軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

独り立ち

翌朝、バネッサ達は一度宿舎に戻り、マーギンは娼館に来ていた。

「おや、誰だったかいね?」

「もうボケたか。まぁ、ババアもそういう齢だから仕方がないな」

ブンッ。

「危ねっ!」

いらぬことを言い返したマーギンの顔目掛けてペンが飛んできたのを避けた。

「フンッ、で何持って来たんだい?」

「鴨肉とか色々だ」

マーギンがドサッと鴨肉や魚類を出すと、遊女見習いが呼ばれて、奥に運ばれて行った。

「タイベには行ったのかい?」

お土産が運ばれたあと、ババアがタイベに行ったかと聞く。

「いや、近々行くつもりだけど、なんでそんなことを聞くんだ?」

と、不思議がるマーギンの様子を見たババアは話をせず、タバサの墓に手を合わせていけと言った。

「そのつもりだよ。中に入るぞ」

娼館の中にあるタバサの墓に向かったマーギンは静かに祈る。

「タバサ、あの世で元気に……ってのもおかしいか。ゆっくり休めてるか? こっちはバタバタしてて落ち着かないわ」

それから、ノウブシルクやゴルドバーンでの出来事を話し、探している遺跡が見付からないと困った顔で頭を掻いた。自分の心情を仲間に吐露できない分、弱音を交えてタバサの墓に向かって話し続けた。

