軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

対決3

「人は人と戦うより、魔物と戦っていくことが重要だと思いませんか」

「……」

マーギンは元第一王子の言葉に飲まれていく。

「人は人を脅かすものと戦う。人が人を脅かすような世界は間違っていると思っているのです。だが、そう思わない人が国のトップに立つ。そうじゃないと否定していても、きっかけがあればすぐに争おうとする。それを憂いているのです」

マーギンはこの言葉を否定することができない。過去の世界がそうなったからだ。

「だが、理想の世界を目指すには力が必要。いくら、理想を説いても力があるものがそれを許さない。ここにいる子供達も同じです。生きたくても世界がそれを許さない。実に理不尽だ。だが、私にはそれを覆すことができる。それを実証して見せた」

「お前は……」

何かを言いかけたマーギンの言葉を遮り、男は話を続ける。

「ノウブシルク王、私にはまだ力が足りない。しかし、あなたが私の手を取ってくれれば、理想の世界が現実のものとなるでしょう。いかがですか? 人と人が争うことのない世界を一緒に作りませんか。あなたもそれを望んでいると私は確信しております」

マーギンは男の手を取ろうとした。

「胡散臭いこと言ってんじゃねーぞ、てめぇ!」

ガキンっ。

バネッサの放ったオスクリタが男のプロテクションに阻まれる。

「マーギンっ、何こいつの言うことを信じてんだよ。そんなやつ、さっさと処分しやがれ」

「おやおや、あなたは素晴らしいパラライズ耐性をお持ちのようですね。しかし、ノウブシルク王は私の意見に賛成のようですよ」

パラライズを自力で解いたバネッサがマーギンの元に走って来る。

「マーギン、こいつのやったことを思い出せ。子供を兵器にしやがったんだぞ。そんなやつが世界の平和を願ってるわけねぇだろうが」

「それは誤解です。ノウブシルク王が信頼するに値するかどうかを試させていただいたまで。失礼なやり方だったことはお詫び申し上げますが」

「そうだ。バネッサ。こいつの言っていることは理解できる。お前もちゃんと話を聞いてみろ」

マーギンはバネッサをそう諭した。

「なん……だと?」

バネッサはマーギンの目を見て、ハッとした。

「てめぇ……マーギンに何をしやがった……」

バネッサはマーギンの目から光が消えていることに気付き、男を睨みつける。

「私は話をしたまでですよ。私はあなた方と敵対するつもりはありません。それによく考えてみてください。親を亡くしたり、捨てられて生きていけない子供がどれだけ多いか。それも人と人が争い、自分勝手な人がそうさせるのです。私の目指す世界はそういった子供もいなくなるのですよ」

「な、何か理由があるかもしれねぇじゃねぇかよ……」

「理由があれば子供を捨ててもいいと? 捨てられた子供が生き延びられても、辛い人生が待っているとは思いませんか? ろくに仕事もなく、犯罪に手を染めないと生きていけない。人々からゴミを見るような目で見られ、暗闇に隠れて生きるような人生が待っているのですよ」

「そ、それは……」

「そんな世界から抜け出せるのはごく一部です。抜け出せなかった者はどうなります?」

バネッサも男の言葉に飲み込まれていく。自分が歩んできた人生に心当たりがあるからだ。

「ノウブシルク王が私の手を取ってくだされば、そういった世界ではなくなるのです。あなたはノウブシルク王に信頼されている……いや、恋人でいらっしゃるのなら、ぜひご一緒にノウブシルク王の理想の世界を作りましょう。お二人の間に産まれてくる子供もその方が幸せになると思います」

「う、うちとマーギンはそんな関係じゃねぇ……」

そういったバネッサは、マーギンと幸せに暮らす自分を想像してしまった。

「人と争うことがなくなれば、戦うのは魔物だけです。そこに遠慮は必要ありません。あなたの力が人々のために最大限生きるのです」

その言葉を受け入れたバネッサの目からも光が消えていく。

「くっ、あの男は危険過ぎる……」

大隊長はマーギンとバネッサが男の言葉に飲み込まれていくのを見ていた。

男の話は辻褄が合っているようで、そうではない。対象者が望む話をすることで、自分は正しいと思い込ませているに過ぎない。

「ロドリゲスと同じような能力の持ち主か」

ロドリゲスは人の心を読める魔眼を持っていた。それと同等の能力……いや、それよりも強力かもしれん。と思った大隊長。

「フゥゥンッ!」

男の能力に気付いた大隊長はパラライズが解けた瞬間にヴィコーレで男を斬りつけた。

ガキーーッン。

「大隊長っ! 何やってんだよ!」

「マーギン、目を覚ませ。お前は洗脳されている。こいつの異常さに気付け。これは魔眼の能力だ」

(そんなことまで知っているとは、本当に危険なやつらだ)

