軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

混濁

「街道を通って行こう」

夜が明けて、プロテクションスライダーか転移魔法で領都に向かうか迷ったが、隠密執事とスレ違う可能性を考慮して、街道を通ることにしたマーギン。

「人の気配がしたら警戒してくれ。幻惑粉を撒かれたら同士討ちする」

一番怖いのが幻惑粉による攻撃だ。

「うちが偵察に行ってやんよ」

と、バネッサが出ようとする。

「お前は出なくていい。俺と一緒にいろ」

それを止めるマーギン。

「もう大丈夫だって言ってんだろ?」

「いいから、俺から離れるな」

「過保護過ぎるぞテメー」

と、不服そうにするバネッサ。しかし、バネッサを偵察に出すことを頑なに却下する。

バネッサが血塗れになって落ちてきたシーンがマーギンの頭から離れない。自分の目の届かないところに行かせるのが怖いのだ。

「俺が行こうか?」

「カザフも行かなくていい。人の気配ぐらい探れるからな。それより、チューマンに警戒しといてくれ」

全員で周囲を警戒しつつ移動した。

「人も魔物もいねぇな」

森の隣を通るときにも、なんの気配もない。

「マーギン、この気配のなさはさすがにおかしいな」

「ですね」

軽い昼飯を食いながら、静かすぎる街道に違和感を覚えたマーギンと大隊長が遠くを見つめた。

「急ぎましょうか」

「そうしよう」

ここから全員でダッシュで移動。マーギンが追い風を出してスピードを上げる。このスピードだとアイリスとカタリーナがきつそうだ。

「アイリス、カタリーナ。俺のところに来い」

アイリスをおんぶ、カタリーナを抱っこしてホバー移動に切り替えた。他のものは全力ダッシュだ。

「チューマンが大量にいやがるぜ」

先頭を走っていたバネッサとカザフが、南側から領都までチューマンがぞろぞろと行進しているのを発見した。

そして、領都門の近くまでくると、すでに門は壊され、チューマンが中になだれ込んでいる。

領都の中に入るには門の前にいるチューマンを倒さなければならない。

「ここは俺に任せろ」

と、大隊長が先陣を切る。

「道を開けろチューマンどもっ!」

大隊長は風魔法を纏わせたヴィコーレをブンブンと振り回し、チューマンを蹴散らしていく。まるでラッセル車だ。

「ちい兄様、突っ込むぞ」

「おうっ!」

マーギンが妖剣バンパイアを抜き、オルターネンはジェニクスを抜いて、大隊長が開けてくれた道を突っ込んでいった。そのうしろにバネッサが続く。

「お前は外で待機してろ」

「そばにいろって言ったじゃねーかよ」

「勝手なことをすんなよ」

バネッサを連れて行きたくなかったが、もう、戻れという暇はない。こうして、マーギン、オルターネン、バネッサが領都の中へ。

「キャーっ!」

「ヒィィィ」

領都のあちこちから悲鳴が聞こえてくる。すでに血溜まりがいくつもあり被害が出ていた。ギチギチと鳴くチューマンの足元には兵士らしき者達が刻まれ、肉団子化されている。

「マーギン、俺は先に門を土魔法で固める。お前は中にいるやつを頼む」

「了解」

塀の外は大隊長達に任せ、中にいるチューマンを倒していく。

《スタンっ!》

チューマンを痺れさせ、バネッサが足の関節を斬っていく。通常攻撃では効かないやつもいるので、マーギンがバネッサにバフを掛けながらだ。

「バネッサ、効率が悪い。ストーンバレットでのけ反らせるから、オスクリタで仕留めろ」

「了解」

ガンっ、ガンっ、ガンっ。

マーギンが大きめのストーンバレットを頭に当てるとチューマンの顔が上を向き、動きの止まったところをオスクリタで関節を刻んでいく。それを悲鳴の聞こえる方へ走りながら続けた。

民家の入り口を壊そうとしているチューマンを倒し、逃げ惑う人を襲おうとしているチューマンはバンパイアで斬り倒す。すでにチューマンの爪に斬られた人がいるが、治癒している暇はない。

