軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

優しいマーギン

夜明けを待って、北の街に入った。

「明日まで休みにしようか。ちい兄様も寝ないとダメだし」

全員寝ていないので、体力の回復をすることにして、高級宿の部屋を取る。

「じゃ、王都に戻るのは明日の朝出発でいいね」

宿の食堂で朝食を取ってから、出発まで自由行動にして解散。

マーギンは1人部屋で爆睡し、起きたのは夕方前。

「ふぁぁ、よく寝た」

ベッドの中で伸びをしようとするが、デカいマーギンは手を伸ばしきれず、上半身を起こして伸びをした。

「うわぁぁっ、勝手に入って来んなよ!」

「鍵がかかってなかったんです。ノックしても返事がなかったから、もう出かけちゃったのかなと思って。でも起こさずに、起きるのを待ってましたよ?」

マーギンが起きると、アイリスが部屋の椅子に座っていたのだ。

「お前なぁ……寝てるところにいつの間にか誰かいたらびっくりするだろ」

「油断ですよ、油断。賊だったらどうするんですか」

「悪意があったら気付いてるわ」

ご飯食べに行きましょうと言われて、着替えて部屋を出る。

「他の人は誘わないんですか?」

「自由行動にしたろ? そっとしとけ」

「それもそうですね。じゃ、二人で行きましょう」

と、アイリスが腕を組んでくる。

「歩きにくい」

「じゃ、背中に乗りましょうか?」

「なんでだよ」

「二人で出掛けるのも久しぶりですし、別にいいじゃないですか。こうしてると暖かいんです」

確かにアイリスと二人で出掛けるのもずいぶんと久しぶりだ。と思ったマーギンはアイリスの腕を振り払わず、そのまま街に出ることに。

「どこに行くんですか?」

「チーズの仕入れ。この街のチーズは旨いのがたくさんあるからな」

アイリスと街をプラプラと歩きながら、チーズ屋に向かう。

カタカタカタと、寒さに弱いアイリスが震えている。

「寒いのか?」

「耳と鼻が痛いです」

討伐のときは気を張っているけど、何もないときのこの気温が辛いのは理解できる。

「帽子かなんか買ってやる。あの服屋で選べ」

「いいんですか?」

と、服屋に入り、好きなものを選ばせる。

「これがいいです!」

アイリスが選んだのはウサギかなんかの毛皮でできたフワフワのミトンタイプの手袋。

「それ、ものを掴みにくくないか?」

「掴まないから大丈夫です」

まぁ、戦闘中に使うものでもないからいいか。

「帽子とネックウォーマーとかも買っとけ」

アイリスは帽子もネックウォーマーもフワフワのお揃いを選んだ。

「何を見てるんですか?」

「いや、バネッサが雪の中とかでも素手だろ? ノウブシルクに来たときも凍傷になりかけてたんだよ。今回もそうだったから、手袋でも買っといてやろうかと思ってな」

「じゃあ、私とお揃いのにしましょうか」

「いや、あいつは武器を持つからな。そんなフワフワじゃない方がいいと思うんだよ」

店の人に聞いて、薄くて暖かい手袋を選んでもらった。革なのに伸縮性もあり、めっちゃ高い手袋だ。

「私とバネッサさんのだけ買ったら、姫様が拗ねませんか?」

「あいつは自分のを持ってるだろ」

「ローズさんのは?」

「うーん、何もない日に俺が買うのも変だろ?」

「それもそうですね。じゃ、私とバネッサさんの分だけで」

と、2人分だけ買ってから、チーズ屋で買い占めんばかりにチーズを買い、宿に戻った。

「あー、やっと帰ってきた!」

部屋の前で待ち構えていたカタリーナ。

「自由行動って言ったろ?」

「晩御飯食べに行こうって、誘いに来たの。アイリス、その帽子とかどうしたの?」

「マーギンさんに買ってもらいました」

「えーっ、ずっるーい。私も欲しい」

「お前、自分のがあるんじゃないのか?」

「あるけど、欲しいのっ!」

「これ、庶民街のやつだぞ。もっといいの持ってるだろうが」

と、騒いでいると、バネッサもやってきた。

「飯食いに行こうぜ」

「あ、バネッサさん。マーギンさんが手袋を買ってくれましたよ」

「えっ、マジで?」

アイリスよ、このタイミングで余計なことを言うな。

「どんなのだ? 早く見せてくれよ」

「アイリス、渡してやってくれ」

「どうして、アイリスとバネッサだけなのよっ!」

拗ねるカタリーナ。

「こいつは素手で雪の中を駆け回ったりするから、凍傷になりかけてたんだよ。だから、手袋ぐらい必要だと思っただけだ」

「私も凍傷になりそう。だから手袋が欲しい」

ワガママ姫発動。

「あーっ、もう。分かったよ」

また服屋に逆戻りするハメに。

「廊下で何を騒いでいるんだ?」

と、大隊長がカザフ達を連れてやってきた。

「飯食いに行こうかと言ってたんですよ」

「そうか。なら、一緒に行くか」

「その前に服屋に寄りますけど、いいですか?」

「かまわんぞ」

オルターネンとロッカは二人で外に出ているようなので、ここにいる全員で服屋に寄ってから、食べに行くことに。

「へへっ、この手袋、暖けぇし、手にも馴染むぜ」

マーギンに買ってもらった手袋をはめて、シャドーボクシングみたいな動きをするバネッサ。それ、拳を守るための手袋じゃないからなと、マーギンは呟く。

「ローズも好きなの買っていいよ」

「わ、私は買ってもらう筋がないから……」

「ローズ、好きなの選んでいいって。早く選ぼ」

遠慮しかけたローズを引っ張っていくカタリーナ。

「お前らも好きなの選んでこい」

「やった!」「いいのー?」

タジキとトルクも選びに行った。

「カザフ、お前も好きなの選んでこい。バネッサと同じやつがいいなら、あっちの方に……」

パシッ。

えっ?

