軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

明かりに手を伸ばす

暗闇に時折差し込む光。

「あっ……」

その光の中を何かが通り過ぎていった。

「あの光が出口なのか?」

と、しばらく光ったままの場所に行ってみようともがくも、近付くことができない。

いくらもがいても、その場から動くことはない。マーギンは自分にできることがなく、何もない空間でただ待つしかなかった。

どれぐらいの時間が過ぎたのか分からない。お腹も空かないし、眠くもならない。あれからノウブシルクやゴルドバーンはどうなっただろうか? みんなは自分を探しているだろうか? 何もかも放り出して、いなくなった無責任なやつだと思っているだろうなとマーギンは思う。

そして、だんだんと自分の意識があるのかないのかも分からなくなってきた。あぁ、自分はきっとこのままこの空間に飲み込まれしまうのだろう。

「みんなごめん……」

と、心の中で詫びる。

「ミスティ……」

そして、薄れゆく意識の中で無意識にミスティの名を呼び、手を伸ばした。

「この手に掴まれっ!」

「えっ?」

その瞬間、目の前がカッと明るくなり、小さな手が見えた。

思わずその手を握ったマーギン。

「うぇぇぇぇぇ」

光に包まれたマーギンは激しい転移酔いで気を失ったのだった。

◆◆◆

「こ、ここは……?」

「目を覚ましたかよオッサン」

「バネッサ嬢。ここは……私は助かったのですか?」

「ここはシュベタイン城だ。いきなり、気を失ったオッサンが飛ばされてきたんだよ。マーギンがここへ送ったんだろうな」

「陛下が私を助けに……」

「何がどうなったか、うちらにも分かんねぇ。全員、ゴルドバーンからここへ飛ばされたからな」

バネッサはカザフに隠密執事が目覚めたことをみんなに伝えに行かせた。

「執事殿、もう大丈夫か?」

と、ローズが声を掛ける。

「だるさは残っておりますが、特に異常はございません」

「そうか。無事で何よりだ」

「ローズ様、陛下はどちらに?」

「マーギンはまだ戻ってきていない。ゴルドバーンでトラバチの討伐をやっているのだろう」

「あの数のトラバチをお一人で……?」

ローズは少し目を伏せたあと、

「問題ない」

と、答えたのであった。

隠密執事が目を覚ました翌日、シュベタイン王と面会することになり、ゴルドバーンが何をしようとしていたのかを説明した。

「異界の化け物を召喚して兵器にか。オルターネン、お前はそれを確認したのじゃな?」

「はい。ご報告いたしましたとおり、マーギンと研究所を確認しました。その場で召喚の魔法陣を破壊するのは困難だと判断し、新たなチューマンが出ないように封鎖しております」

「シュベタイン王、この度はゴルドバーンが人類の危機を招くようなことをして申し訳ございません」

「そなたは、ゴルドバーン王の影だったのだな?」

「はい」

「しかし、ノウブシルクの影といい、マーギンは影を手懐けるのが上手いの。なぜ、お前はマーギンに付いた?」

「マーギン陛下は光でございます」

「光?」

「はい。我ら影すらも照らしてしまわれる光でございます」

「光か……そうじゃな。我が国もその光に助けられておるの」

その頃、カタリーナの私室では、マーギンが戻ってこないことに、みんながやきもきしていた。

「マーギン、戻って来ねぇよな」

カザフが頭に手を組みながら、タジキが飯を作るのを見ている。

「僕がちゃんとできなかったから……」

トルクは自分の力が及ばす、作戦が失敗したことを気に病んでいた。

どむっ。

「お前のせいじゃない。誰もが経験したことのない状況だったのだ。そんな状態の最前線を任されたことを誇れ」

と、ロッカがトルクの腹を軽く殴る。

「ゲホッ、ゲホッ。ロッカ姉、ぷちゃっとなるからやめて」

「おっ、大袈裟だぞ。軽く小突いただけではないかっ!」

「ロッカ姉はゴリラだから、軽くの基準が違うんだってばよ」

「誰がゴリラだっ!」

いらぬことを言ったカザフを追いかけ回すロッカ。

「天誅っ!」

ドゴンっ。

逃げ回るカザフに体当たりをしたロッカ。

しかし、吹き飛ばされたのはマーギン。

ドサッ。

「マーギンっ! ロッカ、てめぇ、何やってんだ」

「あわわわわ。マーギンが突然目の前に来たのだっ! 私のせいじゃない」

転移酔いとロッカの体当たりで、色々な物をうぇぇぇぇしているマーギン。

「キャー、マーギン」

《シャランラン! シャランラン!》

慌ててカタリーナが治癒魔法をかけたのであった。

「ん……」

マーギンはしばらく寝かされたあと、意識を取り戻した。初めに気付いたのはローズ。

「マーギン、大丈夫か?」

まだ意識が朦朧としているマーギンは自分が次元の狭間にいると思い、天井の灯りに向かって手を伸ばした。

「どうした?」

と、ローズがその手を握ると、ぐいっと引っ張った。

「うわっ」

ドサッ。

引っ張られたローズは寝ているマーギンの上から抱きつくような形になる。

「ま、マーギン。み、みんながいる前で何を……」

真っ赤になるローズ。

「あーっ、何やってんだてめぇ。起きるなりセクハラかよ」

それを見たバネッサが大声をあげた。

「ちっ、違う。私は何も……」

慌ててローズはマーギンから離れる。

「目が覚めたんなら、さっさと起きやがれ」

と、マーギンの前に仁王立ちする。さっきまで明るかったのが暗くなり、光の中で誰かが手を握ってくれたのがなくなってしまったと思い、手を伸ばして、握ってくれた手を必死に探す。

