稼がせるって、ここでオトンに何させるつもりなんや?」

「ゴミの回収事業と肥料販売だな。ハンナリー商会じゃないところが買い付けに来てんだろ? 騙されるのも勉強かもしれんが、騙されてることに気づかなかったら勉強にならんと思わないか? なぁ、シスコ」

「騙される?」

「お前、カニガラの肥料はそこそこの高値で売れてると言ったよな?」

「え、ええ」

「多分、お前が思ってるより、販売価格は高くなってんじゃないのか?」

「肥料が?」

「そう。バラに使ってるなら、売り先は金持ちだろ? それに他の所でカニガラの肥料なんて作ってないから、相場もない。商人のやりたい放題かもしれん」

「それはそうかもしれないけど……」

「まぁ、適正価格がどれぐらいなのか俺にも分からん。が、こいつならそれも調べて、適正な卸価格とか把握できるんじゃないかと思う」

「ハンナリーのお父さんが?」

「おい、お前は腐っても元商売人だろ? それぐらいやってみせろよ。シスターも孤児たちも商売に疎い。ハンナリー商会も孤児院に人を回すほどの余裕がない。お前が適任だ」

「マーギンさん……」

ハンナリーの父親はマーギンの意図を理解した。

「シスター、よろしくお願いいたします。死ぬ気で頑張りますので、どうかここを手伝わせてください」

「分かりました。こちらこそよろしくお願いいたします」

こうして、ハンナリーの父親は亡き妻と大人になった娘への贖罪の代わりに、孤児たちの父親代わりをすることになったのであった。

今日から、父親は孤児院に住み込みとなり、その夜、ハンナリーはマーギンの家に泊まりにきた。

「なぁ、なんでオトンに孤児院の手伝いをさせようと思ったん? うちはハンナリー商会に雇わせるつもりなんかと思ったわ」

ハンナリーは酒を飲み終え、コップに残った氷を指でくるくると動かしながらマーギンに今日のことを聞いていた。

「お前はもう親父さんを許せたんだろ?」

「うん」

「でも、親父さんの気持ちはどうなんだろうな?」

「オトンの気持ち?」

「そう。謝っても謝りきれない。お前はもういいと言ったが、それで親父さんの後悔は消えるのかな?」

「オトンの後悔か……」

「俺は、一生拭うことのできない後悔だと思う。お前は親父さんに残りの人生を後悔だけで過ごしてほしいか?」

「……そんなんいややな」

「だろ」

マーギンはハンナリーのコップに少し強めの酒を注いだ。

「俺は孤児たちが親父さんの心を少し軽くしてくれるんじゃないかと思う。親父さんは謝りたいのにそれができない、孤児たちは自分を捨てたり、先に死んでしまったことを親に謝ってほしいのに、それが叶わない。親父さんが孤児院を手伝うことによって、お互いができないことを埋められるんじゃないかな」

ハンナリーは、やっぱりマーギンは凄いなと思う。自分はこれから父親を養って、楽をさせてやろうと思っていたのだ。それだと、父親の後悔は消えないと教えてくれたのだ。

「マーギン、あんたやっぱりええ男やな」

「お前も可愛いぞ」

と、褒められたマーギンは片眉を上げて、おどけて見せた。

「へへっ、へへへへ。そや、うちは可愛いねん。こんな可愛い娘を捨てた父親はアホやったちゅうことやな」

「そうだ。お前の父親はバカだ。だから、これから孤児院でやり直してもらえ」

「うん……おおきになマーギン……」

最後に注がれた強い酒を飲んだハンナリーは、昨日寝ていないこともあり、マーギンにお礼を言ったあと、安心した顔で寝てしまったのであった。