軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

人は利害で動く

「カザフ少年」

「いちいち少年なんて付けなくていいってば、おっさん」

「ではカザフくんでよろしいかな?」

隠密執事とカザフが偵察に出た。

「魔物の偵察に出たことはあっても、人の偵察に出たことはありますか?」

「人限定で出たことはねぇよ」

「では、少し話をしておきましょう。魔物と人の違いは分かりますか?」

「違い?」

「はい。魔物は本能で動きます。しかし、人は利害で動きます」

隠密執事は人を偵察する上で、見るべきところがどこなのか、何に気を付けなければならないのかをカザフに教えるために連れ出したのであった。

同じ頃、マーギンはバネッサを連れて、港街を見て回る。

「みんな複雑な顔してんな」

「頑張って建てた家とか全部放棄することになるからな。思い入れもあるだろう」

「なんにも持ってねぇ方が幸せってこともあるってことか。皮肉なもんだぜ」

バネッサの言うことは一理ある。何かを手に入れると、いずれそれを失う辛さが伴う。

マーギンはバネッサをじっと見た。

「なっ、なんだよ?」

「お前、死ぬなよ」

「死なねぇ……ように今度は気を付けるっての」

◆◆◆

「カザフくん、あれは領兵です。武器は何を持っていますか?」

「見たら分かるだろ。弓だ」

隠密執事の質問に、馬鹿にすんなという感じで答えるカザフ。

「では、あの背負っているバッグには何が入ってるんでしょうね?」

10人単位の領兵が弓と大きな荷物を背負っている。

「飯とか、テントとかじゃねーの?」

「領兵は領都から来ています。向かっているのは港街。そこまで食料やテントが必要でしょうか」

「確かに……」

「恐らく、あの荷物の中は大量の幻惑粉が入っています。それに、弓を持たないものがいるでしょう?」

「うん」

「バッグから顔を覗かせているのは噴霧器というものです。チューマンを倒すための毒を撒くために使うのでしょう」

「あいつら何をするつもりなんだ?」

「港街に幻惑粉を撒き、マーギン陛下達を無効化するつもりなのです。チューマンを倒す毒を持っているということは、すでにチューマンを誘導させる準備もしていると思われます」

「えっ?」

「これからあの領兵達は風上に移動します。そして風にのせて幻惑粉を撒くのです。毒は自分達がチューマンに襲われたときのためのものでしょう。領兵はあのもの達だけではありません。他にチューマンを誘導している部隊がいます。急いで陛下に知らせてきてください」

「おっさんは?」

「あの者たちに口を割らせます。これはあなたが知らなくていいことです。私のことは気にせずに早く」

と、隠密執事はカザフを港街に戻らせ、自分は気配を消したまま領兵のところに向かった。

シュっ、シュっ、シュっ。

いきなり足を斬られて、その場に倒れる領兵達。

「なっ、なんだ貴様はっ!」

「使いのものとでも言っておきましょう。他の部隊がどこから化け物を呼び寄せているか、教えてくれた者は助けて差し上げましょう」

「この人数相手に敵うとでも……」

シュっ。

「誰が教えてくれますか?」

「うっ……」

ナイフを構えた執事に動けなくなる領兵達。チューマンを誘導してくる場所を聞き出したあと、幻惑粉を奪って撒いた。

「では、ご武運を」

それだけを言い残して、チューマンをおびき寄せている場所に向かったのだった。

◆◆◆

「分かった。団長、もう時間がない。皆を転移させる」

カザフからの報告を聞いたマーギンは住民達の転移を開始することにした。

「まだ、準備が整っていないものが……」

「チューマンがくる。執事が動いてくれてるが、止められる保証はない。今転移しないと食われるぞ」

「はっ!」

マーギンは転移の魔法陣を出して、騎士団長を先頭に住民達を避難させていく。オルターネン達も手伝い、どんどんと送り込んでいった。

「カザフ、お前らは他に残ってないか街の中を確認してくれ」

「分かった」

残っているとすれば孤児達だ。隠れて住んでいるようなやつらがいるかもしれない。そんなやつらを見付けるのはカザフ達が適任だ。

「うちも探してきてやんよ」

バネッサも探しに行くと言う。

「お前はいい。ここにいてくれ」

「なんでだよ? うちも行った方が早く終わるだろうが」

「いいから、ここにいてくれ」

行くなと言わずに、ここにいてくれと言うマーギン。

「戦闘するわけじゃねーし、もう走るぐらい何ともねぇって」

「ここにいてくれって、言ってんだよっ!」

バネッサに怒鳴るマーギン。

「わ、分かったよ。そんなに怒んなくてもいいだろうがよ」

「あ、悪い。怒ったわけじゃない。カザフ達に任せておけば大丈夫だから」

◆◆◆

「いましたね」

噴霧器で何かを撒きながら、港街に続く山側に進んでいる領兵達を隠密執事が見付けた。

この甘い香り……

風下に回ると、甘い蜜の香りが漂っている。今は海側から南側へと風が流れている。

「まだ化け物の姿はありませんね」

と、呟き、風上へと回った。

バサバサバサ。

奪ってきた幻惑粉を風にのせて領兵達に撒いた。

「うわっ、うわーーっ!」

その効果はすぐに現れた。領兵同士で殺し合いを始めたのだ。

「恐ろしい効き目ですね」

そして全員が斬り合って倒れたあと、チューマン寄せの噴霧器を奪って、領都へと向かったのであった。

◆◆◆

「もう大丈夫だな?」

「軒下も全部確認したぜ」

やはり孤児達が何人も残っていた。大人が行っても出てこなかったであろう孤児達をカザフ達が連れてきて、全員の転移が終わったのだった。

「マーギン、お疲れさまー!」

転移魔法陣を長時間出していたマーギンは疲れきっていた。魔力値はエラーが出たままだが、魔力を大量に使ったことによる疲労が押し寄せてきて、その場に座ったのだ。そこにカタリーナが声を掛けてきた。