むにむに。

「スライムがいるのか?」

ごすっ。

「人の胸をスライム扱いすんじゃねーっ!」

「目が覚めるなり、セクハラとはマーギンらしいな」

と、呆れるロッカ。

「あれ、ここはどこだ」

バネッサに頭を小突かれたことで意識がはっきりしてきたマーギン。

「私の部屋よ。トラバチ退治は終わったの?」

「カタリーナの部屋? お前が出してくれたのか?」

「何を?」

「手を引っ張って出してくれたのかと聞いてるんだ」

「マーギンがローズの手を引っ張ったんでしょ。まだ寝ぼけてるの?」

「ローズの手を? スライムは?」

ごすっ。

「スライムなんていねぇよっ!」

マーギンはまだ何がなんだか分かっていないのであった。

「お前らがここに戻ってから、何日経つ?」

「3日かな」

「3日……俺が次元の狭間にいたと思ったのは夢だったのか?」

「次元の狭間って、なぁに?」

意識がはっきりしてきたマーギンは今がいつなのかを確認し、研究所を破壊した翌日だと分かった。

「俺はここで1日くらい寝てたのか?」

「うん、だいたいそれぐらい。動けるようになったら、お父様のところに来てほしいって言われてるけど、行けそう?」

「あ、あぁ。もう大丈夫だ。ありがとうなカタリーナ」

と、甘い匂いのするカタリーナの頭を撫でた。

「マーギン……」

と、トルクが泣きそうな顔でこっちに来た。

「どうした?」

「ごめんなさい……役に立てなくて」

「いや、今回は俺の想定ミスだ。危険な目に合わせて悪かったな」

と、言うと、トルクはマーギンに抱き付いてきた。

「僕、もっと頑張って修行する。今度は絶対に役に立ってみせるから」

そう謝るトルクのふわふわした頭をマーギンは撫でてやるのであった。

その後、シュベタイン王から、北西の領軍がノウブシルクに攻め入ったこと。それはマルク率いる王都軍が対応することを聞かされた。

「味方同士ですよ?」

「ゲオルク家は国家反乱罪に認定した。もう味方ではない」

「兵士達は国の命令だと思って動いてるんですよね? マルク閣下の王都軍と衝突したら、何も知らない兵士達まで巻き添えですよ」

「事前に投降を促すようには言ってある」

「もう出発したんですか?」

「もう出る頃じゃ」

「なら、中止にしてください。俺がノウブシルクに戻ります」

「ゲオルクはお前を認めておらんのだぞ。 そのまま戦闘になるのではないか?」

「私も一緒に参ります」

と、大隊長が申し出てくれた。

「そうか。ではスタームに任せよう。マルクには中止命令を出す」

「陛下、王都軍の高まった士気をそのまま活かしてもらうことはできませんか」

と、オルターネンが切り出した。

「何をさせるつもりじゃ?」

「魔物討伐ですよ。特務隊も働き詰めですから、少し休ませてやりたいと思います」

「そうか。それはマルクに直接伝えてくれ。ワシの許可は得ているとな」

「はい」

「陛下、私を助けてくださり、ありがとうございました。まずはお礼を申し上げます」

と、シュベタイン王との話が終わって外に出ると、隠密執事が頭を下げてきた。

「中の状況を確認せずに、突入させた俺のミスだ。悪かったな」

「いえ、あのような状況だと誰が想像できたでしょうか。それと、今後同じようなことがありましたら、助けにこずに見捨ててください。陛下にもしものことがあればどうなさいますか」

「俺が死ぬとすれば自爆だ。敵には殺られんよ」

と、マーギンは笑って答えた。

王都軍の統括、マルクには大隊長とオルターネンが話をしてきてくれることになり、ノウブシルクに行くのは明日にした。

そして、なし崩し的にカタリーナの部屋で全員が泊まることに。ゴルドバーンから飛ばされたあと、みんながカタリーナの部屋にいたそうだ。

「誰かに盗られるぐらいなら、私が食べていいですかぁ♪」

歌いながら一つ残っていたハンバーグを持っていくアイリス。

「うちも行くからな」

甘辛を食べ終わって、酒を飲みながら絡んでくるバネッサ。

「絡むなよスライム」

「誰がスライムだてめぇ!」

カタリーナの部屋に戻ってから、ローズの手を引っ張って抱きしめたこと、バネッサの胸を揉んでスライム呼ばわりしたことを聞かされていた。

久しぶりに、騒がしい食事を満喫したあと、マーギンはあのときの出来事を思い返す。

(あれは本当に夢だったのだろうか?)

と、天井の灯りに向かって手を伸ばしてみるのだった。