マーギンが肩を触ろうとした手をカザフがパッと払った。

「もう成人したんだ。給料ももらってるし、自分で払える」

そう言って、向こうに行ってしまった。

「そ、そうか……」

マーギンはカザフの態度に戸惑った。

「大隊長、カザフのやつ、なんかありました?」

マーギンはちょっとショックを受け、隣にいた大隊長に聞いた。

「心配するな。カザフが大人になっていってる証拠だ。お前も、いつまでも子供扱いしてやるな」

と、言われた。

「な、カザフのやつ、クソ生意気なんだよ」

バネッサもカザフの態度が気に入らないようで、ぶつくさと文句を言っている。

「バネッサ、お前もネックウォーマーとかも買え。耳まで隠れるタイプのとかいいんじゃないか?」

「耳は前にもらったやつがあるから、別にいい」

「もう、結構ボロくなっただろ? 新しいの買えよ」

「いいって、言ってんだろ。首に巻くやつは持ってるしよ」

と、バネッサは追加を買いに行かず、みんなの買い物が終わるまでマーギンの隣にいたのであった。

「カザフ、マーギンが買ってくれるって言ったのに、自分で買うのー?」

「お前も、給料もらってんのに、自分で払えよ」

「えー、払えるけど、マーギンに買ってもらうのがいいのにー」

トルクが選んだものをマーギンのところに持って行こうとすると、カザフが先に自分で払っていた。

「うるさいな。俺は自分で払うんだよ!」

「ふーん。あっ!」

トルクは機嫌の悪そうなカザフをあまり構わずに、何かを思いついたのか、また売り場に戻っていった。

「さすがに庶民街の服屋でも、これだけの量になるとそこそこの値段になるな」

支払いをしているマーギンに、半分出してやろうか? と聞いてきた大隊長。

「そうですね。でも大丈夫ですよ。食料以外にほとんど使うことがないですから」

総額100万G近くなったお支払い。カタリーナがなんやかんやとたくさん買ったようだ。

「マーギン、はいこれ」

「ん? なんだこれ?」

トルクが包みを渡してきた。

「僕からのプレゼント」

包みを開けるとマフラーが入っていた。

「マーギン、いつもありがとう。これは僕のお金で買ったやつだよー」

「ありがとうな、トルク」

マーギンはちょっとホロっときたのを我慢して、フワフワの頭をくしゃくしゃと撫でた。

大隊長がレストランに行くか? と聞いてきたが、ワイワイと騒いでも大丈夫そうな飯屋を探すことに。

「カンパーイ」

カザフ達も飲むようで、大隊長が軽めの酒を選んでやっているようだ。

いつもなら、バネッサとカザフが肉の取り合いをするが、今日はマーギンの隣に座り、カザフ達の方へ行かなかった。代わりにアイリスがカザフ達の所へ行っている。反対側はカタリーナだ。

「お前、あんなに必要ないだろ? 城に戻ったら、たくさんあるだろ」

「いいの。マーギンに買ってもらったものがたくさんある方がいいの!」

その理屈がよく分からん。

「マーギン、私の分まですまない」

ローズがお礼ではなく、お詫びを言ってくる。

「気にしないで、大半がカタリーナのなんだから」

「そんなことないわよ!」

「ありますー!」

子供のような喧嘩をしながら、飲み食いをして、大隊長が全部奢ってくれた。

そして、

「かなり飲ませたんですか?」

カザフが酔い潰れていた。

「知らぬ間に俺の酒を飲んだようだな」

「まったく。お前らの身体にはまだ酒は早いと言っておいたのに、しょうがないやつだな」

と、マーギンはカザフを背負って、マチョウマントを羽織った。

みんなも結構飲んでいたので、ご機嫌で騒ぎながら宿に戻る。

「気持ち悪い……」

「起きたか?」

「ん……? マーギン……?」

みんなが騒いだせいか、カザフの目が覚めた。

「そうだ。もうすぐ宿に着くから吐くなよ」

カザフはクワンクワンと頭の中が回っているが、マーギンに背負われていることは分かった。

ぎゅっ。

今までダランとしていたカザフの腕に力が入った。

「どうした? 気持ち悪いなら降ろしてやろうか?」

「ぐふっ……うっ、うっ、うっ」

そして、いきなり泣き出した。

「そんなにしんどいのか? しょうがないな。カタリーナにシャランランしてもらうか?」

命の恩人と言っても過言ではないマーギンに、自分が酷い態度を取っていたことはカザフ自身も分かっていた。それでも優しいマーギン。

「ごめん……なさい」

「気にすんな。そのうち飲み方も覚える。でも、もっと身体が成長してからにしろ。本当にバカになるぞ」

しかし、マーギンは、カザフが酔い潰れておぶってもらっていることを謝ってきたと受け取っていたのであった。