「ギーギチギチギチギチ」

チューマンが一斉に威嚇音を出すと、ゾロゾロと集まってきた。

「マーギン、囲まれるぜ。うちのときと同じだ」

バネッサが「うちのときと同じだ」と言ったことで、マーギンの脳裏に血塗れのバネッサの姿がフラッシュバックする。

ブワッ。

マーギンの毛が逆立ち、殺気が溢れた。

「殺す……」

妖剣バンパイアにマーギンの殺気が流れ込み、ドス黒い炎のようなものを纏った。

「ギチギチ……ギチ」

感情のないはずのチューマンの動きが止まる。

「お、おいマーギン……」

バネッサはマーギンの異様な雰囲気にどう声を掛けていいか分からない。

「バネッサ、俺に乗れ」

「う、うん……」

バネッサはなぜ乗れと言われたのか分からないまま、マーギンの背中に乗った。

「この世から消え失せろ」

そう言ったマーギンは回転しながら、妖剣バンパイアを振ったのであった。

「フンッ」

ズバッ。

「早く建物の中に逃げろ」

「あ、ありがとうございます」

颯爽と現れた男が次々と人を助け、美しい剣で化け物を倒していく姿を人々は建物の中から見ていた。

「勇者だ……」

誰かがそう呟くと、祈りを捧げる者が出てくる。

「お願いします、お願いします。どうか我々をお救いください、勇者様」

◆◆◆

「アイリス、スリップを掛けて、チューマンを姫様に近付けさせるな。姫様、プロテクションで防御しておいてください」

大隊長はそれぞれに指示を出しながら、態勢を整えていく。

「カザフとタジキはチューマンに的を絞らせないように走り回れ」

カザフとタジキに注意を逸らせたところに、トルクと組んだロッカが走り込む。

「葬らんっ!」

ぐしゃっ。

棍棒をゴルフスイングのように下から上に振り上げ、顎ごと頭を砕く。

反対側では大隊長がズババ、ズババと薙ぎ払う。

「もう少しだ。持ちこたえろ」

チューマン達も分が悪いと思ったのか、領都に向かう数が減ってきた。

「大隊長、逃げるやつがいるけど追わなくていいのか?」

「そこまで手が回らん。まずは領都の防衛が先決だ」

こうして、領都を襲おうと集まってきたチューマンを撃退した。

◆◆◆

「ふーっ、ふーっ、ふーっ」

興奮して殺気が収まらないマーギン。

2人を取り囲んだチューマン達は先ほどの一振りで真っ二つにされていた。

マーギンの背中から降りるバネッサ。

「マーギンっ、マーギンってばよ」

バネッサの呼びかけに振り向いたマーギン。

ギュッ。

「どっ、どうしたんだよ?」

マーギンがいきなりバネッサを抱きしめる。

「無事か?」

「なっ、なんともねぇよ」

「なら、いい。俺から離れるな」

バネッサの無事を確認したマーギンは殺気を纏ったまま街中を進み、チューマンを見付けては片手でバンパイアを振り、チューマンを斬っていく。そして、マーギンを見たチューマンは逃げていくようになった。

「なっ、なんだあいつは……?」

建物の中から、チューマンを紙くずのように斬り裂いていくマーギンを見た住民達は恐怖に震える。

「ま、魔王だ……魔王に違いない」

「ひっ、ヒィィィ。終わりだ。この国はもう終わりだぁーーっ!」

殺気を纏ったマーギンから出る威圧は住民達を恐怖のどん底に陥れた。

「どこに向かってんだよ?」

「領主邸だ」

「ギーギチギチ、ギーギチギチ」

マーギン達には聞こえない音があちこちで鳴り、領都内にいたチューマンはマーギンから隠れ、入ってきた門から外に出ていった。

◆◆◆

「よし、壊すから離れていろ」

ドガーーン。

オルターネンが塞いだ門を大隊長がヴィコーレで壊した。

「中もめっちゃ死んでんな」

あちこちにチューマンの死体が転がっている。まだ少しギチギチ言っているチューマンはロッカの棍棒で頭を砕かれていった。

「大変、怪我している人がいる」

カタリーナは怪我人を治癒していく。

「大隊長、外は終わりましたか?」

そこへ、オルターネンがやってきた。自分が塞いだ門から大きな音が聞こえたから、チューマンに突破されたのかと思い、確認しにきたのだ。

「オルターネンも無事だったか。外はあらかた片付いた。マーギンとバネッサはどうした?」

「先に進んでもらいましたよ。この付近より、中の方が怪我人が多いでしょう。姫様にはどこかの広場で治癒してもらいましょう」

門近くは怪我人より、死体の方が多い。

「カザフ、タジキ。先に行って状況確認を頼む」

合流した大隊長達は教会の中で怪我人の治癒を行うことにし、助けが間に合わなかった者は広場に集めていくのであった。

◆◆◆

「なっ、なんだ貴様はっ!」

領主邸を守っていた騎士達にマーギンは槍や剣を向けられるが、無言でパラライズを掛けて無効化していく。

「マーギン、何するつもりだ」

「責任を取らせる」

「責任ってお前……」

「この国はお前を殺そうとしたんだ。この世から消えてもらう」

マーギンの頭の中は領都内でチューマンに殺された人々と血塗れのバネッサが混濁しているのであった。