「なんか飲む?」

「そうだな。とりあえず水を飲むわ」

と、指先から水をだそうとすると、ローズが水を出してコップに入れて渡してくれた。

「ありがとう」

と、ゴッゴッゴと飲む。

「元はと言えばマーギンが出せるようにしてくれた水だから、礼などいらんぞ」

「いや、自分で出した水より美味しい気がするよ」

「そんなわけあるかっ!」

と、照れるローズ。

(なんでコップに入れるのよ。そのまま飲ませたらって、言ったじゃない)

(姫様っ!)

目の前にいるのに、コソコソ話しても聞こえてるっての。

マーギンはローズの指先を咥えて、水を飲む自分を想像する。誰もいなかったら、もう一杯とお願いしたかもしれない。

「マーギン、久々に焼肉にするか」

大隊長が飯にしようと言ってきた。住民達がいる前で、美味しそうな匂いを振りまく焼肉は控えていたのだ。

「そうですね」

しかし、チューマンへの警戒もしておかなければならない。

「空中で食いますか?」

プロテクションで5mほど浮いていれば、チューマンが来てもいきなり襲われる心配がない。

じゅわわわ。

タレはマーギンが提供したが、全部の用意をタジキがやってくれた。非常に楽でよろしい。アイリスも疲れたマーギンを見て、今日はハンバーグと言ってこなかった。

「マーギン、おっさん戻ってこねぇけど、大丈夫かな? 見に行ってこようか?」

「あいつが殺られるようなら、お前も敵わん敵だ。見に行かなくていい」

「だってよぉ」

隠密執事を心配するカザフ。

「幻惑粉は撒かれなかった。これだけで、任務が成功してるってことだ」

マーギンは隠密執事が領兵を倒したのだと理解していた。カザフを戻したのはそれを見せないようにしたのだろう。そして、幻惑粉が撒かれない以上、チューマンをここへ誘き寄せる作戦も中止か延期になったと思われる。

戻ってきたら、浮いてても隠密執事なら気が付くとカザフに言って、焼肉を食べ始めた。

「マーギン、このあとどうするつもりだ?」

オルターネンが薄い水割りを持ってこっちにきた。

「執事が戻ってこないようなら、領都近くまで行って、そこから南側にチューマンがいないか確認かな」

「来ると思うか?」

「ほぼ確実に。すでに領兵が動き始めてるからね。どこかにチューマンがいるはずなんだよね」

「なら、今のうちに鋭気を養うか。お前も飲め」

と、焼肉を食べながら少し飲む。オルターネンがローズも呼んで昔話を始めた。

「ち、ちい兄様っ。そんな昔の話をしないでっ!」

今聞いているのは、ローズがおねしょしたのを隠そうとしてたのが見つかった話だ。

「小さい頃の話だからいいだろ? それとも宿舎で……」

「やめろーーっ!」

赤くなって、結構本気で怒るローズ。うむ、ローズのこんな顔を見られるのはよろしい。

「ちい兄様だって、当主の教育を受けているときに……」

「やめろっ!」

仕返しに何かを暴露されかけるオルターネン。

「ロッカ、ちい兄様はこう見えて、昔はもっと……」

「やめろーーっ!」

二人のやりとりを見て、クックックと笑うマーギン。

「「何を笑っている?」」

バアム兄妹からキッと睨まれる。

「やっぱり兄妹だね。そっくりだよ」

「「似てないっ!」」

「兄弟がいたら、こんな感じなんだな」

肉親が誰もいないバネッサがポツリと呟く。その隙にバネッサが育てた肉をカザフが食った。

「テメーっ! なに人の肉食ってんだっ!」

「焼けてんのに食わねーから、いらねえのかと思っただけだ」

「今から食べごろだったろうがっ。そんなに食いたきゃこれでも食ってろっ!」

ジュッ。

アチアチトングをカザフの口に押し付けたバネッサ。

「熱っちーーっ! なにしやがんだおっぱい」

ベシッ。ふに。

「あっ……」

「このスケベ野郎っ!」

ジュッ、ジュッ、ジュッ。

アチアチトングを払いのけようとしたカザフがバネッサの胸に当たり、追い打ちをかけられるカザフ。

「色気付くなんて100年早ぇんだよ。このエロガキがっ!」

その様子を見ていたトルク。

「姉弟喧嘩は良くないよー」

「「誰が姉弟だっ!」」

誰もいなくなった港街の上空は騒がしかった。

「な、なぜだっ、なぜだーーっ!」

「撤退っ! 領都の中に撤退しろーーっ!」

同じ頃、領都近辺もまた騒がしくなっていたのであった。