『大丈夫よ』

なんとなく、タバサがそう言ってくれた気がして、マーギンの心が少し軽くなった。

「じゃ、また来るわ。ありがとな」

そう言って、墓に手を振り、ババアの所に戻った。

「随分と長い話だったね」

フンッとした顔でマーギンを見るババア。

「タバサは俺の話が好きだったからな。つい話し込んだわ」

「そうさね。まったく、お前が来てから、ほとんど客も受けようとしなくなっちまって、とんだ商売の邪魔をしてくれたもんだ。ちょっとは補填しなってもんだ」

「俺のせいじゃないだろ」

商売の邪魔をしたと言われて心外なマーギン。しかし、マーギンがここに転がり込んでからタバサが客をあまり受けなくなったのは事実だった。

「ほらよ」

ジャラジャラと手持ちの魔結晶を出して渡す。

「この冬もかなり寒かったから、かなり魔結晶使ったろ?」

「今は魔結晶の値段も随分と下がったからね。こんなもんじゃ補填になりゃしないよ」

「そうかよ。なら、組合から買えよ」

と、渡した魔結晶を回収しようとしたら、手をピシャっと叩かれた。

「利子ぐらいにはなるさね。次は宝石でも持ってくるんだね」

宝石か……あの人工宝石が出回れば、魔結晶よりもっと価値が下がるだろうな。と、マーギンはブツブツ独り言を言う。

「なんだい? 何か言いたいことでもあるのかい?」

「いや、価値が不変なものなんてないってことだなと思ってな」

「当たり前さね。価値のあるもんは価値があるうちに売っちまいな。遊女も同じさね。価値が高いうちに稼ぐもんさ。それぐらいお前でも分かるだろ」

「そうだな。ババアはもう価値がないからな」

またいらぬことを言ったマーギンは娼館から追い出されたのであった。

夜はリッカの食堂で宴会になった。休みの日だったので貸し切りだ。

「ハンバーグさん、マーギンは、マーギンはいつ作ってくれますか」

「誰がハンバーグだ。それに俺を作るってなんだよ」

「どっちでもいいじゃないですか」

「いいわけあるか」

アイリスはオアズケから解き放たれた犬のようにマーギンにじゃれつく。それを見たリッカはフンッと横を向いて、タジキの方へ行った。

「ねぇ、タジキ。あんたの作るハンバーグとマーギンの作るハンバーグに差なんてないでしょ。どうしてアイリスはあんなにマーギンのハンバーグを食べたがるのよ?」

「知らねぇよ。何回作っても、違うとしか言わないから、もう作ってやらないことにしたんだ」

「ふーん。じゃあもう一度勝負してみる?」

ふてくされた様子のタジキを見たリッカは、本当に違うのかはっきりさせてみようと言い出した。

「マーギン、勝負よ!」

リッカはマーギンをビッと指差した。

「なんの勝負だよ?」

「ハンバーグよ、ハンバーグ」

「は?」

「どっちのハンバーグが美味しいか勝負しなさい」

「お前のハンバーグなんか、誰が食うんだ? 大将が作るなら分かるけどな」

「キーーーっ! 私じゃないわよっ。タジキが作るのっ!!」

髪色と同じような顔色で怒るリッカ。

「そんなの勝負する必要もないだろ? タジキの作るハンバーグは十分旨いんだから」

「いいからやって」

客として食いに来てるのに、なんでそんなことをしなきゃならんのだとブツブツ言うマーギン。しかし、タジキはやる気みたいなので、仕方がなく厨房に向かった。

「タジキ、なんでこんなことになったんだ?」

「アイリスだよ、アイリス。俺が作っても違うとしか言わないだろ? だから本当に違うのか確かめようと思って」

「そうか。なら、どっちが作ったか分からないようにして食わせるか」

ということで、ブラインドテストをすることになった。

同じ肉を使ってそれぞれがハンバーグを作っていく。他のみんなも食べるだろうから、小さめのハンバーグをたくさん作った。

「できたぞ……」

せっせとハンバーグを作っていた2人をよそに、他の者たちは大隊長の焼く焼肉で宴会をしていた。

「マンバーグさんっ!」

「混ぜんな。それより誰が食うんだよ?」

「「全員」」

小さめのを大量に作っておいて良かった。

「両方食べて、美味しいと思った方のテーブルに座ってくれ」

マーギンが説明すると、

「アイリスが食うのは一番最後な」

「えっ?」

真っ先に食べようとしたアイリスを止めたタジキ。

「ふむ、そういうことか。では俺が一番先に食べよう」

この勝負がタジキにとって、独り立ちの試験みたいなものだと思った大隊長は一番手を名乗り出た。そして、それぞれのハンバーグを指で摘んで食べていく。

「タジキ、どちらを選ぶかは、全員が食べてからでいいな?」

「え? あ、うん」

「ということだ。だったら、順番に食うことも必要ないだろう。冷めないうちに食べた方がいいぞ」

そう言われたアイリスはマテを解き放たれた犬のように飛びついた。

「一つずつだからな。全部食うなよ」

「えーっ」

ワンコハンバーグをしかけたアイリスを止めるマーギン。

「えー、じゃない。明日また作ってやるから」

「もう、しょうがないですね」

なにがしょうがないのだ? と、心の中で突っ込むが、今回はお留守番だったからな。

そして皆が食べ終わったあと、ウンウンと迷いながら、それぞれが美味しいと思ったテーブルの方へ移動する。

右のテーブルには、ローズ、カザフ、オルターネン、ロッカ、ハンナリー、リッカ、女将さん。左のテーブルには、バネッサ、カタリーナ、トルク、シスコ。

「大隊長はどっちに?」

大将が大隊長に移動を促した。

「うむ、右に行こう。大将はどちらにするのだ?」

「自分は答えが分かったので、棄権します」

「そうか」

と、大隊長は微笑んで右のテーブルへ移動した。

「アイリスはどっちを選ぶんだよ?」

「私は左です。左がマンバーグです」

右のテーブルの方を選んだ人数が多いのに、アイリスが左を選んだことで渋い顔をするタジキ。

「大将、この結果を説明してもらえないか。右がタジキ、左がマーギンので合ってるな?」

「そうです。だろ、タジキ」

「う、うん……」

「そんな顔をするな。お前の作ったものを選んだ人数の方が多いだろ」

「そうなんだけど、やっぱりアイリスが違うって言ってるのは本当だったんだなって……」

「そうだな。違うっちゃ違う」

「大将、なにが違うんだよ。材料も作り方

も同じなんだぜ。どうしてアイリスはマーギンのハンバーグを選ぶんだよ」

「それはな、お前のハンバーグは店の味だ。それに対してマーギンのは家の味だ。タジキはここで飯作るの手伝ってるだろ?」

「う、うん」

「少なからずとも、俺の作る味付けの影響を受けている。俺の作る飯は店の味だからな」

「なにが違うんだよ?」

「塩加減だ。ほんの僅かだが、お前のハンバーグの方が塩加減が強い。ここに来る客はハンターが多いだろ。酒も飲むし、家で食う飯より、塩味が強い方が旨いと感じるもんだ」

タジキがそう言われて、それぞれのテーブルにいるメンバーを見た。確かに、身体を動かすことの多い者がタジキのハンバーグを選んでいた。

「バネッサはどうしてそっちを選んだんだよ」

バネッサは身体を動かす方の人間だ。しかし、マーギンのハンバーグを選んだ。

「どうしてって、こっちの方が旨かったからだろうが」

バネッサは、素っ気なく答えた。

「タジキ、俺はお前の作ったハンバーグの方が旨いと思った。好みは人それぞれだ。落ち込むことはない」

と、大隊長に言われたが、まだ腑に落ちないタジキ。

「アイリス。ほんの少し塩を薄くしたら、マーギンと同じハンバーグになるのか?」

「んー、どうでしょう。それでも私は違うと言うと思います」

「どうして分かると思うんだ?」

「マーギンさんの作るハンバーグは私にとって、特別だからです。だから分かると思います」

「なんだよそれ……」

「愛ですよ、愛。タジキのハンバーグには私への愛が入ってませんが、マーギンさんのハンバーグには私への愛が入っているのです」

「愛……?」

「はい。妻に対する愛です」

ごすぅ。

「お前、それやめろって言ってるだろうが」

お約束のやり取りをしたアイリスは、頭を小突かれながらも、マーギンの顔を見て、嬉しそうに微笑んだのだ。

「やっぱり、マンバーグは美味しいですねぇ」

アイリスは残っていたハンバーグを食べてそう言った。

「……それ、俺が作ったやつだぞ」

「えっ?」

「やっぱり適当に違うと言ってただけじゃねーかよ!」

「えっ? えっ? えっ?」

その様子を見た大隊長は、子供が成長していく姿を見つめるような目でフフンと笑うのであった。