「ノウブシルク王、この男は理想の世界を作るのを邪魔したいようです。とても危険な人物ですよ」

「大隊長、やめろってば」

「目を覚ませっ!」

と、大隊長がヴィコーレの柄の方でマーギンに攻撃をした。

攻撃されたことで、大隊長を敵と認識してしまったマーギン。そして、マーギンを攻撃されたことでバネッサも同じく敵と認識してしまった。

「何しやがんだてめぇっ」

ヒュンヒュンヒュンヒュン。

バネッサはオスクリタで大隊長を攻撃する。

「くっ、バネッサもか。マーギン、早く異常事態だと気付け」

「ノウブシルク王、あれは理想の世界を邪魔しようとする敵です。排除してください」

「ガッ……うぐぐ」

頭を抱えて蹲るマーギン。大隊長が敵だとの認識と、信頼できる仲間だとの認識が精神に干渉する。

「フンッ」

「ぐっ……ぐふ……」

大隊長はバネッサのみぞおちをヴィコーレの柄で突き上げ、行動不能にした。

「ば、バネッサ……」

混乱した頭を押さえて、倒れ込んだバネッサに近寄るマーギン。

「ゴフッ、ゴフッ」

ブチン。

口から血を吐いたバネッサを見たマーギンの何かがキレた。

「てめぇっ、バネッサに何しやがる……」

大隊長に敵意を剥き出しにしたマーギン。

《ヒール!》

マーギンは攻撃より先に治癒魔法をバネッサにかける。しかし、内臓にダメージを負ったバネッサにはあまり効かない。

「ちっ!」

マーギンはバネッサを上に向かせて口を付けた。

ふーっ。

治癒魔法を込めた息をバネッサに吹き込む。

「大丈夫か?」

「下っ腹が痛え」

「息はできるか?」

「それは大丈夫だ」

「分かった。ちょっと寝とけ」

「悪ぃ」

そう答えたバネッサは気を失った。

「大隊長、バネッサに何しやがるんだ!」

「マーギン、お前もバネッサもあの男に洗脳されている。あの男が目指しているのは、お前が望む理想郷ではない。意のままに操れる傀儡だけの世界だ」

「そんなことは……」

「あいつのやったことを思い出せ。兵器にされた子供はどうなった? トルクはあの男の命令で何をした?」

「それは……」

「お前が託されたのはそんな未来かっ! 昔の仲間はお前に何を託した。よく思い出せっ!!」

大隊長は大声でマーギンに喝を入れた。

「俺は……俺は……」

「マーギン。お前はお前の幸せのために生きろ。何がお前の幸せだ? 自分の意思を持たない人々がただ死なないだけの世界か? そんな世界でお前は幸せになれるのか?」

「ガイン……」

マーギンは頭の中が混乱し、大隊長とガインの区別がつかなくなっている。

「きゃーーっ」

そのときにカタリーナの悲鳴が聞こえた。

「カタリーナっ!?」

マーギンと大隊長がカタリーナの方を見ると、男がカタリーナを連れ去ろうとしていた。

「ノウブシルク王。この聖女様はいただいていきますね。これからの世界にこの力があると非常に助かりますので」

パラライズが解け切ってないカタリーナは抵抗があまりできない。

ブォン。

「あっ、あの魔法陣は……」

男は転移の魔法陣を出した。不味い、カタリーナを連れ去られる。そう思う気持ちとカタリーナがいれば、人に魔石を埋めることが容易になるとの考えが交差したことで反応が遅れたマーギン。

《パラライズ解除!》

ぐちゃぐちゃになった頭の中を振り払うようにして、パラライズを解除した。

「トルク、お前も来なさい」

それを見た男はトルクも連れ去ろうとした。

「がっ……うっ……トル……ク、な、何を……」

トルクは見えない手で男の首を掴んだ。

「私……は、お前の……父だぞ……」

「僕の親はマーギンだ。お前じゃない」

そう答えたトルクは見えない手に力を入れた。

「それに僕は姫様を守るんだーー!」

グググっと男を握る手に力が入る。

「トルク、やめ……」

ズバッ!

ブシャッー!

マーギンがトルクを止めようとしたとき、

「お前が手をかける価値もない」

オルターネンがオートプロテクションをものともせず、ジェニクスで元第一王子を斬った。

「プロテクションを斬る……だと?」

「しょせん偽物のプロテクション。この俺が見た光の前では何も無きに等しい」

と、ジェニクスを掲げて男に告げたのであった。

◆◆◆

「マーギン、お前はその甘さに付け込まれたのだ」

「あ、うん……ごめん」

男の息が途絶えるのを見届けたあと、オルターネンから叱られるマーギン。

「だが、お前はそのままでかまわん」

「えっ?」

「そのままでいいと言ったんだ。お前の甘さはお前らしさだ。その甘くて不甲斐ない部分は俺がカバーしてやる」

「なんだよそれ……」

「お前の甘さに救われた者も多いからな」

と、オルターネンは笑って答えた。

そして、ローズが申し訳なさそうな顔でマーギンに頭を下げた。

「すまん」

「えっ? 何が……?」

「私が余計なことを言ったばかりに、マーギンを迷わせてしまった。あれがなければこのようなことにならなかったのだ」

「ローズ、それは違うよ。ちい兄様の言う通り、俺の甘さで、みんなを危険に晒してしまった」

「確かにあのときに、マーギンに攻撃されていたら、俺は死んでいたな」

大隊長は腕を組んで、マーギンを睨む。

「こ、攻撃しなかったじゃん」

「するつもりだったろ?」

バネッサの血を見たときに、大隊長を攻撃するつもりだったマーギン。

「バネッサは遠慮なく攻撃してきたが、まだまだだったな」

「うっせぇよ」

カタリーナにシャランランをかけてもらい全回復済のバネッサは大隊長にツンしたあと、マーギンの方を見る。

「どうした?」

「なっ、なんでもねぇよ」

と、赤くなってそっぽを向いた。先ほど、マーギンとの間にできた子供と3人で手を繋いで歩く未来を想像したのを思い出したのだ。

「そんなんじゃねーっての。それより、この部屋に何が残されてるか探るんだろ?」

マーギンは男の遺体をアイテムボックスに収納し、部屋に何が残されているか確認することにしたのであった。